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第4章 聖武具
《放浪者》対《滅導師》(1)
しおりを挟むマッツ達が無事ミラー大陸に渡航した、その1ヵ月半程、前のこと ―――
マッツ達と別れ、エイブル島を南に迂回し、空を高速移動しているのは、《放浪者》コンスタンティンとエッカルト。
見た目は10代中程、髪も瞳も漆黒。
いつもの青いとんがり帽子とローブを羽織り、澄まし顔をしている童顔の美少年。
コンスタンティン・グローマン。
当年とって244歳。
ヒムニヤをして、次の超人はコンスタンティン、と言わしめる知力と魔力をその小さな身に宿す。
実はマッツと別れた後、すぐに嫌な予感がしていた。
(いっそ戻って、マッツと共に旅をしてみるか?)
などと思ったものの、思い過ごしかも知れない、マッツの旅の邪魔は出来ない、と考え直し、予定通りにドラフジャクドへと向かっていたのだ。
3時間ほど飛行し、徐々に違和感を感じ出す。
「む……!?」
「どうしたんです? 先生」
エッカルトは気付いていないようだ。
進路が曲がっている事に。
「誰だ……僕にここまで干渉出来る奴……」
とポツリと口にしたと同時に、ある男の恐ろしい顔が頭に浮かぶ。
コンスタンティンは幼少の頃より圧倒的な魔力を持ち、共にドラフジャクドで『賢者』と呼ばれていた彼の両親からも、その実力を認められていた。
そんな彼に、初めて恐怖というものを植え付けた存在。
圧倒的な闇の力で彼の両親を屠って見せた、闇に浮かぶ顔。
―――
コンスタンティンはノーズ大陸が暗黒大陸と呼ばれだす頃より少し前、パヴィトゥーレ領の片田舎で生まれた。
彼の両親は共に国民から賢者と呼ばれる程、著名な魔術師であり、時折、ドラフジャクド皇帝に招かれては、力を貸す程の力を持っていた。
彼の両親も長寿であり、そして英雄の一人、《狩人》ロビンとも知己である。
ロビンがドラフジャクドに訪れていた頃に知り合い、溌剌とした彼女の気性がとても心地良く、不思議と相手を安心させる、人とはかくあるべき、とよくコンスタンティンに話していた事を今でも時折、思い出す。
そんな彼の両親の前に突然現れた悪魔。
それがヘルドゥーソ。
人呼んで《滅導師》。
ヘルドゥーソは、とある事情によって、彼の住処のある場所から外に出る事が出来ない。
ヴォルドヴァルドがノーズ大陸に住み着いたと聞きつけ、神の種発現の時に備え、思念体のままでも奪取出来るように準備を進めていた所だった。
ヴォルドヴァルドがロビンと共に生活していた為、迂闊に手が出せず、大っぴらにも動けず、足場固めに細かな策を弄していた。
そして決して自分の傀儡にはならず、いざという時に必ず敵となるであろう人物を消して回る。
『グローマン家』
ヘルドゥーソは、グローマンの賢者夫婦は必ず消さねばならない、と判断した。
コンスタンティン16歳、ある日の夜の事。
夢の中で、それまで見たことも無い、美しくそして不思議なオーラを纏う女性と出会う。
後になって、それは『慈愛の女神ツィ』であった事を理解するのだが。
彼女は彼にこんな事を告げた。
(残念ながら、避けられない不幸が貴方を襲うわ。でも決して抗ってはならない。もっと力をつけるまで)
それだけ言うと姿を消す。
……避けられない不幸?
