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第5章 陽の当たる場所に
5人目の超人(5)
しおりを挟む目が醒めると、全て片が付いていた。
既に薄暗い地下迷宮を抜け出し、(俺の記憶上は)たった1日だが、とても懐かしく感じる日の光を感じる。
ここはテントの中か。俺はそこで横たわっているようだ。腹部に心地良い重みを感じ、少し体を起こして見てみると、リディアだった。
俺の腹の上に頭を置いて、突っ伏して寝ているようだ。察するにずっと横で看病していてくれたのか。
俺がモゾモゾと体を動かすとすぐに目を覚まして体を起こすリディア。目を擦りながら俺と目が合うと、
「おはよう、気分はどう?」
明るい笑顔を向けてくれる。
「おはよう。ごめんよ、心配かけて」
「起きる? もうちょっと寝る?」
「起きる起きる。え―っと……」
結局、俺はどこで気を失ったんだ?
状況が思い出せないのと、起き抜けで記憶が混濁している。
「ちょっと待って。リンちゃんを呼んでくるね」
そう言ってテントを出るリディア。
良かった。取り敢えず、皆、無事なんだな。
リュックから洗面用具を出し、俺も外に出る。
砂漠の旅なので水は大目に持ってきている。
歯を磨いていると、すぐにリンリンが来た。
「マッツ~~~!!」
抱きついてくる。
その小さく可愛い頭を撫でてやりながら洗面を済ませる。チビ竜のマメが俺の頭に乗って、ミャーとひと鳴き。
「皆、心配かけて済まなかったな」
さっぱりした所で、もう一度テントに入り直す。
寝ていた簡易的なマットの上に胡坐をかいて座ると、ひょいっとマメが足の上で尻尾をまるめて寝る。鳴き声だけでなく、ほんとに猫のような奴だ。
「えと、正直、ガイアと戦った辺りから記憶が曖昧だ。その辺りから教えてくれないかな」
そうして、リディアに今に至る経緯を教えてもらう。
マメがガイアをのした後、地上に至る場所まで案内させたのだが、その間ずっと、マメが俺をおぶっていてくれたという事だった。
丸一日アルマジロっぽいやつに乗って移動、昨日の夜に地上に上がってきたと、そういう事らしい。
テントを張って休む直前に、また近々、お前達の前に現れる、と言い残し、マメはチビ竜の姿に戻っていったそうだ。
「お前が……助けてくれたのか。有難うな」
足の上で丸まって寝ているマメの頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めながら、小さくミャアと鳴く。
「……で、リンリンがあの『聖女リン』で、尚且つ、5人目の超人だって?」
バツが悪そうに少し俯いてヘヘヘと笑う。
「隠していた訳じゃないんだ。何だか言いそびれてな。改めてリンは超人だというのもなんかな……」
これが俺達が初めて出会う超人ならともかく、既に4人出会っていて、内、1人は一緒にパーティを組んで旅を共にした。
特にそのヒムニヤのお陰で、『超人』というのは、思っていたほど異世界の住人という訳ではなく、むしろ同じ人間(ヒムニヤは高位森妖精だが)、大して変わるものではない、と認識が改まった。
だからこそ、リンリンの正体を知っても、さらっと受け入れることができるのだ。
「いや、いいんだよ。超人だろうが聖女だろうが、リンリンはリンリンだ」
俺がそう言うと、ジッと俺の顔を見つめながら目を潤ませる。
「マッツゥ……お主は、ほんとにいい奴じゃのう……」
「だが、待てよ? ……そうか、もう何千歳というなら保護者もクソもないよな」
途端に泣き顔になり、両手を振り上げて憤慨するリンリン。
「え―――!! イジワル! マッツのイジワルゥ!!」
聞いた所では二千歳を超えているということだが、老人のような喋り方や博識さを除けば、やはり子どもそのものだ。
「冗談だよ。俺が保護者でいいなら、いくらでもなってやるさ」
「ほんとにイジワルじゃのう。おぬしは……」
そう言いながら真っ赤な顔をして、マメから俺の左足を奪って頭を擦り付けてくるリンリン。マメは迷惑そうな顔をしながら右の膝に頭を置きなおす。
どうやら単に甘えたいだけらしいが……それは保護者という役割とは関係ないのでは、とは思うものの、まあリンリンがそうしてほしいというなら、と思う。
結局、塵旋風によって分断されてから、2日たっただけで済んだ。
「ウェルゴはここからすぐじゃ、そんなに急がなくても今日中には着く」
膝の上で転がりながらリンリンが言う。アルマジロがかなり早いスピードだった事がわかる。
つまり、もう少しこのままゴロゴロさせてくれ、と。
「言いたい事はわかるが、ウェルゴでリタ達が待っているだろう。すこしでも早く着いて安心させないとな。休むならそこでにしよう」
