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第3章 英雄
ヒムニヤ救出(5)
しおりを挟む「アルトゥール!!」
「剣聖? あの竜と知り合いか!?」
む?
ラーヒズヤがまずい事を聞いてきた。
そうか……しまったぞ。
彼らはまだヴォルドヴァルドの洗脳がかかったままだ。
グゥルルルル……
(勝負で負けてお前の手下になったとでも言っておけ)
いや、それはちょっと……
そもそも人間の手下なんてプライドの高い竜なら、我慢ならんだろう。
(私は早くヒムニヤを助けてやりたい。その為にはお前の力が必要だ。そのような小さき事はどうでも良い)
う~~~ん。
できたヤツだ。わかった。
すまんが、そんな感じで言っておく。
今、ラーヒズヤにあの瞳の色をさせるとややこしい。
「殿下、実はあの火竜、古竜の大森林と先日の竜討伐の戦いにおいて私に破れた為、私の軍門に降りましてございます」
「なぁんだってぇぇぇぇ!!!」
「なんとぉぉぉぉ!!」
まあ、驚くよね。
人間が竜を従えるなんざ、聞いたことがない。
ビックリしてまん丸なお目々をしているラーヒズヤがフリーズ中に、言うべき事を言っておく。
「どうやら、あの火竜が我らを乗せてくれる模様。一刻を争う為、エルナが回復し次第、我らは出発致します。必ずペザに戻ります。その時はちゃんと御礼を言わせて下さい」
「わ……わかった。吉報を待っておる。お前なら出来るだろう。剣聖であり、竜殺しであり、そして、竜騎手か……。凄いな、お前は……」
おお! なんか、またカッコいい称号が増えたぞ。
竜騎手か。
ヌフフ……。カッコ……イイ!!
(フン。いくら強くとも、やはり人間は人間だの)
うるさいうるさい。
俺はこういうカッコいい称号が好きなんだ。
―
程なくエルナは回復し、ラーヒズヤ達に別れを告げ、俺達はアルトゥールの背中に乗る。
「これ、大丈夫ですか? 振り落とされませんかね……?」
クラウスがとても心配そうだ。
「いや、振り落とされるぞ。死ぬ気で鱗をしっかり掴んでおけ」
ちょっとビビらせる。
「あ……そうだ、あまり下の方に乗るなよ。俺の空けた穴がそのままだからな」
その時、アルトゥールからの会話が頭に入ってくる。確認した所、どうやら全員聞こえるようだ。そのようにアルトゥールがしてくれているらしい。
(マッツ、行くぞ。あまり時間もない)
「ああ。頼む!」
バッッサァァァァァァァッッッ!!!
「ヒャア~~~!!!」
「うわ~~~すご~~~いッ!!」
これは……ホントに凄え!
アルトゥールはみるみる高度を上げ、あっという間に大空だ。
吹きさらしの中、風切り音が凄まじい。
鱗を掴め、と言った筈だが、何故かリディアは俺に抱きついている。持ち易いからか?
……当然、咎めるような事はしないが。
不意にリディアが顔を近づけ、耳元で大声を出す。
「全く……アンタといると退屈しないわね!」
―
そのまま、数十分ほど飛行しただろうか。
「マッツ! 兵士!」
リタが叫ぶ。
鱗を握りしめ、恐々、下を覗く。
いるいる。
万を超える軍勢。
もうこんな所まで来ている。
「アルトゥール! 俺達はゴビン、アクシェイの洗脳を解きたい。あの軍の前に下ろしてくれ!」
(ムダだ。やめておけ)
「ムダ?? 何故だ?」
(《滅導師》の『波動』は危険だ。人間が生半可な術で干渉すると逆に取り込まれる)
「わかるのか!? さすが神聖な生物だな……。さっき、エルナとリディアが俺を助けてくれたが……それでも無理そうか?」
(やめておいた方が良い。むしろ、取り込まれずに済んで幸運だったと思っておけ)
それを聞いて、俺をつかんでいるリディアが小さく震えだす。
(恐らくヒムニヤは今、下にいる奴らをキッカケに、ヘルドゥーソとやらの『闇の波動』に取り込まれているのだ。奴らに触れるのはヒムニヤを救い出すより危険、お前達では無理だ。早くヒムニヤを助け、彼女に協力しろ。彼女なら次は上手くやるだろう)
ふと、後ろを振り向き、エルナを見る。フルフルと首を振るエルナ。彼女も自信がないのだろう。
なら……。
「わかった、アルトゥール! お前の言う通りにする。ヒムニヤの下に連れて行ってくれ!」
(それが良い。急ぐぞ)
ヒュゥオオオオォォォォォ!!!
