51 / 58
51話
しおりを挟む
駅前のカフェの一角に、来栖は呼び出された相手と座っていた。
「忙しいのに、お呼び立てして‥申し訳ありません」
仰々しく頭を下げる男は、伊藤汰久の指示で自分を騙し、尚且つ、あのマンションに招き入れ、虎太郎のあんな姿を自分に晒させた男、ケンだった。
だいたい、伊藤汰久の事を知らない男だと言っておきながら、あいつと関係を持ってたんじゃないか‥と、訳の分からない怒りもあり、自分が思ってもいない低い声が出る。
「‥話ってなに?」
どうしても会って話がしたい事があると、しつこく電話で言われ、渋々やってきたが、改めて自分を何度も陥れた男が信用ならないと感じていた。
剣呑な態度をしている来栖に対し、ケンは萎縮しており、小さな身体をさらに小さくさせていた。
「俺が、こんな事を聞くのは筋違いだと分かってはいるんですが‥あの後、来栖さんは大丈夫でしたか?」
おずおずと話すケンに、来栖は冷たく言い放つ。
「大丈夫じゃなかったら、あんたが責任取れるのか?‥なんの確認だ?また、俺を騙すつもりなのか?」
「そんな事は‥ありません。あの時は、言われた通りにするしかなかったんです‥すみませんでした」
突き放したような物言いに、ケンの顔が泣きそうに歪む。
「‥ご‥ごめんなさい‥」
何度も謝罪し縮こまっているケンの姿を見て、来栖は大きく溜息を付いた。
そして、表情が少し柔らかくなる。
目の前の男もまた、伊藤汰久の被害者なのだろう‥。
「もう、いいよ‥お前も、いろいろと事情があったんだろうから、これ以上謝らなくてもいいから。それに、もう終わった事だ」
諭されるように優しく言われ、ケンが顔を上げた。
「ありがとうございます‥」
目の前の男は、自分に謝罪をするために呼び出したんだろうか?
そんな事、知らないと放っておけばいいものを‥律儀なんだろうか‥。
「話はこれだけか?‥じゃあな」
来栖が立ちあがると、ケンも一緒に立ち上がり一緒についてくる。
カフェを出ると、遅い時間のせいか人影もまばらになっている。
「来栖さん」
数歩進んだところで、後ろから声を掛けられ足を止め振り返った。
すぐ目の前に、追いかけてきたケンが立ち止まって来栖を見上げていた。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「‥おっ‥俺‥」
何を言わんとしているのか、全く分からないが、ケンの瞳からポロポロと涙が零れ落ち、来栖は驚き、思わずポケットからハンカチを取り出し渡してしまう。
ハンカチを受け取り、それで涙を拭うケンをまじまじと見つめると、その可愛らしい顔は以前と全く変わっていなかったが、もう来栖には何の感情も湧いてこなかった。
涙を拭っていた手がいつの間にか止まり、気が付くとケンが自分に抱き付いていた。
「えっ‥オイッ‥」
驚いた来栖が声を出す。
「ごめんさい。俺、あの時‥あんなに優しく抱いて貰って、嬉しかったんです。なのに写真を渡してしまって、本当に後悔してて‥でも、逆らえなくて‥怖くて‥」
震えている身体を感じる。
きっと、これが本心なんだと来栖はそう感じた。
「‥そっか」
だからと言って許せるはずもないが、それでもこの男が不憫で、来栖はそっとケンの頭を撫でた。
すると、身体を離したケンが来栖の頬を両手で挟み口づけをしてきた。
一瞬の出来事で、来栖は引き剝がすことも忘れ、されるがままになってしまう。
ゆっくりと唇を離したケンは、来栖の驚いた顔を見てニコッと笑った。
「ごめんなさい。俺、来栖さんの事、好きになりそうでした。でも、諦めます。あんな素敵な夜を‥ありがとう」
そう言うと、ケンは踵を返し走り去っていった。
どういう事か全く理解が追い付かず、来栖は呆然としていたが、やがて正気に戻ったのか首を振り、駅へと歩き出した。
「忙しいのに、お呼び立てして‥申し訳ありません」
仰々しく頭を下げる男は、伊藤汰久の指示で自分を騙し、尚且つ、あのマンションに招き入れ、虎太郎のあんな姿を自分に晒させた男、ケンだった。
だいたい、伊藤汰久の事を知らない男だと言っておきながら、あいつと関係を持ってたんじゃないか‥と、訳の分からない怒りもあり、自分が思ってもいない低い声が出る。
「‥話ってなに?」
