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19,黒幕の1人
しおりを挟む王族になるということは、そういうことなのだろう。家族との触れ合いなど人一倍無く、生まれたばかりの息子と寝所を離されるなんて。
「王妃様」
「アルバートは?」
「中にいらっしゃいます」
「…そう」
アルバートの侍女であるマリッサは宰相の娘であり、信頼できる人物だ。というかあのお堅い宰相の娘というだけあって、貫禄があるというか、何というか。
「それから、陛下もいらっしゃいます」
「リ…陛下も?」
「はい」
何と無く気に入らない、なんて考えながら部屋に足を踏み入れる。
「レイ」
「…おはよーございます」
「あぁ。今から行こうと思ってたんだが」
「そうですか」
「言ってくれればアルバートを連れて行ったのに。その足で歩くことはしんどいだろう」
杖を上手く使えば何てことはない。ただ、最近無理をしすぎて、腕の関節が痛くなっている。
腕までダメになったら本当に歩けなくなってしまうので、気をつけないといけない。
「自分の目で顔を見たいので」
「だから…」
「心配なんですよ」
それだけで多分、リヴィウスは言いたいことが分かったのだろう。不気味なのだ。これだけレイの命が狙われていて、アルバートの元へは暗殺者など来ていない。
「…眠っているのか?」
「眠れるわけがないでしょう」
「本当は許せないが、ローレンをやっただろう。側にいることを許してやったのに、まだ不安か」
「不安、なんて。…付き物でしょう」
このくらいで音を上げる訳にはいかない。リヴィウスだって乗り越えたことだ。俺も耐え切ってみせる。
「…お前を殺そうとした罪人の身元だが」
「はい?」
「一人だけ、黒幕が分かった」
「え」
まさか本当に見つけられるとは思わなかった。この手の物は大抵が下町で雇われたものだろうと思っていたからだ。下町で雇われた者なら、その大半は依頼人が誰であるか分からない。知らされないのだ。
どれだけ調査すれば分かったのか。政務もあるのに、ちゃんと調べておいてくれたリヴィウスに感謝しかない。
「今日に処罰する予定だ」
「早いですね!?」
今日!?罪人の処罰にはまず、重臣との会議と、宰相、記録官への確認も必要なはずだ。因みにこれは、一昨日から始まった王妃教育で習ったこと。この確認には最低でも三日はかかる。のに。
「どうしてそこまで急ぐの?」
「アンジェリカだったからな。黒幕は。側室から格上げされたお前がよっぽど気に入らなかったと見える」
「……アンジェリカ」
誰だっけ。聞いたことある名前。……あ、思い出した。側妃様だ。陰湿な嫌がらせをしてきたのを今でも思い出す時がある。
「……って、あの!?あの人なの!?」
「静かに。アルバートが起きてしまうだろう」
「いや、だって…」
「大丈夫だ。レイを暗殺しようとした罪は決して許さない。安心していい、すぐに処罰してやるからな」
何やら物騒なことを言いながら抱き締めてきますけれど。本当、怖いんですよね、この人。俺の足の腱切った時みたいに、突然何しでかすか分からないから。
けれどそんなこの男を愛してしまった俺も、大概なのだろうけれど。
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