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第3章 英雄
マッツと仲間達(ヘンリック・シュタール )
しおりを挟む――― 6日目 ―――
ヘンリック・シュタール(15) 男性。
焦げ茶の長袖シャツ、その上に肘当てと、昨日、リタが選んだ籠手を付け、革のチョッキ、燕脂の薄い生地のズボンの上に膝当て、革のブーツ。そして左手に赤い槍。
やる気満々、完全に戦闘スタイルで出てきた。
さて、6日間続いた二者面談も、今日で最後だ。
そして今日は気合を入れなければ……やられるのは俺だ。
万が一の時の為、クラウスに同行してもらう。
2日目にクラウスと戦った空き地に行く。行きながら、少し話をする。クラウスは今日は黙って俺達の後ろを歩く。
「お前は何も不満は無いって言ってたが、学校に行きたいとか、ないのか?」
「学校?」
「ああ。お前、ろくに行ってないだろう」
ちょっと考えるが、すぐに答えが返ってくる。
「今が、最高だ」
そうか。なら良かった。
そう言ってくれると少し気が軽くなる。
俺はハンスからヘンリックを預かっている身でもある。保護者代わりだからな。
だが、どこかで、敬語だけは教えておいてやらなければな!
「お。ちゃんと籠手、付けてるじゃないか」
「ああ」
「気に入ったか?」
「ああ」
ふ。俺にはわかるぞ。
お前、めっちゃ喜んでるな?
そして、目的地に到着。
人通りが少ないが、完全にいないわけでも無い。まあ、隅っこの方でやれば、迷惑にならんだろ。
「さて……行くぞ?」
ヘンリックが槍を下段に構える。
「おう。来いよ」
両手で魔剣シュタークスを持ち、オーソドックスな中段で構える。
シュッ
チッ
下段から跳ね上げられた槍先を、シュタークスの剣先で僅かに逸らせる。
耳の横、数センチの場所に、ブンッという風切り音と共に槍先が現れ、一瞬でヘンリックの手元に戻る。
やはり気が抜けない。集中だ。集中しろ。
妙なタイミングで剣技を出したら隙を突いて反撃を食らう。
2撃目!
俺は中段に構えつつ、若干の半身にしているが、正確に正中線を狙った突きが飛んでくる。早過ぎて避ける事は難しい。
キンッ!
シュタークスの刀身で受ける。刀身の中央に走る溝に槍先がハマり、ピタッと止まる。
そのまま、俺の右側に槍先を誘導、一気に踏み込み、槍のリーチを殺す!
が、一瞬で、同じ距離をバックステップしたヘンリック。そしてその足が地に着くか着かないかの速さでまた槍を伸ばしてくる。
ええい!
大きく左から右に剣で払い、文字通り返す刀で右から左に振り切る。
しかし、俺が払った勢いを利用して、グルンッと槍を半回転させ、末端部分、石突きの部分を前にし、剣を受け止める。
「クッ!」
ビュンッ!
間髪入れず、勢いをそのままに、縦に半回転、下から穂先が凄まじいスピードで襲ってくる。
ガキッ!
シュタークスを横にし、受け止め、反撃に、と思うが、そこからヘンリックの自在な突きの嵐を食らう。
ピュンッ!
ピュンピュンッ!!
ピュンピュンピュンピュンッッッ!!!
受け、払い、躱し、髪の毛が何十本か刈り取られる。
更に、連撃!
俺の頰に二箇所、痛みが走る。
ググ……わかってはいたが、強くなっている!
どうする?
距離を取るか? いや、取れるのか?
ダッシュ力には自信があるが、槍使いにとっても足捌きは大切。こいつの間合いの詰め方も半端ではない。
バックステップで距離を取る自信が……無い。
斬り払いと突きを織り交ぜ、以前より遥かに多彩な攻撃を見せるヘンリック。
くそ!
勝負だ! ヘンリック!!!
バック……ステップッ!!
待ってました、と距離を詰めてくるヘンリック。
ダダダッ!!
足の動きと上半身の反りで大きくバックステップする……と見せかけ、しかし俺は10センチも下がらなかった。
「!!!」
逆に一気に踏み込み、刃を胴にコツン!と合わせる。
……
「一本だ」
槍を構えたまま、立ち尽くすヘンリック。
今回は多少、自信があったのかもしれない。
「…………さすがだな……ハァハァ」
ほぼ、無表情だが、口元を悔しそうに歪めて吐き捨てる。
いや、こっちこそだぜ……。
「お前もだ。参ったわ……ハァハァ……クッソ強くなってるな。ヤバいなんてもんじゃねぇよ……ハァハァ」
側にいたクラウスは、呆然としたままだ、
「凄い……凄すぎる……」
時間にして20秒も経っていないとは思うが、集中し過ぎて疲れる事、甚だしい。
俺とヘンリックは一旦、地面に座り、呼吸を整える。この辺は、昔、『タカ』の時に手合わせした頃と変わらない。
「うお―――!! 何かスゲェ奴らがいるぞ!!」
「見たか! 今の!!」
「おい、みんな、こっちだ、来てみろ!!」
「あれ! 剣聖じゃねーか!?」
何だと……。
ったく、野次馬め……。
見るとヘンリックが、チッ、と舌打ちしている。
「おい、ヘンリック!」
「ん?」
「野次馬は気にするな。むしろ、戦いなんて、色んなシチュエーションがあるんだ。あらゆる事を想定しろ」
「……成る程……そういう考え方もあるな」
そして、俺達は同時に立ち上がる。
「第2ラウンド、行くぜ?」
「おう!」
「オゥラァァァァァ! 青竜剣技!『突』!!」
突きには突きを!
修羅剣技の先制攻撃!!
超高速でスクリュー状にうねる突きは、魔力によって、水属性の突きとなり、ヘンリックを襲う!
が! 何と!!
ヘンリックは、槍先に『突』を巻き付かせ、野次馬の方に放り投げた!
シュバババババ!!
ド――――――ン!!!
ウワァァァァァァ……
これは……覚えているぞ!
以前、ビルマークのバルバラ王女を護衛していた時に遭遇した魔戦士ルーペルトが俺に見せた技!
そして呆気に取られている俺の目前、1、2センチの位置に……ヘンリックの槍先。
「一本だ」
「ぐは……」
さすがだ。ヘンリック。
まさか、ルーペルトの技を自分のものにしていたとは。
「ひょっとすると、ケネトや他の修羅剣技使い、魔術師とやる事もあるかもしれんと思って、イメージしながら練習をしていた」
「はぁ……成る程ね。あ―――クッソ!!」
またまた、呆然とするクラウス。
「凄い……凄すぎる……」
さっきと全く同じ事を繰り返す。
そうして、俺達はクラウスの時と同じく、何十ラウンドと闘いを繰り返した。
あの時と違うのは、観客がいつの間にやら、黒山の人だかりとなっていたことだ。
あちらこちらで賭けまでやっていやがった。
そして ―――
その人だかりにうまく紛れ、表向きは他の野次馬同様に騒ぎながらも、俺達を監視している奴が、いた。
どいつかはわからない。
一体、誰が? とは思うものの、現状ではどうしようもなく、取り敢えずは気付かないフリをしておく。
この日の戦いは、黒竜戦団の兵士や屈強な傭兵どもが集うこの町で、しばらく噂となったのだった。
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