オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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ただいま我が家!

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 書類仕事が苦手だと自覚してはいたが、セルジュに叱られつつもどうにかこうにか終えた。しかし、思ったより時間がかかってしまった。『普段からやらないからですよ!』とひと足先に帰る前に、セルジュから叱られてしまったものの終わったからにはこちらのもの。
 アルウィンは、とんでもないしかめっ面で馬を走らせ、…否、馬で爆走しながら王都への帰還を急ぐ。愛馬よ、すまんと謝りつつも速度は決して落とすことはなく、トップスピードのままに馬の体にムチ打ってひたすら走らせて帰路を急いだ。
 そして、本来ならば王宮へと報告に向かうところだが、アルウィンとしてはヴェッツェル公爵に真っ先に書類は提出しているし、あちらが希望した核やら魔水晶やらも納めているし問題ない!と言い切って、自宅へ直行した。

「よっしゃただいまー!」

 今帰ったぞ、でもなく『よっしゃ』と叫びながらの侯爵の帰宅。

「旦那様、もう少し別な言葉はありませんか?!」
「おうダドリー、ただいま」
「はい、お帰りなさいませ……って、旦那様!」
「さぁてうちの可愛いお姫様たちは息災かー?」

 うっきうきで娘の部屋に向かおうとするアルウィンと、どうしてここ最近はツッコミ役に回ってしまったのだ!と内心絶叫しながらアルウィンの後を追い掛けるダドリー。
 慌ててアルウィンを追い掛けるも、如何せん普段から鍛えまくっている騎士団長と、基本的に室内行動の執事長ではどちらが勝つかだなんて一目瞭然。

「だん、…旦那様、っ…」

 たったかと走るアルウィンだが、騎士団の鎧をつけているというのに、足取りはとっても軽いし早い。

「ちょ、あの、だんな、さま!」

 恐らくアルウィンのお目当ては卒業まで学校を休んでいるフローリアなのだろうが、今日は学校が休みのレイラも家にいる。
 婚約破棄騒動(ただしごく一部しか騒いでいない)があってから実はまだ一週間ほどしか経過していない。
 フローリアは『まとまったお休みは快適ですわ』とのほほんとしながらも、日々騎士団員たちを鬼のようにしごいている、
 ダドリーに『何とかしてくださいぃぃ!!』と泣きついて騎士団員もいるのだが、その度フローリアに見つかっては『あら、ごめんなさいねダドリー』とにっこり微笑まれ、首根っこ掴まれてずるずると訓練場に引きずられていくのは、ここ最近の日常光景となりつつあるから怖いものだ。

「フローリア、レイラ、ただいま!お父様が帰ってきたぞ!!」
「あなた、お静かに」

 しー、と妻であるルアネに諌められた。
 アルウィンのことをこんなにも簡単に落ち着かせることができるのは、恐らく未だにらぶらぶ真っ盛りの妻だけだろう。

「ルアネ~」

 厳格な騎士団長の顔はあっという間にみっともなくでれりと崩れ去り、代わりに愛妻家のシェリアスルーツ侯爵の顔になる。

「お静かになさってくださいな。双子は今疲れて眠っておりますから」
「へ?」
「朝から団員全員相手にした、双子対複数の乱戦を行っていたので、さすがに疲れたようですわ」
「そりゃ疲れる」

 ダドリーは、話を聞いたアルウィンが『とんでもないことさせるんじゃない!』と怒ることを少しでも期待していた。
 しかしダドリーの思いとは反対に、アルウィンはにんまりと笑って、それどころか双子の寝顔を見てからうんうん、と何故だかとても満足そうにうんうんと頷いているではないか。

