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第1章
29 家族構成は複雑です? 2
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仕事が終わり、三十階にある家に帰宅。今日の夜は父と食事の予定なので、着替えたりと準備をしていると、麻彩が学校から帰宅した。
「さーちゃん、ただいま! 帰ってきてるー?」
「まーちゃん、おかえり。帰ってるよ。制服着替えておいで」
「うん。あのね、二人で双子コーデしたいの」
「あ、いいね! そうしようか」
急遽、麻彩の提案で双子コーデにすることになった。といっても、まったく一緒では面白くないので、少しコーデをずらすことにした。麻彩は白シャツの上に紺色のジャンバースカート、私は白シャツと紺色のタイトスカートである。
着替えてから、今度は麻彩の髪の毛をいじる。
「え!? 三つ編み、やだぁ」
麻彩の髪を左右二つに分けて、上の方から編んでいると、麻彩が難色を示した。
「これ、三つ編みじゃないよー」
「え? ……編み込み?」
「ううん、二つ編み。フィッシュボーンとも言うかな? まあ、見てて。可愛くなるから」
一般的にはフィッシュボーンと呼ぶ、二つ編みを左右に作ると、今度は編んだ部分から少しずつ髪を抜き出していく。全体的に緩めの印象に作り込み、今度はおくれ毛をヘアアイロンで巻いていく。最後に前髪も軽く巻いた。
「ほら、まーちゃん、可愛いでしょ」
麻彩は鏡の前で全体的に確認すると、ニコニコとしている。
「うん! 昔の学生みたいになったらどうしようと思ったけど、これなら可愛い!」
「そうでしょ。私も編むから、少し待っててね」
私は髪を左右に分けず、一つにフィッシュボーンにして、編んだ部分を麻彩のように髪を抜き出していく。そしておくれ毛と前髪をヘアアイロンで巻いた。
「よし。あとは少しだけ化粧しようか」
麻彩の化粧と私の化粧を軽く済ませ、最後にお揃いのピアスとネックレスをして、麻彩と二人で鏡の前に立つ。
「わー! いい感じに双子っぽい!」
「ちょっとずらしたコーデが、可愛く見える!」
麻彩ときゃっきゃと盛り上がっていると、兄が帰宅した。
「お兄ちゃん! おかえり! 見てー! 可愛いでしょ!」
ご機嫌の麻彩が走って兄に突進した。
「お。可愛い可愛い」
「さーちゃんと双子コーデなの! 写真撮って!」
兄は麻彩に言われる通り、私と麻彩が並んだ姿を複数枚撮影する。
「お兄様、あとで共有アプリに画像上げておいて」
「分かった。とりあえず、家出よう」
兄と麻彩と私の三人で家を出る。地下の駐車場から運転手付きの車に乗り、レストランへ向かった。そこはホテルのレストランで、時々利用する中華料理店だった。個室に案内され、どこに座ろうか麻彩と相談しているとき、個室のドアが開いた。父と父の秘書が入室してきた。
「パパ!」
「紗彩! 麻彩!」
私は父に近づき、抱き付く。そして頬にキスをした。
「紗彩と会うのは一ヶ月ぶりだな。元気にしていたか?」
「うん、元気元気」
父は私のおでこにキスをする。そして私を右手で抱いたまま、麻彩を向いた。
「麻彩はハグは?」
麻彩は仕方ないな、という顔をして、父に抱き付く。そんな麻彩を見て、父は首を傾げた。
「キスは?」
「パパにキスはしない」
「……どうして!?」
おっと。麻彩は兄に続き、父にもキス拒否のようです。麻彩は父から離れると、先に椅子に座る。
「お腹空いた! ご飯食べようよぉ」
「麻彩!? どうして!? 今までキスしてくれてたでしょ!?」
父、必死です。そんな父を見ても、麻彩は顔をぷいっとしている。ショックの色が隠せない父のスーツを私は引っ張った。そして父の耳に手を添えて、こそっと話す。
「まーちゃん、今、反抗期か思春期か、そういう時期みたいなの。お兄様にもキス拒否みたいだし、パパ諦めて!」
「えぇぇぇー……」
人の顔を見て、ここまで『ガーン』と書いてあるように見える表情って、なかなかないと思う。よろよろとする父だが、こう見えて、一条グループの社長である。イケオジなのに、娘の前では形無しだ。
