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第5章 陽の当たる場所に
《聖騎士》オレスト(1)
しおりを挟むウェルゴでグリフォンをレンタルし、凡そ1週間ほどでアスガルドとの国境に辿り着いた。この辺りはもう砂漠ではなくなっており、緑地となっている。
丸太が組み合わさった壁のようなものが、それこそ見渡す限り建てられており、所々に櫓が組まれ、待機している弓兵が侵入者を阻んでいる。
カルマルが治安が悪くなった為に採られた措置との事だが、こんなものをあっさり作るとはアスガルドの国力、ヤバい。
さあ、ついに目的地、アスガルドだ!
ドラフジャクドを出発してから3ヵ月たち、神の種は発現しているだろうか? と意気込んで来たものの、この壁に入国を阻まれている。
どうしたものだろうか……
「国境が全て兵士と壁なんて有り得ないわ。そんな事をすればアスガルドの人間はどこにも出られないもの」
リタの真っ当な意見。
言われてみればその通りだ。どこかに往来用の門なり、扉なりがあるばずだ。
だが、リンリンも知らないらしい。前来た時はこんなものは無かった、と言っていた。
本来、レンタルグリフォンはアスガルドのこんな近くまでは来ない。従ってグリフォンに乗ったままだと目立つし、問答無用で射られても困ると思い、どこかにあるであろう入り口を探して、俺達は歩き出した。
―
2時間位経ち、ようやくそれっぽい場所を見つける。
遠目では分からなかったが、近付くに連れ、小さな通用門的な扉が見えてきた。
「大勢が出入りするような場所ではないだろうが……この際、何でもいいや。行ってみよう」
扉には少し迷彩が施されており、他の壁と見分けにくくなっている。つまり公的な出入りの場所で無い事はわかる。が、これ以上歩くのも当てがなさすぎる。
その扉の前まで来ると、向こう側、つまりアスガルド領側に人の気配があり、覗き窓のような所からひょいと中を覗くと守衛の人達が見えた。
「すみませ―――ん」
ここから出入りする奴などいないのかもしれない。そう思うくらい、守衛達は驚く。
「うお! 何だ何だ」
「誰だ、こんな所に何の用だ!」
覗き窓の向こうが急に騒めき出す。覗き窓を挟んで睨み合いだ。もちろん俺は努めて明るい笑顔をしていたのだが、全く警戒を解いてくれない。
「いや、あのぅ……俺達は怪しい者じゃないです。ランディアから、ある仕事の為に旅をしている途中でして」
「ランディア……ランディアだと!? メチャクチャ遠い国じゃないか。そんな場所からの旅人なんて、聞いた事がないぞ」
「まあそうかもしれませんが、事実です。何とか入れてもらえませんかね」
守衛達が何やら話しているが、
「ダメだ。ここから人を入れる事は出来ない。入りたければこれ沿いに西へ3日程歩いた場所にある国境門を通れ。正規の手続きをしてな」
結局ダメらしい。
だがなるほど。そういうルートがあるんだな。
なら、そこから入国するのが筋だろう。
「わかった。国境門てのがあるんだな。そうするよ。ありがとう」
そう言って去ろうとする俺の横から、覗き窓へひょいと顔を出すリンリン。
「お兄さん方、ここにいるマッツ・オーウェンは『剣聖』じゃぞ。聞いた事はないか?」
「剣聖……マッツ・オーウェン……」
皆、一様に首をひねる。
何だよ、知名度、無さすぎか!
