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第3章 英雄
ヒムニヤ救出(4)
しおりを挟むガバッ!!
「ブハッッッッ!! ハァハァ……ハァハァ……」
水中からようやく水面へと抜け出せたかのように息を吐き、そして呼吸が荒ぶる。
「マッツ!」
側にエルナとリディアの顔。その後ろにヘンリック、アデリナ。そして……リタとクラウス!
飛び起きてしまった為、跳ね除けてしまったが、エルナの優しく暖かな掌が俺の胸に乗せられていたようだ。温もりを感じる。
そして俺の左手はリディアが両手で包んでくれていた。暗闇の中の癒しはリディアだったか。
「よかった……気分はどうですか? マッツ」
エルナが額に汗を浮かべながら、しかし微笑んで俺の様子を気にかけてくれる。
「ありがとう、本当に助かった。エルナ、リディア。もう少しで完全にあいつに取り込まれる所だった……」
「こんな事もあろうかと、私とリディアで事前にヒムニヤ様にやり方を聞いてはいたものの、全く自信はありませんでした。よかった……上手くいって……」
そして、今度はエルナがふらつき、へたり込もうとする。慌てて手を伸ばし、倒れる前に抱き止めた。
どうやらここは部屋の中、俺はベッドの上のようだった。
「みんな、俺はもう大丈夫だ。エルナを代わりにここに寝かせよう」
皆に手伝ってもらい、エルナを横にする。
みんな不眠不休だったんだ。その上、俺を助け出す為に、きっと膨大な魔力を使ったに違いない。
「ありがとう、エルナ……」
しかし、あの闇の世界から俺を救ってくれるとは……エルナも普通じゃないな。本当に助かった。彼女にはこの旅で一体、どれだけ助けられているんだ……いくら感謝しても、し足りない。
エルナから目を離し、振り向くとみんなが勢揃いしているのが、何とも頼もしく感じる。
「リタ、クラウス、お疲れだった。イシャンは?」
苦笑しながら首を振り、目を瞑って道中の苦労を教えてくれるリタ。
「大変だったわ……あのお坊っちゃんがね……お陰でかなり遅れたわ。ごめんなさいね。クラウスも一緒でホントによかった。今は上でラーヒズヤ殿下達と一緒にいるわ」
「上?」
そういえば、ここはどこだ?
「リディア、ラーヒズヤ達は?」
「上の階の会議室にいるわ」
「会議室……ごめん。そもそもここはどこだ?」
「ここはパヴィトゥーレ領の旧国境付近にある、昔に建てられた砦よ。来る時に見たの、覚えてる?」
…………! あれか。確かに見た。
待てよ。てことは……。
「私達で殿下を説得して、一旦、ここまで引き揚げてもらったの」
「何だって!? ……そうか……そうか!ありがとう! リディア!!」
やった。ここまで引き揚げさせたのは大きい。思わず、抱き着いてしまう。
「ひゃっ……ちょ……マ、マッツ……!」
「あ……ごめん。でも……ふふ。やったな。ここまで戻ってくれたんだ!」
「ん……でもね。マッツは多分わからないだろうけど、あんたが意識を失ってから……2日、たってるわ。さっき、この砦に着いたところで、これからどうするかを上で話してると思うわ」
「2日……」
そうか。あいつの世界に行くと、いつも時間が飛ぶ。あの中の数分が、現実世界の数日になる感じだ。
「急がないと!」
だが2日たったとしても、さっき着いたばかりだというのであれば、ゴビン達との相対的な距離が、そう縮まった訳ではない。
まだ、大丈夫だ。
「みんな、エルナを見ていてくれ。俺はラーヒズヤの所に行ってくる」
「わかった」
復活した俺は早足で階上に上がり、それっぽい部屋をノックして中に入る。
「おお。剣聖! 目覚めたか。よかった」
リディアの言う通り、打ち合わせ中だったのだろう。ドゥルーブ、イシャンを含めて計6人で話し合っていたようだ。その中には竜討伐時に見た顔もいる。
立ち上がって、喜色を示してくれるラーヒズヤ。
「殿下……」
ラーヒズヤの優しさに、思わずハグをしたのだが、まるで熊にでも抱きつかれたようだった。
「イシャンもお疲れ様。股は大丈夫か?」
「ひっ……やめてくれよ……」
きっと連日の遠乗りで股ずれを起こしたんだろう、とリタの話から推測した。
既にクラウスに治してもらっているだろうが。
「殿下、私の仲間から、どこまで聞かれましたか? 目覚めてすぐにこちらに来たもので、そこを確認するのを忘れておりました」
「うむ ―――」
そして、リディア達から聞かされた内容をそのまま説明してくれるラーヒズヤ。
聞く所では、どうやらリディア達は、俺がヴィハーンに言った事をそのまま伝えてくれたらしかった。
俺が倒れてはいたものの、リディア達、俺の仲間を信用してくれたラーヒズヤが、一旦、この砦まで軍を返そう、と決めてくれたらしい。そして砦に着く直前にイシャン達と合流し、ヴィハーンの手紙を見た、という訳だ。
俺の聞き忘れの為、思いがけずラーヒズヤの口から直接聞けた事で、認識の齟齬も無い事がわかった。
これは話が早い。
「ラーヒズヤ殿下、その『得体の知れない者』についてですが、この2日間でその正体の目星がつきました」
「何? それは誰だ!?」
間違いないだろう。ヒムニヤを襲ったのが単なる偶然、などという事はあり得ない。
「5超人の1人、《滅導師》ヘルドゥーソです」
ガタガタガタッッッ!!
