旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

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失ったモノは

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ファーガスとサンドラは宿の案内係に今日泊まる部屋に案内された。
格式高いと名高いホテル・ヴェガ・クラウン。

綺麗に清掃された部屋。大きなキングサイズのベッドに、白を基調としたテーブルとソファー。
宿で一番安価の部屋ではあるが、一泊50.000Gの値段に似合う広い部屋に通された。

いつも利用していた最上級の部屋に比べれば物足らなく感じるがこの部屋もなかなかいい部屋だった。
案内係に荷物を運ばせ、チェックアウトの時間と食事の時間を手短に指定し、早々に退室させた。
部屋に残されたファーガスとサンドラの二人の空気は気不味かった。

「サ、サンドラ・・・・、あの」
「ごめんなさい、ファーガス様」

気不味い空気に耐えかね、声をかけようとしたファーガスの言葉をサンドラが遮った。

「私、ファーガス様と言う大切な人が居るのに、別の殿方に笑いかけてしまうなんて、私は・・・・ダメな女ですね」

顔を俯き、暗い顔をするサンドラ。

「サンドラ・・・・」
「でも、ファーガス様、これだけは信じて!私は身も心もファーガス様に捧げています。これから先、別の殿方に靡く事はありません」
「・・・・・・・・」

顔を上げ、涙で濡れる瞳で必死に訴えるサンドラの姿を見たファーガスは初めて自分を恥じた。
こんなに自分を想ってくれている女性を私は愚かにも疑ってしまった。

「いや、私も済まなかった。一瞬でも君の不貞を疑った自分が恥ずかしく思う。こんな私を許してくれるか?」

そう言いながら、目の前のサンドラを優しく抱きしめる。

「もちろんです。ファーガス様」

サンドラは嬉しそうにその身をファーガスに預ける。
甘い雰囲気に二人の距離が近くなり、互いに唇が触れ合おう。としたその時、

コンコンコンコン

「ッ!?」
「失礼します。ルームサービスをお持ちいたしました」

ドアの外からノックが聞こえ、ファーガスの動きが止まった。

「は?ルームサービス?」
「ああ、私が頼んでいた物ですわ」

折角の甘い雰囲気を突然の来室に邪魔され眉間に皺を寄せるファーガスだが、サンドラは小さく微笑みながらファーガスの腕から離れ、ドアを開けた。
宿の者と二、三言葉を交わした後、戻って来たサンドラの手には一本のワインのボトルと小振りなバスケットが持たれていた。

「帰ってきたファーガス様と一緒に飲もうと思って先にルームサービスを頼んでおきました」

ニッコリと微笑むサンドラに今日の疲れが一気に浄化された気持ちになる。

「ああ、ありがとう。サンドラ」
「ふふ、はい」

ファーガスはすぐに浴室で汚れた上着を脱ぎ、簡単に身を整える。
その間にサンドラが甲斐甲斐しくワインとツマミの準備をしている。

本当によく出来た女性だ。
いつもヘラヘラと笑っているだけの女とは大違いだ。

部屋のテーブルはあっという間にチーズやクラッカーなどのツマミ、そして、ワインのセッティングが出来ていく。

「ファーガス様」
「ああ」

手渡されたシンプルなワイングラスに注がれたワインは美しい深紅色をした赤ワインだった。

「サンドラ。これからの二人の未来に、乾杯」
「乾杯」

キン!

ワイングラス掲げ合いを軽く打ち合わせ、そして、ファーガスはワイングラスのワインを一気に飲み干した。
芳醇な香りが鼻腔を抜け、上質なワイン特有の渋みと苦味とそして豊かな味わいが口の中に広がった。
と、その時、

「ッ?、と?」

一瞬ファーガスの視界歪んだ。
何だ?と思っていたら、ファーガスはそのまま意識が薄れていった。

「おやすみなさい。・・・・・・・ファーガス様」

薄れ途切れていく意識の中、愛しのサンドラの優しい声が聞こえた気がした。




窓から差し込む朝日にファーガスは眩しそうに顔を歪める。

「ッ、ううう・・・・・」

そして、それと同時に頭に襲ってくる頭痛に夢現だった意識が現実に引き起こされる。

「ッッ、ううぅぅ・・・・ア“ア”ア“!!・・・・頭が・・・・」

頭が割れそうな頭痛がする頭を押さえ、目を開けるとそこは部屋のベッドの上だった。

いつのまにか寝てしまっていたのか?
昨日部屋に入って、サンドラとワインを飲んでからの記憶が無い。
酒には強いつもりだったが、まさか、ワイングラス一杯で酔い潰れてしまったのか?

