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改めて、名乗る

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「保護した子ドラゴンは間違いなく『エンシェント・ドラゴン』の種族でした」
「・・・・・・・・やっぱり。ロベルトさん、それって」
「ええ、少々問題が有ります」
「ああー、やっぱり・・・・」

あの時、目の当たりにした重症の大傷を負ったドラゴンを思い出し、思わずシェナは顔を顰め。

「・・・・・・正直、あの傷は動いていれたのが不思議なくらいで、少なくとも、私が如何にか出来るモノではありませんでした」
「そうですか。・・・・本来なら、出来るだけ保護をすべきだったのでしょうが、難しい状況だったのでしょうね」

ロベルトさんが難しい顔をするのを見て思わず、私も眉間にシワを寄せる。

「我が国の保護対象であるドラゴン。それもSSS級の『エンシェント・ドラゴン』が『ネルの森』にいた事だけでも大事ですが、発見時には既に瀕死、手の施しようが無かったと言う訳ですね」
「・・・・はい」
「そうですか」
「・・・・・・・、すみません」
「謝らないで下さい。シェナが悪い訳ではありません。むしろ、私達、ギルドが駆けつけて来られても、どちみち手遅れになっていたでしょうから」
「・・・・・・・」

シェナは目を伏せて、口を閉ざす。
あの時の自分の魔力の少なさにシェナは少なくとも後悔していた。
悔やんでも仕方ないと分かっているのに。

「・・・・・・シェナ」

ロベルトさんが優しく名前を呼ぶ。

「確かにドラゴンは救えませんでしたが、シェナが一つの命を助ける事が出来たのもまた事実です」
「ロベルトさん」

ロベルトさんにそう言われて、ほんの少しだけ気持ちが楽になる。

「では、ドラゴンについての詳しい事は彼から聞く事にしましょう」
「彼、って、」

コンコン

「ロベルトさん。宜しいでしょうか?」

シェナの言葉と重なるようにドアの向こうか、ノック、そして聴き慣れた声が聞こえて来た。

「はい。どうぞ」
「失礼します」

ロベルトの許可を得て、シェナの見知った女性、エマさんが部屋に入ってきた。

「エマさん、あ、」

そして、その後ろから、シェナが森で助けた男が杖をついて入ってきた。
発見時に着ていた甲冑ではなく、シンプルなシャツとズボンを着ている。
薄茶色のシャツの襟口から左肩に巻かれた包帯が目に入り、続いて灰白色の短い髪の頭に橙色のベルトの様なモノが巻いてあった。

アレって、確か、

見覚えのあるソレを見ていると男の濃いブラウン色の短い眼がシェナの視線と合い、男は少し複雑そうな顔をした。

「彼が、シェナが来ているなら是非会いたいと言われて、事情聴取も兼ねて連れてきました」
「ああ、丁度良かった。コチラも彼に幾つか尋ねたい事がありましたので。ありがとうございます」
「いいえ、ついでにこの子も連れてきました」
「へ?」

エマさんの言葉に小首を傾げていると、

「キュイーー!!!」
「うわッ!!!」

エマの腕の中から何が飛び出してシェナの顔に突撃して来た。

ドタ!!

突撃の衝撃で椅子からズレ落ちるシェナ。

「あらあら、大丈夫?シェナ?」
「イタタタ、はい、なんとか。元気だね・・・・チビちゃん」
「キュイ!キュイ!」

目の前にドアップの子ドラゴン、保護したエンシェントドラゴンが元気よく鳴いている。
指で小さな額を撫でて上げると気持ち良さそうに目を細める。

「良かった。その子、保護してからずっと元気がなくって、まるで迷子の子供みたいに誰かを探して鳴いてて」

優しい眼差しで、手を伸ばし、引っ張り起こしてくれるエマさん。

「ありがとうございます」
「いいえ。この子シェナが来たのを察したのか、朝からソワソワしてて、もしかしてと思って連れて来たの。やっぱりお目当てはシェナだったのね」
「キュー」

甘えるように首筋に擦り付く子ドラゴン。
可愛いけど、流石ドラゴン。

「・・・・チビちゃん、嬉しいのはわかったから、首に爪立てないで」

僅か数日で小さいながらも立派に伸びた爪が私の首筋に離さないとばかりに爪を立て、ちょっと痛い。
よしよしと頭を撫で続けるとやっと立てていた爪を緩めてくれた。

「あー、痛かった」
「大丈夫ですか、シェナ」
「はい、でもこの子ちょっと大きくなってます?」

つい3日前までは手のひらに収まるくらいの大きさだったのに今はその倍くらいに大きくなっている。
心なしか柔らかかった鱗も硬くなり艶やかになり、頭にも小さな角が顔を出している。口にも小さな牙を見せ、先程までシェナの首筋にしがみ付いていた手脚にも細い爪を持っている。

「ドラゴンは卵から孵ると数日である程度の成長をしますが、ある一定の成長をするとそこから数年から数十年かけて大きくなるモノです。まぁ、ドラゴンの種類、個体差で成長差はありますけど」
「へー」

肩に乗り甘えるように頬に擦り付く子ドラゴンの頭を撫でながら感心したような声を出すシェナ。

「お兄さんも怪我大丈夫そうだね」

シェナが男に声をかけてると、男は小さく笑う。

「・・・・お陰様で。改めて礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう。感謝する」
「うん。どういたしまして。・・・・・・・えっと、」
「ユージーン。・・・・ユージーン・ハンレスだ」
「私はシェナ・ミツキ。で、えーと・・・・ハンレスさん?」
「いや、ユージーンでいい。名前でよく呼ばれていたから」
「じゃあ、私もシェナでいい。この街では大抵の人は私の事、シェナって呼ぶから」
「そうか」
「え?貴方達今までお互いの名前知らなかったの?」

いきなりの互いの自己紹介にエマが首を傾げる。

「まぁ、聞かれませんでしたし、知らない人にやたら無闇に名前を教えるのも危ないですから」
「俺も名を聞く程余裕は無かったしな」

肩を小さくくすめるシェナとちょっと気恥ずかしそうに頬をかく男。

「まあ、シェナらしい、と言えばらしいですけど」
「そうですね」

可笑しそうに苦笑するロベルトとエマだった。
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