全員、その名を知っているようだ。みな、腰を浮かして驚愕の表情を浮かべる。
ここはヴォルドヴァルドがいる為に、ランディアよりも『超人』の存在が身近なのかも知れない。
「奴は気絶した私を取り込もうと私の意識に干渉してきました。非常に危なかったのですが、仲間が助けてくれました」
「ヘルドゥーソだと……何故、ゴビンとアクシェイを……」
「それはわかりません。が、このタイミングで私と仲間のマリ、2人に干渉して来たという事と、今、この国で起きている事が無関係とは思えません。私が邪魔だった、という事は恐らく、奴の狙いは……」
ドゥルーブがラーヒズヤの横に並ぶように走ってくる。
「まさか、ヴォルドヴァルドか!!」
おっと、なかなか勘がいい。ただのマッチョマンだと思っていたが。
「……恐らくは」
一旦、話がややこしくなる為、神の種については伏せておく。
ヘルドゥーソの真の狙いが神の種とは限らないしな。
「いや、しかしヴォルドヴァルドは、全く次元の異なる強さだ。あいつに勝てる奴など想像もつかん」
うっ……。
やはりそうなのか……。
あんなにバカっぽいのに……。
この言い方だと、ドゥルーブは一度、戦っているな。
「強さと言っても色々ありますからね。ヘルドゥーソは実体を現さず、直接、精神に干渉してきます。マリがやられたという事はヴォルドヴァルドも危ないでしょう」
「むぅ。しかし、そのマリとやらは、ヴォルドヴァルドに匹敵する強さ、というのか」
黙っていたラーヒズヤがやはり、そこを突いてくる。
「はい。私などは足元にも及びません。何故なら、マリこそは《神妖精》超人ヒムニヤ、その人ですから」
「なんだとッッ!!」
「何だって!!」
「えぇぇ!?」
もうここまで来たら隠す事もない。
全員、信じられないといった顔で、言葉も出ない。それぞれの顔を見合っている。
「私達は今から、急ぎゴビンとアクシェイのクーデターを止めに行ってきます。が、その為には、ひょっとするとマリ……ヒムニヤの力がいるかも知れず、そう判断した場合は先にクリントートに向かいます。従って、殿下達がここにいると、彼らの洗脳を解くより先に軍事衝突してしまうかも知れません」
「成る程、ようやくお前の言いたい事とやりたい事が分かった」
ラーヒズヤがウンウンと頷く。ドゥルーブも、理解したようだ。
「皆の者、我々は撤収すべきのようだ。イシャンが持参したこの手紙で、父上もそうご判断なされた事がわかっている。そうと決まれば急ぎ、ここを引き払うぞ!」
理解のある指導者達で助かった。
彼らがヴォルドヴァルドの干渉なく、この国を治めていれば安泰だろう。
「新しい馬がいるだろう、剣聖。持っていけ」
「ありがとうございます。殿下」
そうは言ったものの、最悪のケース、ゴビンとアクシェイを説得出来ず、クーデター軍を放置せざるを得なかった場合、俺達は軍を放置してクリントートに行き、ヒムニヤを救った後、すぐにまた首都ペザまでクーデター軍が到着するよりも早く戻らねばならない。
そう考えた時、並みの馬、いやどんなに速い馬でも追いつかない事は明白だ。
どうしたものか……と思案していた時、不意に部屋が暗くなった。
ヘルドゥーソではない。
まるで嵐の日のように、窓の外が異様に暗くなったのだ。
みなで窓に向かい、空を見上げる。
思わず、息を飲む。
こんな……こんな事があっていいのか……
お前……
そうだ。お前だ……
今、まさにお前が必要だったんだよ……。
(そうだろうとも。だが、お互い様だ。気にするな)
そこには、翼を広げ、真っ直ぐにこの砦を見下ろす史上最強の生物。
竜がいた ―――
「アルトゥール……アルトゥール!!!」
お前……自分の出番、わかってんじゃねぇか!!
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