私は麻彩の隣に座り、少ししゅんとしている父、兄も席に着いた。父の秘書は背後霊のように父の後ろに立っている。
それから食事を開始した。父は気を取り直した表情はしている。
父を含めて家族で食事をするというと、だいたいこのメンツである。
一条家の家族構成は複雑ではある。
まず父と母は結婚して現在も婚姻関係にはあるが、恋愛関係にはない。父と母は元は幼馴染の関係だった。父の母と母の母、つまり祖母同士が親友であり、父の母(父方の祖母)が金銭的に不安定だった母の母(母方の祖母)を援助してくれていた。その一環で、若いころの母と祖母は父の家である一条家に住んでいたという。
母も祖母も帝国に半分住んでおり、東京で生活資金を得るのが難しかったのだ。だから幼馴染というより家族に近い関係の父と母だったが、半年間くらい恋人関係にあったようで、その時に母のお腹に兄ができた。そこで結婚に至ったらしい。しかし互いに恋愛感情が長く続くことはなく、恋人関係は解消。とはいえ、離婚となると色々と手続きが面倒な上に、母は社交に関しては向いている人なので、離婚せずに父の妻として表で活動することは今でもやっているのだ。
その後、母は帝国に恋人ができ、私が生まれる。しかしその恋人とは色々あって別れることになり、その後帝国でできた恋人との間にユリウスが生まれた。しかしその恋人とは結婚できずに、結局別れている。そして、母はその後東京で恋人ができ、麻彩が生まれた。現在母は、その麻彩の血縁上の父と恋人関係である。
父は父で、恋人が何人かいたらしいというのは聞いているが、その中でも現在私が化粧品会社の社長としても付き合いのある菫とは長いようで、菫との間に息子がいる。
こう言うと複雑ではあるし、それこそ昼ドラかと言いたくなるような関係であるが、うちはこれでもドロドロした関係ではないのだ。
東京の関係までなら、ということではあるが。
帝国、つまり私の父やユリウスの父なんかも含めるなら、まあまあドロドロしている。そこは間違いない。
しかし東京だけなら、関係は良好。
父は血のつながりのない私と麻彩も娘として愛してくれているし、書類上も完全に父の子である。父方の祖母や祖父も私たちを可愛がってくれている。
私も麻彩も血縁上の父が他にいるのは知っているが、実の父と認めているのはこの父だけだ。
「そうだ、来月ニューヨークに行くんだが、紗彩と麻彩も一緒に行かないか?」
楽しく会話しながら食事は進み、父が思い出したかのように話を変えた。
「私は無理だよ。学校も仕事もあるもん。まーちゃんはパパと行ってきたら?」
「えー? どのくらい行くの?」
「二週間くらいだ」
「無理。そんなに行きたくない。パパどうせ昼間は仕事でしょ? 絶対パパ、私を放置するもん」
「夕食は一緒にできるよ! 欲しいもの、なんだって買ってあげるから」
「行かなーい」
父の眉が下がっている。
「よし、分かった! じゃあ来週! 来週国内の別荘にでも行こうじゃないか。それならいいだろう?」
父の別案に、今度は父の後ろで父の秘書が顔をぶんぶん振っている。声は出てないが「無理無理無理」と言っているように聞こえる。
「……パパ、来週は仕事じゃないの?」
「休むから」
私の質問に即答する父だが、父の秘書は手で大きくバッテンを作って体が左右に揺れている。父には見えてないだろうが、分かりやすい秘書の意思表示である。これは、絶対休めない仕事がある、ということだろう。秘書さん、苦労しますね。
「パパ、仕事なら休んじゃダメ。別荘は次回以降のどこかで私が帰った時に行きましょう。週末なら泊りで行けるし、私もパパと別荘行きたいなー。まーちゃんも一緒に行きたいよね?」
「うん」
「よし、そうしよう! 紗彩と麻彩と別荘に行く日程を先に決めておこう!」
ころっと意見を変えた父は、後ろを向いて秘書と日程の調整をしだした。父よ、兄は仲間に入れてあげないのか。兄は兄で、父との別荘には興味がないようで、しれっと酒を楽しんでいる。
