179 / 204
第6章 魔獄
魔神(10)
しおりを挟む……
……きろ……
おい……リン……丈夫か……
此奴が……失うとは……
おい……!
リンリンッ!
「ひぃやぅ!!」
リンリンが奇声を上げて目を開ける。
目の前にいるのはリディア、アデリナ。
少し離れてクラウスが立っている。
「よかった、リンちゃん!」
「あ~~ん! リンちゃん! よかったよぅ! おはよう!」
怪我だらけの2人、リンリンの見知った顔が、ホッ……と笑顔を見せる。
「リディアにアデリナじゃないか。はて、どうなって……少し記憶が飛んでおるぞ……」
今、どういう状況なのか、サッパリ分からない。
どうやら気を失っていたようだ、というのはわかる。
しかも、起きる直前、誰かに叱咤された気がするが……
この2人ではない気がする。
(寝ぼけてるのかな……)
そこでふと気付く。
目を開けた時点で座っている事に。
普通、気を失っていれば、横になっているものではないか?
そして後ろから自分の肩を抱いている冷たい手、森の香りにも似た、心が落ち着く匂い、更に首筋から背中にかけて、女性特有の心地よい胸の膨らみが当たっている事に気付く。
ラディカか、ナディヤか……
そう思ったが、彼女達は自分の視線の少し向こう、クラウスの数メートル後ろで座っていた。
「あれ? 誰じゃ……?」
自分の肩を優しく掴んでいた白く綺麗な手を頼りに、後ろにいる誰かを見上げる。
「目は覚めたか?」
久し振りに聞いた、心地よく、懐かしい声。
「……」
数秒、黙り込むリンリン。
目に入ってきたのは類稀なる美貌、銀色の髪、エンジのワンピースに銀色のショールを巻いた森の妖精。
リンリンの知っている顔だった。
いや、知っている、などというレベルではない。
かつて、古竜の大森林で百年以上、一緒に住んでいたのだ。
「ヒ……ヒミ……ヒミにゃん!!」
体を反転させて背後の女性に抱き着くリンリン。
「おっと……フフ……久しぶりだなリンリン。心配したぞ」
いきなり抱き着かれ、体勢を崩しそうになりながらも、ようやく眉間の皺を消し、ホッとした表情を浮かべてリンリンの頭を撫でる。
リンリンが『ヒミにゃん』と呼ぶこの女性、古竜の大森林を寝ぐらにし、少し前までマッツ達とパーティを組んでドラフジャクドを旅していた高位森妖精、ヒムニヤだった。
「ヒミにゃん、どうしてここに……?」
それを聞いて困ったような顔をする。
「お前……まだ寝ぼけているのか? どうしても何も、お前が私を呼んだんだろう」
小首を傾げるリンリン。
そして数秒後、手を打つ。
「そうだ! リンが呼んだのだった!」
リディアとアデリナが不思議そうに顔を見合わせる。
リンリンに目線を移し、
「リンちゃん、いつの間にヒムニヤさんを呼んでたの?」
リディアがそう問いかけると得意満面な顔になるリンリン。
「アスガルドでマッツとオレストを連れてテンマという精霊が居る所に神の種を取りに行っただろう。あの時だ。旅の用意と古竜の大森林からの距離を考えるとあれより後だと間に合わんと思ったのでな」
短期的な記憶喪失にでもなっているのか、楽しげにそんな事を話し出す。
が、しかし、ようやくそこでハッとする。
両手で自分を抱き、みるみる恐怖の色を浮かべる。
「そうじゃ! リンに一体何が起こったんじゃ!?」
「私と一緒に、一度、怪物に飲み込まれちゃったのよ」
リンリンの怖がる様子を見ながら、努めて穏やかにリディアが言う。
「怪物に……飲み込まれたぁ!?」
「ああ。だが例の……マメだったか? あれが出てきて助けてくれたようだな。私も見るのは初めてだが……凄いな、あれは」
ヒムニヤがテンペラと戦うマメを指差す。
その先には、魔神テンペラを一方的に攻撃するマメの姿があった。
「……マメ! そうだ、マメだ! リンはマメに出て来てくれ、と祈っているうちに気を失った。その時に飲み込まれたってことか!」
ようやく気を失う前の状況を思い出したリンリンに、アデリナが補足する。
「そうだよ! 立っているのは私1人、でも私ももうヤバかったんだ。その時にマメちゃんが出て来てくれて……」
「私達が駆けつけた時には、ピンチを脱した後だった。オレストとヘンリックは危なかったようだがな」
そう言って、ヒムニヤはその切れ長で美しい目をヘンリックに移す。
そのヘンリック、戦闘中に座り込んだ事など初めての事だった。
それほどの衝撃。
「師匠、どうしてここに……」
ドラフジャクドで半年間、ほぼ2人きりで手ほどきを受け、自分を鍛えてくれたかつての敵を、ヘンリックは師匠、と呼んでいた。
「ワハハハッッ! 弟子が危ない時は駆けつけるのが師匠というものだッッッ!!」
ガキィィィィィンッ!!
バシュバシュバシュッッ!
