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第5章 陽の当たる場所に

5人目の超人(4)

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 ゴゴゴゴ……パラパラ……

 壁にめり込んだガイアが、ゆっくり体を起こす。
 その度に周りの土砂が崩れ落ちる。

(やるな竜人。さすがだ。だが素手で我とやるつもりか?)

 尻餅をつきながらも、強がるセリフを吐くガイア。

「俺の武器は、この体だ。むしろこの迷宮の特性は俺に好都合」

 拳を顔の高さまで上げ、右に左にくるくると捻ってみせるマメ。

(面白い! では、行くぞ!!)

 言うなり立ち上がり、歩幅にそぐわないスピードで一気に差を詰めるガイア。

「珍妙な歩き方をする奴……」

 そうマメが呟くのと同時に、ガイアの初撃が顔面を捉える!

 ガキィィィィィンッッ!!

 ……が、マメは手のひらでそれを防いでみせる。
 驚いた表情で、すぐに剣を引っ込めるガイア。

(なんと! 貴様、物理無効とな?)

「言ったろう。この迷宮は俺に好都合だとな」

(グヌヌ……それは卑怯千万。それでは我に勝ち目が無いではないか!!)

 そう言って諦めたようにだらりと腕を下ろし、マメに近付こうとするガイア。だが、リンリンが危険を察知、大声で叫ぶ。

「近付かせるな! マメ!! 『ベテルギウス』に気を付けろ!」

(チッ……)

 舌打ちしながらマメに飛びかかるガイア。
 マッツがすぐにヤバい代物、と見抜いた赤い剣をマメの肩口に振り下ろす。

 だが!

 シュンッッ!!
 またもや、ガイアの目前から消える。

(……?)

 ゾクリ。
 背後に殺気を感じるガイア。

 ドガッ!

 頭頂部への強烈な一撃!!

(ガフッッ!)

 ドォォォン!

 今度は顔から地面にめり込む。
 だが、下の腕で必死の抵抗をするガイア!

 ヒュン!! バキッ!

 振り払い、マメの左足を狙った剣は狙い通りにヒットする! ……が、しかしマメはノーダメージだ。

「その赤い剣、ベテルギウス以外は、俺の体に毛ほどのキズをつける事も出来ん」

 そう言って、大きく振りかぶり、ダメ押しの一撃を加えようとするマメ。

(待て待て! う~~~む。参った! 降参だ)

 地面に頭部を突っ込んだまま、ついに全ての剣を投げ出し、降参の意を示すガイア。

「やった! やっぱり凄いぞ! マメは!!」

 器用にマメの左足をジャンプ台にして、リンリンがマメの首に抱きつく。

「よかった……」

 血だらけのマッツを抱きかかえながら、リディアもようやく緊張が解けて、ホッ、と笑顔を見せる。

「ふむ。2発食らって生きていたのは、死古竜エンシェントボーンドラゴン以来だな。貴様、不死者アンデッドか」

 マメが自分の拳を見ながら不思議そうに言う。

 その死古竜エンシェントボーンドラゴンというワードに引っかかるリディア。

 ズボッ!

(何? いや、我は不死者アンデッドではないぞ?)

 ようやく地面から顔を抜き、正座のような形で座ったガイア。突然、不死者と言われて、キョトンとする。

「いや、お前は不死者アンデッドじゃぞ? まさか、自分でわかっとらんかったのか?」

 リンリンの指摘に、自分の顔を指差して、驚いた表情をするガイア・ヴラスト。

「まあ、そんな事はどうでも良いわ。マッツじゃ! マッツ、大丈夫か~~~!?」

 リンリンがマメから降りて、リディアに抱かれるマッツに駆け寄り、顔を覗き込む。

「おお、早くも斬られた跡が消えかけておる! なんと凄い……」

(つまり、マッツ・オーウェンも不死者アンデッド?)

「バカッ! あんたと一緒にしないでよね!!」

 ガイアの悪気の無い一言に痛烈な罵倒を浴びせるリディア。前言撤回で襲ってきた上、卑怯な手でマッツに勝った気でいるこの不死者アンデッドが相当、気に食わないらしい。

「全くじゃ! マッツはツィ様に愛されておるのじゃ! マメ!!」

 マメに目配せする。
 そのリンリンに向かって大きく頷くマメ。
 おもむろにガイアの襟首を掴み、軽々と持ち上げる。

「さて……死神。地上に抜ける事が出来る場所まで案内しろ。そのベテルギウスはお前が持っていると危ない。俺が預かり、後ほどマッツに渡す」

(ええ! それは嫌だ!)

 ガツン!!

 空中に浮きながら、マメの左手で3発目を食らうガイア!

「お前にはこれ位の理不尽さで、丁度良かろう」

(ヌヌヌ……暴力で無理やり言う事を聞かせようとするとは……)

 ドゴォォォォン!!

