104 / 204
第3章 英雄
ペザの決戦(6)
しおりを挟む――― マッツ、リディア ―――
「いやぁぁぁぁ! マッツ!!!」
口をパクパクさせ、膝から崩れ落ちるマッツ。
スローモーションのようにその光景を見つめるリディア。
「フフフ……」
ブスッ……
躊躇いなく短剣を抜くアル。
あ……という間も無く、刺さっていた傷口から噴水のように噴き出す血、血……。
「ククク……お嬢さん。これで1対1だ。……どうした? 魔法を撃たないのか? 超級の魔術師は詠唱は聞きとれないほど高速なんだろ?」
ブルブルと震えだすリディア。
実はリディアはこの部屋に入ってからずっと平行詠唱を使っていた。
もうひとつの魔法、連弾は既にここに来るまでに詠唱済み、後は掌を対象に向けて最後に唱えるだけ、の状態でスタンバイされていた。
しかし、今は撃てない。ここまで近付かせてしまっては、掌を向けた瞬間に切り落とされてしまうだろう。
どうする、どうする……?
その時……
「ひっ……マッツ!!」
アルの右後方を見て固まるリディア。
「あっはっは。古い古い。そんな手には乗らないよ?」
笑いながら、短剣の刃先をリディアに向けるアル。
だが ―――
ゾクリ。
アルの背筋に走る悪寒。
そして、不意に後ろから響く声。
「いてぇなぁ……お前……」
硬直して一瞬動けなくなる、アル。
今までにこのような恐怖を感じた事がない。
自分は確実に心臓を貫いた筈だ。
普通の人間なら即死だ。
こいつ、まさか、人間ではない ―――
「お前……誰の女に刃向けてんだ? 死にたいのか?」
ガッと肩口を掴まれる。
「ひっ……!!」
ダンッ!!
左に跳ぶアル。しかしそこにあったのは、気を失って横たわっていたドゥルーブの巨体! その脚に躓いてしまう!
そうなるように、敢えてアルの右後方に立ったマッツ。
「グァッッッ!!」
ゴン! ガン!!
恐怖で転げまわり、しかし、何とか態勢を立て直そうと必死に仰向けになる。
だがそのアルの目に飛び込んで来たのは……リディアの掌だった。
「『連……弾』ッ!!!」
瞬時に生成される石飛礫! 無論、対人用にリディアが魔力を調節し、死なないレベルの大きさとスピードで発射される!!
ドドドドドドドドドドドドッッ!!
一瞬でアルの左半身がズタボロになる。
「ガ……ゥガア……カハッ……なぜ……生きて……いるんだ……マッツ……」
「ああ……? フ……フフ」
そう力無く笑うマッツの胸から流れ出る血の元を辿ると……おかしい。自分が背中から差した場所と違う。あれでは……。
不意に気付く、アル。
「お前……刺される瞬間、体を僅かにずらし……捻ったな……? しかし……何故……」
「ずっと俺達を……監視してたんだろ? 知らなかったのか……?」
胸を押さえ、リディアに肩を借りながらマッツがアルを見下ろす。
「俺に奇襲は……出来ないんだぜ?」
マッツ、リディアの勝利 ―――
――― ヴォルドヴァルド ―――
(クックック! ハーハッハッハッッッ!!)
ヘルドゥーソの高笑いを、ヴォルドヴァルドは薄れゆく意識の中、聞いていた。
(わかったか? ヴォルドヴァルド)
(超人最強だなんだとほざているらしいが)
(前回、お前が勝ったのは、ロビン、オリオン)
(そしてヒムニヤがいたからだ、という事が)
「なん……だとッ?」
意識は殆ど無かった筈のヴォルドヴァルド。
だが、今の言は許せないらしい。
槍を杖代わりに起き上がり、そしてその槍を手放し、スライムを体から引き剥がす。
ベリッ! ドンッ!!
ベリッ! ドンッ!!
しかし、次から次へと湧いて出るスライム。
(よし、今だ。ゴビン、アクシェイ)
(奴の鎧を剥げ! それで奴の物理無効が消える)
(毒で弱ってもそれで死ぬ奴ではない)
ヘルドゥーソの横でじっとしていたアクシェイ、そしてヴォルドヴァルドに感電させられ、床に転がっていたゴビンが、命じられたまま動き出す。
シュン! シュン!!
ヴォルドヴァルドの背後に瞬間移動し、周りについているスライムを気にもせず、鎧を剥ぎ始める。
「ぐぁ……や……めろッ!」
腕を振り回すヴォルドヴァルド。しかし力無い。
2人に片手で止められ、まずは腕当てが外される。
中から筋骨隆々な腕が見える。が、紫色の斑点で覆われ、毒による攻撃を受け続けていたことがわかる。
(そんなになるまで、よく頑張ったものだ)
(感心するぞ、ヴォルドヴァルド)
(む……)
ふと、ヘルドゥーソの笑いが止む。
そして、チッと舌打ちをする。
(急げ、ゴビン、アクシェイ!)
(マッツとヒムニヤが来るッ!)
脚、胴、と次々に剥ぎ取られる物理無効の最強の鎧。
「むぉぉぉ……やめろ……」
そして、遂に最後の兜が剥ぎ取られる。
(ホッ! ヴォルドヴァルド! お前……)
(そんな面をしていたのか!)
(初めて見たぞ!!)
「むぅぅ……ヘルドゥーソ、お前の狙いは……何だ」
(最初に言ったろうが。神の種だ)
(神の種を寄こせ)
「神の種か……わかった。俺の負けだ。持っていくが……いい」
フッと何処からともなく、ヴォルドヴァルドの掌に極彩色の水筒が現れる。
(おお! おお!! それだ!!!)
(まさしくッッ! 今度こそ我が手にッッ!)
手を伸ばすヴォルドヴァルド。
ヘルドゥーソが恐ろしい形相で口を大きく開け、腕ごと水筒を丸呑みにしようかという勢いで、ヴォルドヴァルドに飛びかかる!!
「すまん、間違えた。俺の勝ちだ。持って行ってはいかん」
(…………なに?)
掌にあった極彩色の水筒は、一瞬でその姿を変え、代わりに魔槍レベッカが顕現する!!
(貴様ッッッ!!!)
「消えろ、ヘルうどんっっ!! 六芒!」
魔槍レベッカが光を上げ、ヘルドゥーソから魔力を吸い始める!!
「『光撃』!!!」
ドッッッッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
巨躯から繰り出される魔槍の光撃がヘルドゥーソの顔面を貫く!
(グゥアアアァァァァッッッ!!)
バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
顔の真ん中から無残につぶれていき、叫びをあげ、後ろの空間に吸い取られるように消えていくヘルドゥーソ!!
「ふぅ……俺にしちゃ、小手先の技だが……鎧を剥がしたお前らが悪いんだぜ?」
「貴様!」
「ごぅらぁぁぁ!!」
ゴビンとアクシェイがいきり立ち、ヴォルドヴァルドに向かって走る!!
……が、途中で失速し、そして三白眼になり、バタンッと倒れこんでしまう。
程なく、彼らから闇のオーラがスーッと消えていく。
「ふう……やれやれだ」
そう言って、バタリと仰向けに倒れ込み、吹き抜けの上空を見上げるヴォルドヴァルドだった。
ヴォルドヴァルドの勝利 ―――
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる