神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第6章 魔獄

魔神(10)

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 ……

 ……きろ……

 おい……リン……丈夫か……

 此奴が……失うとは……


 おい……!


 リンリンッ!


「ひぃやぅ!!」


 リンリンが奇声を上げて目を開ける。

 目の前にいるのはリディア、アデリナ。
 少し離れてクラウスが立っている。

「よかった、リンちゃん!」
「あ~~ん! リンちゃん! よかったよぅ! おはよう!」

 怪我だらけの2人、リンリンの見知った顔が、ホッ……と笑顔を見せる。

「リディアにアデリナじゃないか。はて、どうなって……少し記憶が飛んでおるぞ……」

 今、どういう状況なのか、サッパリ分からない。
 どうやら気を失っていたようだ、というのはわかる。

 しかも、起きる直前、誰かに叱咤された気がするが……
 この2人ではない気がする。

(寝ぼけてるのかな……)

 そこでふと気付く。

 目を開けた時点で座っている事に。

 普通、気を失っていれば、横になっているものではないか?
 そして後ろから自分の肩を抱いている冷たい手、森の香りにも似た、心が落ち着く匂い、更に首筋から背中にかけて、女性特有の心地よい胸の膨らみが当たっている事に気付く。

 ラディカか、ナディヤか……

 そう思ったが、彼女達は自分の視線の少し向こう、クラウスの数メートル後ろで座っていた。

「あれ? 誰じゃ……?」

 自分の肩を優しく掴んでいた白く綺麗な手を頼りに、後ろにいる誰かを見上げる。

「目は覚めたか?」

 久し振りに聞いた、心地よく、懐かしい声。

「……」

 数秒、黙り込むリンリン。

 目に入ってきたのは類稀なる美貌、銀色の髪、エンジのワンピースに銀色のショールを巻いた森の妖精エルフ

 リンリンの知っている顔だった。
 いや、知っている、などというレベルではない。

 かつて、古竜の大森林で百年以上、一緒に住んでいたのだ。

「ヒ……ヒミ……ヒミにゃん!!」

 体を反転させて背後の女性に抱き着くリンリン。

「おっと……フフ……久しぶりだなリンリン。心配したぞ」

 いきなり抱き着かれ、体勢を崩しそうになりながらも、ようやく眉間の皺を消し、ホッとした表情を浮かべてリンリンの頭を撫でる。

 リンリンが『ヒミにゃん』と呼ぶこの女性、古竜の大森林を寝ぐらにし、少し前までマッツ達とパーティを組んでドラフジャクドを旅していた高位森妖精ハイエルフ、ヒムニヤだった。


「ヒミにゃん、どうしてここに……?」

 それを聞いて困ったような顔をする。

「お前……まだ寝ぼけているのか? どうしても何も、お前が私を呼んだんだろう」

 小首を傾げるリンリン。
 そして数秒後、手を打つ。

「そうだ! リンが呼んだのだった!」

 リディアとアデリナが不思議そうに顔を見合わせる。
 リンリンに目線を移し、

「リンちゃん、いつの間にヒムニヤさんを呼んでたの?」

 リディアがそう問いかけると得意満面な顔になるリンリン。

「アスガルドでマッツとオレストを連れてテンマという精霊が居る所に神の種レイズアレイクを取りに行っただろう。あの時だ。旅の用意と古竜の大森林からの距離を考えるとあれより後だと間に合わんと思ったのでな」

 短期的な記憶喪失にでもなっているのか、楽しげにそんな事を話し出す。

 が、しかし、ようやくそこでハッとする。
 両手で自分を抱き、みるみる恐怖の色を浮かべる。

「そうじゃ! リンに一体何が起こったんじゃ!?」
「私と一緒に、一度、怪物に飲み込まれちゃったのよ」

 リンリンの怖がる様子を見ながら、努めて穏やかにリディアが言う。

「怪物に……飲み込まれたぁ!?」
「ああ。だが例の……マメだったか? あれが出てきて助けてくれたようだな。私も見るのは初めてだが……凄いな、あれは」

 ヒムニヤがテンペラと戦うマメを指差す。
 その先には、魔神テンペラを一方的に攻撃するマメの姿があった。

「……マメ! そうだ、マメだ! リンはマメに出て来てくれ、と祈っているうちに気を失った。その時に飲み込まれたってことか!」

 ようやく気を失う前の状況を思い出したリンリンに、アデリナが補足する。

「そうだよ! 立っているのは私1人、でも私ももうヤバかったんだ。その時にマメちゃんが出て来てくれて……」
「私達が駆けつけた時には、ピンチを脱した後だった。オレストとヘンリックは危なかったようだがな」

 そう言って、ヒムニヤはその切れ長で美しい目をヘンリックに移す。


 そのヘンリック、戦闘中に座り込んだ事など初めての事だった。
 それほどの衝撃。

「師匠、どうしてここに……」

 ドラフジャクドで半年間、ほぼ2人きりで手ほどきを受け、自分を鍛えてくれたかつての敵を、ヘンリックは師匠、と呼んでいた。

「ワハハハッッ! 弟子が危ない時は駆けつけるのが師匠というものだッッッ!!」

 ガキィィィィィンッ!!

 バシュバシュバシュッッ!

