オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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断罪開始①

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 フローリアにとってとんでもない衝撃だったのあの日、婚約を良しとするのか嫌なのか、と問われたフローリアが出した答えは『嫌ではない』というもの。
 それだけ分かれば十分だ、と嬉しそうに言ったシオンを見て、フローリアはまた顔を赤くしていた。
 だったらもうそのまま婚約してしまえ、とあれよあれよと手続きがされてしまい、名実ともにフローリアがシオンの婚約者になってしまった。
 王太后の思い通りになってしまう、と聞いていたが、嬉しいと感じる気持ちの方が大きく、ルアネに『良かったわね』と言われたフローリアはふにゃ、と笑って頷いた。
 なお、それを見たシオンは『これが無意識なんだから、こっちの身が持たないじゃないの……!』と何やらブツブツ言っていたが、嬉しいのはこちらも同じだったらしい。
 とんでもなく満足そうに帰っていき、残されたルアネもご満悦だし、学校から帰ってきたレイラは家のほわほわした空気から察してくれたらしく、勢いよくフローリアに抱きついた。

「リア、おめでとう!」
「まだだもん!」
「それでも、幸せがやってくるのは確定したようなものだから、おめでとうよ!」
「~~っ」

 困ったような、でもくすぐったそうな微妙な表情のフローリアだが、嫌ならこんな顔はしないのをレイラも理解しているから、すぐに破顔する。
 きっと、フローリアはとても幸せになるに違いない、と確信するレイラ。
 あの馬鹿王太子から離れられるのであれば、それだけで問題なかったというのに、相手がまさかの王弟。
 フローリアが十八歳で、シオンが三十一歳。
 ジェラールと年が離れていることもあってか、シオンの見た目はとても若いしとても三十代には見えない若々しさだ。恐らく好きなことをしながら生活しているからなのでは、と予想する。

「レイラ、からかっているでしょう!」
「からかってないわ。大好きなフローリアが幸せになってくれるのだから、こんなにも嬉しいことはないわよ」

 にこにこと笑うレイラは、心から祝福してくれているのが分かるのだから、フローリアはこれ以上叱ることなんてできない。

「ねぇ、ちなみにどれくらいの間隔でシオン様とお会いしているの?」
「た、たまに……」
「たまに、かあ。あれ、シオン様ってうちに来てるわけじゃないわよね?」
「騎士団の訓練の後で……とか、あの……帰りに送っていただいたり、とか」

 ぽそぽそと言葉を紡ぐ、真っ赤になった照れ顔の、でもたまに混ざる嬉しそうな表情とか諸々、うちの双子の片割れ、可愛すぎん……?と内心思うレイラだが、実際可愛い。
 最近までミハエルのせいでフローリアの気持ちは、どちらかといえば嫌な方向へとひりついていたというのに、婚約破棄されてからというもの、あっという間に笑顔が増え、シオンと出会ったことで明るくもなっている。
 恐らく一番の理由は、シオンがフローリアの名前をしっかり呼んでくれているということなのだろうが、それに加えてシオンの強さも含めた全てだろう。

「フローリアが幸せそうで、私も嬉しい」
「レイラ……」
「だって、やっと笑ってるっていう感じなんだもの」
「そう、かしら……?」
「そうよ!」

 レイラやルアネ、そして侍女長や使用人たち、執事長であるダドリーは喜んでくれているのだが、一人お通夜状態なのはアルウィン。
 親戚一同もシオンとの婚約に関しては喜んでくれているのだし、もうそろそろ観念してほしい、というのがレイラとルアネの意見だったりもするが、どうしてもまだ認めたくないそうだ。
 とはいえ、シオンの強さはまさに鬼神のごとし。
 フローリアが惚れないわけはなかったのだが、シオンも同じことが言える。

「そういえばフローリア、シオン様のお宅にはお邪魔しているのよね?」
「うん」
「問題とかない?」
「ないわ。メイドの皆さまも、シオン様の側近のセルジュ様も、大歓迎というか……」
「あー……」

 なんとなく想像できてしまうのは、シェリアスルーツ家でも同じ現象が起きたからだろう。
 あのシオンが、あるいはあのフローリアが、婚約できたという事実に一番最初に沸いたのは使用人たちに違いない。だからというわけではないが、ヴェッツェル公爵家の使用人たちは諸手を挙げて喜んで、フローリアが来るたびにあれこれと世話を焼いてくれたり、労りの言葉をかけてくれる。
 驚きがそのまま喜びに変わった、とでも言えばいいのだろうか。
 ヴェッツェル公爵家のメイドたちなんか『ようやくシオン様にも遅ればせながら春が!フローリア様、ありがとうございます!』と涙を流して喜んでくれた。
 そんなにも……?と戸惑うフローリアだが、拒絶されているわけではないのだから、何よりだと安堵した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「これでいい」

 最近は学園でフローリアを全く見かけないが、どうせ惨めに家で泣き暮らしていると思っていたのに騎士団に入団していたとは、と呆れたようにミハエルは溜め息を吐いた。
 しかも、彼女の父が団長を務めている騎士団であれば、当たり前のように王宮への出入りもある。
 王太子妃教育に励んでくれているアリカに対し、無謀にも嫌がらせをするとはいい度胸をしている、とミハエルは鼻息荒くしている。

「おい、この手紙をシェリアスルーツ家に届けろ。大至急だ!」
「……かしこまりました」

 新しい側近は、ミハエルが用事がある!と呼びつけない限りはミハエル用の執務室にやって来ない。
 全く不義理な部下だ、と怒っていたら国王から『お前が好かれていないし一緒に仕事をしたいと思われていないから、殿下の部下にしないでください、という嘆願書があちこち届いている。お前、人の心を掴むことは下手くそだな。勉強は出来るのに』と痛烈な嫌味をくらってしまった。
 王妃も、同じようなことしか言わない。
 親のくせに何なんだ、とミハエルがキレかけていたら、王太后からは『ミハエルちゃんの才能は、馬鹿親を凌駕しているから悔しいのよ』という自尊心を大変盛り上げてくれる言葉をかけられたので、すぐに機嫌は元通りになった。

「(あぁ、やはりおばあさまは自分の味方だ!)」

 頼れる祖母は未だに結構な権力を有している。
 だから、このまま祖母に力を借りてフローリアのことをボロボロにしてやればいいんだ。

 ひねくれ曲がった感覚しか持てない駄目な王太子と、彼に泣きつく王太子妃候補の評判は地を這いずり回っていることに全く気付くことなく、手紙はシェリアスルーツ家へと到着してしまった。
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