「っ、サ、サンドラ、済まないが水を汲んで来てくれ」

そう言いながら、手探りでサンドラを探す。
だが、それらしい温もりにたどり着けない。

「??サンドラ?」

痛む頭を押さえながらベッドから起き上がると、ベッドの上にサンドラの姿が無かった。

「サンドラ?」

サンドラを呼ぶが返事が無い。

「サンドラ、サンドラ!!」

何度も呼んでも広い部屋の中でファーガスの声が不気味に響いただけだった。

まさか、彼女に何かあったのか?
その考えが頭の中に浮かんだ途端、頭痛を忘れ血の気が頭からサッと引いたの感じた。

「ッ、サンドラ!!どこだ!!」

サンドラを探す為、ベッドから飛び降りた。
と、その時、

ガッ、

軽く何かが、ファーガスの足に当たり、床を滑った。

「ッ!?な、何だ?」

いきなり足に何か当たった事に驚いて足元を見ると紙製の箱だった。
蓋は外れており、クシャクシャになっている緩和材の紙だけが入っていた。
箱の表に書かれているロゴに見覚えがあった。

「は?」

よく見ると床には空き箱がいくつも散乱していた。梱包されていた包み紙は雑に破かれ、緩和材も散らばっている。
どれも、今回の旅行先で買った土産物の箱だった。

港町のネルジェで買い込んだブランド品。ネルジェ以外の旅行先で特注で作らせた自分用の革製の鞄や靴。サンドラの気に入って買ったドレスに髪飾り、最高級の香水。母への土産物の工芸品のシルクの織り物と珍しい白狐の毛皮。
他にも金細工、銀細工の装飾品。最高品質茶葉と輸入品のティーセット一式。特産品である砂糖漬けをした果物の瓶詰め。
全て箱の中から消えていた。

「・・・は?なんだ、これは一体、」

足元に広がる光景に思わず理解できず唖然となる。
ふと、さっきまで寝ていたベッドを見ると、ベッドの端に見慣れた財布がシーツの上に乗っていた。

「ま、まさか!!」

ファーガスは飛びつく勢いで財布をとり、震える手で財布を開けた。

「・・・・・・・・そ、そんな!!」

財布の中身は入っていなかった。
昨日質屋で土産物と懐中時計を売って作った金が無くなっていた。
昨日手放した懐中時計の代わりと部屋の前金を払っても少なくとも230,000G近い現金がこの財布の中に入っていたのに、今は通貨一枚も財布の中から見つける事が出来なかった。

「ま、まさか、強盗か、!?サ、サンドラ!!どこだ!!」

荒らされた荷物。所持金が抜かれた財布。居なくなったサンドラ。
脳内で思い描く最悪の結末に、ファーガスの顔は青ざめ、鬼気迫る勢いでサンドラを探す。

「サンドラ!!、え?」

部屋の中にある浴室に飛び込むと目の前に身支度を整える為に使う大きな鏡台があり、鏡台の上に一枚の封筒が置いてあった。
白い封筒に真っ赤な唇のキスマーク。
数ヶ月前にサンドラに贈った赤いルージュだ。
ファーガスは急いでその封筒を開け、中身を見る。
中身は一枚の便箋。
少しでもサンドラの手掛かりになればと思いファーガスは迷う事なく、その便箋に綴られた内容に目を通した。
だが、

