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第3章 英雄
ペザの決戦(2)
しおりを挟むアルトゥール達にはクーデター軍の足止めに行ってもらい、俺達は城に入った。
いる……いるぞ。
しかもゴビン、アクシェイ、メイドの2人で計4人、のはずが、もっと多い。
10人位の気配は感じる。どういうことだ?
「まずはヴィハーン皇帝の所へ」
そう決めて、全員で『帝王の間』に向かう。
近侍から俺達が面会に来たと聞くと、待っていた、と快く俺達を迎え入れてくれるヴィハーン皇帝。
以前に入った時と比べ、居並ぶ将軍達の数が少ない。恐らく、クーデター軍がここに押し寄せた時の為、配置についているのであろう。ここには数人しかいない。後は近侍が数人。
何かあった時、非常に心許ない数だ。
「剣聖! 待っておった! クーデター軍がこちらに向かっておるようだが、首尾はどうであった!?」
「はっ……申し訳ありません。全てを解決してから戻ってくると言いましたが、残念ながら、まだ首謀者を追いかけている途中です」
そう言うと、そうか……と、明らかに落胆した表情になるヴィハーン。
「取り急ぎご報告ですが……」
言葉を続ける。
今は一刻を争う。
「クーデター軍については一旦、足止めしておりますので、これ以上進軍し続ける事は不可能かと」
そう言うと、そうか……と、少し安心した顔になる皇帝。
「首謀者は《滅導師》超人ヘルドゥーソ、そしてゴビン様、アクシェイ様は奴に洗脳されている事がわかりました。そして、彼らは今、この城に潜伏しています」
「何! ヘルドゥーソだと!」
「はい。正確には分からないのですが、どうやら敵の気配、この城の何箇所かに分かれている模様。何故、そのような事をしているかはわかりません。しかし、狙われるとすれば殿下達です。急ぎ、守りに行きたく」
てっきり神の種が目的かと思っていたのだが、それならば、何故、分散しているのかがわからない。
俺達をヴォルドヴァルドの場所に行かせない為? であるならば、狙うは国の混乱に直結する皇族を狙うはずだ。
信じられん、と呟く皇帝。城に忍び込まれるなど尋常ではない、と思うのも無理はない。だが、この皇帝は決断が早い。
「わかった。剣聖。もとよりこの件はお前に任すと決めている。頼む、我が国を救ってくれ」
「有り難うございます。全力を尽くします」
そして仲間に振り返る。
「いいかみんな。敵はヘルドゥーソの闇の波動の干渉を受けている。ミッションは2つ、今からそれぞれに指示する対象を守る。そして奴らを殲滅する。敵はゴビン様達4人だと考えていたが、10人程の気配を感じる。くれぐれも気をつけろ! そして……」
もう一度、皆の顔を見る。
「ここがドラフジャクドの旅の最終局面だ。俺達は絶対にこの戦いに勝たねばならない。肝に銘じておけ!」
皆の頷く顔を見てから、まずヒムニヤに言葉をかける。
「ヒムニヤ、ここにいてヴィハーン皇帝を守りつつ、ゴビン様とアクシェイ様がどこにいるかを探ってくれ」
「わかった」
この国の最重要人物、ヴィハーン皇帝がこんな少ない護衛でここにいる以上、残念ながら、我がパーティ最強の護衛をつけるしかない。
「ヒムニヤだと! あの……超人ヒムニヤか?」
ヴィハーンが驚きの声を上げる。
ああ……しくった。
つい、うっかりその名を言ってしまった。
「申し訳ありません。時間がなくちゃんと説明出来ないのですが……彼女が、私がここを出る時、申していた仲間のマリ、本当の名はヒムニヤ。訳あって一時的にパーティを組んでいます。見ての通り、無事救出致しました」
「何と……超人とパーティだと……凄いな、お前は本当に……」
パーティに向き直り、指示を続ける。
「本当はパーティを分散したくないんだが、1秒を争うかもしれん。奴らがどこに潜んでいるかわからない以上、前衛、後衛をバランスして分け、全員で事にあたる」
「アイラは恐らく、イシャンと共におろう」
ヴィハーンが口を挟む。
これは有り難い情報だ。
ヴィハーンに一礼し、指示を出す。
「マジュムル様、エイゼル様もお手伝いいただけますか」
「勿論です。このパーティのリーダーは貴方だ。我々は指示に従いましょう」
大仰に胸に手を当て、騎士の礼をする2人。
パーティを分けなければならない今は心強い。
「有り難うございます。では、リタ、マジュムル様、エイゼル様、クラウスは急ぎ、イシャン殿下とアイラ皇女を守れ」
「わかりました!」
「了解!」
不意に1人の少女が口を挟んだ。
「待って! 私も行きます!」
シータだ。どう言う事だ?
「……いや、君は戦えないだろう? 危険だし、敵に捕まると足手纏いになる」
「大丈夫です! 足手纏いにはなりません!」
真摯な目に、どこから来るのか自信が宿っている。
「大丈夫だ、マッツ。行かせてやれ」
優しく言うヒムニヤ。
シータは会って間もないが、ヒムニヤには絶大な信頼を置いている。
「わかった。じゃあ、くれぐれも気をつけろよ?」
「やった! 有り難うございます!」
そうだ、先に言っておかねばならない。
「皆、聞いてくれ。護衛に行き、誰も襲ってこなくても、勝手な判断でその場から動くな。必ず護衛対象を守れ。誰にどこを襲われるかわからない。誰が相手でも敵意感知ができる俺には奇襲は出来ない。俺が直接、皆の所に出向くまで待て」
みな、頷く。
大丈夫だ。このメンツで敗れる筈がない。
「よし、じゃあリタ達は急ぎ、行ってくれ!」
「誰か、彼らをイシャンの部屋まで案内せよ! 案内したら、何があろうと手を出さず、すぐに戻ってこい。彼らの邪魔はするな」
ヴィハーンが俺の意を汲み、最高の助けを出してくれる。近侍の1人が駆け足でドアを開け、リタ達と共に出て行った。
「ヘンリック、エルナ、アデリナ。お前達はラーヒズヤ殿下だ。絶対に守れ!」
「わかった!」
「わかりました」
そして、同じように案内の者と一緒に駆け出す。
「よし、じゃあ俺とリディアでドゥルーブ殿下を守る。急ぐぞ!」
「わかったわ!」
―
「どうした? 何があった? お前達は……剣聖の連れだな?」
ラーヒズヤは豪華な自室で1人、酒を飲んでいた。
ドカドカと踏み入るヘンリック、エルナ、アデリナに驚くラーヒズヤ。
「誰もいないようだな……」
ヘンリックが独りごちる。
「ラーヒズヤ殿下、緊急事態です。ヘルドゥーソの手の者がこの城に複数、忍び込んでおります。我々が殿下を護衛致しますのでご安心を」
当然ながら何も事情を把握していないラーヒズヤに説明する。だが、それだけでは無論、説明不足だ。
「待て待て、何の事かわからぬ。もう少しわかるように説明せよ」
「まずは窓から離れ、真ん中の位置に来て頂けますか? 話はおいおい……」
エルナにそう言われて、ラーヒズヤはすごすごと移動する。真ん中に、と言われた時点で何を懸念しているのかわからぬラーヒズヤではない。
「暗殺者の類でも忍び込んだのか?」
「暗殺者かどうかはわかりませんが、ヘルドゥーソにより闇の干渉を受けておりますので非常に危険です」
どうやら、ここには来ていない。
嫌な予感がする。
リディア達は大丈夫だろうか……とエルナが危惧し始めた。
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