「体は大丈夫なの?」
「ああ! じっくり休ませてもらったからな! ありがとう!」
リディアの最終確認にオーケーを返し、早速テントを畳んで、俺達はウェルゴを目指した。
無論、リンリンにグリフォンを召喚してもらって、だ。
―
その日の夜にウェルゴに到着。
ウェルゴには宿屋はいくつかあったものの、酒場は1つしかなく、そこですぐにリタ達と合流した。
来るとしたらまず酒場のはず、そう考えてここで集まっていたそうだ。
アデリナに抱きつかれ、クラウスに抱きつかれ、ヘンリックが苦笑いを浮かべ、リタが微笑みを浮かべる。
号泣しているアデリナがリディアと抱き合い、リタがリンリンを抱きしめる。
ひとしきり再会を喜びあった後、乾杯して少しだけ飲む。地下迷宮、ガイアとの話で盛り上がるが、例の話はここでは出来ないという事で、早々にリタ達が止まっている宿に移動し、一部屋に集まる。
ホテルのガーデンには大きな観葉植物が植えられ、あろう事か綺麗な泉が湧き出ており、砂漠の幻想的な夜景と相まってテンションが上がる。
「へぇぇ~~~リンちゃんがねぇ……」
膝の上に乗せたリンリンの髪の毛を弄りながら、リタが感心したように言う。
「って事は、また超人様とパーティを組んだ訳ですね!」
クラウスが興奮する。
こいつは意外に有名人とか名声とかに弱いタイプだな。
「マメちゃんも頑張ったねぇ~~~!」
アデリナはマメを離さない。
ずっと膝に置いて撫で回す。が、マメも満更でもないようだ。喉をゴロゴロと鳴らし、嬉しそうにしている。
「さて……そろそろ今回の旅の目玉だな。リタ!」
「ん?」
ぼ――っとリンリンを見つめていたリタ、不意に名前を呼ばれ、半開きの口で間の抜けた顔で返事をする。
「いやいや、これから最強の聖剣使いとなるお方が、そんなすっとぼけた顔をしてちゃダメだぜ? ……ほれ! ジャジャ―――ン!!」
そう言って『赤い聖剣ベテルギウス』を目の前に差し出す。
「これって……ひょっとして、聖騎士オリオンが持っていたもう一本の?」
「その通り! 死神ガイア・ヴラストが持っていた。それをマメが取り上げてくれたんだ。それを考えると、俺達があそこに引きずり込まれたのも、無意味じゃないだろ?」
俺が差し出した赤い剣を恐る恐る受け取り、ゆっくりと鞘から引き抜く。マジマジと剣身を見つめ、ゴクリと唾を飲み込むリタ。
「これは……凄いわね」
「『赤い聖剣ベテルギウス』は物理無効を切り裂く。最強の攻撃力を持つ『青い聖剣リゲル』と一対の剣。双剣使いでリゲルに選ばれたリタなら、問題無く扱えるだろう」
リタに髪の毛をクリクリといじられて心地良くなり眠そうな顔をしているリンリンが、いかにも超人っぽい説明をしてくれる。
「そうか。ひょっとしたらリンリンならわかるかもしれないな。アデリナ、あの弓、出して?」
シュ――ッとアデリナの手に、トーケル爺ちゃんから貰った美しい弓が現れる。
「おお、よかったよかった。無事、お主の手にわた……っと、それもお主達が持っているのか……これはいよいよ、ロビンとオリオンの意志を感じるのう」
ん? 何か引っかかる言い方だが……
アデリナの弓を手に取り、目を細めるリンリン。
「やっぱり……それは『ペルセウスの弓』って事で間違い無いんだな?」
「ああ。これはかつてロビンが持っていた史上最強の弓だ」
「おお! ついに、(仮)が外れたね!!」
アデリナが嬉しそうに言う。が、素直に喜べない。
俺達の下にこれ程の武器が揃うって事はそれだけの戦いが待っているって事か? どうしてもそんな風に考えてしまう。
「これでこのパーティに、かの英雄、ロビンとオリオンの武器が全て集まったことになる。正直、この旅を始めた時は予想もしてなかった事だ。だが……」
一度、皆を見回して、言葉を続ける。
「何度も言うが、ドラフジャクドの一件でヘルドゥーソが明確に敵に回っている事がわかっている。サイエンも俺達にとってはよくわからない立ち位置だ。この2人がそれぞれ神の種を集めている以上、どれだけ俺達が強くなっても安心は出来ない。今まで通り、気は抜かないでくれ」
「ええ!」
「わかったわ」
「そうですね!」
さて、ようやく仲間と合流できた。
次はアスガルドまで一直線だ。
ヒムニヤとヴォルドヴァルドに鍛えられ、格段に腕を上げた俺達のパーティに5人目の超人、《大召喚士》リンリンを仲間に加え、英雄ロビンとオリオンの武器を揃え、この時点で俺達は世界最強なんじゃないか、と口には出さないが実は思っていた俺。
だが、後から考えると、この時点では最強パーティへと駆け上がる階段を、ようやく一歩、登り始めた程度だったのだ……
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