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第3章 英雄
ヒムニヤ救出(6)
しおりを挟む「聖堂?」
俺達にはあまり馴染みの無い単語だ。
「そうか、お前達にはあまりそういった文化がないのかもしれないな。千五百年程前のノーズ大陸では、不死の王『リッチ』と『死古竜』が暴れまわった時期があり、実はその時もここは暗黒大陸、と呼ばれていたのだ」
リッチと死古竜か。
あれが暴れまわるとか、想像を絶するだろうな……奴らが大森林からこんな所にまで来ていたとは。
「その時、古竜の大森林からやって来た『リン』という少女が、大いなる奇跡の力を持ってこの国を救ったという言い伝えがあり、大体、どこの町にも1つは聖女リン様を奉る部屋があるのだ。それを『聖堂』と呼んでいる」
「リン? 大森林から来たのならヒムニヤじゃないのか?」
「いや、ヒムニヤ様ではない。聖堂に像があるんだが、本当に小さな子供だったようだ」
「へえ~~~すごいな。ヒムニヤ以外であんな奴らを相手に、一人の少女が?」
実は少女に姿を変えていたヒムニヤとか……。ありそうな話だ。
だが、今回、ヒムニヤもあれだけ手こずったのだから、やっぱ別人か。ひょっとして……神さまかな。
「なんだ、お前、まるでヒムニヤ様もリッチも死古竜も、全部知っているかのような口ぶりだな」
怪訝な顔をするレイティス。今、その話の説明は面倒だ。
「まあ、それはともかく、早く聖堂とやらに行こう」
頷き、大広間への扉を抜けるレイティス。その後に続く。中はひんやりとしていて、かなり広い。
大広間に入った途端、俺の敵意感知センサーが久々にビンビン鳴り出す。
「レイティス、この国では暗殺者を飼っているのかい?」
「何? 暗殺者だと?」
城に入った時の気配はこいつらだ。殺気を殆ど出さない為、わかりにくかったが、この部屋に入ってすぐに敵意を感知した。
つまり。
この部屋に入る、彼らにとって邪魔な者を排除する為の暗殺者だという事だ。
レイティスは最初にヒムニヤを見つけた時、既にここに来ている。レイティス達がここに来ても反応しないが、俺達が来ると反応する。
という事は、こいつらはヒムニヤを俺達に渡さないよう、誰かに命じられた番犬か。
「そんな物騒な者達はいないが……」
「そうか。なら、やっつけても大丈夫だな?」
「なに?」
「青竜剣技!!」
屋内でこれを使えるほど、ここは広い。
ジュゥイィィィン……
魔剣シュタークスが水属性のオーラを纏う。更にそのイメージを目の前に何十と複製、浮遊させる。
「『飛』ィィィッッ!!」
殺気の発生源はこの部屋のあちこちに散らばっている。
先制攻撃だ!!
シュインシュインシュインシュイン!!
フュンフュンフュンフュンフュン!!
魔力の斬撃を猛スピードで発射する。
「みんな、行くぞッ!」
『飛』の発射を合図に、大広間の反対側、聖堂に向かって走る。
斬撃が壁に突き刺さる直前に、その付近からヌッ……と現れる黒い影達。
「な、何だ、アイツら!!」
レイティスが驚きの声を上げる。
「すまん、レイティス、ちょっと部屋が壊れるかもしれん」
一応、断りを入れておかないとな。
俺たちが駆け出すと、敵意が更に膨れ上がる。
「みんな、気をつけろ!」
「上!!」
ヒュンヒュン!!
バスバスッッッ!!
アデリナの声と矢が空を裂く音!!
目線を頭上に移すと、黒装束を纏った屈強な奴らが4、5人、俺達に飛び掛かってくる所だった。
アデリナの矢は正確にその中の2人を捕らえたのだが……なんと、この距離、しかも空中で矢を素手で掴んでいる!!
「ええええぇぇぇぇぇぇ!?」
仰天するアデリナ。俺もビビった。
飛んでくる矢を掴むなど人間業ではない。
しかし止まっている暇はない。コンマ数秒後、俺達の側に降ってきた所をすぐに攻撃する。
横に一閃!
シュイン!!
だが、空を切る。シュタークスの強さを見抜いているのか、手に持つ刀で受けようとはしない。
一瞬で範囲外まで移動し、今度はその近くにいたリディアに襲いかかる。
「ディー・ラン・ザンツ……キャッ!」
詠唱中だったリディアは無防備だった。まずいぞ!
「リディア!」
そいつを追おうと一歩、踏み出した所で、後ろから腕を三角の形にして首に巻きつけられ、首を締められる。
ガッ……グゥ……
それによって俺の体が泳いでしまう。
しまった、こんな背後まで近づかせてしまうとはッ。
まずい! リディアに刀が振り落とされる!!
ガッキィ―――ン!!
が、ヘンリックが槍で受け、なんとそのまま、巻き付けるように刀を絡め取り、後方に投げ捨てる!