 強烈な4発目は、ガイアが地面に投げつけられたものだった。
 そして、ノシノシとガイアの元まで行き、今度は頭を捕まえ、そのまま持ち上げるマメ。

 それを見ながらリンリンが1つため息をつく。

「全く懲りん奴だのう。お前も散々、この迷宮に人を引きずり込んで、好き勝手していたのだろうが」

(うむ、その通り。では、赤い剣を授けるとしよう)

 どうしても上の立場でいたいらしい。

 大人しく渡された赤い剣を鞘ごと受け取り、神妙な面持ちをするマメ。

「おい死神。お前、これを誰から奪った? これの本当の持ち主は、そう簡単に勝てる相手では無かった筈だ」

 マメが不思議そうに言うと、何故か勝ち誇った顔をするガイア。

(ふふ。とんでもない、楽勝だったぞ? 何やらどこぞの盗賊のような奴だったが。あまりにも素晴らしい剣を持っていた為、ここに引きずり込んでやったのだ。もう一本、青い剣を持つ奴も砂漠にいたのだが、逃がしてしまった)

 リンリンと顔を見合すマメ。
 首を振り、チッと1つ舌打ちをする。

「……成る程な。それは五百年ほど前の事だろう?」

(む? まあ、其れ位だったかも知れぬな)

 もう一度、リンリンの方を見る。
 そして赤い剣を少しだけ鞘から出してしばらく見つめると、また戻す。

「お前がこの剣を手にする寸前、聖騎士オリオンは殺されていたという訳か。彼が殺されたのは丁度カナン歴千年の事。今から五百年程前の事だ」

(おお、そうなのか。そのオリオンとやらとやってみたかったのう)

 悪びれずにそんな事を言うガイアを無視して、リンリンが言葉を続ける。
 どちらかと言うと、リディアに聞かせようとしているようだ。

「オリオンが1人になるのを見計らって殺したのは《滅導師》ヘルドゥーソ。奴はオリオンが持っていた、桁外れの威力を持つ2本の聖剣が達人の手に渡るのを恐れ、ニヴラニアの古代迷宮の奥深くに隠そうとした。その途中で此奴に1本、横取りされたと言う訳だ」

 目を閉じて腕を組み、苦々しく語るリンリン。

「成る程ね。ガイアがここにいる以上、あいつはここに現れることも、戦う事も出来ないから、どうしようもなかったって事ね」

 そう理解したリディアだが、どうしても理解できない部分がある。この際、はっきりと聞いておく事にした。

「ねぇ、リンちゃん……1つ、聞いていい?」

 腕組みをしたまま、目だけを開けてリディアを見やるリンリン。

「なんじゃ?」
「リンちゃん、ひょっとして……めちゃめちゃ長生きなんじゃ……ないかしら?」

 そう考えると、リンリンの博識な部分や、召喚魔法の事などの辻褄が合う。

「まぁ……な」

 特段驚く様子もなく、だが、少しだけ言いにくげに、頭をポリポリと掻きながら呟く。

「やっぱり……。じゃ、もう1つ教えて? 昔、ドラフジャクドで死古竜エンシェントボーンドラゴンとリッチが暴れ回っていたのを退治したのって……リンちゃんじゃないの?」

 今度は、え!?と口に出して驚くリンリン。
 そして、リディアの目を見ながら、隠す事なく説明してくれた。

「よくそんな昔のこと、知っているのう。……そうだ。もう千五百年程前かな? マメと一緒に旅した先で、奴らと対決したのだ。……でも倒せなくてな。何をやっても死なんのだ、あいつらは。結局、遥か彼方にぶっ飛ばしてやったんだが」

 リディアは大きく頷く。
 成る程、と腑に落ちる。

 ドラフジャクドで国民が敬っていた救世主『聖女リン』とは、リンリンの事だったのだ!

 ドラフジャクドで見た聖女の像が、あまり今のリンリンに似ていなかった為、今まで繋がらなかったのだが、マメの『竜人』の姿を見て、クリントートの出来事を思い出した。

 聖女リンの像と、それを守る鬼の形相をした大男の像の前で、ヒムニヤを救出したあの時の事を。

 そこが結び付くと、もう1つの謎も解けるというものだ。

 ドラフジャクドを出て諸島への旅へと出る直前に、ふと浮かんだ疑問。

 ―――

「超人って、あと1人居るわよね」

 ―――


 それに対して、ヒムニヤははっきりと教えてくれなかったが、1つだけヒントをくれていた。


 ―――

「今のまま、お前達が正しい道を歩んでおれば、いずれ出会うだろう……1つだけヒントをやろう。ランディアからここまでの旅路のどこかで、お前達は既に奴に会っている筈だ」

 ―――

 人じゃなかった!

 像だった!

 そりゃわかりにくいよ、ヒムニヤさん! と心の中で苦笑いするリディアだった。

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