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第3章 英雄
ペザの決戦(5)
しおりを挟む――― リタ、クラウス、シータ ―――
リタの左手に持つ剣が宙に舞い、天井に突き刺さる。
幅広の剣ファルシオンをリタの鼻先にピタリと合わせ、
「名も知らぬ双剣士、有難う。お前達は私達を《滅導師》から自由にしてくれた。本当に感謝しているわ……だが、それと仕事は別だ」
一切の表情を変えず、クールにそう言うサンジャナ。
「私は油断はしない。例えば、お前の剣……ワザと一本無くしたのかもしれない……天井に刺さっているのもワザとかもしれない」
リタの額から一筋の汗が零れ落ち、鼻筋から顎まで伝う。
(こ……こいつッ……)
「フンッ!」
キィン! キィン!! キィン!!!
キィンキンキンキィンキンキンキィン!!
キキキキンキンキキキキキキンキンキィン!!
まさに猛撃!!
リタはファルシオンが我が身を削らないように捌くだけで精一杯だ。攻撃に移れない。
そして……
ガキィ―――ン!!
ドスッッッ!!
ついに、右手に持っていたもう一本の剣も宙を舞い、サンジャナの背後の床に刺さる!
「ここまでか……でも油断はしないわ。わざわざ、床に刺さる様に落ちたのも怪しい」
後ろを見もせずに状況を言い当てるサンジャナに、寒気を覚えるリタ。
「最後まで、全力で……行くぞッッ!」
ダッッッッッッ!!
「そりゃ!」
箒をぶん回し、マラティに決定的な一撃を決めさせないシータ。
カンカンカンッ!
カンカンカンカンカンカンッッッ!!
「やっぱり……貴女は邪魔だったわね……折角貴女にケルベロスの疑いをかけて動きを封じようとしたのに……」
マラティが困ったような顔をしながら言うが、その間もカトラスの連続攻撃は止まらない。
そしてその攻撃を左腕で受け、血飛沫を飛び散らすシータ。
そしてその様子を見て、あの傷は治してはならない、と考えるクラウス。
「カトラスは丸みを帯びた剣。遠近感が無いと扱いづらい。それを削ぐ為に血飛沫を目にかけよう、と狙う奴は……今までにもいたわよ?」
「ハァハァ……ングッ!!」
「ほらほら、息があがってますわよ!」
全てはマラティに読まれている。カトラスがシータの肩口に当たる!
ギリギリ、箒で受ける、が、体に僅かに食い込む刃。
ガンッ!
マラティの左後方で音が鳴る。
何の音だ……? あそこにあるのは何だったか……
記憶を辿るマラティ。だが、明確な記憶はクラウスに闇の干渉を解いてもらってからだ。
今ひとつ、はっきり思い出せない。
ええいッと全体重をシータに預け、カトラスを押す!
フッと手応えが無くなる。
「何!?」
シータが箒で防御したまま仰け反り、マラティはそのまま前へとつんのめる。しかし、倒れはしない。堪えるマラティ。顔を上げる。
そこへ―――
バッッシャァァァァ!!
突然、頭から水を被るマラティ。
「……! なん……」
マラティの頭から顔にかけてずぶ濡れになる。
シータは敢えて身体に箒を密着させ、身を削ってカトラスを受けた。そうする事で相手の視野を固定、狭めさせたのだ。
「水……バケツ……?」
そこにマラティが気付く。
掃除中で放ったらかされていた水の入ったバケツを、箒の柄で引っ掛け、身体を仰け反らせると同時にマラティの頭部めがけて跳ね上げたのだ。
すぐさま、その箒の柄で今度はマラティの鳩尾を突くシータ。しかし、当たり前だが水が弱点と言うわけでもなく、シータの突きをカトラスで払うマラティ。
それどころか、更に返す刀で横一閃! シータは動けない! いや、動かない!
ピシュン!!
カトラスの一撃は、シータの綺麗に揃った前髪を斜めに切り落とした!
「う……クソッ!」
水が目に入り、距離感を誤ったマラティの一撃が振り切られると、再度、鳩尾を狙うシータ! 慌てて肘で受けようとするマラティ。だが突き切らずに瞬時に引っ込め、コンマ数秒で喉を突くシータ!!
「ウグェッッッ!!!」
喉への突きがまともに入れば、防具無しでは耐えられるものではない。ついにカトラスを手放し、後ろに吹っ飛ぶ大柄なマラティ。そして間髪入れず、飛ぶように踏み込み、追いかけ、今度こそ鳩尾に完全なる突きを入れるシータ!!!
「アガァァァァッッッ……!!!」
目を向いてうつ伏せに倒れるマラティ。
……と、見せかけ、体勢を戻し、太股のあたりから短剣を取り出して、技後のシータに突き刺す!
目を見開くシータ!
「しまっ……」
タイミング的には完全にシータはやられていた。
が、実際には、短剣はシータには届かず、マラティはその場から動けず、うつ伏せにつんのめって倒れていた。
「なに!? 足が……!!」
「粘水輪。マッツとの模擬戦が役立った……」
クラウスが呟く。
「うぅぅおお!!」
マラティが唸るが、足にスライムのようなゼリー状のものが巻き付いており、身動きが取れない。
更に粘水輪を重ねがけするクラウス。
両腕、そして口をスライムによって塞がれ、ついにマラティは観念した。
一方、ケルベロスのもう一人、サンジャナ ―――
「最後まで、全力で……行かせて貰うわ!」
ダッッッッッッ!!
双剣を奪われたリタに全力疾走の踏み込みを見せるサンジャナ。
斬る! 薙ぎ払う!
尋常なスピードではない連続攻撃を足捌き、体捌きのみで避けるリタ。そのリタには致命的とも言える足元の障害物。
「くっ!」
リタの足にモップが絡まる!
「……っっらぁ!!」
コケそうになる所を堪え、サンジャナの方に蹴り上げる!
バチィィンッ!!
思ってもいない反撃を、モップを真っ二つにして対処、トドメとばかりに後ろに逃げられない位置までリタを追い詰め、正確に心臓の位置を突き刺すサンジャナ!
瞬間、右前で半身になり、むしろ前に踏み込み、正拳を繰り出すリタ、だが、とても拳の届く距離ではない。
しかし……!!
ドスッッッ!!
「ンガッ……カ……」
サンジャナの突き出した顔面、その喉元を矢が貫いていた。
リタは拳で攻撃したのではない。
弓使いでもある彼女が常に持ち歩く短い矢で刺したのだ。
「ンガッ! フグッッ!!」
「ハァハァ……すぐに……取らない方がいいわよ。かえしがついてるから」
言い捨て、前のめりになっているサンジャナの腹を強烈に蹴り上げるリタ。
ドォォォフッ!!
「オゲェッッ!!」
悶絶してくの字になって吹き飛ぶサンジャナ。
「……プッハァ……ハァハァ……」
肩で激しく息をするリタ。
「まさか……ケネトとやるような奴と戦う事になるとは……ハァハァ……クラウス、こっちも縛っておいて……ね」
「ああ、わかった。ごめんよリタ、そっちまで手が回らなくて……」
魔法でサンジャナを縛りながらクラウスが謝る。
「ホントよ……もう少しでやられる所だった……わ。まあ、貴方が助けてくれていたでしょうけど」
次々とスライムで覆われていくサンジャナ。喉を破られているため、失神しているのかもしれない。
「縛り終わったら……傷は……治してあげてね」
その場にどっか、とへたり込むリタ。
それらの光景をイシャンとアイラが手を取り合いながら呆然と見つめていた。
リタ、クラウス、シータの勝利 ―――
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