神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
158 / 204
第5章 陽の当たる場所に

3つ目の神の種(2)

しおりを挟む

 行きと同じ帰り道を通り、早朝に王都に到着、出迎えてくれたのは、悲壮な顔をしたリディア達だった。

 まずはお互い、離れていた10日間を埋める為の情報共有を行う。
 だが、リディアはそれすらじれったい、といった感じでソワソワしている。相当の事が起こったらしい。


「じゃ、まず神の種レイズアレイクの件から聞こうか。何があったんだ? わかるように言え」
「マッツ、コンスタンティンが……」

 言い出すリディアをリンリンが制止し、オレストに目配せをする。
 頷き、順を追って話し出すオレスト。

「まず、神の種レイズアレイクだが、有力なモノが見つかった。リディアの太鼓判付きだが……正確には『神視』持ちのお前に確認して貰わなくちゃならん。リンリンに飛んで貰えば、ここから4時間程で着く」
「おお、そうか! ありがとう! ……で?」

 まだ何かある事はわかっている。

「それを見つけた帰り道、ヘルドゥーソに出会った」
「……」

 十分、考えられた事だ。

 だから、オレスト、リンリンという最強コンビにリディアの護衛を頼んだんだ。

「特に攻撃してくる訳でも無く、ただ、お前への伝言を預かった」
「俺に? 伝言?」
「ああ。見たままを伝えろと。そして俺達は『世界の眼』の内部の映像を見せられた」

 伝言……
 ヘルドゥーソから……?

 だが、心当たりなど、あるはずも無い。

「何が映っていた?」
「十字架に磔になったコンスタンティンだった」
「何だってッッ!!」

 思わず立ち上がる。
 他の皆も腰を浮かす。

「落ち着け。俺も一瞬トチ狂った。だが恐らく死んではいない。リンリンちゃんが映像越しに感じたらしい」

 静かな口調を変えないオレスト。
 ……助かる。

神の種レイズアレイクを持って『世界の眼』まで来いって事か」

 頷くが、直接それには答えず、続けるオレスト。

「お前の旅の目的は魔神ミラーの召喚を阻止する事だ。つまりここの神の種レイズアレイクを見つけ、確保すれば事足りる。そうされては困るからだろうな。思念体ではお前達に勝てない為、どうしても本拠地まで来て貰う必要があるんだろう」
「元々、そうするつもりさ」

 一旦、落ち着いて坐り直す。

「そうだ。それは最初にお前が言っていたな。俺の想像だが、こうまでしてお前をおびき寄せたい理由が、確実にお前を殺したい、というのと別に、何かあるような気がする。何かはわからんがな」

 ……ふむ。

 ここの神の種レイズアレイクは見つけるのが困難だ。
 恐らく、ヘルドゥーソも見つけてはいないんだろう。俺が持って行く事で奴からすれば一石二鳥って訳だ。

「よし! わかった。コンスタンティンは心配だが、まずは神の種レイズアレイクを収集しに行く」

 大きく頷くオレスト。

「そしてコンスタンティンの救出を急ぎたい。だが、その前にオレスト。『ケルベロス』の居場所を教えてくれ。出発前に彼女達に会っておきたい」
「なに? 『ケルベロス』だと? 暗殺者アサシンのか? お前、奴らと知り合いなのか?」

 さすがに驚くオレスト。

「ああ。ヨトゥム山で再会してね。ちょっと雰囲気が変わっていた。いや、かなり、かな」
「フーム。だが、それはコンスタンティンの救出に優先するのか?」
「するとも」
「わかった。案内してやろう」

 これでよし。今度は皆に向かう。

「聞いての通りだ。まずは神の種レイズアレイクの収集とケルベロスに会いに行くが、これは俺とリンリン、オレストだけでいい。それが終わったら『世界の眼』そして『魔力の暴風域』を一気に攻略し、ヘルドゥーソを地の果てまでぶっ飛ばしてやる。皆、出発の用意をしておいてくれ。今度は途中で街は無いから補給できないからな。そのつもりで」

