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第3章 英雄
皇太子ラーヒズヤ・クマール
しおりを挟む3日後 ―――
『赤い道』のパヴィトゥーレまでの中継地、そして、竜が住むドラフ山脈の麓の町、ここは竜討伐の拠点となる町、ドラフント。
ヒムニヤをクリントートに残してここまで進んで来た。暗黒大陸の旅ももう中盤戦だ。
そこかしこに鎧を着こんだ奴らがウロウロしている。竜討伐に応募しようといている流れの傭兵の奴らだろう。
ここなら酒場での効果もてきめんだろう、と夕方になるのを待って、酒場に出向く。
……が、今、俺達は酒場にはおらず、少し離れた、高級料亭で舌鼓を打っていた。
そして、目の前には待ち望んだ相手―――
ドラフジャクド皇国の皇族、皇太子ラーヒズヤ・クマールがいる。
酒場の手前で、さる高貴なお方の使いです、と数人の武人に連れられ、予定を変更してここまで来たのだ。
『高貴なお方』という言葉で、ついに皇族が来たのでは、とピーンときたものの、まさか皇太子がいるとは思わず、少し面食らってしまった。
「ガハハハッ! 愉快愉快。生きて、高名な剣聖に会うことが出来ようとは!」
噂には聞いていたが……デカい。
2メートル越えか。横幅もデカい。ついでに言うと声もデカい。
頭から左目の上にかけて、大きな傷があり、その為に左の眉が無く、凄みがハンパない。
ヴィハーンも相当デカいと聞くし、次男坊のドゥルーブに至っては、更にひと回りデカいとの事だから、巨人一族だな。
「私こそ、名高いドラフジャクドの皇族の方に会えるとは、身に余る光栄です」
「グワハハハ! 何を言う。追従なんぞ似合わぬぞ! 噂のマッツ・オーウェンはランディアやビルマークの王とでも友達付き合いだそうではないか」
誰だ、そんな事言った奴は。
んなわけあるか。
「これはまた……どこの噂やら」
「……でだ。ここにお前を呼んだのは他でも無い」
俺の言葉など聞こえないかのように自分の話を続ける。話が早くて助かるが。
「お前達が何を目的にこの国に来たのかは知らんが……そんな事はどうでもよい。我が黒竜戦団に入れ」
何と直球な誘いか。
思わず、はい、と言ってしまいそうだ。
「黒竜戦団というと、ラーヒズヤ殿下の直轄の軍隊でしたな」
「そうだ。この国、いや、世界最強の軍団だ。ガッハハハ」
まだドラフジャクドに入国する前にヒムニヤが言っていた。
『ヴォルドヴァルドが操っているヤツは、皇帝ヴィハーンと皇太子ラーヒズヤ。恐らく、この2人だけ』
と。
つまり、目の前のラーヒズヤは、洗脳されている可能性があるのだ。
この目で確かめる為、探りを入れてみる。
「殿下、そのような強力な軍隊を……なんでまた竜討伐などに遣るのです? 竜など、放っといても害はないでしょう」
刹那!
ラーヒズヤの瞳の色が微妙に変わる。
注意していなければわからないが、焦げ茶と黒の瞳に、薄くグレーの色が入る。
そして、半眼、とまではいかないが、心なしか瞼が少し落ちる。
「竜……あれは危険なのだ。無害などではない。あれがいる限り、ドラフジャクドに安泰は無い。あれは滅ぼさねばならぬ。追放しなければならぬ。棲みつかせてはならぬのだ」
会話に抑揚がぐっとなくなる。
ヴォルドヴァルドは不器用、と言っていたヒムニヤの言葉を思い出す。
いやーでもこれ、誰でも勘付くだろ……。
それとも、怪しい、と思って注視するからこそ、気付くのだろうか? そんな事は無いと思うが……。
「そうですか。わかりました。ですが、殿下もご存知の通り、我々はランディア王国の兵士でございます。他国の軍隊に入隊するのはさすがに」
すると、スススッと瞳の色や瞼などが元通りになる。ヒムニヤはこうも言っていた。
『ヴォルドヴァルドが操作しているのは竜の討伐に関してのみ。それ以外の政治、軍事に対しては一切の不介入を決め込んでいる』
と―――。
今の一連の現象で、ヒムニヤの言が正しかった事が証明された。
つまり、竜討伐に否定的な言葉や意見を言われるとスイッチが入り、人格が上書きされる。それ以外はそもそもの彼の人格のままなのだ。
これは救ってやらねばならない。
……と逸る気持ちを抑え、まずはひとつひとつ、と自分に言い聞かせる。
「何を細かい事を言っておるのだ。そんなもの言わなければわからんだろう」
うーむ。オリジナルの人格め……結構、無茶苦茶な事言うな……。
「ハハハハ……そういうわけには参りません。では、客将、という扱いにして頂けませんか?」
「む……客将か。それでも良いぞ。何でも良い。1週間後の討伐に加われ」
まさにこれこそ、俺達の描いていたストーリー!! 遂に1つ、ハードルを越えた。
「承知致しました。そこで1つ提案があります」
「提案?」
「殿下は竜討伐によって兵士が死傷するたび、国民に不満が溜まっているのをご存知でしょうか?」
すると、また、スッと瞳の色が変わろうとする。ここで別の人格と会話にならない話をしている場合では無い。
「お待ち下さい。私は竜討伐に反対している訳ではありません。ここらで1つ、皇族の皆様の株を上げる為、私が一肌脱ごう、というだけの話です」
慌てて取り繕うと、また元のラーヒズヤに戻る。
何か……面倒くさい。子供の御機嫌取りをしているようだ。
「我らの株を上げるとは?」
「1週間後の討伐ですが、戦うのは私だけとさせて下さい。お任せ頂ければ、兵士の1人も失う事なく、竜を追い払って見せましょう」
「何だとッ!! そのような事が……いや、お前はくだらん嘘やはったりを言うような奴には見えん。きっと……出来るのだな?」
おっと。オリジナルめ。なかなかいい目を持っているじゃないか。
「出来ますとも」
「わかった! 此度の討伐はお前に任せよう。但し、万が一に備え、黒竜戦団も出陣するし、お前が危ないと見たら遠慮なく突撃するからな」
「必ずや、ご期待に応えて見せましょう」
よしッ! 交渉成立。しかも100点の出来だ。
俺はやったよ、ヒムニヤ!
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