更に速度を増し、飛ぶ火竜。
「うお~~~~~。ムリムリムリムリッッ!!」
「マッツ! 冗談じゃなく…落ちます!!」
アデリナとクラウスの悲鳴。エルナやリディアは下を向いて、ただただ、必死でしがみついている。
「アルトゥール! ちょ……ちょっと、一旦、止まってくれ!!」
最早、鱗に捕まるなどでは支えきれず、少しずつ速度を落としてもらい、一旦、ホバリングしてもらう。その間にアデリナのリュックからロープを取り出し、アルトゥールの首に巻きつけ、全員でそれを掴む形になった。
竜騎手マッツ、としては些か情けないが、命には変えられない。それほど、真正面から風を受けて吹きさらしの中、上空を飛行するというのは人間には難しい。
(もういいか? 行くぞ? 人間達よ)
「いや~すまんね。行ってくれ」
(やれやれ……)
しかし今度は、すぐに寒さが洒落にならないことに気付き、物は試し、と、エルナが全員に物理耐性強化をかけた所、ほとんど寒さを感じなくなった。
そうか。自然の風ってのは、物理攻撃みたいなもんなんだな……。
そうして更に3時間ほど竜の背で優雅な、ではなく、過酷な空の旅を続ける。とは言え、徒歩や馬など、陸上の移動手段でこんなスピードで移動できるものはない。
ドラフ山脈が遠く右側に見え、ドラフントの町を越え……知っている場所らしきものが見える度に、空からあそこはどこどこだ、あれはどこどこじゃないの? など、みな、人生で初めての空の旅を満喫していたようだ。
そうこうしていると、ようやくクリントートの城が見えてきた。
「あそこか?」
(ヒムニヤはまだあの城にいる。それは間違いない。だが、正確な場所はわからない。中の人間に助けてもらえ)
「そうだな。後は俺達がこの目で見て探す。本当に助かった。ありがとう、アルトゥール!」
―
アルトゥールから降り、一旦、彼は俺が呼ぶまでは上空に退避する事となった。目立ち過ぎるしな。討伐とかされたら敵わん。まあ、アルトゥールに勝てる奴などいないだろうが。
「人気が少ないな……そして……」
ヘンリックが槍を構え出す。
俺も嫌な気配を感じる。これは確実に人を殺した事のある、暗殺者特有の薄く、刺すような気配だ。
が、まずはヒムニヤだ。
どこにいるだろうか。
「マッツ、どうする?」
「うーん……二手に分かれて捜索したい所だが……お前も感じているだろう。この気配」
「ああ。いるな」
「いるねぇ……ヒムニヤを奪い返されない為か……?」
といって、こいつらがいる所にヒムニヤが居るとは限らない。
……と思案していると、不意に名前を呼ばれる。
「マッツ!!」
おお!!
「レイティス!!」
これはいい奴に出会った!
彼は敵ではない。俺の直感と敵意センサーがそう、教えてくれる。
昔からの友人に再会したかのように抱き合う。
「マッツ、いい所に来てくれた。どうしたものか途方に暮れていたんだ。正直、クーデターが起きて混乱状態だ。もうお前にも会えないと思っていた」
「こっちもだ。いい所で出会えた。困っていたんだ」
「マリを……探しに来たのだな?」
ニヤリともせず、だが、俺の意を察してくれるレイティス。
「ああ、そうだ。知ってるか?」
うむ……と頷き、だが、首を振る。
「場所はわかる。恐らくはあれがマリ、で間違いないとは思うのだ。取り敢えず、歩きながら話そう」
ん? 何か気になる言い方をするな……。
そして俺達はレイティスに連れられ、城内を進む。
「マッツ、マリは急に居なくなったんだ。クーデターの前日からだ。彼女を最後に見かけたのはメイドのサンジャナに連れられ、執務室に向かっている所だった」
時期的には俺がパヴィトゥーレへの旅の終盤、胸騒ぎを感じた頃と符合する。
「メイド達からは、マリの部屋には彼女の荷物がそのまま残っていたと報告を受けているし、そもそも彼女が私に何も言わずに立ち去るとは考えにくい。そこでくまなく城を探した所、思いもかけない所で発見された」
そう言いながらレイティスに続き、大広間へと続く廊下を進む。数分歩いた所で、大広間が見えてくる。扉は開け放しだ。
「思いもかけない所って……?」
レイティスは大広間の奥の扉を指差し、1つ溜息をついた。
「聖堂だ」
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