いつぞや、俺の『突』を投げ捨てたように。
もう1人が俺に刃を向け、突進してくる。俺の手は首を締めている奴の腕になんとか捻じ込んでいる。これを外すと意識を失ってしまう。足で白刃取り? ブルブル、それは無理だ。
「マイ・ヌ・ファインズ……!」
ヘンリックが作った隙で、詠唱を終えるリディア!
行けッ!!
「『鈍い足』ェェェッ!!」
暗殺者には、最高の相性を持つ鈍足魔法!
俺を後ろから襲った奴にも、前から突進してくる奴にも効いたようだ。
後ろの奴はうまく動けず、体幹がブレ出した。
体を左に曲げ、突き上げるように右の肘打ちを後ろの暗殺者の脇腹に入れ、首に巻きついた手が緩んだ所を掴み、そのまま背負い投げて前から向かって来た奴にあてる。
ドサァッッ!
ガッ!!
アゥッ!!
仰向けに倒れたそいつらの腹へ、鞘に戻したシュタークスをぶっ刺してやる。
「ウッゲェェ……」
もんどりうった後、気絶する暗殺者2人。
「『雹弾』ォッッ!!」
「『連弾』!!」
クラウス、エルナの攻撃も容赦無い。
一応、死なないよう、足や肩を狙ってはいるが、バタバタと倒れていく暗殺者達。
リディアの鈍足を食らった奴らはその時点で勝負アリ、だ。
だが、魔法に耐性を持つ奴らもいる。
まだ10人近く、まともに動ける奴らがいるらしく、ドッと押し寄せる。
しかし、今度は暗殺者共が驚く番だ。
リタが奴らの頭上に飛び、輪の中心に着地する。
そして、流れるように双剣を踊らせると、グワァ! ウワッ! ウガッ! と悲鳴が上がる。
どうだ、うちのリタも素早いんだぜ?
だが、囲みの外の奴らが一斉にリタに襲いかかる。
バシュバシュバシュバシュッッッ!!!
アデリナの連撃が暗殺者達の肩を次々と貫いていく!!
最初は面食らったものの、勝負は早々に決着した。
そして、大広間には数十人の屍が……ではなく、ダウンした暗殺者達が転がる事になった。
「す、凄いな……マッツだけじゃない。みんな、凄い!」
「レイティス、あまり城に人も残っていないだろうが……取り敢えず、片付けておいて貰っていいか?」
「わ、わかった」
懐から笛を取り出すレイティス。
「ありゃ? 呼び鈴じゃないの?」
「そんなもの、ここからじゃ聞こえないよ。それにメイドを呼んでも……この有様じゃ無理だろ? 衛兵を呼ばないと」
成る程。言われてみればそうだ。
「どうだ、ヘンリック。まだ何か感じるか? 俺は何も感じないが」
「ああ。終わったようだ。ただ……」
「……そうだな。また、見ていた奴がいた。だが、どこかに去って行ったようだな」
「見ていた奴?」
笛を吹いたレイティスが聞き返す。
「この大陸に来てから、俺達は事あるごとに見られている。今回もそうだ。だが……そろそろ捕まえたいな」
何だそれ、怖い話だな……と、レイティスが両腕で自分を抱く真似をしていると、バタバタと衛兵が入ってくる。
うわっ、何だこれは! と、口々に騒ぎながら暗殺者達を覗き込む。
レイティスは衛兵達に(恐らくは牢屋にでも入れておくように)指示を与え、俺たちのもとに戻ってきた。
そのレイティスの肩をポンッと叩き、声を掛ける。
「ご苦労様。さ、聖堂へ行こう」
「ああ。付いてきてくれ」
彼を先頭に聖堂へと進む。
ガチャ……
扉を開け、中に入る。
中はクリスタルがあちこちに飾られており、ステンドグラスの窓が三方向に配置されていた。
真正面には恐らくあれが聖女リンなのであろう、後ろ髪を2つくくりにした、まだ幼く可愛らしい少女の像が飾られている。なるほど、ヒムニヤとは似つかないな。
そして、その少女を守るように、後ろに控える……何だあれ? 何やら恐ろしい形相、筋肉ムキムキのデカい人型のナニカ。はっきり言うと鬼だ。
触らぬ神に祟り無しだ。ほっとこう。
その像の足元に、棺らしき四角く大きな箱が置いてある。
「マッツ、あんな箱は今までなかったんだ。あまりにも堂々と置かれていて、逆に気付きにくかったんだが……中を見てくれ。彼女がマリ、で合っているか?」
言われて、棺に近寄り、蓋に手を掛ける。
ガタッ
!!!!!!
「ヒムニヤ!!!」
思わず、叫んでしまった。
箱の中には、目を閉じて、腕を胸の上でクロスさせ、全身を銀の鎖で巻かれて身動きが取れない状態になっているヒムニヤが……横たわっていた!
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