神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
99 / 204
第3章 英雄

ペザの決戦(1)

しおりを挟む

「そうか、みんな知り合いか! それは奇遇だな」

 レイティスが頷きながら鴨肉を頬張る。

 ここは、少し広めの応接間だ。
 レイティスの好意で泊めてもらうばかりか、こんな豪華な食事までいただけるとは。

 マジュムル達は、ゴビンと共にここまで来たらしく、レイティスが俺達に会わせるのは何となくまずかろう、と気を利かせて食堂で食べさせていたらしい。

 しかし、シータがハァハァ言いながら廊下を走っている所を俺が見つけて声を掛けた事で、お互いに知り合いだとわかったのだ。

「いやぁ~~~ペザにいると思っていたマッツ様がまさかクリントートにいらしたとは。これもまた聖女リン様のお導きかしら」

 シータが俺のグラスに酒を注ぎながら、本当に嬉しそうにそう言ってくれる。

「いや、俺達もこんな所で会えるとは思わなかったよ。マジュムル様もエイゼル様も、お元気そうで何より」
「いや、全くです。もう皆さんご存知だと思うので言うのですが、メシュランからずっとクーデターを考え直すよう諌めていたのです。が、聞いてもらえず、最後の抵抗でここに居残った次第です」

 マジュムルがそう言って、苦笑しながらグイッとワインを飲み干す。

「全くお恥ずかしい限り。我らの力が及ばなんだ」

 エイゼルも自嘲気味に話す。

「いや、お二人のせいではありません。この一件、かの超人、《滅導師》ヘルドゥーソ様が裏で糸を引いているとの事」

 エイゼルとマジュムルをそう慰めるレイティス。

「何ですと! 超人が……」
「アスガルドの暗殺者ケルベロス、とやらもそうなのですか?」
「それはわかりません……ただ、その可能性は高いと思います」
「道理でゴビン様の様子がおかしいと思っていました。……だとすると、やはり、力ずくでもお止めしなければ」

 最後にマジュムルがそう言った所で、3人とも黙りこくってしまう。

 その間も俺の右隣のヒムニヤと、その1つ先のクラウスは、ずっと真面目な話をしていた。俺はそれを黙って酒をチビチビやりながら聞いている。

「ヒムニヤ様、この旅を続ける間、ヘルドゥーソの脅威はついて回ります。闇の世界に行く方法、そして帰ってくる方法を教えていただけないでしょうか? 私ももっと役に立ちたいのです」

 ヒムニヤは薄く笑いながら首を振り、あせるな、と窘《たしな》める。

「まだ早い。まだ手を出してはならん」
「そうは言っても……いえ、わかりました。では、もう1つ。『闇の波動』を纏ったものと戦う時にはどうすればよいでしょうか?」

 食い下がるクラウス。
 今度は少し考えるヒムニヤ。

 そして、おもむろに口を開く。

「そうだな。今、この世でよく使われている魔法の属性、いわゆる火、風、水、土の四属性に加え、闇属性、聖属性がある事は知っておろう」
「はい」

 姿勢を正し、身体をヒムニヤに向けて神妙な面持ちで聞く態度を見せる模範生、クラウス。

「闇に効くは聖……と思われがちだが、そうではない。多少は効くが、真に正反対であり、尚且つ同じ効果を持つのは今、この世で殆ど知られていない『光属性』だ」

 おお。そうなのか。

 確かに俺の聖竜剣技は殆どリッチに効かなかった。単に聖属性のバリアでも張っているものだと思っていたが……。

「光……ツィ系で光属性、というのは知りません」
「ああ。この世では殆ど知られていない、と言ったろう。今、お前達、いや、私達と言おうか、のパーティでこれが使えるのは私とマッツ、そして……」

 え!? 俺?
 そんな剣技、あったっけ……?

「お前だ、クラウス」

 口の端を上げ、優しく笑う。

「え? 私ですか!? 私は使えません!」

 両手を振って否定するクラウス。

「フフフ……私がバルジャミンで……」


「マッツ様!」

 不意に左側からシータに名前を呼ばれる。

「何? ……うわっ」

 クラウスとヒムニヤの話に神経が行っていた俺が何気なしに振り返ると、思いの外、顔が近くてお互いにびっくりする。

「うわぁッッ申し訳ございません。ハァハァ……実はお願いがございます」
「お……お願い……? 何かな?」

 そこで、胸の前で手を合わせ、

「マッツ様! マジュムル様、エイゼル様と私をゴビン様の元まで連れて行って下さい!」

 いつもどこか抜けている彼女だが、真面目な顔でそんな事を俺に頼み出した。

「先程、リタ様にここまでドラゴンに乗って来たと聞きました。私達も是非乗せて下さい! ゴビン様をお止めしなければ!」
「マッツ殿、それは我々の願いだ。何とぞ聞き届けて下さい」

