オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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断罪開始②

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「何だ、この手紙は」

 ライラックへ、と簡潔に書かれた文字と、高級な紙で作成されたであろう手触りのとても良い封筒。
 アルウィンは封蝋を確認してから中身を開き、記載されていた内容を見て目をぱちくりとさせてしまった。そして思わずぽろりと本音が零れる。

「馬鹿だ、本物の馬鹿がいる」

 怒りを通り越し、呆れまでも通り越してしまい、込み上げてくるのは怒りとかそんなもの差し置いて、愉快でしか無かった。

「アッハハハ!!これは傑作だ!!ダドリー、家族を呼べ!!」
「は?……えぇと、はい」

 いきなり笑いだしたアルウィンを訝しげに見たものの、呼べと言われれば呼ぶしかない。
 フローリアはシオンと会う日だが、シオンがここまで来てくれるから問題ない。
 ルアネとレイラは出かける予定も特になく、アルウィンもゆったりと過ごす予定だった、この休日。
 シェリアスルーツ家に爆笑の種が撒かれ、とてつもない勢いで芽吹いてしまった。

「何これ!すごーい!」
「まぁ……」
「馬鹿丸出しですこと」

 レイラ、フローリア、ルアネの順に感想が述べられていく。
 結論としては『馬鹿だこいつ』なのだが、書かれている内容がどこの小説なんだ、と言いたくなるようなものだった。
 小説ならまだ良いかもしれない。
 あれは何というか、大衆向けの演劇の台本の案のような、普通にしていたら間違いなく受け取ることなんてないであろう、そういう類の言いがかりにも程がある、というレベルの手紙。

「フローリアが王太子妃候補の邪魔をしている、なぁ……」
「そんなことする暇があったら、訓練しております」

 王太子妃候補って誰なんです?と、のほほんと聞いてくるフローリアは通常運転。
 あーあ、もうダメだわこれと、レイラが改めて手紙を読んでいく。

「えーっと……。ライラックよ、お前の罪は重い。王太子妃候補たるアリカの邪魔をするとは、言語道断……って、フローリアにそんな暇あるわけないでしょうが!邪魔するメリットないわよ、私のフローリアに!」
「ヤダちょっと!アタシのフローリアなんだからね!」

 ドアが勢いよく開かれたかと思えば、入るやいなや大声で叫んでずかずかと歩いてきて、シオンはぎゅうっとフローリアを抱き締めた。

「あ、あの!?」
「婚約したとはいえ、今必死にフローリア振り向かそうと努力しまくりなんだからね、アタシは!大体双子の妹ちゃんとはいえあんたのじゃないでしょ!!」
「いーいーえー!大好きな私のフローリアです!」
「二人とも、そこまでにしてあげてちょうだいな」

 パンパン、とルアネが手を叩けばシオンとレイラがはっと我に返る。
 なお、シオンはフローリアをがっちりホールド、もとい抱きしめたままである。

「あの、シオン、さま。離して……」
「えー……」
「みんな、いるので……あの……」

 それもそうか、とシオンは素直に離れるが、手はちゃっかりの繋いだまま。
 わたわたとするフローリアが可愛いから、という姉バカ全開の理由でレイラは親指をぐっと立てている。それを見たルアネが『これ、はしたない』とレイラを軽く叱るが、アルウィンはとてつもなく怒り狂っている。

「殿下ぁぁぁ、ちょおっとうちの子と繋いでる手、離してもらえませんかねぇ……?」
「嫌よ」
「この、っ……」

 ギリギリと睨んでいるが、アルウィンと睨み合いなどシオンには慣れっこ。
 だが、フローリアは繋がれた手をじっと見て、そして自分から握り返したり、離したりを繰り返している。にぎにぎと手を握られているシオンは思わずそれをガン見し、可愛らしい行動に悶えたくなるものの、そうしたら手を離さなければいけなくなってしまう。
 離すわけにはいかないし、フローリアの行動が可愛らしすぎるしで、シオンから奇妙な声が上がるが、フローリアは手を握ったり離したりで忙しいらしく、そんなこと気にしていない。

「……あの、フローリア」
「はい、シオン様」
「……楽しい?」
「……」

 はっ、とそこでようやく気付いたフローリアだが、時すでに遅し。にま、と笑っているシオンにがっちり手を繋がれて、逃げられなくなってしまっていた。

「あ、あの、手を繋ぐとか、だって、異性とは、初めてで、あの!」
「ミハエル、どんだけフローリアを放置してたのよ……」
「……だいたい呼び出されるのは、サポートをする時だけでしたかしら……」
「うわぁ……」

 最悪、と呟いたシオンに、さすがのアルウィンも大きく頷いたし、レイラもルアネもげんなりとしている。
 ようやく女の子としての幸せをたっぷり味わおうとしているのに、意味のわからない断罪予告など知るか!と叫びたくなるルアネとアルウィン。
 改めて手紙を読んでもツッコミしかできない。
 というか、アリカの邪魔とは何なのかと思えば、『フローリアが騎士団に入ったことが、アリカの視界で幸せそうにしているから邪魔だ』とか意味が分からないし、分かりたくもない。

「あのバカ、どこでフローリアに断罪仕掛けるって?」
「卒業パーティーだそうです」
「パートナー必須の」
「はい」
「んじゃまぁ、堂々と行きましょうか。フローリアは未来に向かって進んでいるだけなんだし、ね?」

 ぱちん、と綺麗にウインクを決めたシオンは一見軽く見えるが、フローリアにとっては救いの神に見える。

「……では、シオン様がわたくしのパートナーとして来てくださるのですか?」
「勿論」

 にこ、と微笑んでくれたシオンに、フローリアは嬉しそうに微笑みかける。
 きっと嫌われていないだろう、と思いながらもほんの少しだけ怖い気持ちは、今はしまい込んでおこうとシオンは心に決めた。
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