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第3章 英雄
竜討伐(1)
しおりを挟む少し時は戻り、マッツがドラフントでリディアを連れ出していた頃―――
ここは、クリントートにあるドラフキープヴィ旧王城の4階。この階は他国からの使節や要人などを泊める為の客室フロアとなっていた。
このフロアの一室がマリに与えられている。
なるべく質素で簡素な部屋を希望したのだが、そもそもが高貴な地位にある者を泊める対象としている為、どの部屋も華美な装飾が施されていた。
マリにとっては落ち着かないその部屋の中で、今、彼女は古い友人にメッセージを送ろうとしていた。
伝書鳩を召喚して、行き先を告げる。
(頼むぞ。人間の配達員では、行き着けぬ場所、話が通じぬ相手だ)
そして伝言を頼む。相手は手紙などは読めないからだ。
鳩は了承し、みるみる高度を上げ、飛び去っていく。それを目で追いながら、彼女はじっと何かを待つ。
(さて、そろそろ来る頃か)
カンカン!
ドアのノッカー(呼び出しの器具)が鳴る。
レイティスだ。
マリはレイティスに頼み、毎日、アクシェイと話をする時間を、少しだが取ってもらっていた。
アクシェイに漂う微かな違和感の謎を解くためだ。
ドアを開け、部屋を出るとグレーの長袖にズボンという、いつもの軽装でレイティスが待っていた。
「お待たせ致しました。マリさん」
腕を曲げ、胸に手をやり少し頭を下げる。昔の王家の挨拶だろうか。
「いつもありがとう」
マリもワイシャツにロングスカート、という、高貴な身分の人間に会いに行くには、おおよそ軽装過ぎる格好をしている。
「では、参りましょうか。アクシェイ様はマリ様の話が大層、気に入ったご様子。そうでなければあの多忙な方がマッツのお連れ様とはいえ、こうも毎日時間は取れません」
2人並んで歩きながら、他愛も無い会話をする。マリにとってはかなり長い年月、大森林にいた為、これもまた新鮮な体験であった。
無論、ずっと引きこもっていた訳ではなく、稀に研究材料を求めたり、気晴らしに世界の絶景スポットを回ったりはしていたのだが。
ヒムニヤは三千歳を超える長寿である為、それらの行為が百年のスパンで行われる。そもそもこの旅自体、彼女にとって、実に二百年振りの外出だったのだ。
アクシェイには、自分がヒムニヤである、という部分のみを隠し、世界の色々な話をしてやると殊更に喜んだ。
ここを離れることのできない領主からすると、どの話も魅惑に満ちた、興味深い話なのだろう。
―
アクシェイとの会話の時間が終わり、レイティスとも別れ、部屋に戻っている。
(なかなか、尻尾を出さんな……)
今日も特に収穫はなかった。
彼女は、時間の流れが人間よりも遥かに遅い高位森妖精だ。
その為、焦れることはなかったが、久しぶりの仲間と別行動をしていて、そちらの首尾も気にかかる。
マッツはうまく皇族に取り入っただろうか?
クラウスは元気にしているだろうか。
(ふ……私がこんな心配をする時が来ようとはな……)
遠視で様子を見てみようか、とも思ったが、少し考えてやめる事にした。
(大丈夫だ。奴らなら、うまくやり遂げるだろう)
この時、超人から信頼の置かれた当のマッツはと言うと……。
ちょうど、リディアにセクハラだ、公私混同だ、と脅されていた時だった。
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