 マジュムルがテーブルに擦り付けんばかりの勢いで頭を下げる。
 その横でエイゼルも目を閉じて頭を下げている。

 全く、断る理由は無い。味方も多いに越した事はない。

 俺は立ち上がり、3人に向かって、

「わかりました。何の問題もありません。一緒に行きましょう」

 そう言うと、パァーッと喜色満面になる3人。

 いい配下を持って幸せだな、ゴビン。

 その日は俺達が疲れていたため、早々に切り上げ、寝る事にした。


 ―

 翌日、クリントートの城には2体の竜がいた。
 1体は火竜アルトゥール、もう1体は黒竜、ヒムニヤ曰く、名をヴァネッサといい、まだ子供だが女性だそうだ。アルトゥールよりもひと回り小さい。

 人数が増えるだろうと予想したアルトゥールが連れて来たらしい。何故、そんな事がわかるんだ、と聞いたのだが、お前達とは出来が違う、と偉そうに言われてしまった。
 やはり傲慢な生き物だな。


 城に残っている衛兵達や付近の住民も、何事かと遠巻きに眺めている。

「よし、じゃあ行ってくるよ、レイティス!」
「ああ。気をつけてな。アクシェイ様、そしてこの国を頼む!!」


 バァッッッサァァァァァァァァァァァァ!!

 バァッッッサァ! バァッサァ!

 バッサ! バッサ!


 2体の竜が翼を広げ、垂直飛行を開始する。

 前回の反省を活かし、今回は予めロープを竜の首に巻きつけてそれを掴み、自分達の体にも巻きつけて置く。更にエルナとヒムニヤに防寒対策をしてもらった。

 アルトゥールに俺、ヒムニヤ、マジュムル、エイゼル、シータを乗せ、ヴァネッサにはパーティの皆を乗せた。

 そして一気に水平飛行に移る。
 すごい迫力だ!!

 初めて竜に乗った3人が、初回の時の俺達と同じようにワーワー言っていたが、まあ、当たり前だな。


 一旦途中で昼休憩を挟み、赤い道を大きく逸れた山中で昼食をとり、再び空へ。

 夕方前には、もうクーデター軍を捉える。

「マッツ、どうだ、感じるか?」

 軍を見下ろしながら、ヒムニヤにそんな事を話しかけられる。

「うーん。何となくだが、ここにはいない気がする。どっちかというと……あっちから気配がする」

 北の方を指差しながら答えると、ヒムニヤは小さく笑いながら、

「正解だ、マッツ。ゴビンやメイド達はここにはいない。もっと北、おそらく、いや、間違い無くペザにいる。……その感覚、誰にでもあるものでは無い。大切に養え」

 と、褒めてくれた。へへ。

「ああ、わかった! よし、アルトゥール! ペザに向かってくれ!」

(私にはどうでも良い事だが……下の人間どもは進ませておいてよいのか?)

 ホバリングしながらアルトゥールが不意にそんな事を言い出す。

「む。いや、でも、どうにもならんだろう?」

(既に仲間を呼んである)

「本当か! 凄いな、アルトゥール! じゃあ足止めを頼む! ……あ、だけど、殺すなよ!! 下の奴らには何の罪もないんだ」

 突然、俺達の更に上空から巨大なものが舞い降りてくる。

 何体も何体も。

「うお―――!!」

 ヴァネッサの方からアデリナの声が聞こえる。

 計10体。

 色とりどりのドラゴンが、俺達の前に勢揃いする。

 壮観 ―――

 その一語につきた。


 地上では兵士達が右往左往しているのが見える。

 他国の兵士よりも竜を見慣れているとは言え、これだけの数が揃っているのを見るのは初めてなのではないだろうか。


(彼らに足止めをするよう、頼んでおいた。我らは行くぞ)

「有り難う! アルトゥール! お前、用意が良すぎるな……」

(クックク……出来が違う、と言ったろう)

 うぅむむ……。

 なんか腹立つが……。
 大丈夫か? 焼き尽くしたりしないだろうな?

「アッハハ……マッツ。わかりにくいだろうが、アルトゥールは私を助け出したお前に感謝し、尊敬もしている。安心して任せて良い」

 ヒムニヤが笑いながら解説してくれる。

 そうなの?
 わかりにくいツンデレだな……。

「ううむ。じゃ、クーデター軍は任せた。行こう、アルトゥール!!」

(しっかり掴まっておけ!!)


 それから2時間ほど大空の旅を続け、俺達は首都ペザの主城に辿り着いた。


 いる……

 闇の気配を持つ者が何人も……


 よし、最終決戦だ。

 ここで全てのケリをつけてやる!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...