オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

文字の大きさ
10 / 65

隠した一面は絶対見せない

しおりを挟む
「報告書が上がってきたか」

 よし、と頷いて今回の魔獣討伐に関する報告書を手にしたのは、ヴェッツェル公爵。
 王弟ながらも、『自分は王たる器では無い。王としてあるべきは我が兄ゆえに、わたしは王位継承権を放棄する』と、兄が王太子となった時に宣言をした。

 シオン・ラオぜーズ・ヴェッツェル。
 通称、『鮮血の悪魔』。

「…相変わらず、シェリアスルーツ侯爵の腕は見事だな」

 報告書に記載されている内容を読んでいくうちに、眉間のシワが少し消え、じわりと微笑みが出てくる。

 切れ長な目はアイスブルー、すっと通った鼻筋。
 身長は180cmを超え、自身も魔物討伐に出ることもあるため、筋肉がしっかりとつき、均整の取れた体。
 手も大きくゴツゴツとはしているが、どこかしなやかさもある。
 色素の薄いプラチナの髪は前髪が少しだけ長く、左に前髪を流しており、雰囲気だけ見ればまさに王子様。

 しかし、戦場に出ればシオンの雰囲気は一変する。

 甲冑を身にまとい、馬に乗り戦場を駆け、愛用の片手剣を使い敵をばっさばっさと切り捨て、敵であれば女であろうが容赦はしない。
 特に魔物に関しては情けもクソも、な状態で切り捨てていく。

 戦場から戻ったシオンがべったりと返り血を付着させ、感情をあまり表に出さないところも相まって、彼の通称が『鮮血の悪魔』となってしまった。

「……」

 報告書に記載されていた、『討伐対象のコアにつきましては、傷つけず納品とさせていただきます』という文章を読んだとき、シオンの顔はにま、と崩れた。

「閣下、お顔が」
「ふ、ふふ」

 所謂イケメンで、黙っていれば文句なしの王子様。立場としては王位継承権を放棄したといえど、王弟であり公爵位を賜っている。追加するとシオンは独身なので、求婚者は絶えないし釣書もどさどさと届く。
 それには一切目もくれることなく、うっきうきなシオンの興味の対象は自分が依頼した魔獣討伐で採取された魔獣の核。
 形としては大人の男性のこぶしくらいの大きさで、色は様々な種類がある。核の保持属性によって色は異なっているのだが、シオンが特に気に入っているのは火属性。

「あぁ…、やっぱり綺麗だわ!」

 きらきらと目を輝かせ、報告書と共に届けられた核を見てにまにまと笑っている。
 イケメンなのに、これさえなければなぁ…と頭を抱える従者をよそに、核を手に取って光に当て、きらきらと赤い光が反射をして輝く姿をご満悦そうに眺めるシオン。

「閣下、もう一度言いますね。お顔、どうにかなさってください」
「は?ここにはアンタとアタシしか居ないのに喧しい。黙りなさいな」
「うっかりそれがバレたらどうするんですか!」
「バレないように立ち回ってんじゃない。何が悪いの」

 イケメンのジト目ほど、ある意味迫力満載のものはないかもしれない。
 従者であるラケルはげんなりとして思いきり溜め息を吐いたが、シオンがぴくりと眉を上げて核を一旦テーブルに置いてからずんずんとラケルの方に向けて歩いてきた。

「ちょっとラケル、何が不満なわけぇ?」
「不満にもなりますよ!」
「それを言いなさい、つってんでしょうが!」
「そもそも、閣下が王位継承権放棄したのもわたしは納得いってないんですから!」
「アンタお母様みたいなこと言うのね!!」
「言われるようなことしないでくれませんかねぇ!」

 ぜぇはぁ、とひとしきり言い合った後で、二人はぐったりとしてしまった。

 シオンの隠した一面というのは、この性格。

 表向きには兄のことを思い、自分は表舞台から去り影ながら王家の役に立つべく、王位継承権まで放棄して一人の貴族として生きていく道を選んだ、ということ。
 実際は当時の兄の婚約者、そして自分の母親からあまりの才能の豊富さに疎まれ、早く死んでくれと言わんばかりに戦場にいつも放り込まれたことが嫌でたまらず、王位継承権をさっさと放棄したのだ。
 そして、元来シオンは可愛いものや綺麗なものが大好きなのである。その好きが高じて、魔晶石や魔力を帯びた鉱物、更には魔物の核などに興味を示し、研究をするために功績を上げるたびに研究施設として大きな屋敷の郊外にもらい、あれこれ実験機材を豊富にさせた結果、何となく言葉遣いまでもが変化してしまったという一面までもちあわせている。
 その筆頭が言葉遣い。
 所謂、「オネェ」なのである。
 本人曰く、『可愛いもの、綺麗なものを長年愛でていたらなんかこうなった』らしいのだが、シオンの顔面偏差値が驚くほど高いことも一因ではなかろうか、とラケルは思っている。

 魔晶石など様々なきらきら輝く鉱石を持った彼は、同性のラケルから見たとしても魅力的な姿なのだ。
 使用人たちはそのイケメンを見慣れているけれど、ほかの令嬢はそこまで耐性がない。
 だから、一目見てシオンに惚れ込み、こうして毎日せっせと釣書や手紙、どうにか一度見合いの席を!と意気込んでいるけれど、本人は興味持っていない。

「勝手に人の顔見て色々決めつけてんの、向こうのご令嬢たちじゃない。好き勝手妄想されてもこっちは困るのよ」
「そうですけど、もっとなんかこうあるでしょう!?」
「で、結婚して幻滅した!って離縁されたらされたで、人のことを面白おかしく言いふらすに決まってんじゃない。アンタ、そこまで考えたんでしょうねぇ?」
「うぐ」

 考えてませんでした!とも言えるわけが無い。
 ラケルは図星をつかれ、困りきって沈黙してしまった。

「はぁ……どこかにいないかしら。人を見た目で判断しない、こう強くて可愛くて綺麗で、でも足手まといにならないくらい強くて芯のある、ついでに頭の良いご令嬢!」
「いるわけないでしょうが」
「そういうツッコミだけは早いのね、アンタ」

 ジト目になるシオンと、ツッコミを入れるラケル。
 これが、ヴェッツェル公爵家の日常であり、隠さなければならない秘密なのだ。

 なお、シオンは基本的に表舞台に出ることが少なすぎるから、今回のシェリアスルーツ家と王家の揉め事はまだ知らない。
 ついでに言うと、王家に関してシオンが興味を持っていなさすぎるせいで、婚約破棄騒動もまだこの屋敷まで届いていない、というのも事実なのであった。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

処理中です...