オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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断罪開始③

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 シェリアスルーツ家への文書も送ったことで、これで安心、と言わんばかりにミハエルとアリカは笑っている。
 なお、二人はやはり気付いていない。
『ライラックへ』と送ってしまったがために、アルウィンもはっちり手紙を見ている、ということに。

「ミハエル様、ありがとうございます!」
「愛しいアリカのためだ、何てことはないさ」

 ふっ、とキザったらしく言うミハエルだが、そもそも『ライラック』は何なのかがきちんと理解出来ていないがために、王太子と王太子妃候補が送った手紙そのものも何もかも、無駄になることが分かっていないのだ。
 送られてきたフローリアも、『ライラックへ』と書かれているからこそ内容を見てしまったアルウィンも、相手をする価値無し、と判断しているとは思うまい。

「大丈夫だ、おばあさまの協力も得られる。アリカは安心して王太子妃候補の教育に専念してくれ」
「……は、い」
「どうした?あのライラックですら習得できたんだ、アリカにできないわけがないさ!」
「そう……です、わね」

 アリカはぎくりと強ばったが、ミハエルはそんなこと気にしない。
 フローリアができたのだから、自分が選んだアリカが出来ないわけがない。
 だって、フローリアは王太子妃候補としては無能なのだから。何一つ成果を上げていない、ミハエルはそう思っている。
 実際は、人の心を考えられないからフローリアが必死に走り回ってサポートしてくれていた、という話だが、そんなものミハエルには関係ない。
 王太子妃として王太子を支えるのが役目なのだから、としか思っていないから。

「アリカ、そろそろ語学は問題ないか?あぁ、それからマナーも問題ないよな?」
「え、えぇ……」

 問題大ありだ。むしろ問題しかない。

「(あのとんでもない量を卒業までにだなんて、できるわけない!)」

 内心大絶叫だが、ミハエルならば恐らくやり遂げることが出来てしまうのだ。
 語学、マナー、歴史、文化、学ぶことは多岐にわたる。
 しかしこれまで普通の貴族令嬢として生きてきたから、できるだろう、とアリカは舐めていた。

「なら、卒業と同時に結婚式を挙げられるな!」
「え……?」
「各国に通達しよう!スケジュールの調整を行わなければならないからな。アリカ、よろしく頼んだ!」
「よ、よろしく、って、何をですか!?」
「卒業式の後の結婚式のスケジュールだが?」

 お前何言ってんだ?くらいの声音で、あまりにも簡単にミハエルがそう言うかららアリカは愕然とした。

「ま、待ってください!そんなの無茶です!卒業式がいつかお分かりですか!?」
「知っている。だから、早めに知らせを出さなければならないだろう?」
「それは、そうですが」
「そういった仕事は王太子妃の仕事だ。頼んだぞ」

 にこ、と微笑んだミハエルがどこかへ行くのを呆然と見送りながら、アリカはへたり込んでしまう。
 そして、同時にフローリアがいかにいい意味で馬鹿げた存在だったのかを、ようやく思い知った。

「もう、卒業式は目の前……それより前にライラックへの断罪が、あるけど……」

 しかしアリカは反省はしなかった。
 卒業パーティーは卒業式の前座的な扱いで執り行われる。だったら、ミハエルをどうにかして言いくるめて、フローリアをミハエルの側妃にしてしまえばいい。
 実務はフローリアに押し付けて、自分は華やかな場でミハエルと笑っていれば良いんだ。

「そうよ、そうしたら全てが綺麗に解決するわ!」

 ぱっとアリカの顔が明るくなるが、それはシェリアスルーツ家一同が予想している中での最悪な未来で、もう対抗策は取られている。
 フローリアとシオンの婚約は極秘扱いで締結されたから、知っている貴族の方が少ないのだ。
 なお、王太后には卒業パーティーの時に知らせがいくように細工もしてある。念には念を、とシェリアスルーツ家、そしてシオンたちが何もかも、利用できるものは利用した上での準備だとは知らないまま、時は進んでいくのである。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「フローリア、お待たせ」
「わぁ……」

 さすが公爵ともいうべき姿で現れたシオンは、まさに『王子様』と言うべきにふさわしかった。

「……フローリア?」

 アルウィンの正装やミハエルの正装も見たことはあるが、シオンの正装は二人とは全く異なっていた。
 貴族でもこれほど違いがあるのか、とフローリアは目をきらきらさせながらじっとシオンを見つめる。

「……素敵です、シオン様」

 ほぅ、と吐息を零しながら、うっとりと零れた感嘆の言葉に、シオンのみならずレイラもアルウィンもルアネも硬直した。
『この子、こんなに感情豊かにしたことあったか……?』と、全員の心の声が一致したうえに、執事のダドリーも侍女長含めたメイドたちまでぽかんとしている。

「わたくし、これほど幸せで良いのでしょうか……」
「まって、これが幸せ?」
「はい……!」

 自分が着飾ったくらいで、こんなにも喜んで貰えるなら毎日でも着飾るし、何ならお揃いコーデとかもいらくでもやるが、と内心あれこれ叫びたいのをシオンは堪えつつ、フローリアの結い上げられた髪を崩さないように優しく撫でる。

「何言ってるの。これからもっと幸せになるんだから、覚悟しておきなさい。さ、行きましょうか」
「はい、シオン様」
「シオン様、フローリアをよろしくお願いいたします」

 手を取り、腕を組んで歩き出す二人に、ルアネが深く頭を下げた。
 シオンとフローリアは振り返り、そして自信満々に笑ってから頷いた。

「勿論ですとも。あの馬鹿の顔面叩き潰すくらいの勢いでやってきてやるわよ」
「お母様、シオン様が一緒なら大丈夫ですわ」
「……えぇ、そうね。そうだったわね」

 こんなにも自信に満ち溢れて微笑むフローリアを、いつ見ただろうか。
 ミハエルと婚約していた頃のフローリアは、微笑んでいたとしても、疲れが見え隠れしていた。
 ミハエルと婚約破棄をしてからのこの三ヶ月、生き生きとしたフローリアを見られたのが親としても嬉しく、人を好きになって嬉しそうに頬を赤らめたり、シオンの言葉を聞いてはしゃいだり、ようやく年頃の令嬢らしさを取り戻した、と言ってもおかしくないくらい。

「いってらっしゃい、フローリア。そして、後悔させておやりなさい」
「はいっ!」

 微笑んで、フローリアはシオンと並んでシェリアスルーツ家を後にした。

「……お母様、フローリアが万が一泣かされでもしたらどうする?」
「馬鹿に?」
「そう」
「その時は」

 レイラの問いに、にこ、とアルウィンとルアネが笑う。

「徹底抗戦、あるのみ」
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