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第5章 陽の当たる場所に
3つ目の神の種(2)
しおりを挟む行きと同じ帰り道を通り、早朝に王都に到着、出迎えてくれたのは、悲壮な顔をしたリディア達だった。
まずはお互い、離れていた10日間を埋める為の情報共有を行う。
だが、リディアはそれすらじれったい、といった感じでソワソワしている。相当の事が起こったらしい。
「じゃ、まず神の種の件から聞こうか。何があったんだ? わかるように言え」
「マッツ、コンスタンティンが……」
言い出すリディアをリンリンが制止し、オレストに目配せをする。
頷き、順を追って話し出すオレスト。
「まず、神の種だが、有力なモノが見つかった。リディアの太鼓判付きだが……正確には『神視』持ちのお前に確認して貰わなくちゃならん。リンリンに飛んで貰えば、ここから4時間程で着く」
「おお、そうか! ありがとう! ……で?」
まだ何かある事はわかっている。
「それを見つけた帰り道、ヘルドゥーソに出会った」
「……」
十分、考えられた事だ。
だから、オレスト、リンリンという最強コンビにリディアの護衛を頼んだんだ。
「特に攻撃してくる訳でも無く、ただ、お前への伝言を預かった」
「俺に? 伝言?」
「ああ。見たままを伝えろと。そして俺達は『世界の眼』の内部の映像を見せられた」
伝言……
ヘルドゥーソから……?
だが、心当たりなど、あるはずも無い。
「何が映っていた?」
「十字架に磔になったコンスタンティンだった」
「何だってッッ!!」
思わず立ち上がる。
他の皆も腰を浮かす。
「落ち着け。俺も一瞬トチ狂った。だが恐らく死んではいない。リンリンちゃんが映像越しに感じたらしい」
静かな口調を変えないオレスト。
……助かる。
「神の種を持って『世界の眼』まで来いって事か」
頷くが、直接それには答えず、続けるオレスト。
「お前の旅の目的は魔神ミラーの召喚を阻止する事だ。つまりここの神の種を見つけ、確保すれば事足りる。そうされては困るからだろうな。思念体ではお前達に勝てない為、どうしても本拠地まで来て貰う必要があるんだろう」
「元々、そうするつもりさ」
一旦、落ち着いて坐り直す。
「そうだ。それは最初にお前が言っていたな。俺の想像だが、こうまでしてお前をおびき寄せたい理由が、確実にお前を殺したい、というのと別に、何かあるような気がする。何かはわからんがな」
……ふむ。
ここの神の種は見つけるのが困難だ。
恐らく、ヘルドゥーソも見つけてはいないんだろう。俺が持って行く事で奴からすれば一石二鳥って訳だ。
「よし! わかった。コンスタンティンは心配だが、まずは神の種を収集しに行く」
大きく頷くオレスト。
「そしてコンスタンティンの救出を急ぎたい。だが、その前にオレスト。『ケルベロス』の居場所を教えてくれ。出発前に彼女達に会っておきたい」
「なに? 『ケルベロス』だと? 暗殺者のか? お前、奴らと知り合いなのか?」
さすがに驚くオレスト。
「ああ。ヨトゥム山で再会してね。ちょっと雰囲気が変わっていた。いや、かなり、かな」
「フーム。だが、それはコンスタンティンの救出に優先するのか?」
「するとも」
「わかった。案内してやろう」
これでよし。今度は皆に向かう。
「聞いての通りだ。まずは神の種の収集とケルベロスに会いに行くが、これは俺とリンリン、オレストだけでいい。それが終わったら『世界の眼』そして『魔力の暴風域』を一気に攻略し、ヘルドゥーソを地の果てまでぶっ飛ばしてやる。皆、出発の用意をしておいてくれ。今度は途中で街は無いから補給できないからな。そのつもりで」
皆、大きく頷く。
最後にオレストに向かい、言葉をかける。
「オレスト。取り敢えず、エルトルドーは消滅した。国王にはそれだけ伝えてくれ。詳しくは神の種の場所に向かいながら話そう」
「わかった」
そうして俺達は慌ただしく、また出発の準備に取り掛かった。
―
その5時間後。
エルトルドー戦について細かく話しながら、リンリンに連れられた俺達はある神秘的な森の中、小さな池の前にいた。
飛行中に何やら目を瞑り、リンリンがブツブツ言っていたのが気になり、聞いてみる。
「フフフ……内緒じゃ! マッツはリンをよく見てくれているなぁ!?」
そう言って腕に抱きついてきた。
何か誤魔化されたようだが……ま、リンリンを信頼しているからな。言いたくないんなら深くは聞かないさ。
木々の間を進んで行くと、少しずつ妖気のような気配が増していくのを感じる。
「何か、いるな」
「精霊だそうだ」
オレストがすぐに教えてくれる。
精霊……ねぇ。
「いたぞ」
一段と低い声で、オレストが囁く。
池の真ん中辺りで何やらクルクルと楽しそうに踊っている子供。いや、子供位の背丈の精霊。
……うむ。
見た事、ある奴だ。
「あまり驚かないな?」
リンリンが腕に抱きついたまま、俺の顔を不思議そうに覗き込む。
「あはは……去年、古竜の大森林で死にかけた時、出会った奴だ」
「「え?」」
隠れもせず、そのまま草木をかき分けて進む。
ザッザッザッザッ
「ヒャッッ?」
黄色い瞳をこちらに向け、真っ青な皮膚をしたアイツが俺の方を見る。
「誰だッッ!?」
「お――い! 俺だよ! 久しぶりだな!?」
「え……? 誰だ、お前……」
「……あれ?」
池のほとりで歩みを止める。
池の真ん中で踊りを止める。
お互い、見つめ合い、微妙な時間が流れる。
「何してんだ、あいつら……」
後ろでオレストの声が聞こえる。
「あれ? お前、エーリッキじゃないのか?」
「何言ってんだてめぇぶっ殺すぞ!!」
ありゃ……別人、いや、別精霊だったようだ。
「お前、エーリッキの兄貴を知ってやがるのか?」
「お前の兄貴なのか?」
エーリッキの名前が出た事で警戒を解いたのか、スーッと俺の所に近寄ってくる。
「そうだ。兄貴は俺らウンディーネの中でも、無茶苦茶出来る奴なんだぞ?」
「え? お前達、ウンディーネなの?? ウンディーネって、俺はてっきり可愛い女の子の精霊だと思ってたが……」
「ウンディーネっつったら可愛い少年だろ常識だろバカかこのヤロー」
特に見た目、怒った顔をしているわけではない。
が、しかし……
「口悪いな、お前……俺はマッツ・オーウェンて言うんだ。エーリッキに命を助けられた事がある。お前、名前はなんて言うんだ?」
「俺か? 俺はテンマってんだ。まあ、覚えなくてもいいぞ?」
ここはエーリッキと似たような口調……
ウンディーネが名乗る時のテンプレなんだろうか。
「そうか、エーリッキは出来る奴なのか。それで百竜の滝に?」
「ななな何だってぇぇ!! ひぃぇぇえええ! 今、兄貴は百竜の滝を守っているのか! すすすげぇ!」
これは嬉し驚いているようだ。初めて少し笑みを見せながら、仰け反る。
「そうか、それはすごい事なんだな」
「当たり前だろぶっ殺すぞ」
「口悪いな、お前!!」
これだけ悪態をついていても、特に怒りの感情が見えるわけではない。不思議な奴だ。
「見ろよ、俺がついてるのはこの『池』だぞ! だがこれはまだマシな方だ! もっと酷い奴は雨の日にできる『水たまり』守ってたり、最悪のやつは『汗』守ってたりするんだぞ! 汗って何だよ! 守ってどうすんだよ! すぐ蒸発するじゃねぇか!!」
ウンディーネの悲しい現実をめちゃくちゃ力説される。
「いや、俺に言われても知らんよ……」
「で、俺に何か用か?」
急に落ち着いた口調で本題に戻るテンマ。
情緒不安定な奴だ。
だが、俺は負けん。
「お前が持ってる、その『魔法の粉』を俺にくれ」
「なんでだ?」
「それは欲しい人間にとっては非常に希少価値のあるモノで、それを持ってると危ない。お前も、そしてこの世界もだ。だから俺が保護する」
いきなりこんな事を聞かされて普通は困惑する筈だが、さすがは精霊、そういった部分には一切乗ってこない。
「え~~。これ、面白いからなあ。どうしようかなあ」
「面白いって何が?」
「これ、袋からいくらでも粉が出るんだ、面白いだろ」
そう言って袋を逆さにするテンマ。
中から煌めく真っ白い粉がサラサラと止めどなく溢れ出る。一向に止まりそうにない。
「お~! ほんとだ、すげえな」
「お~! この面白さがわかるか」
「うん。俺にくれ」
可愛らしい笑顔を見せるテンマに率直に言ってみる。
「うーん、あげてもいいが……そうだ! 俺を百竜の滝に連れてってくれ」
あげてもいいのかよ。
やはり、イマイチついていけん。
いつの間にやら背後に来ていたリンリンとオレスト。
オレストが口を挟む。
「精霊ならパッと行けるんじゃないの?」
「いや、こいつらの移動は物理的に移動するんだ」
俺は知っている。
滝に帰る為、川に飛び込んで泳いでいったエーリッキを……
「そうだ! 俺1人じゃあんな所まではとてもいけねー!! 貴様らが連れて行け!」
「『貴様』って!」
「本当に口が悪いのう……」
リンリンが閉口する。
「エーリッキはもっと可愛かったんだけどな」
ちょっとだけ当てつけクサく言ってやる。
「うるせーバカやろーぶっ殺すぞどうすんだこのやろー」
「わかったわかった……但し、全ての事がすんでからだ。今すぐは無理だ」
「なんだと貴様! いいよ、別に後でも」
いいのかよ、ややこしいな。
「終わったら必ず迎えに来るよ。百竜の滝は俺達の帰り道だ。一緒に行こう」
「よっしゃ交渉成立、もってけ!!」
何というか……
こんな形ではあったが、俺達は遂に初めて『神の種』を手に入れたのだった。
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