「は?」

そこに綴られていた内容は、ファーガスが思いもよらなかったものだった。

『親愛なるファーガス様へ

貴方の元を去る私をどうか許してください。
貴方の事は愛していました。
ですが、私は真実の愛を見つけてしまいました。
その人を想うと苦しくて仕方がないのです。
この想いを胸のうちに秘めて、貴方との時間を過ごしていく事は私には辛過ぎます。
私は真実の愛に生きる事を決めたした。
貴方の元を離れる事は苦しい決断でした。
ですが、私の事を愛してくれているのなら、どうか私を責めず、探さないで、私の幸せを願って下さい。

貴方から貰った思い出と共に私は貴方の元を離れます。

さようなら、愛していました。

サンドラ』

その手紙を読んだファーガスだったが、内容が理解できず固まってしまった。

サンドラが私を裏切った?
いつから?
真実の愛?私では無いのか?
まさか、土産物を漁ったのも財布から現金を取ったのもサンドラが?
相手はまさか、昨日の若い男か?

消えた恋人。荒らされた荷物。盗られた現金。恋人の相手。

朝一に色々ありすぎてファーガスの寝起きの頭の思考では追いつかず、処理しきれなかった。
ただ呆然とサンドラからの手紙を見続けていると、

コンコンコン

小さなノックの音が聞こえた。

「ッ!!まさか、サンドラ!帰ってきたのか!?」

微かな希望を見出し、入り口のドアへ走る。

「サンドラ!!」

勢いよくドアを開けると、そこにいたのは、

「失礼。ファーガス・デリー氏ですか?」

黒い服に身を包んだ2人の男だった。
2人共鍛えられた屈強な体が服の上からでも分かり、少なくとも一般の人間には見えなかった。
さながら、どこかの軍人だと思わせる風貌だった。

「は?何だ、貴様等は、ッ!?」

2人とも右胸に銀細工の鷹を象ったエンブレムが光っていた。

「お、お前らは・・・」
「我々はライド商会直属の調査員です」
「ッ、」
「ジャクソン・バウロ氏との関係についてお聞きしたい事があります」

2人の中でリーダー格の男のその言葉にファーガスの表情が固まった。

「貴方がジャクソン・バウロ氏と定期的に接触していたのは調べが付いています。デリー氏。いや、ファーガス・アークライド殿」

リーダー格の男の鋭い眼光に、

「な、なんのことだ!?変な言いがかりはやめろ!!」

ファーガスは明らかに動揺しながら、慌てて開けたドアを閉めようとする。
だが、

ガッ

「御同行を」

側に控えていたもう一人の男が、閉めようとしたドアを片手で押さえ、ドアが閉まるのを阻止する。

「な、何なんだ!?いきなり!!私は関係無い!!」

ドアノブを力一杯引いてドアを閉めようとするファーガス。その表情は明らかに動揺し、焦っている。
だが、ドアを押さえている男は、いとも簡単にドアをこじ開け、2人の男が部屋に入って来た。

「ッッ!!で、出ていけ!!ジャクソンと私は無関係だ!!」

部屋に散らばった空き箱を蹴飛ばし、威嚇をするファーガスに男達は構わず近づいてくる。

「や、やめろ!!近づくな!!」
「失礼」
「が!?」

近づいて来る男を振り払う様に振り回した腕があっという間に掴まれ、一瞬の内に後ろ手で拘束された。

「は、離せ!!こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?私はアークライド公爵家の、」
「失礼します」
「ムググ!?!?」

後ろ手で拘束され暴れなが怒鳴るファーガスにリーダー格の男がハンカチのような布を口と鼻に押し当てる。

「ッッ、ムグ!!!ムムンン!!」

押し当てられた布から逃げようともがくが、押さえられた布に何か染み込ませていたのか、甘い匂いを吸い込んでしまった。
ぐらりとファーガスの意識が揺らぐのを感じ、意識が保てなくなっていく。

「グ、ンンン・・・・・」

しばらくして逃げようともがいていたファーガスは大人しくなり、力が抜けた様に動かなくなった。

「よし、運ぶぞ」
「はい」

薄れていく意識の中でファーガスは男達のその言葉を最後に意識を手放した。



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