そう思いながらふと目を覚ます。
成る程、確かに嫌な予感がする。
彼は素早く気配を殺し、二階の自分の部屋から両親が寝ているであろう、一階へと続く階段を降りて行く。
ギシ……ギシ……
普段は気にならない階段の軋みも最小になるよう、息すらも殺し、ゆっくりと降りる。
「何者だッッ!」
突然、父の声がリビングで響く。
よかった。無事のようだ。
ごめんごめん、僕だよ ―――、そう言いかけて金縛りに会う。恐怖で硬直したのだ。
階段の隙間から僅かに見えるリビング。
そこにはこれから寝る所であったのだろう、ガウンを着た両親が、コンスタンティンの反対側、部屋の壁側を向いてロッドを掲げている姿があった。
そして ―――
両親の向く方向に、彼が感じた恐怖の対象が浮かぶ。
空間を侵食する闇。
そしてその闇の中心に、瞼のない男の顔。
口元はニタリと笑い、瞳には狂気を宿す。
「あなた! まさかッッ!!」
「……うむ。お前、ヘルドゥーソだな? そのような面をした奴はそうそうおるものではない」
(フフ……仰る通りだ、賢者殿)
「《滅導師》……わざわざ、こんな所に何の用だ?」
(絶やしに来たのよ。『グローマン』を)
「ハァァァァァ―――ッッ!!!」
「エイヤァァァァ―――!!」
ヘルドゥーソと呼ばれるその顔がそう返答するや否や、コンスタンティンの両親が同時に攻撃魔法を放つ。
……が、魔法の効果は全て顔の前で弾かれ、全く届いていない事がコンスタンティンにはわかった。
無論、両親もわかっているだろう。
(時間をかけて遊ぶつもりはない)
(終わりだ)
咄嗟に父が母を背後に庇う。
父の背中で一瞬、後ろを向く母。
硬直していたコンスタンティンと目が合う。
そこにコンスタンティンがいる事に目を見開いて驚愕する母親だったが、声を出さずに口だけを僅かに動かし、最後に彼に微笑みかけた。
(逃げなさい)
確かにそう言った。
その数秒後、彼の目の前で2人は体中から血を噴き出し、あっという間もなく、あっさりと絶命する。
しかしその数秒で父は言葉を振り絞った。
「私達が死んだら、グローマン家は絶えてしまう!!」
と。
死の直前、父は自分を庇ったのだ、そう思った。
悔恨を叫んだ言葉は、この2人でグローマンは終わり、つまり家族は2人、と暗に示している。
(ククク……『賢者』とて、この程度か)
(案外、此度は楽かも知れぬ……)
そう言い残し、徐々に消える『闇』。
待て! よくも俺の両親を!
俺が、コンスタンティン・グローマンが、お前をやっつけてやる!
そう叫びたかった。
だが、現実にはそうはならず、彼は只々、恐怖に呑まれていた。
その日以来、彼は世界を放浪し始めた。
そして、それまでにも増して、己を鍛えに鍛え出した。
あの日、彼が見たあれに届く、と自分で思えるまで、力をつける。
一方で、目立ってもならない。
超人と呼ばれる者の凄さを間近で見た。
あんなものと比べられては敵わない。
のちにランディア国王ディミトリアスから『超人に最も近しい魔術師』と言われ、厳しく拒絶したのはそんな理由からだった。
力はつけるが、目立たない。
相反しがちな2つの目標を達成する為に……彼は復讐を捨てた。
家族に訪れた不幸を記憶の彼方に封じ込め、極力、超人達と関わらないように心掛けた。
闇雲に魔力を鍛える事をやめ、世界の理を学び、人を尊敬し、自然を愛する事にした。
そうして ―――
彼の身体的な成長、そして老化が止まった。
―――
「アイツだ……この感じは……間違いない……見つかってしまった……」
両手で自分を抱きながらそう言い、ガタガタと震え出すコンスタンティン。さながら、ニヴラニアの古代迷宮で彼を見た時の《破壊者》ボルイェのように。
このようなコンスタンティンを見た事が無いエッカルトが首をひねる。
だが、何かあるのだろう。
『先生』をここまで狼狽えさせ、恐怖させる何かが。
しばらくすると、エッカルトもようやく異変に気付く。あきらかにコースが左に90度、曲がっている。
エイブル島に沿って飛ぶはずなのに、いつの間にか、島からドンドン遠ざかっていく。
前飛ぶ感覚と自分達が向いている方向が変わらなかった為、全く気付かなかったのだ。
「これは……先生、何かに引き寄せられてますね……」
だが、返事が無い。
コンスタンティンの顔を見ると……真っ白だ。顔が青いというレベルでは無い。
完全に血の気が引いている。
少し、そっとしておこう。
そう考え、エッカルトは黙ることにした。
その間にも、彼らの飛行は徐々にスピードを速め、どうやらコンスタンティンの制御から完全に離れていることにエッカルトが気付く。
だが彼にはどうしようも無い。
そして ―――
バババババババババババババッッッ!!
突然、身体中に電気が走ったような感覚に襲われる。
2人は共に気を失い、落下した。
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