どうしても会って話がしたい事があると、しつこく電話で言われ、渋々やってきたが、改めて自分を何度も陥れた男が信用ならないと感じていた。
剣呑な態度をしている来栖に対し、ケンは萎縮しており、小さな身体をさらに小さくさせていた。
「俺が、こんな事を聞くのは筋違いだと分かってはいるんですが‥あの後、来栖さんは大丈夫でしたか?」
おずおずと話すケンに、来栖は冷たく言い放つ。
「大丈夫じゃなかったら、あんたが責任取れるのか?‥なんの確認だ?また、俺を騙すつもりなのか?」
「そんな事は‥ありません。あの時は、言われた通りにするしかなかったんです‥すみませんでした」
突き放したような物言いに、ケンの顔が泣きそうに歪む。
「‥ご‥ごめんなさい‥」
何度も謝罪し縮こまっているケンの姿を見て、来栖は大きく溜息を付いた。
そして、表情が少し柔らかくなる。
目の前の男もまた、伊藤汰久の被害者なのだろう‥。
「もう、いいよ‥お前も、いろいろと事情があったんだろうから、これ以上謝らなくてもいいから。それに、もう終わった事だ」
諭されるように優しく言われ、ケンが顔を上げた。
「ありがとうございます‥」
目の前の男は、自分に謝罪をするために呼び出したんだろうか?
そんな事、知らないと放っておけばいいものを‥律儀なんだろうか‥。
「話はこれだけか?‥じゃあな」
来栖が立ちあがると、ケンも一緒に立ち上がり一緒についてくる。
カフェを出ると、遅い時間のせいか人影もまばらになっている。
「来栖さん」
数歩進んだところで、後ろから声を掛けられ足を止め振り返った。
すぐ目の前に、追いかけてきたケンが立ち止まって来栖を見上げていた。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「‥おっ‥俺‥」
何を言わんとしているのか、全く分からないが、ケンの瞳からポロポロと涙が零れ落ち、来栖は驚き、思わずポケットからハンカチを取り出し渡してしまう。
ハンカチを受け取り、それで涙を拭うケンをまじまじと見つめると、その可愛らしい顔は以前と全く変わっていなかったが、もう来栖には何の感情も湧いてこなかった。
涙を拭っていた手がいつの間にか止まり、気が付くとケンが自分に抱き付いていた。
「えっ‥オイッ‥」
驚いた来栖が声を出す。
「ごめんさい。俺、あの時‥あんなに優しく抱いて貰って、嬉しかったんです。なのに写真を渡してしまって、本当に後悔してて‥でも、逆らえなくて‥怖くて‥」
震えている身体を感じる。
きっと、これが本心なんだと来栖はそう感じた。
「‥そっか」
だからと言って許せるはずもないが、それでもこの男が不憫で、来栖はそっとケンの頭を撫でた。
すると、身体を離したケンが来栖の頬を両手で挟み口づけをしてきた。
一瞬の出来事で、来栖は引き剝がすことも忘れ、されるがままになってしまう。
ゆっくりと唇を離したケンは、来栖の驚いた顔を見てニコッと笑った。
「ごめんなさい。俺、来栖さんの事、好きになりそうでした。でも、諦めます。あんな素敵な夜を‥ありがとう」
そう言うと、ケンは踵を返し走り去っていった。
どういう事か全く理解が追い付かず、来栖は呆然としていたが、やがて正気に戻ったのか首を振り、駅へと歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
触れるな危険
紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。
毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。
「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」
俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。
バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。
15話にて本編(なれそめ)が完結。
その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる