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第3章 英雄
マッツと仲間達(アデリナ・ズーハー)
しおりを挟む竜討伐まで1週間ある。
この間、どう過ごすかは実はもう決めていた。
「みんな聞いてくれ」
ここは、ドラフントに沢山ある宿の1つ『竜討亭』。
ドラフジャクドに入って色んな宿をみてきたが、ここは可もなく不可もなく、といった感じだ。俺達の目が肥えてしまっただけかも知れないが……。
竜討伐で有名な町であり、基本的には兵士や傭兵を泊める事が多いのだろう。
地下には、剣や矢じり、槍先等を自分で研げるよう、砥石と台座が用意されていたり、その他、武具の保管など、あまり他の宿で見ないサービスがある。
部屋で晩飯を食べ終わり、俺はこの1週間の過ごし方について、心に決めていた事をみんなに打ち明けた。
「明日から竜討伐まで1週間ある。もちろん自由に過ごしてもらっていいんだが……その内の1日を俺にくれないか? それぞれ1日ずつ、俺と一緒に過ごして欲しい」
一度、話を区切って、皆を見る。……反対、という顔はなさそうだが、意図を測りかねているようでもある。もう少し話を続ける。
「目的はこれまでの旅で思った事、これからの旅で思っている事、不満、希望、何でもいいんだが―――を話し合い、今後の旅をより良いものにする事、だ」
ふと、ヘンリックが口を挟む。
「話じゃなくてもいいのか?」
「話じゃない?」
「俺は特に不満は無いし、特に言う事もない。だが、お前が1日付き合ってくれるというなら、俺の練習に付き合ってくれよ。一度、お前とちゃんとやり合いたかった」
なるほど。それがヘンリックの希望という事か。
「オーケーオーケー、全然問題ないさ。そんなのでも構わない。他の皆はどうだ?」
「いいわね。1度、ちゃんと話してみても。別に何か不満がある訳じゃ無いけれど」
リタとは最も付き合いが長いが、2人きりで話した事は数えるほどしかない。
「賛成! 『1日』って、次の朝まで?」
アデリナが目を輝かせて、とんでもない事を言う。リディアが顔を赤くして、ちょっと何言ってんのよ、アデリナ!と怒っている。
「いや、基本はせめて夜位までを目処にして頂けると……勿論、話があるってんなら朝までだって良いけど、アデリナのはきっと……違うよね?」
「え~マッツのケチ」
「当たり前でしょ!」
「リディアも朝までいれば良いじゃん! 私、反対しないよ!?」
「…………!」
「いや、あのな……お前達……趣旨を理解してくれ。趣旨を」
「順番は決めているのですか?」
エルナも反対では無いようだ。よかった。エルナからしたら俺なんかガキもいい所だからな。親と子位、年の離れた奴が何言ってるんだ?と思われたら、と、不安だったんだ。
「いや、何も決めてないので、くじにする」
そして、紙で線を引いて番号を隠し、名前を書くタイプのくじ引きを即席で作り、思い思いの場所に名前を書いてもらう。
結果は次のようになった。
1日目、アデリナ
2日目、クラウス
3日目、リディア
4日目、エルナ
5日目、リタ
6日目、ヘンリック
「おお! 私からだね!」
「ああ。明日、朝飯を食い終わったら出掛けよう」
「わかった! マッツ……忘れられない1日にしようね!」
どこで覚えたんだ、その流し目と言葉は……。俺より田舎者のはずなのに……。
「あ、ああ……」
何やらリディアが頬を膨らまし、俺を睨んでいる気がするが、きっと気のせいだろう。視界には入れない。
「じゃあ、また明日な。勿論、他のみんなは自由行動だが、妙な奴らもいる。気をつけるように」
「わかりました」
「じゃあお休み!」
「お休みなさい」
「お休み!」
――― 1日目 ―――
アデリナ・ズーハー(18) 女性。
燕脂のベレー帽、深緑のミニワンピース、白の手袋、黒のストッキングに黒のローブーツ、という可愛らしい格好で宿から出てきたアデリナ。
町に行きたい、と言うので、ブラブラと町を散策に出る。俺達が泊まっている辺りが町の中心地であり、ここからざっと町を一周してみた。途中、衣服の店や喫茶店、弓を取り扱っている武具屋など、彼女が興味を示した店を見て回る。見て回りながら、道々、話をする感じだ。
「アデリナと出会ってもう5ヵ月位になるな。何か不満は無いか?」
「へ~~~もうそんなにたってるんだ! 何かあっという間だね!」
いつも元気なアデリナといると、俺も笑顔になる。
アデリナは、少し首を傾げ、
「う~ん、もう少し2人きりの時間を作ってくれてもいいのになぁ、というのが不満かな」
と言いながら、俺の目を上目で見つめながら腕組みをしてくる。
「ほれほれ、お前はすぐにそういう事を言う。俺は真剣に聞いてるんだぜ?」
「真剣なんだけどな。旅については、それ以外に今まで不満は無いよ!」
そういって機嫌良さそうにゴロゴロと小さな頭をくっつけてくる。
うーん……可愛い……。
いや、違う違う。
まあ、でも不満がないのか……。
上手くやれてるのかな、俺。
「じゃあさ、自分はこうなりたい、とか、こういう役目をしたい、とか、『タカ』に戻ったらこんな事したい、とかは有るかい?」
「あ! あるある! マッツのおよめ……」
「シャアラァァァッッップ」
うーん。予想はしていたが、なかなか聞き出すのが難しいぜ……。
それとも、ホントに何もないのか?
「んもう……。ハイハイ、マッツの聞きたい事は分かってるよ? でもさー。まだ分かんないよ。だって兵士になって初めての任務がこの旅なんだからさ。むしろ、マッツがもっと色々、教えてくれないと!」
成る程成る程。つまりはこれがアデリナの希望って事だな。確かに普通は入隊後の研修や、新人ならではの仕事などがあるんだが、アデリナの場合は全部すっ飛ばしているからな。
色々、分からない事も多いだろう。
「オーケーオーケー。ようやく、要望らしき内容を聞けたぞ。よしよし。旅の道すがら、新人の心得を教えてやろう」
そう言うと、顔を腕にくっつけてくる。何だか猫みたいだ。
「うんうん。もう1つの希望と一緒にね!」
「…………あ、ああ」
弓を取り扱っている武具屋では、こんな事を言っていた。
「どうでもいいんだけどさ」
そう言いながら、売っている弓を手に取って色々観察している。
「私の弓さ、ラシカ村で自分で作ったんだけど、威力を追求していくうちにあんな大きくなっちゃったんだ」
「そういや、アデリナの手の長さと合わないんじゃないかとずっと思ってたんだ」
「うん。実はそうなんだよねー」
色んなタイプの弓を見て、時折、へー、ほー、と呟きながら言う。
「手の長さと合ってないから弦を無茶苦茶硬く張ってるんだよね。そうすると力が必要でさー。もっと簡単にシュッシュッと射てる弓があったらな~と思ってるんだ」
ふんふん。これは聞き捨てならない話だ。
「いや、全然、どうでもいい話じゃないじゃないか。むしろ、切実な話だろ。武器が合ってないんだったら」
「う~~~ん。やっぱりそうだよねぇ。でも武器屋なんて、ここに来て初めてあった感じだからね」
弦をそれだけ強く張っているのに、あれだけ連続で射てると言う事は、アデリナの弓の才能は相当なものなんだろう。これは、これからの旅で是非、彼女に合った弓を見つけてやりたい。
「ま、今んとこ、変えてもいいと思えるのは見つからないな。これからも一緒に探してよ、マッツ」
「ああ! 勿論だ!」
結局その後は、アデリナの可愛い誘惑にひたすら耐え、夜、外で晩飯を食べて終了、初日が終わった。
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