そんなこんなで、父と別荘へ行く日程も決められ、その日の夕食は終わった。
父と別れ際、私と麻彩は父とハグをして別れ、兄と麻彩と三人で帰宅するのだった。
「さーちゃん、ただいま! 帰ってきてるー?」
「まーちゃん、おかえり。帰ってるよ。制服着替えておいで」
「うん。あのね、二人で双子コーデしたいの」
「あ、いいね! そうしようか」
急遽、麻彩の提案で双子コーデにすることになった。といっても、まったく一緒では面白くないので、少しコーデをずらすことにした。麻彩は白シャツの上に紺色のジャンバースカート、私は白シャツと紺色のタイトスカートである。
着替えてから、今度は麻彩の髪の毛をいじる。
「え!? 三つ編み、やだぁ」
麻彩の髪を左右二つに分けて、上の方から編んでいると、麻彩が難色を示した。
「これ、三つ編みじゃないよー」
「え? ……編み込み?」
「ううん、二つ編み。フィッシュボーンとも言うかな? まあ、見てて。可愛くなるから」
一般的にはフィッシュボーンと呼ぶ、二つ編みを左右に作ると、今度は編んだ部分から少しずつ髪を抜き出していく。全体的に緩めの印象に作り込み、今度はおくれ毛をヘアアイロンで巻いていく。最後に前髪も軽く巻いた。
「ほら、まーちゃん、可愛いでしょ」
麻彩は鏡の前で全体的に確認すると、ニコニコとしている。
「うん! 昔の学生みたいになったらどうしようと思ったけど、これなら可愛い!」
「そうでしょ。私も編むから、少し待っててね」
私は髪を左右に分けず、一つにフィッシュボーンにして、編んだ部分を麻彩のように髪を抜き出していく。そしておくれ毛と前髪をヘアアイロンで巻いた。
「よし。あとは少しだけ化粧しようか」
麻彩の化粧と私の化粧を軽く済ませ、最後にお揃いのピアスとネックレスをして、麻彩と二人で鏡の前に立つ。
「わー! いい感じに双子っぽい!」
「ちょっとずらしたコーデが、可愛く見える!」
麻彩ときゃっきゃと盛り上がっていると、兄が帰宅した。
「お兄ちゃん! おかえり! 見てー! 可愛いでしょ!」
ご機嫌の麻彩が走って兄に突進した。
「お。可愛い可愛い」
「さーちゃんと双子コーデなの! 写真撮って!」
兄は麻彩に言われる通り、私と麻彩が並んだ姿を複数枚撮影する。
「お兄様、あとで共有アプリに画像上げておいて」
「分かった。とりあえず、家出よう」
兄と麻彩と私の三人で家を出る。地下の駐車場から運転手付きの車に乗り、レストランへ向かった。そこはホテルのレストランで、時々利用する中華料理店だった。個室に案内され、どこに座ろうか麻彩と相談しているとき、個室のドアが開いた。父と父の秘書が入室してきた。
「パパ!」
「紗彩! 麻彩!」
私は父に近づき、抱き付く。そして頬にキスをした。
「紗彩と会うのは一ヶ月ぶりだな。元気にしていたか?」
「うん、元気元気」
父は私のおでこにキスをする。そして私を右手で抱いたまま、麻彩を向いた。
「麻彩はハグは?」
麻彩は仕方ないな、という顔をして、父に抱き付く。そんな麻彩を見て、父は首を傾げた。
「キスは?」
「パパにキスはしない」
「……どうして!?」
おっと。麻彩は兄に続き、父にもキス拒否のようです。麻彩は父から離れると、先に椅子に座る。
「お腹空いた! ご飯食べようよぉ」
「麻彩!? どうして!? 今までキスしてくれてたでしょ!?」
父、必死です。そんな父を見ても、麻彩は顔をぷいっとしている。ショックの色が隠せない父のスーツを私は引っ張った。そして父の耳に手を添えて、こそっと話す。
「まーちゃん、今、反抗期か思春期か、そういう時期みたいなの。お兄様にもキス拒否みたいだし、パパ諦めて!」
「えぇぇぇー……」
人の顔を見て、ここまで『ガーン』と書いてあるように見える表情って、なかなかないと思う。よろよろとする父だが、こう見えて、一条グループの社長である。イケオジなのに、娘の前では形無しだ。
私は麻彩の隣に座り、少ししゅんとしている父、兄も席に着いた。父の秘書は背後霊のように父の後ろに立っている。
それから食事を開始した。父は気を取り直した表情はしている。
