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第6章 魔獄
救出(7)
しおりを挟むパズズのビーム砲、2匹の竜のブレス、俺達はリンリンの精霊王の盾に守られているものの、人間の足元にいる蟻の気分だ。
だが蟻なら蟻で、出来る事があるぜ。
「クラウス、俺と一緒に来てくれ。今の内にコンスタンティンを起こす」
「わかりました!」
怪獣達を迂回、可愛い寝顔で横たわるコンスタンティンの元に辿り着き、顔に手を置き、奴の名を呼ぶ!
「コンスタンティン……コンスタンティン!!」
「う……」
気付いた!
「起きろ、コンスタンティン。いつまでも……寝てんじゃあねえぞ!!」
「……マッツ……!」
生気のない顔に血の色が戻る。
「やれやれだ。まさか俺がお前を助け出さないといけなくなるなんて、考えもしなかったぜ」
これ程の力を持つ奴でもヘルドゥーソに取り込まれるのだ。仕方がない。ヒムニヤでさえやられたのだ。やはりヘルドゥーソは危険過ぎる。
「すまない……マッツ。僕は助かったのか……?」
「どうだろうな……怪獣大戦争が勃発したからな」
コンスタンティンも辺りを見回し、状況を確認、なんだこれは……と小さく言葉を漏らす。
「取り敢えずお前は復活したばかり。ここは俺達に任せて、クラウスかリンリンのどちらかに必ず触れておけ。その事だけ考えていろ」
「わかったよ、マッツ」
さて、その怪獣大戦争。
現状では互角……いや、僅かにパズズが優勢か……?
ほんの少しだが。
だがほんの少しの優劣が蓄積されて、勝者と敗者に分かれるのだ。
どうやらリンリンにもわかっているらしい。
赤と白、それに加えて綺麗な、一層輝く水色のオーラを体の周囲に宿らせる!
「来たれ、大海の王。神に最も近しき精霊界の主。我に従い、無限の精霊力で闇を打ち払え! 『海竜王』!!」
うお――――――ッ!!
出た~~~!!
『闇の断崖』を尾っぽのひと振りで薙ぎ払った大海獣!! あの時は略式召喚だったが、今回は本気の召喚だ!
大海に現れたあの巨竜がヘルドゥーソの後ろに発現する。
あの時は尾の攻撃のみだったが、今回はブレス、いや、砲撃か? を吐くようだ。開けた口の中、喉元の辺りに青く且つ金色に輝く光が見える。
ヘルドゥーソがリヴァイアサンを睨み、
(このクラスの幻獣を多重召喚するとは……さすがは《大召喚士》か)
そしてウームと低く唸る。
「クラウス、俺の攻撃に合わせて例の魔法をかけろ」
クラウスに耳打ちする。頷くクラウス。
この場で頑張ってヘルドゥーソと戦っても得るものはない。ならさっさと終わらせて、『魔力の暴風域』にいる奴の実体を叩きに行くべきだ。
巨体同士の激しい戦いに紛れ、詠唱しながらヘルドゥーソに近付き、渾身の剣技を放つ!
「魔竜剣技!!」
振り向くヘルドゥーソ!
(マッツゥゥゥ……オーウェン~~~!!)
憎々しげに顔を歪めるヘルドゥーソへ、魔剣シュタークスが7色の光を放つ。
ゴォォォォォォォォォォォ!!
白い竜の光属性のブレス!
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
紅い竜の火属性の溶岩発射!!
ブッシュゥゥゥゥォォォォォォォォ!!
魔王パズズの足元を中心とした闇風属性の竜巻!!
そして、海竜王!
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
水属性だが破壊力満点、パズズの竜巻など一撃で吹き飛ばす!!
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
そして、クラウス!
「『光震』!!」
ヘルドゥーソの思念体を守る闇の波動を打ち消す光の波動!!
(ウガッッ! グヌッ! 小僧……!!)
「うおおおおお!! 引っ込んでろ!! ヘルドゥーソ!!!」
キーーーーーーーーーン……。
光の超振動によって発せられる音。
今から始まる極大破壊の前奏曲!!
「『天魔……滅殺』!!」
瞬間、諦めたように舌打ちし、ニヤリと笑うヘルドゥーソの顔が目に入る。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンンン!!
