神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第6章 魔獄

救出(5)

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 一旦話を中断して、まずは扉が開いている間に進んでしまおう、という事になった。

 ヘネ・ルードは半年位は開いているのでは、と言っていたが、当時とは変わっているかもしれないしな。

 皆、クラウスの治療呪文によって回復済みだ。

 ヘンリックとナディヤも程なく目覚め、少ししてから進む事にした。

 扉の先の洞窟はまたまた広い洞窟となっており、飛竜ワイバーンを再び召喚、飛行しながら進む。

 その間にお互い、自分の所がどんなルートだったかを言い合ったのだが、オレストのルート、つまり、『平坦→』と書かれていたところは、結論として平坦どころの騒ぎではなかったようだ。

 確かに途中までは道は平坦、モンスターは殆ど出ず、オレストも、このままだと早く着きすぎるなぁ! などと余裕をかましていたらしい。

 しかし、突き当たりにあった扉を開いた瞬間、一気に氷の世界へと変わってしまったらしい。
 オルトロスに乗せた荷物から防寒具を取り出して着込み、更にリディアの魔法で寒さは凌いだらしいが、トラップがそこかしこで発動、至る所から槍が飛び出してくる。しかもトラップの有無に関わらず、モンスターが出現し、休む事もままならない状態でとにかく進み続け、ルート踏破の扉の前で『フシュルムトゥス』と名乗る、魔法無効の氷の精霊とのバトルとなったそうだ。

 同時に大量のエンペラーデーモンが湧き出たため、リディアとナディヤでデーモン達を、オレストがフシュルムトゥスと戦ったらしいが、リディアの『絶対障壁アブソル・バギアン』の効果が切れるのをわかっているかのタイミングであらゆる攻撃とトラップが集中、結果、ナディヤの怪我をはじめ、大打撃を受けてしまったとの事だった。

 オレストの防寒具が無かったのは、戦いに邪魔で途中で投げ捨てたから、らしい。ボロボロの状態だったが何とか殲滅、まずは先に扉から出た、というのが顛末と苦々しげにオレストが語ってくれた。

「そんなの、オレストのせいでもリディアのせいでも無いだろう。むしろよく無事で出て来てくれた。さすがだ、お前達」
「しかし、どうして途中からそんなに変わったのかしらね……?」

 ラディカが首をひねる。
 確かに。

「ラベルについてた、あの矢印だわ」

 リタが即答する。
 さっきの話を聞いて、何やら理解したらしい。

「矢印?」

 オレストが聞き返す。

「『平坦』の横についていた右矢印は、途中から右の『困難』に変わるよってことね。逆に私達のところの『困難』についていた左矢印は、同じように途中から『平坦』に変わるって意味だと思うわ」
「ぐ……何だと……」

  楽そうな道を選び、非難を浴びたオレストだったが、結果的にはかなりきついルートだった。

 どこも楽なルートなどは存在せず、俺達は改めて『世界の眼』の攻略が簡単なものではないと再認識した。


 ―

 4ルート踏破してから10日ほど進んだ。

 景色もさして変わらず、一見、ループしているような嫌な感じを受ける。

 だが、ついに進展がある。

「洞窟の真ん中に誰かいるわ!」

 先頭を飛ぶリタから声が上がる。

 ……女だ。
 洞窟のど真ん中で女が1人、座っている。

 俺達が近付くと、スッと姿勢良く立ち上がる。
 視線の先は……俺だ。

 そして、かなり色っぽい女である事がわかる。

 細身の身体にそこそこある胸とそれを包む黒いビキニ。それに合わせるかのような黒いミニスカート、黒いストッキングに黒いヒール。

 クッ! また俺への試練か!?
 エロい格好しやがって……

 真紅の長髪は腰まであり、しかもヒムニヤに負けず劣らずの超美形だ。

 もちろん、森の妖精エルフ、という訳ではないらしい。どちらかというと魔族……? 所謂、そんな雰囲気を纏っている。

「フン。あからさまだな」

 オレストが横で呟く。
 そして、後ろからリンリンが飛竜ワイバーンを駆り、俺の横に来ると、

「マッツ、アレは魔神じゃ。気をつけろ」
「魔神……」

 その言葉は俺を萎縮させる。
 手も足も出なかったアスラとの一戦、今まで忘れた事は一度もない。

 女の近くまで飛び、地面に降り立つ。
 取り敢えず、俺1人で行く。
 残りの皆は飛竜ワイバーンで待機だ。

「マッツ……」

 リディアが心配そうにしてくれている。彼女もアスラ被害者の1人だからな。

 だが……

 こいつから敵意を感じない。
 何故だ?

 数メートルの距離で向かい合う。
 確かに凄まじい魔力を感じるものの……怖さは感じない。きっとこいつがエロいから……いや、敵意がないからだ。

 しばらく何も話さず、腕を組み、俺を見ていたその女魔神だったが、やがて、赤い紅のひかれた美しい唇を開く。

「お前がマッツ・オーウェンか?」
「そうだ」

 グッと唇を噛み締め、

「そうか。やはり来たな。待っていたぞ。私は魔神ゾフィー。この体に魔法は通じない。お前をこの場で殺す」

 そんな怖いセリフを吐きながら近づいてくる。
 そして、俺の目を凝視する。

 だが敵意を感知しない。
 やはり、こいつは俺に敵意が無いようだ。

 手を伸ばせば届く距離まで近寄ってくる。

「やるな、お前……さすがダーリンが認めている人間ね」

 少し口の端を上げて寂しそうに笑うゾフィー。
 俺にしか聞こえない小さな声でそう囁く。

「ダーリン?」
「さっきも言ったけど……私は魔法無効。お前の剣技で私を遥か後方へ吹っ飛ばし……追いかけてきてくれ」
「は? 何だって?」
「行くぞッ!」

 言い様、バックステップを踏み、距離を空ける。

「ハッ!! 魔炎ダヴィンフラム!!」

 ゾフィーの合わさった両の手首の辺りから噴き出す炎!

「『絶対魔法防御ソリュマギィ・ヴァーンティン』!!」

 クラウス!
 予め唱える準備をしていたんだろう。

 虹色に光るバリアが炎を完全に遮断する。

「ボォーッとするな!!」

 オレストが剣を抜き、飛竜ワイバーンから飛び降りてくる。

「待て、オレスト。こいつは俺がやる(何か事情があるようだ)」

 後半、小声でそう言った俺に怪訝な顔をするが、ゆっくり下がるオレスト。

 しかし、遥か後方へ吹っ飛ばし、追いかけて来いって言ってたな。
『遥か後方』って、どれくらいだ?


 ……わからん。

 出来る限り、吹っ飛ばすか!!

 シュタークスを俺の前方に円を描くようにゆっくりと回しながら詠唱を始める。

 5回転ほどしたところで詠唱を終える。

魔竜剣技ダヴィドラフシェアーツ!」

 シュタークス回転の跡が光り出し、大きな光の輪が出来る。

「『竜の息吹ドラフ・アーテム』!!」

 光の輪が一段と輝きを増し、俺の背後に大きく口を開けた黄金竜のイメージが浮かび上がる。

 頭を振り回し、ゾフィーに向かって大きく、この喉元から光線を放つ!

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!

 光の輪と同じ大きさの光の円柱がゾフィーを直撃し、遥か彼方へ吹き飛ばす!!

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 甲高い叫びを残し、一瞬で見えなくなる。

「なんだこりゃ……デタラメだな」

 背後で呟くオレストを置いて、すぐに女を追い掛ける!


 皆に、飛竜ワイバーンでついて来い、と目と手で合図を送りながらしばらく走ると、この洞窟の壁が見えてきた。
 そして一カ所、壮絶に潰れているところがあり、そこに瓦礫にまみれたゾフィーがいた。

 目を瞑って横たわっていたが、俺が近づくとパチっと目を開け、耳打ちされる。

 魔竜剣技を食らってダメージは無しか……魔法無効とはいえ、傷付くな……

「横の扉を開けて中に入れ。頼む、彼を救えるのはお前しかいない」

 真摯な目で訴えてくるゾフィー。

 そのセリフに、はたと思い当たる。

「お前……だと……まさかッ!」

 急いで部屋に入る。
 皆、飛竜ワイバーンを降り、俺の後を追ってきた。

 中は……洞窟ではなかった。

 まるで王の間のように綺麗に装飾された広い部屋。
 赤い絨毯が奥まで真っ直ぐに敷かれ、その先には3段の低い階段があり、そして壁際に7、8メートル程もあろうかという背の高い十字架が建てられている。

 そしてそのクロスになった部分に……見つけた……

 やっと!!


 目を閉じ、項垂れ、意識の無い天才魔術師。
 とんがり帽子に青いローブ。

「コンスタンティン!」

 身動き出来ないよう十字架に磔になったコンスタンティン・グローマンだった。

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