父を含めて家族で食事をするというと、だいたいこのメンツである。
一条家の家族構成は複雑ではある。
まず父と母は結婚して現在も婚姻関係にはあるが、恋愛関係にはない。父と母は元は幼馴染の関係だった。父の母と母の母、つまり祖母同士が親友であり、父の母(父方の祖母)が金銭的に不安定だった母の母(母方の祖母)を援助してくれていた。その一環で、若いころの母と祖母は父の家である一条家に住んでいたという。
母も祖母も帝国に半分住んでおり、東京で生活資金を得るのが難しかったのだ。だから幼馴染というより家族に近い関係の父と母だったが、半年間くらい恋人関係にあったようで、その時に母のお腹に兄ができた。そこで結婚に至ったらしい。しかし互いに恋愛感情が長く続くことはなく、恋人関係は解消。とはいえ、離婚となると色々と手続きが面倒な上に、母は社交に関しては向いている人なので、離婚せずに父の妻として表で活動することは今でもやっているのだ。
その後、母は帝国に恋人ができ、私が生まれる。しかしその恋人とは色々あって別れることになり、その後帝国でできた恋人との間にユリウスが生まれた。しかしその恋人とは結婚できずに、結局別れている。そして、母はその後東京で恋人ができ、麻彩が生まれた。現在母は、その麻彩の血縁上の父と恋人関係である。
父は父で、恋人が何人かいたらしいというのは聞いているが、その中でも現在私が化粧品会社の社長としても付き合いのある菫とは長いようで、菫との間に息子がいる。
こう言うと複雑ではあるし、それこそ昼ドラかと言いたくなるような関係であるが、うちはこれでもドロドロした関係ではないのだ。
東京の関係までなら、ということではあるが。
帝国、つまり私の父やユリウスの父なんかも含めるなら、まあまあドロドロしている。そこは間違いない。
しかし東京だけなら、関係は良好。
父は血のつながりのない私と麻彩も娘として愛してくれているし、書類上も完全に父の子である。父方の祖母や祖父も私たちを可愛がってくれている。
私も麻彩も血縁上の父が他にいるのは知っているが、実の父と認めているのはこの父だけだ。
「そうだ、来月ニューヨークに行くんだが、紗彩と麻彩も一緒に行かないか?」
楽しく会話しながら食事は進み、父が思い出したかのように話を変えた。
「私は無理だよ。学校も仕事もあるもん。まーちゃんはパパと行ってきたら?」
「えー? どのくらい行くの?」
「二週間くらいだ」
「無理。そんなに行きたくない。パパどうせ昼間は仕事でしょ? 絶対パパ、私を放置するもん」
「夕食は一緒にできるよ! 欲しいもの、なんだって買ってあげるから」
「行かなーい」
父の眉が下がっている。
「よし、分かった! じゃあ来週! 来週国内の別荘にでも行こうじゃないか。それならいいだろう?」
父の別案に、今度は父の後ろで父の秘書が顔をぶんぶん振っている。声は出てないが「無理無理無理」と言っているように聞こえる。
「……パパ、来週は仕事じゃないの?」
「休むから」
私の質問に即答する父だが、父の秘書は手で大きくバッテンを作って体が左右に揺れている。父には見えてないだろうが、分かりやすい秘書の意思表示である。これは、絶対休めない仕事がある、ということだろう。秘書さん、苦労しますね。
「パパ、仕事なら休んじゃダメ。別荘は次回以降のどこかで私が帰った時に行きましょう。週末なら泊りで行けるし、私もパパと別荘行きたいなー。まーちゃんも一緒に行きたいよね?」
「うん」
「よし、そうしよう! 紗彩と麻彩と別荘に行く日程を先に決めておこう!」
ころっと意見を変えた父は、後ろを向いて秘書と日程の調整をしだした。父よ、兄は仲間に入れてあげないのか。兄は兄で、父との別荘には興味がないようで、しれっと酒を楽しんでいる。
そんなこんなで、父と別荘へ行く日程も決められ、その日の夕食は終わった。
父と別れ際、私と麻彩は父とハグをして別れ、兄と麻彩と三人で帰宅するのだった。
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