オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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自信満々……?

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「お前たち……よくもわたくしの呼び出しをここまで無視してくれましたわね……」

 王太后宮へととりあえずやって来た面々。
 シェリアスルーツ家からはルアネ、フローリア、そしてレイラ。アルウィンがいないのは至極簡単で『俺、あのばあさん嫌い。ちょっと遠征行ってくる』と普段ならば嫌がる魔獣狩りに己から率先していったためである。ルアネが怒り狂うかと思ったが、『相性というものがありますし、うっかり旦那様が王太后に会って、イラッとして殺しかねませんからね。行ってらっしゃいませ』と見送った。
 そしてフローリアの婚約者なので、当たり前のようにシオンもいるが、シオンの目線はヴィルヘルミーナのつけている指輪にしか注がれていない。
 恐らくあの指輪が魔道具なのだろう。
 あのデザイン、先王が王太后に送った一番最初の贈り物がどうとか、と聞いたことがあるような……と、シオンは物思いにふける。

「聞いているのですか!」
「聞いておりますけれど、お呼び出しの意味が分かりかねます」
「手紙に書いたでしょう!」
「はぁ……」

 あの手紙かぁ……と全員の心の声は一致した。
『めんどくさいことこの上ない、このモンスターじみた権力者をどうにかしろよ』と思う一方、ジェラールが頼りになるなら最初から苦労なんかするわけもない、という結論に早々にメンバーは到達してしまった。
 それを読み取ったのか、ヴィルヘルミーナはバン!とテーブルを思いきり叩く。

「王太后たるわたくしに対して、先程からのお前たちの態度は何なのですか!!」
「何、って……」

 すい、と手を挙げたフローリアが困り顔で前に出て、さっくりと告げた。

「そも、最初にこちらを切り捨てたのはミハエル殿下。そのようなお人に手伝ってくれ、と言われたところで、どうして手伝えましょうか?」
「それが思いやりというものでしょう!?」
「でしたら、ミハエル殿下を思いやりになっていらっしゃる、王太后さまがもっともっと手伝って差し上げたらよろしいだけでは?」

 フローリアの言い分に、王太后宮の使用人達は顔面蒼白になる。
 彼女たちの視線からは『婚約破棄されたくせに何を言っている』という文句しか感じられないのだが、王太子妃教育にとどまらず、他の部分でもサポートをヴィルヘルミーナ自身がすれば解決することである。

「わたくしに、そのようなことをしろと?」
「まぁ、王太后さま自ら『そのようなこと』とご自覚していることを、無関係のわたくしがどうしてしなくてはならないのでしょうか?」
「フローリアは切り捨てられた側ですからね。王太后さま、あなたが大切にしている、王家から」

 一言ずつしっかり区切りながら告げてきたルアネを、忌々し気に睨んだところで、ルアネがそもそも物怖じするわけもない。
 あれだけミハエルを無責任に甘やかして可愛がってきたのだから、これからもそうすればいい、とフローリアからも、ルアネからも言外に言われ、ヴィルヘルミーナの顔色はどんどんと赤くなっていく。
 あらやだ茹でたら色変わる海産物みたーい、とシオンが内心思っていると、切り札!と言わんばかりにヴィルヘルミーナが指輪をかざした。
 きっと本人は切り札だと思っているのだろうが、ちらりとレイラを盗み見したら近眼の人がするかのように目を細め、指輪をガン見し、物凄く小さい声で『え……やっぱ単なる収納魔法の気配しかしないんだけど』と呟いていたのをフローリアもシオンも聞き逃さなかった。
 だから、あまりに自信満々なヴィルヘルミーナの様子を見て困惑することしかできないのだ。

「え?」
「あら」
「お前たちなんか、この指輪があればどうとでもできるんですからね!」

 ヴィルヘルミーナは、全員の困惑を『恐怖』だと勘違いしている。
 誇らしげに『ふふん』とどや顔まで披露してくれているのだが、真実を知ったときに果たしてどうなってしまうのか。いや、どうせすぐに現実を突きつけられてしまうんだろうけど。

「小憎らしいルイーズも、この中に閉じ込めてやったんですからね!」
「(姉上の気配、めっちゃするんだけど)」

 自信満々にヴィルヘルミーナが言うのだが、シオンとレイラは、収納魔法をぶち破ってルイーズが出てくるのではないか、という心配しかしてない。

「(シオン様、ルイーズ様は大丈夫そうですか?)」
「(何か……暴れてる気配するのよ)」
「(私も何か嫌な気配がしてて)」
「(……ルイーズ様、基本的に力技がお得意だから……)」

「だからさっきから何なのお前たちは!!」

 王太后が叫んでくるのも無理はない。

 こそこそと話しているかと思えば、顔を見合わせてみたりと忙しい面々。
 別に王太后を蔑ろにしているわけではないのだが、魔法に長けているシオンや専門分野として収納魔法などを研究しているレイラからすれば、どうやればその魔法が展開されるのかもわかるからこそ、王太后の自信満々な顔がちょっといたたまれない、というような雰囲気なのだ。

「別に……閉じ込めるとか、そういうのは構わないんですけど……」
「は?」

 うーん、と唸ってレイラが困りきった表情で続けた。

「王太后さまほどの方であれば、ご自身に負荷のかかる魔法をお使いになった後の反作用がどれほどなのかもご存知かと思いますが」
「……」

 知らない、なんて言えない雰囲気をさらりと作り上げたレイラは、さらに続ける。

「魔法には向き不向き、そして何よりも……適性が無いにも関わらずそれを無理やり使用した場合の反作用がございます。何がどのように現れるのかは不明ですが」
「し、知っているわよそれくらい!」
「だったら……」

 レイラはひと呼吸おいて、王太后の指輪を指さした。

「王太后さまの魔法が、その指輪の魔石に頼りっきり、というのも王太后さまはご存知の上で、さらに無茶なことをする、とそういう認識で仰せになった、ということですね?」
「そ、れは」

 レイラは、指輪についている魔石のキャパを先程からじっと観察していたのだ。
 小さく加工しているから、というのが最大の理由だが、あれのキャパシティはさほど大きくない。
 それどころか、恐らく人間一人丸っと収納している時点で相当無理をさせている。
 反作用はまぁ、ちょっと手が吹っ飛ぶくらいか。あるいは空間そのものが少しだけねじれてしまって、持ち主を吸い込んでどこかに放り出す代わりに、収納された人をぽーい、と吐き出すか、くらい。
 別に死ぬわけじゃないし、とレイラは大変冷静に、かつ、聞いている側からすれば残酷に、告げたのだ。

「どうぞ、やってください。わたくしたちは何も間違ったことはしておりません。我が姉フローリアも、婚約者でいらっしゃるシオン様も、ご縁を結んだのは王家。二人を切り捨てたのも王家。また、我らは王家に振り回されるということ、承知いたしましたので」

 さぁ、とまるで促すように言えば、あっという間にヴィルヘルミーナの怒りは頂点へと達し、ばっと指輪をこちら側に向けた。

「いい度胸ね!」

 だが、それが王太后ヴィルヘルミーナの敗北確定の合図であったのだ──。
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