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42,投書と、隠し事
しおりを挟むそれは、一つの投書から始まった。
『ロイス・アグシェルトは王妃の愛人だ。第二王子のウィリスはロイスの息子である』
そう書かれた紙を目の前に置かれ、レイはこの上なく焦っていた。目の前にそれを置いたのは、他でもないリヴィウスだったからだ。
「…俺も、こんな文書を信じるつもりは到底なかった」
なかった、ということは今はあるということだろうか。
「……陛下」
「ウィリスは成長すればするほど、日々アグシェルトに似ているとーーこの俺でさえ、感じるのだ」
「陛下」
「説明出来るか?ローレンを追い出してまで、部屋で二人きりで、何を話していたのか」
ちらりとローレンを見るが、気まずげに顔を反らされる。まぁ、彼の仕事は自分を見張ることであり、上司はリヴィウスなのだから、自分の仕事をこなしただけだろう。
「レイ」
「ただの昔の話に花を咲かせていただけです」
「違うだろう。それだけのためにアグシェルトは視察の土産までお前に持ち帰ったというのか!」
「…それは、俺が甘いものが好きだから…」
「…俺も、お前を疑いたくはなかった。だから裏付けが欲しかった。お前の言う通りだと信じたかったから、だ」
まさか、と冷や汗が背中を伝う。いや、そこまで……自分に関することならば、この男ならするだろう。考えたら分かることだったはずなのに。
「ロイス・アグシェルトが公爵家から出資した慈善活動の寄付先を全て洗いざらい調べた。過去十数年に渡りーーな」
「っ………」
「…何一つ、出なかった。ロイス・アグシェルトが出資したのは慈善事業の一環のものであり、…孤児院に寄付されたものは、何一つなかった」
「こ、公爵家から…」
「そう言われることも想定して調べた。あれだけの家だからな、孤児院への寄付をしていたよ。その中からお前のいたあの孤児院の名前は出なかった」
こんな短時間で、そこまで調べたのか。本当にーー愛され過ぎて、苦しい。息が出来なくなるほど、囚われている。
「…もちろん、今も詳しく調べているがーー埃が出ることはないだろうな、そうだろう?」
「……アグシェルト様は」
「尋問を受けている」
「な、」
「なんで、そんなこと? …当たり前だろう?もしもウィリスが俺の子じゃなかったとき、お前もあの者も許されると思ったか?」
「ウィリスは陛下の、」
「お前の妊娠が分かる前、俺は忙しかったからな。お前のことだ、ローレンを欺く事など容易だろう」
「陛下!!」
「違うと言うなら二人で何を話していたのか言えばいいだけの話だ!!」
「ーー言えません」
嘘をついたところですぐにバレる。それならば、言わないでおくことが一番だ。
「…アグシェルトと同じことを。…まぁ、いい。尋問が拷問に代わるのも時間の問題だろう」
「陛下!」
「ローレン、しっかり見張っておけ」
「…承知しました」
どうしよう、どうすればいい?
言い訳を出来ないのは、レイ自身にもウィリスがロイスに似ていると自覚があったからだ。けれど正確にはロイスではない、父に似ているのだ。
それを説明するには自分の出生を明らかにしなければならない。だがそうしてしまうと、城に入るときに調べられた身分が偽造であったことが分かってしまう。それこそ一大事だ。
「……レイ様、」
「俺のことは信じなくてもいいけど、アグシェルト様の事だけは信じてあげて。…あの人がローレンのことを想っているのは、間違いないから」
「何故お話にならないのですか!陛下はただ、本当のことを…」
「ローレンには分からない!!」
自分の言動で、一体どれだけの人に迷惑をかけるか。
(ロイス兄様……!)
自分が悪かったのだろうか。自分がもう一度、会いたいと願ってしまったから。
昔から、自分のせいで大切な人を傷付けてしまう。母も、兄も、友人も、みんな。
どうして。自分がオメガだから。その偏見を無くすために俺は。じゃあ俺は、何をした?
まだ、何もしていないのだ。じゃあ何のためにここにいる?
(俺は、…俺は、何がしたかったんだっけ)
なにが、正解だったっけ。
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