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第4章 聖武具
闇の断崖(7)
しおりを挟む俺の予想は大当たりだった。
召喚されたグリフォン君、ものの数時間もしない内に明らかに疲れ出し、降下し始めたのだ。
そうなる前にリンリンには懸念を連絡しておいた為、慌てずに『大鳥マヤ』という鳥と危なげなく交代する。リンリンがブツブツと口の中で呟くとグリフォンはパッと消えてしまった。
カラスがそのまま大きくなったかのような鳥だが、気性は優しく、草食動物なんだそうだ。
鳥なだけあって、グリフォンの数倍は早い。
明日にはファンジアに着くかもしれない。
体長はグリフォンの10倍ほどデカく、もはやくっつく必要は無いのだが、リンリンは先程までと同じように俺の背中に乗っている。
明確に保護者となった事でリンリンも懐いてくれたようで、嬉しい事だ。
しかし、召喚てのは便利だな。
こんな通行手段があるなら、時間がない時は尚更だ。
そんな風に思ってしまう。
そして……召喚と言えば。
「さっきの竜、あれは何なんだ? あれ、ひょっとして幻獣ってやつじゃないのか?」
「うむ、その通り。あんな生き物はこの世におらん。幻獣界の住人だが、かなり強者の部類に入る」
「だろうなぁ。あれで普通とか言われたら幻獣界、おかしすぎるからな。なあ、クラウス」
……
返事がない。
振り向くと、マヤに抱きつくような格好をして、うつ伏せで眠ってしまっていた。
あの闇の世界ではクラウスが常に光の魔法で俺達を保護していた訳だから、相当、疲れただろう。
「マッツは眠くないのか?」
よく見るとリンリンも眠そうだ。
「おお、話しかけてごめんよ。寝てていいよ。マメも俺の足の上で寝てるぜ? 俺はまだ大丈夫。そのうち寝るよ」
「そか。さすが、タフじゃの」
ん? さすが?
「あ、ああ。まあ、昔から体だけは丈夫だったからな。でもこの旅で更にタフさに磨きが掛かった気がする」
「うむ。まあ、当然と言えば当然じゃな。さて……お言葉に甘えて、あったかいマッツにくっついて寝るとするか」
当然といえば当然??
どういう事だろうか。
「ああ。お休み」
「うん……お休み……」
リンリンのスイッチが切れた。
寝るの、はっや!
いや、どちらかと言うと、無理して俺に付き合って起きてたんだろう。
しがみついている腕の力が抜けると背中から落ちそうになる為、一旦マヤの背中におろし、ゴロンと仰向けになって添い寝してやる。
美しい夜空を眺めながらも、横になっていると、やはり睡魔が襲ってくる。
程なく……俺のスイッチも切れた。
―
翌朝。
大鳥マヤは、見事にファンジアの港まで俺達を運んでくれた。素晴らしいスピードだ。
出迎えてくれた仲間達に、まず、日時を確認。
なんと今は、俺達が『闇の断崖』に突入した次の日だと言う。
つまり今回も時間は飛んでいないという事だ。
「やるなぁ、クラウス! ヒムニヤ、サイエン並じゃないか!」
「やめて下さい、隊長! 褒めてもらうのは嬉しいですが、ヒムニヤ様達と私とではとてもとても……比べ物にはなりません」
謙遜するな! と、背中を1つ叩いて、今日は一旦、宿屋で1日、休ませてもらう事にした。
闇の世界に行くとかなり疲れる。
風呂に入らせてもらい、ゆっくり休み、寝る。
後から聞いたところによると、俺、クラウス、リンリンが寝ているその間、来客が絶えなかったそうだ。
問題を解決しに行った結果を聞きたがっているのだ。
皆で対応してくれたらしく、俺達は安心して体を休ませる事が出来た。
そして ―――
「かんぱ―――いッッ!!」
領主トビアス宛に事の次第を手紙にしたため、届けてもらえるよう手配し、救助した船が帰ってくるのを待たずに、明日の朝、今度はミラー大陸まで送ってもらえるよう、同じ船主に話をつけ、今日は3度目のヘンリックの誕生日祝いを兼ねて飲む事にした。
2度目の祝いの時も邪魔が入ったからな。
「しっかし凄かったぞ、リンリンの召喚は。何つったかな、あの竜……」
「『海竜王』ですね。ほんと、言葉が出なかったです」
クラウスも興奮する事しきりの『海竜王』。
強者の部類に入るって言ってたところを見ると、まだまだアレより凄い奴らがいるって事だ。
成る程、確かにあれだけの術が使えるなら、1人で旅も出来る訳だ。しっかりもしてるしな。
リディアが驚嘆し、身を乗り出す。
「『海竜王』って……あの幻獣の?」
「そうそう。この目でしっかりと見たぜ。普通、あんなもの見れないからな。何というか、凄いというか……とにかく凄かったよ!」
我ながら何という語彙の無さか、と思うが、凄いのは伝わっただろう。
「そう言うマッツもクラウスも十分凄かったぞ? クラウスの光の波動はこの世では稀少な光属性、且つ、ヒムニヤに教わったオリジナルじゃな? あれをあの長時間持続する事は並大抵の者に出来る事ではない」
おお~~っとリタ達から声が漏れ、アデリナが拍手、クラウスが照れ照れになる。
「マッツの光属性の剣の技も凄かったが……何より、あの長時間、根気よく皆を目覚めさせた、あの優しさがリンは素晴らしいと思った。2人、共通に言える事じゃがな」
「子供らしくない事言いやがって!!」
言いながら、真横でジュースをストローでちびちび飲んでいるリンリンの髪の毛をワシャシャと撫でてやる。
頭を撫でられるのが好きなようで、すぐに赤くなる。
そんな事をワイワイ言いながら、翌朝からはまた船の旅が続くため、この日は遅くまで飲み明かしたのだった。
ヘンリックとリンリンは途中で寝てしまったが……2人ともまだまだ可愛いもんだな。
そして翌日、ミラー大陸行き、俺達専用の特別便に乗った。
―
砂漠の国、カルマル王国。
最南端の街、ミンチェスタ。
5泊6日の船旅を終え、ようやく目的地のミラー大陸に足を踏み入れる。だが、神の種が発現するアスガルドまではまだ距離がある。まずはこの国を縦断しなけれぼならない。
ミンチェスタの街はなかなかに賑わっており、バザーがあちこちで開かれている。
テントが並び、珍しい動物達がつながれ、皆、興味津々、思い思いに眺めていた。
「見てみて、マッツ!」
売り物のテンガロンハットを被り、アデリナがにこやかに笑っている。
ここには衣類、武器、小道具と今までとは一風、雰囲気の違うものが売られている。砂漠はとても乾燥しており、衣類などは体の水分が抜けにくくする工夫などもされているそうだ。
それにしても日差しが強い。アデリナがかぶっている帽子も日差し対策の1つなのかもしれない。
そう言えば俺達、砂漠を渡るための知識なんか……全くないぞ?
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