オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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報連相は大切です

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「侯爵様、お嬢様からご連絡です」
「ほう」

 娘からの連絡。
 それを聞いて、アルウィンは書類から顔を上げた。

「フローリアからの連絡、はて?」

 何があった、と呟いてから連絡用として飛んできた鳥を受け取る。
 間違いなくフローリアの魔力で編まれた鳥だ、と確認をしてから手をかざし、編み込まれていたメッセージを確認する。

『お父様、ご機嫌いかが?騎士団長がまた先陣切って、って副団長様に叱られていないかしら?』
「はっはっは、バレておる」
「団長、そう思うなら自重してくれませんかね」
「嫌だ」

 さくっと副団長の抗議を拒否していると、フローリアの声は軽くとんでもないことを告げてきた。

『お父様、わたくし婚約破棄されましたわ』
「ん?」
「え?」

 唐突な報告に、アルウィンも副官も揃って目が丸くなってしまう。
 何だかとんでもない爆弾報告では…?と思っていると、のほほんとした口調のフローリアの報告は続いていく。

『ほら、もう少しで卒業パーティーがあるでしょう?』
「ほう」
「ああ、もうそんな時期ですか」
『今日、予行練習だったんですけど、そこで破棄する、と』

 何でもないように報告されるものだから、アルウィンと副団長は一度、お互いに顔を見合せた。
 なお、メッセージの続きは変わらずのんびり口調で流れているのだが、顔を見合せて鳥へと視線を戻したアルウィンと副団長は、呆然としていた。
 というか『一体どういうことなの』という気持ちでいっぱいだった。
 公衆の面前で婚約破棄を突きつけるとか一体何なんだ、と副団長が思っていると、べきょ、という謎の音が聞こえた。恐る恐る音の方を確認すると、無残にも握りつぶされた羽ペンが、一本。

「ちょっと団長、ペンが」
「はああぁあぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 アルウィンの絶叫が響き渡り、野営地ではなんだなんだと軽い騒ぎが起こってしまった。
 恐る恐る団長用のテントまで部下が覗きに来たが、何でもないから戻れ!と副団長が奮闘している間にメッセージは全て再生され、また鳥の状態に戻っている。

「団長、ちょっと落ち着いてください!ねっ!」
「俺は今から屋敷に戻る!」
「アンタまたそんな無茶言って!もう魔獣討伐は終わったんですから陛下にご報告!こっちだって報連相大事なんです!お仕事なんです、こっちはー!」
「んだと?!」

 侯爵らしからぬ口調で怒り狂っているアルウィンだが、副団長は負けじと詰めていく。

「んだと?!って凄んでも無駄です!大体俺が何年あなたの副官やってると思ってるんですか?!良いですか、そもそも団長自らこうやって出陣したからお嬢様からご連絡が来たとしてもすぐ駆けつけられないんですからね?!」

 副団長のこれは、アルウィンの胸にどっすりと杭のごとくぶっ刺さった。
 今回の魔獣討伐に関しては、さほど強くないのだから部下たちに任せてください。団長は王都で訓練の手伝いをするなり、溜まってる事務仕事やってください!と散々叱られていたにも関わらず、『俺も行く!』とウッキウキで討伐に参加してしまった結果でもある。

「フローリア様の報告をリアルタイムで聞けるように王都でお仕事をしていただいていれば、こんなに悔しい思いをすることは無かったんじゃないでしょうか?!」
「テメェ…」

 鼻先ギリギリまで近づけて睨み合いをする姿は、ある意味ヤンキー、もしくはヤクザの様相だが本人たちは一切気にしていない。
 何ならこれがいつものことなので、また隠れて様子を伺っていた部下たちは『何だ、団長が副団長に言い負かされてら』と引っ込んで行った。
 アイツら覚えとけよ…と睨みを聞かせるアルウィンではあるものの、フローリアからの報告にあった『婚約破棄』という単語に頭を抱える。

「婚約破棄、ねぇ…」
「お嬢様の経歴に傷が…」
「つくと思うか?」
「…………」

 副団長、もといセルジュもフローリアのことはよく知っている。
 アルウィンの部下になったとき、『この子が次のライラックだ』と紹介されて以来、扱いの心底面倒くさいアルウィンのことでフォローしてくれたりもしていた。
 心優しい令嬢だからこそ、王太子妃の役割も恐らくこなせるだろうと思っていた。

 だが、そんなことはさておいて。

 フローリアははちゃめちゃに強い。
 勉強も出来る上に強くて魔法の腕も確か、シェリアスルーツ家伝統行事の後継者決めのバトルに関しても余裕で勝ち抜いたという猛者。

 恐らく彼女は、婚約破棄されたことをうっきうきで喜んでいるに違いない。

「つかないし、お嬢様は気にしませんね…」
「だろう」

 うむ、と頷くアルウィンと、フローリアを知っているからこそ断言してしまったセルジュ。

「しかし、大勢の前での婚約破棄宣言とは…」
「まぁそもそも、殿下が婚約を申し込んできた流れも意味不明だったからな」
「あ、俺それ知らないんですけど」
「聞くか?アホだぞ」
「え、何ですかそれ。ちょっと教え……折角なら騎士団に広めましょうよ」
「鬼かお前は」

 なお、セルジュは楽しいことがとても好きな性格である。楽観的でもあるうえに、楽しければそっちやってみよう、という性格が災いすることもあるが、まぁ大体は上手くいく。

 上手くいくことの方が多いが、フローリアに関しては『どうせ女の子だから』という甘っちょろい見方をしてしまったせいで、一度ボッコボコにされているがそれ以来とてつもなくフローリアを尊敬し始めた。

 だから、そんなフローリアに対して馬鹿なことをやらかした王太子の所業に関してはあちこちに広めてやれ、くらいの感覚なのだ。

「仮にも侯爵家令嬢に対して、公衆の面前での婚約破棄を突きつけるとかアホでしかないじゃないですか。そもそも申し込んできた、ってことは殿下からの婚約の申し込みでしょう?」
「おう」
「自分から破棄とかありえます?」
「ありえたから、フローリアが報告してきてんだろ」
「それもそっかぁ」

 あっはっは、と笑うセルジュだが、がったんごっとんと椅子を引っ張ってきて、アルウィンの簡易デスクが設置されていたところに向かい合って座った。

「んで、どんな流れが」
「お前騎士団に広めるとか言ってなかったか」
「俺が聞いてから皆に吹聴しようかなー、って」

 目をキラキラさせながら、さぁ!と意気込んでしまわれては話すしかないかと腹を括る。

「……本当にくだらねぇ話だからな」
「大丈夫ですよ。割と殿下がおバカさんなのは皆知ってますし」

 いや、そういうことじゃねぇんだよ…とアルウィンは心の中でそっと付け加える。
 どこから話したものかと悩んでいたが、もう最初から話すしかないか、とため息をついて、二人分のお茶を入れるために立ち上がる。

 ついでに、フローリアから飛ばされた鳥に返信用の手紙を付けようと、アルウィンが手早く手紙を書いた。内容は『早々に帰るから、詳細はその時に教えなさい。それと、娘は傷心だからとか適当な言い訳を用意しておいてやるから、学園には行かなくていい』というもの。
 書かれたそれを鳥の足に器用に括り付け、無事飛んで行けるように防御魔法を展開してやり、ついでに鳥に対しての魔力補給もしてやった上で、シェリアスルーツ家へと飛ばした。

「さて、話せば長くなるんだが…」

 お茶を入れてから、アルウィンはどっかりと椅子に座り直した。
 そして、どういう経緯で婚約が成されたのかを話し始めたのである。
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