 皆、大きく頷く。
 最後にオレストに向かい、言葉をかける。

「オレスト。取り敢えず、エルトルドーは消滅した。国王にはそれだけ伝えてくれ。詳しくは神の種レイズアレイクの場所に向かいながら話そう」
「わかった」

 そうして俺達は慌ただしく、また出発の準備に取り掛かった。


 ―

 その5時間後。
 エルトルドー戦について細かく話しながら、リンリンに連れられた俺達はある神秘的な森の中、小さな池の前にいた。

 飛行中に何やら目を瞑り、リンリンがブツブツ言っていたのが気になり、聞いてみる。

「フフフ……内緒じゃ! マッツはリンをよく見てくれているなぁ!?」

 そう言って腕に抱きついてきた。

 何か誤魔化されたようだが……ま、リンリンを信頼しているからな。言いたくないんなら深くは聞かないさ。


 木々の間を進んで行くと、少しずつ妖気のような気配が増していくのを感じる。

「何か、いるな」
「精霊だそうだ」

 オレストがすぐに教えてくれる。

 精霊……ねぇ。


「いたぞ」

 一段と低い声で、オレストが囁く。

 池の真ん中辺りで何やらクルクルと楽しそうに踊っている子供。いや、子供位の背丈の精霊。

 ……うむ。
 見た事、ある奴だ。

「あまり驚かないな?」

 リンリンが腕に抱きついたまま、俺の顔を不思議そうに覗き込む。

「あはは……去年、古竜の大森林で死にかけた時、出会った奴だ」
「「え?」」

 隠れもせず、そのまま草木をかき分けて進む。

 ザッザッザッザッ

「ヒャッッ?」

 黄色い瞳をこちらに向け、真っ青な皮膚をしたアイツが俺の方を見る。

「誰だッッ!?」
「お――い! 俺だよ! 久しぶりだな!?」
「え……? 誰だ、お前……」
「……あれ?」

 池のほとりで歩みを止める。
 池の真ん中で踊りを止める。

 お互い、見つめ合い、微妙な時間が流れる。

「何してんだ、あいつら……」

 後ろでオレストの声が聞こえる。


「あれ? お前、エーリッキじゃないのか?」
「何言ってんだてめぇぶっ殺すぞ!!」

 ありゃ……別人、いや、別精霊だったようだ。

「お前、エーリッキの兄貴を知ってやがるのか?」
「お前の兄貴なのか?」

 エーリッキの名前が出た事で警戒を解いたのか、スーッと俺の所に近寄ってくる。

「そうだ。兄貴は俺らウンディーネの中でも、無茶苦茶出来る奴なんだぞ?」
「え? お前達、ウンディーネなの?? ウンディーネって、俺はてっきり可愛い女の子の精霊だと思ってたが……」
「ウンディーネっつったら可愛い少年だろ常識だろバカかこのヤロー」

 特に見た目、怒った顔をしているわけではない。
 が、しかし……

「口悪いな、お前……俺はマッツ・オーウェンて言うんだ。エーリッキに命を助けられた事がある。お前、名前はなんて言うんだ?」
「俺か? 俺はテンマってんだ。まあ、覚えなくてもいいぞ?」

 ここはエーリッキと似たような口調……
 ウンディーネが名乗る時のテンプレなんだろうか。

「そうか、エーリッキは出来る奴なのか。それで百竜の滝に?」
「ななな何だってぇぇ!! ひぃぇぇえええ! 今、兄貴は百竜の滝を守っているのか! すすすげぇ!」

 これは嬉し驚いているようだ。初めて少し笑みを見せながら、仰け反る。

「そうか、それはすごい事なんだな」
「当たり前だろぶっ殺すぞ」
「口悪いな、お前!!」

 これだけ悪態をついていても、特に怒りの感情が見えるわけではない。不思議な奴だ。

「見ろよ、俺がついてるのはこの『池』だぞ! だがこれはまだマシな方だ! もっと酷い奴は雨の日にできる『水たまり』守ってたり、最悪のやつは『汗』守ってたりするんだぞ! 汗って何だよ! 守ってどうすんだよ! すぐ蒸発するじゃねぇか!!」

 ウンディーネの悲しい現実をめちゃくちゃ力説される。

「いや、俺に言われても知らんよ……」
「で、俺に何か用か?」

 急に落ち着いた口調で本題に戻るテンマ。
 情緒不安定な奴だ。
 だが、俺は負けん。

「お前が持ってる、その『魔法の粉』を俺にくれ」
「なんでだ?」
「それは欲しい人間にとっては非常に希少価値のあるモノで、それを持ってると危ない。お前も、そしてこの世界もだ。だから俺が保護する」

 いきなりこんな事を聞かされて普通は困惑する筈だが、さすがは精霊、そういった部分には一切乗ってこない。

「え~~。これ、面白いからなあ。どうしようかなあ」
「面白いって何が?」
「これ、袋からいくらでも粉が出るんだ、面白いだろ」

 そう言って袋を逆さにするテンマ。
 中から煌めく真っ白い粉がサラサラと止めどなく溢れ出る。一向に止まりそうにない。

「お~! ほんとだ、すげえな」
「お~! この面白さがわかるか」
「うん。俺にくれ」

 可愛らしい笑顔を見せるテンマに率直に言ってみる。

「うーん、あげてもいいが……そうだ! 俺を百竜の滝に連れてってくれ」

 あげてもいいのかよ。
 やはり、イマイチついていけん。

 いつの間にやら背後に来ていたリンリンとオレスト。
 オレストが口を挟む。

「精霊ならパッと行けるんじゃないの?」
「いや、こいつらの移動は物理的に移動するんだ」

 俺は知っている。
 滝に帰る為、川に飛び込んで泳いでいったエーリッキを……


「そうだ! 俺1人じゃあんな所まではとてもいけねー!! 貴様らが連れて行け!」
「『貴様』って!」
「本当に口が悪いのう……」

 リンリンが閉口する。

「エーリッキはもっと可愛かったんだけどな」

 ちょっとだけ当てつけクサく言ってやる。

「うるせーバカやろーぶっ殺すぞどうすんだこのやろー」
「わかったわかった……但し、全ての事がすんでからだ。今すぐは無理だ」
「なんだと貴様! いいよ、別に後でも」

 いいのかよ、ややこしいな。

「終わったら必ず迎えに来るよ。百竜の滝は俺達の帰り道だ。一緒に行こう」
「よっしゃ交渉成立、もってけ!!」

 何というか……

 こんな形ではあったが、俺達は遂に初めて『神の種レイズアレイク』を手に入れたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...