ヘンリックに答えながらも、エリゴールとやり合うヴォルドヴァルド。その槍筋を間近で見ながら、
(やはり師匠は……凄い!)
心の中で感嘆していた。
エリゴールはヘンリックとやっていた時より少し早い程度か、しかしヴォルドヴァルドの槍は全てを受け、払った上で少しずつエリゴールの甲冑に穴を開けていく。
「き、貴様……その少年の師匠か。尋常ではない腕前」
少し下がり、間合いから外れて肩に空いた甲冑の穴を撫で、素直に驚くエリゴール。
石突部分を地面に当て、槍を立てたヴォルドヴァルドがそれを一喝する。
「少年だとッッ! この小僧は未熟ながら六芒槍術の立派な門徒。子供扱いは許さんッッッ!!」
しかしエリゴール、耳を塞ぎながら小さく俯く。
「貴様も小僧と言ってるじゃないか……」
「何だとッッッ!!」
「大きい……声だな。もう少し、静かに喋れんのか」
「大きいだとッッ!!」
いや、全くエリゴールの言う通り……とヘンリックは心の中で呟き、口では全然違う事を言う。
「師匠……エリゴールは魔神。リンリンのデカい召喚獣ですら二撃で倒す奴。油断するな」
それを聞いたヴォルドヴァルドは振り返らずに小さく頷く。そしてエリゴールに向かって吠える!
「魔神エリゴォォォル!! 超人ヴォルドヴァルドの槍を受けて、天界へ帰るが良い!!」
「いや、それを言うなら魔界だろ……」
「何だとッッッ!!」
「いいからッ! 早く倒してくれ!!」
「よかろう」
頷きながらヴォルドヴァルドが言うや否や、魔神エリゴールがコンマ数秒の踏み込みからの連撃!
ズドドドドッ!
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!
だが、ヴォルドヴァルド、この為に先程は全て払い、捌き切ってみせたのだ。我が身が物理無効である事を知られない為に。それらエリゴールの突きを一切払いのけず、喉元へ一撃!!
「ウガッッ!」
甲冑を貫き、喉を破り、反対側へ貫通!
更に槍が抜け、吹き飛ぶエリゴール!!
(凄いッ……! 一撃!!)
しかしそれで終わらない。
吹き飛ぶエリゴールに追いつく踏み込みを見せ、更にヘンリックがやられた分のお返しとばかりに何十、何百という連撃!!
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
喉をやられたエリゴールは声も立てずに穴だらけになって宙を舞い、そして消えて行った……
「やった!! 師匠!!」
ヘンリックが立ち上がって喜色を見せる。
それに親指をたてて応えるヴォルドヴァルド、ようやくこの広間にいる魔神2体の内、1体を倒す。
そして、ほぼ同時にテンペラの方も片付く。
少し前 ―――
「弱点ねぇ……」
今までの戦いを振り返っていたオレスト。
ある事に気付く。
(こいつはマメが後ろに回るのを極端に嫌がった)
(まあ、あの破壊力だ。誰だって嫌だろうが……)
(もう一つ……リディアの爆発を喰らい終わった時だ)
(こいつは金棒を放り捨ててまで、後頭部を必死に抑えていた。つまり……)
そこまで考えて双剣を握りしめるオレスト。
テンペラがマメに気を取られている間に、自分の後頭部を指差してマメに合図を送る。そしてそれだけで小さく頷くマメ。
(こいつぁ、戦いのセンスもズバ抜けているな。これだけでわかっちまったのか)
苦笑しながらオレストはマメと対角線上に位置し、テンペラを挟む形に陣取ろうとする。
テンペラの正面にマメ、背後がオレストだ。
単純に不死身ならオレストなど放っておくはず、だがオレストの思惑通り、テンペラは背後に回ったオレストをしきりと警戒し出す。
「おうおう! 俺を挟むんじゃあねぇぞ!」
巨大な金棒を振り回し、オレストを攻撃する。
(どうやら正解……のようだな!)
ガッキィィン!!
渾身の力で金棒を双剣で受ける!
同時にマメが背後から飛び上がって攻撃!
すぐに振り向くテンペラ。
正面からマメの凄まじい威力の膝蹴りをみぞおちの辺りに食らう!
ドッゴォォォォォォン!!
「おぅえええッッ!!」
その隙を逃さず、双剣で背中を串刺し、更に攻撃を!
そう思った瞬間、グルっとオレストに向き直るテンペラ!
「やれやれ……しつこい野郎だ」
だが、これで終わりだ、と心で言い放つオレスト。
間髪入れずに後頭部まで飛んだマメ、オレストから更に向き直る暇を今度は与えなかった。
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!
「アガッッッ!!」
叫ぶテンペラの口からマメの腕が少し見える。
後頭部への一撃が軽く貫通し、口の中に手が生えたように見えたのだ。
「ぐぞう……この俺がぁぁぁぁ……」
そう言いながら倒れこむテンペラ、だが地面にぶつかる前に他の魔神同様、消えてしまう。
こうして2体の魔神を何とか倒す事に成功し、絶体絶命のピンチから、ようやく抜け出した一行だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる