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第3章 英雄
ペザの決戦(6)
しおりを挟む――― マッツ、リディア ―――
「いやぁぁぁぁ! マッツ!!!」
口をパクパクさせ、膝から崩れ落ちるマッツ。
スローモーションのようにその光景を見つめるリディア。
「フフフ……」
ブスッ……
躊躇いなく短剣を抜くアル。
あ……という間も無く、刺さっていた傷口から噴水のように噴き出す血、血……。
「ククク……お嬢さん。これで1対1だ。……どうした? 魔法を撃たないのか? 超級の魔術師は詠唱は聞きとれないほど高速なんだろ?」
ブルブルと震えだすリディア。
実はリディアはこの部屋に入ってからずっと平行詠唱を使っていた。
もうひとつの魔法、連弾は既にここに来るまでに詠唱済み、後は掌を対象に向けて最後に唱えるだけ、の状態でスタンバイされていた。
しかし、今は撃てない。ここまで近付かせてしまっては、掌を向けた瞬間に切り落とされてしまうだろう。
どうする、どうする……?
その時……
「ひっ……マッツ!!」
アルの右後方を見て固まるリディア。
「あっはっは。古い古い。そんな手には乗らないよ?」
笑いながら、短剣の刃先をリディアに向けるアル。
だが ―――
ゾクリ。
アルの背筋に走る悪寒。
そして、不意に後ろから響く声。
「いてぇなぁ……お前……」
硬直して一瞬動けなくなる、アル。
今までにこのような恐怖を感じた事がない。
自分は確実に心臓を貫いた筈だ。
普通の人間なら即死だ。
こいつ、まさか、人間ではない ―――
「お前……誰の女に刃向けてんだ? 死にたいのか?」
ガッと肩口を掴まれる。
「ひっ……!!」
ダンッ!!
左に跳ぶアル。しかしそこにあったのは、気を失って横たわっていたドゥルーブの巨体! その脚に躓いてしまう!
そうなるように、敢えてアルの右後方に立ったマッツ。
「グァッッッ!!」
ゴン! ガン!!
恐怖で転げまわり、しかし、何とか態勢を立て直そうと必死に仰向けになる。
だがそのアルの目に飛び込んで来たのは……リディアの掌だった。
「『連……弾』ッ!!!」
瞬時に生成される石飛礫! 無論、対人用にリディアが魔力を調節し、死なないレベルの大きさとスピードで発射される!!
ドドドドドドドドドドドドッッ!!
一瞬でアルの左半身がズタボロになる。
「ガ……ゥガア……カハッ……なぜ……生きて……いるんだ……マッツ……」
「ああ……? フ……フフ」
そう力無く笑うマッツの胸から流れ出る血の元を辿ると……おかしい。自分が背中から差した場所と違う。あれでは……。
不意に気付く、アル。
「お前……刺される瞬間、体を僅かにずらし……捻ったな……? しかし……何故……」
「ずっと俺達を……監視してたんだろ? 知らなかったのか……?」
胸を押さえ、リディアに肩を借りながらマッツがアルを見下ろす。
「俺に奇襲は……出来ないんだぜ?」
マッツ、リディアの勝利 ―――
――― ヴォルドヴァルド ―――
(クックック! ハーハッハッハッッッ!!)
ヘルドゥーソの高笑いを、ヴォルドヴァルドは薄れゆく意識の中、聞いていた。
(わかったか? ヴォルドヴァルド)
(超人最強だなんだとほざているらしいが)
(前回、お前が勝ったのは、ロビン、オリオン)
(そしてヒムニヤがいたからだ、という事が)
「なん……だとッ?」
意識は殆ど無かった筈のヴォルドヴァルド。
だが、今の言は許せないらしい。
槍を杖代わりに起き上がり、そしてその槍を手放し、スライムを体から引き剥がす。
ベリッ! ドンッ!!
ベリッ! ドンッ!!
しかし、次から次へと湧いて出るスライム。
(よし、今だ。ゴビン、アクシェイ)
(奴の鎧を剥げ! それで奴の物理無効が消える)
(毒で弱ってもそれで死ぬ奴ではない)
ヘルドゥーソの横でじっとしていたアクシェイ、そしてヴォルドヴァルドに感電させられ、床に転がっていたゴビンが、命じられたまま動き出す。
シュン! シュン!!
ヴォルドヴァルドの背後に瞬間移動し、周りについているスライムを気にもせず、鎧を剥ぎ始める。
「ぐぁ……や……めろッ!」
腕を振り回すヴォルドヴァルド。しかし力無い。
2人に片手で止められ、まずは腕当てが外される。
中から筋骨隆々な腕が見える。が、紫色の斑点で覆われ、毒による攻撃を受け続けていたことがわかる。
(そんなになるまで、よく頑張ったものだ)
(感心するぞ、ヴォルドヴァルド)
(む……)
ふと、ヘルドゥーソの笑いが止む。
そして、チッと舌打ちをする。
(急げ、ゴビン、アクシェイ!)
(マッツとヒムニヤが来るッ!)
脚、胴、と次々に剥ぎ取られる物理無効の最強の鎧。
「むぉぉぉ……やめろ……」
そして、遂に最後の兜が剥ぎ取られる。
(ホッ! ヴォルドヴァルド! お前……)
(そんな面をしていたのか!)
(初めて見たぞ!!)
「むぅぅ……ヘルドゥーソ、お前の狙いは……何だ」
(最初に言ったろうが。神の種だ)
(神の種を寄こせ)
「神の種か……わかった。俺の負けだ。持っていくが……いい」
フッと何処からともなく、ヴォルドヴァルドの掌に極彩色の水筒が現れる。
(おお! おお!! それだ!!!)
(まさしくッッ! 今度こそ我が手にッッ!)
手を伸ばすヴォルドヴァルド。
ヘルドゥーソが恐ろしい形相で口を大きく開け、腕ごと水筒を丸呑みにしようかという勢いで、ヴォルドヴァルドに飛びかかる!!
「すまん、間違えた。俺の勝ちだ。持って行ってはいかん」
(…………なに?)
掌にあった極彩色の水筒は、一瞬でその姿を変え、代わりに魔槍レベッカが顕現する!!
(貴様ッッッ!!!)
「消えろ、ヘルうどんっっ!! 六芒!」
魔槍レベッカが光を上げ、ヘルドゥーソから魔力を吸い始める!!
「『光撃』!!!」
ドッッッッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
巨躯から繰り出される魔槍の光撃がヘルドゥーソの顔面を貫く!
(グゥアアアァァァァッッッ!!)
バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
顔の真ん中から無残につぶれていき、叫びをあげ、後ろの空間に吸い取られるように消えていくヘルドゥーソ!!
「ふぅ……俺にしちゃ、小手先の技だが……鎧を剥がしたお前らが悪いんだぜ?」
「貴様!」
「ごぅらぁぁぁ!!」
ゴビンとアクシェイがいきり立ち、ヴォルドヴァルドに向かって走る!!
……が、途中で失速し、そして三白眼になり、バタンッと倒れこんでしまう。
程なく、彼らから闇のオーラがスーッと消えていく。
「ふう……やれやれだ」
そう言って、バタリと仰向けに倒れ込み、吹き抜けの上空を見上げるヴォルドヴァルドだった。
ヴォルドヴァルドの勝利 ―――
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