ヘルドゥーソの思念体を消し飛ばし、全体を包む闇の世界をも破壊、辺りが徐々に明るくなってくる。
「……凄いな……皆……」
コンスタンティンが丸くて大きい目を見開き驚く。
(やれやれ……また、負けたか……)
(くっふふ。いよいよ楽しみだ)
(そこまで成長した祝いに、コンスタンティンは返してやろう)
(だが、ちゃんと神の種を持って、私を殺しに来てくれよ……?)
(クク……くれぐれも、途中で死ぬなよ?)
辺りが白み、闇の気配が遠のく中に響くヘルドゥーソの声。全く、腹ただしい!
「わかっているとも。首を洗って待っていろ」
―――
フッと気付くと、元居た十字架の台座に戻っていた。
目の前ではゾフィーが、ワァ―――ッと泣きながらコンスタンティンに抱きついていた。コンスタンティンも同時に気が付いたらしい。
が、まだ、焦点が合わず、目が虚ろだ。
リンリンはすでに目覚め、クラウスも程なくして目を開ける。
ガバッ!!
ゾフィーが俺の方を向き、気がついた俺に抱き着いてくる。
うおおっ! 胸が当たって気持ちい……凄い!!
「ありがとう! お前は本当に凄いな! 本当にアイツから助け出してくれるとは……」
「あ、いやいや。俺だけじゃない。皆が頑張ったからだ。特にリンリンにお礼言っとけ」
そう言うと今度は屈んで小さなリンリンを抱きしめるゾフィー。全く……変わった魔神だ。リンリンが顔を真っ赤に染めて、いいのじゃいいのじゃと照れている。しかし、リンリンはスキンシップに弱いな……ま、それも可愛いとこなんだが。
そして律儀にクラウスにも抱き着いて礼を言い、改めてコンスタンティンを抱きかかえるゾフィー。
「コンスタンティンは最後までお前のために抵抗したんだが……残念ながらヘルドゥーソと対峙するまでに魔力を使い果たしてしまっていてな……やられてしまった」
俺の為に……
神の種の事だろうか。
「そうか。でもそう言う事なら、最初の凄まじい規模のモンスター群を壊滅させたのは、やっぱりコンスタンティンなんだな」
そう言うと、喜色満面、我が事のように嬉しそうな顔で、
「そうよ! 凄いのよ、ダーリンも!!」
ダーリン……
「さっきから気になってたんだが……お前、本当に魔神なんだよな? アスラと同じ」
「ええ、そうよ」
コンスタンティンにベッタリとくっつきながら、澄まし顔で短くそう答える。
「ひょっとして……コンスタンティンが好きなの?」
「そうよ! 私達、結婚するのよ!」
「「「「はいいいい?」」」」
ボ―――ッと自分にくっつくゾフィーを見ていたコンスタンティンが、少し笑いながら、
「どうやら、そうなったみたいだ」
ポツリと呟く。が、こいつも満更ではなさそうだ。
「意識が戻ったか? 大丈夫か?」
「ああ。ありがとう、マッツ。そして皆……すまない、僕なんかの為に」
「何を「何を言ってやがる! 親友だろ!? 俺達!」
オレストにセリフを奪われてしまう。
が、問題ない。そうだ。オレストの言う通りだ。
「僕は……奴に操られて……エッカルトを死なせてしまった。エッカルトは僕の命を救う為に身を投げ出してくれた」
「そうみたいだな。先生を助けてくれ、と遺言を受け取ったよ」
最初にあの小さな洞窟に誘われるように入ったのはテンさまのお導きか。
「そうか……エッカルト……すまない。僕の力が足りなかったばっかりに……」
そう言って肩を落とすコンスタンティンに手を置く。
「コンスタンティン。これは戦いだ。エッカルトも最後まで戦った。それがあったから、今、皆でこうしていられるんだ。奴の意志を無駄にするな」
涙をこぼし、俺を見上げるコンスタンティン。
「あいつは本当にお前が好きだったんだ。自分よりお前に生きていて欲しかったんだよ。俺が知っているあいつのイメージからは考えられない。お前といた時間で奴は変わり、生き返ったんだ。感謝こそすれ、恨みなどはこれっぽっちも無いはずだ。奴の分も生きろ。そしてエッカルトの命を奪ったヘルドゥーソを倒しに行くぞ」
コンスタンティンの黒い瞳に力が宿る。
「俺達と一緒に来い、コンスタンティン!」
「ああ!」
大きく、そして力強く頷くコンスタンティン。
こうして終盤、大事な局面で強力な、本当に強力な味方が増えた。
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