旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

文字の大きさ
10 / 26

皆様お揃いになったので

しおりを挟む
意識が曖昧に浮き沈みする。
そんな中、誰かの話し声が聞こえてきた。

「・・・・・・・わざわざ、届けて頂きありがとうございます」
「いいえ、勿体無いお言葉でございます。アークライド様」
「この人、決めた日にちに帰って来なくて、困っていたので本当に助かりました」
「お役に立てて光栄に御座います。では、私共はこれにて」
「はい。ご協力感謝します」

聞き覚えのある若い女の声と歳をとった男の声。
だが、男の方は何処かに行ってしまったようだった。
ふと、何故か息苦しさを感じる。体を動かそと身をよじろうとするが、何故か体が動かなかった。

「う・・・・んん、」

息苦しさと体を動すことが出来ないもどかしさに、夢現つだったファーガスは重い瞼を開けた。

「・・・んん?んぐ!?」

ぼんやりとした視界に入って来たのは自分の足だった。椅子に座っているのだろう、膝と足元が確認できた。
自分の足を寝ぼけた頭で認識すると、ハッと頭が冴えてくる。
自分の身の回りを見渡すと自分の口と体が縛られている事に気がつく。
車椅子に座らせれ、腰にはベルトで左右の肘掛けに両手を拘束され、猿轡、口には布みたい物が噛ませられている恐らく頭の後ろで縛られている様だった。

「ん!!んん!!」

ファーガスは拘束を解こうと体を捩るが、体の自由を奪う拘束は緩む気配も無い。

「あら?やっとお目覚めになりましたか。旦那様」
「ッ、!?」

聞き覚えのある若い女の声にハッと顔を上げる。
何処かの屋敷の一室であろう広い部屋の中。

「おはよう御座います。旦那様」

そこには、ファーガスが今最も顔を見たくなかった妻、ロザリアがニッコリと笑顔で笑っていた。

「フンンガ!!!」

ロザリアの顔を見た瞬間、ロザリアが無断で屋敷を取り壊した事を思い出し、怒り任せに怒鳴りつけようとしたファーガスだったが、

「むむ!!!んがが、むががんが!?」

口から出てくる言葉は猿轡のせいで意味の無い言葉になっていた。

「あらあら、随分と元気ですね旦那様」
「んんん!!!!」

くすくすと微笑ましそうに笑う妻と思うように動かない自分の体にファーガスは苛立ちを募らせる。

「ですが、もう少しだけお待ち頂けます?じきにご到着されるはずですから」
「っ、むがが??」

にこやかに笑う妻言葉に怪訝そうな顔をするファーガス。
と、その時。

コンコンコン

ファーガスは反射的にノック音がした後ろを振り向く。車椅子の背もたれに阻まれ中途半端に後ろを振り向くとファーガスの後にこの部屋の出入り口であろドアが視界の端に入った。

「はい。どうぞお入りください」

ロザリアが入室を許可する。

「失礼いたします」

部屋に入って来たのはロザリアが屋敷を出る際に連れて行った執事のヨハネスと使用人のルイスだった。

「お嬢様、例のモノが届きました」
「ありがとう、ヨハネス。お連れして頂戴」
「畏まりました」

軽く一礼するヨハネスとルイス。
ドアから一歩横に移動し、ドアを大きく開けた。

「どうぞ、お入りください」

ヨハネスのその言葉に数人の人物が部屋に入って来た。

「ッ!?!?」

部屋に入って来たの人物にファーガスは目を見開いた。
ファーガスの義家族でありロザリアの両親であるアークライド公爵卿と夫人。そしてロザリアの兄であるアレックス卿。
その後ろから、自分の父であるデリー伯爵が顔を青くし身を小さくして入って来た。
そして父の後ろから続けて、

「んん!!!んぐんん!!?」
「んん!?!?」

今の自分と同じように車椅子に座らせれ拘束された母の姿が。
猿轡を咬まされた母は何かを喚きながら大柄な男に車椅子を押されて入室して来た。
ファーガスの母親を乗せた車椅子が部屋に入ったのを見てルイスは部屋のドアを閉めた。
母はそのままファーガスの隣に連れて来られた。

「んん!!ふぐんん!?!」
「!?ッ、んーぐぐ!?んふぁが!?」

互いに猿轡で口を塞がれているのに何かを言い合う母と息子。

「あの状態でよく会話できるな」
「まぁ、言いたい事は大体見当が付きますわ。お兄様」

その光景に呆れたような顔をするアレックスと困ったように笑うロザリア。

「お疲れ様、テオ。お義母様を連れて来てくれてありがとう」
「はい」

ロザリアは義母の車椅子を押して来た大柄の男、テオに労いの言葉をかける。

「お義母様、雲隠れ寸前だったから探すのは大変だったでしょ?」
「いいえ、大丈夫です。大方の検討はついていたので見つけ出すのは、容易かったです」
「でも、随分と抵抗はされたみたいね」
「・・・・・・・はい」

ふと、ロザリアがテオの右腕に視線を落とす。がっしりと逞しいその右腕には包帯が巻かれていた。

「自分は、大した事はありません」
「でも、無茶はいけないわ。あなた達にはまだまだ私の元で頑張って欲しいんだから、下手に怪我をして私の元から離れるなんて許さないわよ?」

眉を顰め、ちょっと拗ねた顔をして、包帯が巻かれたテオの右腕をそっと撫でる。
大柄のテオを見上げるロザリアの眼には静かな威圧があった。

「・・・・・イエス、マイ・ロード」
「宜しい」

テオの返事に満足気に微笑むロザリア。

「ヨハネスもルイスも今回はご苦労様」
「うっす、お嬢」
「御心遣い感謝します、お嬢様」

ロザリアの労いの言葉にルイスは嬉しそうにはにかみ、ヨハネスは右手を左胸に当て恭しく頭を下げる。

「うふふ、さあ、皆様お揃いなったので」

ふわりと優しく笑うロザリア。

「私達夫婦の離縁についてお話し合いをいたしましょう」

ある者は微笑ましく、ある者は怯える様に震え、ある者は怒りに震え、ある者は今の現状に混乱した様子だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

白い結婚のはずでしたが、いつの間にか選ぶ側になっていました

ふわふわ
恋愛
王太子アレクシオンとの婚約を、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された 侯爵令嬢リオネッタ・ラーヴェンシュタイン。 涙を流しながらも、彼女の内心は静かだった。 ――これで、ようやく“選ばれる人生”から解放される。 新たに提示されたのは、冷徹無比と名高い公爵アレスト・グラーフとの 白い結婚という契約。 干渉せず、縛られず、期待もしない―― それは、リオネッタにとって理想的な条件だった。 しかし、穏やかな日々の中で、 彼女は少しずつ気づいていく。 誰かに価値を決められる人生ではなく、 自分で選び、立ち、並ぶという生き方に。 一方、彼女を切り捨てた王太子と王城は、 静かに、しかし確実に崩れていく。 これは、派手な復讐ではない。 何も奪わず、すべてを手に入れた令嬢の物語。

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。

藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。 5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。 アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。 だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。 ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。 精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ! と、アンソニーはジョアンナを捨てた。 その結果は、すぐに思い知る事になる。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 全10話で完結になります。 (番外編1話追加) 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

処理中です...