リンリンに、まあいいよ、行こう、と声を掛けたその時。
「あの……かの高名な剣聖様がこんな辺鄙な場所に一体、何用で」
子供がいた為、警戒心が多少和らいだのか、ガチャリと扉を開けて中から数人の守衛が出て来る。
「えっ? こんな所まで名が売れてるんだ……剣聖ってすげぇな。目的は言えないんだ。国家機密でね」
「う―――む……そうですか」
すると返答した奴とは違う奴がまた質問して来る。
「では、アスガルドにお知り合いはおられますか?」
「ああ。まだ会った事は無いんだけど、オレストに会いに来ている。共通の友人、コンスタンティンの仲介でね」
一気に色めき立つ守衛達。
この感じを見るに、予め、オレストが話を通してくれていたのかもしれない。
「話は理解致しました。オレスト様から伺っております。が、剣聖様という身元の証明が出来ません。オレスト様をここにお呼びしますので、一旦我が国にお入りになり、申し訳ありませんが、到着されるまで、少しお待ち頂いてもよろしいですか」
一気に慇懃な態度に変わる守衛達。
やはりオレストか。
「わかった。ありがとう。待たせてもらいましょう」
俺達は中に通され、遂にアスガルドの地に足を踏み入れた。
壁の内側は、今まで旅してきた各国の辺境と同じく閑散としていたが、これまで施設らしい施設が殆どなかった砂漠の事を思えば、快適さにおいて天と地ほどの開きがあった。
取り敢えず、宿と酒場があれば待つ事はさほど苦ではない。
歩いて3日の国境門まで行った方が早かったのだが、オレストにも早めに会っておきたい。何しろ、アスガルドに知り合いなどいない。彼しか頼るものがいないのだ。
オレストは2週間程で来る、という事だったのでそれまで待つ事にした。
―
相当急いだらしく、オレストは8日間で来た。
片道1週間、つまり呼びに行くのに1週間かかっている事を考えると、こいつは僅か1日でここまで来た事になる。
後から聞いたのだが、こいつもコンスタンティンと同じく空を歩ける(飛べる)らしい。
全く、超人に近い奴ってのは……
お陰で、間の悪い事にアデリナの誕生日と被り、一応仕事優先という事で、アデリナにはまた今度、ちゃんとお祝いをしようという事で納得してもらったのだが……
その時の少し拗ねた顔、そして少し考えた後の何か良くない事を思いついたっぽい、悪そうな笑顔と共に了解を貰ったのがとても気になる。
「お前がマッツ・オーウェンか! 聞いてた通り、俺によく似て男前だな!!」
いや、顔、全然似てませんけど……
コンスタンティンの言う通り、体格、背丈は似たようなもんだ。
だが、こいつは金髪、碧眼、鼻が高く、口元もキリッとしており、イケメンだ。
聖騎士というからにはシルバーで固めたプレートメイルに身を包んで現れるのかと思いきや、普通のレザージャケットに長ズボン、黒のブーツ、とそれこそ旅人のようなラフな格好で現れる。
そして、確かにこいつは相当な達人だとすぐにわかる。ちょっとした仕草や佇まいに嫌でも滲み出る、隙のなさ。
両腰に1本ずつ剣を差している所を見ると双剣使いなのだろう。
「そうかい? 悪かったな、忙しい時に呼び出して……」
そう言うと胸を張ってニヤリと笑うオレスト。
「何の! 今、コンスタンティン、マッツ・オーウェンに会う事以上に重要な事など、そうはあるものか。こちらこそ待たせて悪かったな。まさかこんな辺鄙な所に現れるとは思わなかったんでな……」
どうやらここは辺鄙な所らしい。
土地勘が無いから全くわからん。
やはり国境の地図位、入手しておくべきだったか。
よもやこんな壁があろうとは思わなかったからな。
オレストは国境門から内側に近い、ヘンケルダークという街にある砦で逗留していたらしい。
俺達の旅の噂はコンスタンティンからではなく、人づてに噂として聞いており、会うのが楽しみだったと言っていた。
「竜を倒すような奴がこの世にいるとはなあ! 強いんだってな! お前!!」
「お前こそだよ。こうやって向かい合ってても怖い位だ。それにコンスタンティンが言ってたよ。ボルイェよりオレストの方が強いってな」
そう言って、少し声を落とす。
神の種については、こいつに頼るより、無い。
聖剣も貸しておいて貰わないと困るしな。
「実はオレスト、少し頼みたい事がある。ここではちょっと……」
片目を瞑り、何故か我が意を得たりとニヤつくオレスト。
「そうか。それは良かった」
え? どういう意味だ?
「実は……俺もだ。お前達の来訪はとてもタイミングが良かった」
ぐっはぁ……
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