「そうかぁ~。いやぁ~、そうかそうかぁ~」
「旦那様ぁ…」

 予想とまるっと違う…!とダドリーが悲しみに打ちひしがれていると、ルアネも嬉しそうに笑いながらすやすやと眠る双子の頭を優しく撫でた。

「双子は頑張っておるなぁ、うんうん。偉い偉い」
「んー…」
「んむ…」

 双子それぞれで髪質が違うことを楽しみつつ、ルアネが撫でている手をぺん、とレイラがはらう。

「…ヤダもうこの子ったら」

 一度双子の頭から手を離したものの、もう一度撫でようと両方の手をフローリアとレイラ、二人の頭へとそれぞれ伸ばして、触れるか触れないか、というその時。

 ぺん。
 ぺちん。

「……」

 場を沈黙が包む。
 ルアネが弾かれた己の手を見て、ひくひくと頬を引きつらせる。

「この子たち、起きてるんじゃないでしょうね…」

 言いながら気を取り直して頭を撫でようと、もう一度手を伸ばしたけれど、やはりぺちりぺちりと弾かれてしまう。

「この、っ…!」

 母として娘に負けてはならないと常日頃思っているのだが、寝ているからか二人ともこの行為に関してはまったくの無意識。
 恐らく反射というか、野生の勘のようなもので気配を察知して、ぱちべちとルアネの手を叩き落としていく。

「どうだダドリー、うちの子天才だろう」
「…いやあの、こんなの見てしまうとお嬢様方の将来の旦那様たちが可哀想と言いますか」
「普通に起こせば良いだけだぞ?」
「ちなみに今の奥様の状態を見て、旦那様はどのような感想を」

 えー、と言いながら寝ている娘と引き続きバトルをしている嫁へと視線を向け直したアルウィン。

「ちょっと双子と戯れてる俺の可愛い妻」
「違うでしょう」

 にへら、とだらしなく笑って素っ頓狂な答えを返してきた己の主に、躊躇することなくツッコミを入れたダドリー。

「ええいもう!」

 もうそれ手合わせの一歩手前みたいな状態では?と言わんばかりに、双子から手をかわされるわ弾かれているルアネが叫んで、頭をな出ようとしていた手の行き先を変えてわしっと二人にかけていた上掛けを掴む。

「とりあえず起きなさい寝ぼけ双子!」

 ばっさあ、と思いきり上掛けを剥ぎ取られ、双子はちょっぴり寒かったのか、ふるりと体を震わせる。

「むー…」
「ん…」

 起きるかと思いきや、のそのそと二人が動いてお互いをぎゅう、とハグして、互いの温度でまた安心したようにすよすよと眠ってしまった。

「…自発的に起きない限りほんっっっとうによく寝る我が子らですこと」
「良いじゃないか、元気いっぱいで。特にフローリアは婚約破棄されたのを悲しんでとかいないな?」
「ええ。王太子妃教育をもう受けなくていい!と我が家の騎士団を鍛えてみたり、学校帰りに我が家に寄り道してくれるこの子のお友達とのんびりしてみたり」
「忙しすぎたからな、今まで」
「…えぇ。レイラもフローリアが笑ってくれるのが嬉しい、とわたくしに申しておりましたわ」
「そうか…」

 レイラとフローリア、二人とも大変仲良しで昔はお昼寝をするとき、よくこうして抱き合って眠っていたのだ。
 その癖は大きくなってからも抜けておらず、今でも隣同士で眠ればすぐにこうなる。

「色々すっ飛ばして帰宅したからな。まずは俺は着替えやら済ませるとするか。ダドリー、俺の馬を労わってやってくれ」
「はい。……は?」
「ちょっと無理させすぎた、あっはっは!」
「旦那様、動物は大切に慈しんでくださいませね。もう」
「すまんすまん!」

 とりあえず双子に関してはそのまま起きるまでこうしておこう、とアルウィンは思った。もう一度二人に上掛けをかけてやり、『おやすみ』と父親の顔で愛おしそうに二人を見る。
 まずは風呂だ、と思いつつルアネ、アルウィン、そしてダドリーが二人が眠る部屋から移動したそのすぐ後くらい。

「ええぇぇぇぇぇ?!?!?!」

 ぐでんぐでんになって死にそうにぜぇはぁいっている、アルウィンの愛馬を見つけた騎士団の若手の悲鳴が厩舎から聞こえてきたのであった。
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