 ヘンリックに答えながらも、エリゴールとやり合うヴォルドヴァルド。その槍筋を間近で見ながら、

(やはり師匠は……凄い!)

 心の中で感嘆していた。

 エリゴールはヘンリックとやっていた時より少し早い程度か、しかしヴォルドヴァルドの槍は全てを受け、払った上で少しずつエリゴールの甲冑に穴を開けていく。

「き、貴様……その少年の師匠か。尋常ではない腕前」

 少し下がり、間合いから外れて肩に空いた甲冑の穴を撫で、素直に驚くエリゴール。

 石突部分を地面に当て、槍を立てたヴォルドヴァルドがそれを一喝する。

「少年だとッッ! この小僧は未熟ながら六芒槍術の立派な門徒。子供扱いは許さんッッッ!!」

 しかしエリゴール、耳を塞ぎながら小さく俯く。

「貴様もと言ってるじゃないか……」
「何だとッッッ!!」
「大きい……声だな。もう少し、静かに喋れんのか」
「大きいだとッッ!!」

 いや、全くエリゴールの言う通り……とヘンリックは心の中で呟き、口では全然違う事を言う。

「師匠……エリゴールは魔神。リンリンのデカい召喚獣ですら二撃で倒す奴。油断するな」

 それを聞いたヴォルドヴァルドは振り返らずに小さく頷く。そしてエリゴールに向かって吠える!

「魔神エリゴォォォル!! 超人ヴォルドヴァルドの槍を受けて、天界へ帰るが良い!!」
「いや、それを言うなら魔界だろ……」
「何だとッッッ!!」
「いいからッ! 早く倒してくれ!!」
「よかろう」

 頷きながらヴォルドヴァルドが言うや否や、魔神エリゴールがコンマ数秒の踏み込みからの連撃!

 ズドドドドッ!

 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!

 だが、ヴォルドヴァルド、この為に先程は全て払い、捌き切ってみせたのだ。我が身が物理無効である事を知られない為に。それらエリゴールの突きを一切払いのけず、喉元へ一撃!!

「ウガッッ!」

 甲冑を貫き、喉を破り、反対側へ貫通!
 更に槍が抜け、吹き飛ぶエリゴール!!

(凄いッ……! 一撃!!)

 しかしそれで終わらない。
 吹き飛ぶエリゴールに追いつく踏み込みを見せ、更にヘンリックがやられた分のお返しとばかりに何十、何百という連撃!!

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!

 喉をやられたエリゴールは声も立てずに穴だらけになって宙を舞い、そして消えて行った……

「やった!! 師匠!!」

 ヘンリックが立ち上がって喜色を見せる。

 それに親指をたてて応えるヴォルドヴァルド、ようやくこの広間にいる魔神2体の内、1体を倒す。


 そして、ほぼ同時にテンペラの方も片付く。


 少し前 ―――


「弱点ねぇ……」

 今までの戦いを振り返っていたオレスト。
 ある事に気付く。

(こいつはマメが後ろに回るのを極端に嫌がった)

(まあ、あの破壊力だ。誰だって嫌だろうが……)

(もう一つ……リディアの爆発アネヴォムライトを喰らい終わった時だ)

(こいつは金棒を放り捨ててまで、後頭部を必死に抑えていた。つまり……)

 そこまで考えて双剣を握りしめるオレスト。

 テンペラがマメに気を取られている間に、自分の後頭部を指差してマメに合図を送る。そしてそれだけで小さく頷くマメ。

(こいつぁ、戦いのセンスもズバ抜けているな。これだけでわかっちまったのか)

 苦笑しながらオレストはマメと対角線上に位置し、テンペラを挟む形に陣取ろうとする。

 テンペラの正面にマメ、背後がオレストだ。
 単純に不死身ならオレストなど放っておくはず、だがオレストの思惑通り、テンペラは背後に回ったオレストをしきりと警戒し出す。

「おうおう! 俺を挟むんじゃあねぇぞ!」

 巨大な金棒を振り回し、オレストを攻撃する。

(どうやら正解……のようだな!)

 ガッキィィン!!

 渾身の力で金棒を双剣で受ける!
 同時にマメが背後から飛び上がって攻撃!

 すぐに振り向くテンペラ。
 正面からマメの凄まじい威力の膝蹴りをみぞおちの辺りに食らう!

 ドッゴォォォォォォン!!

「おぅえええッッ!!」

 その隙を逃さず、双剣で背中を串刺し、更に攻撃を!
 そう思った瞬間、グルっとオレストに向き直るテンペラ!

「やれやれ……しつこい野郎だ」

 だが、これで終わりだ、と心で言い放つオレスト。
 間髪入れずに後頭部まで飛んだマメ、オレストから更に向き直る暇を今度は与えなかった。

 ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!

「アガッッッ!!」

 叫ぶテンペラの口からマメの腕が少し見える。
 後頭部への一撃が軽く貫通し、口の中に手が生えたように見えたのだ。

「ぐぞう……この俺がぁぁぁぁ……」

 そう言いながら倒れこむテンペラ、だが地面にぶつかる前に他の魔神同様、消えてしまう。


 こうして2体の魔神を何とか倒す事に成功し、絶体絶命のピンチから、ようやく抜け出した一行だった。
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