神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第6章 魔獄

虹竜(2)

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 極限まで張り詰めていた緊張の糸が一気に解ける。
 人間の言葉を話してくれる、コミュニケーションが取れるというのは、それ程大きい。

 俺達の眼前で目を細める虹竜リーゲン・ドラフ

「ウムウム。遂に来たか……」

 何やら満足そうにしている。

「あのエルトルドーを倒した戦士マッツ・オーウェン……」

 エルトルドー?
 何故、今、あいつが会話に出てくるんだ?

「エルトルドーはミラーの一部。それは知ってるだろう」

 ヒィィィィ!

 テンさまから『精神操作無効』を授かっている俺の心を読まれた!!

 俺の心を読めるのはリディアとアデリナとリタだけなのに! あれ。結構いるな。

 あ、いや……待て。

 そう言えばエルトルドーも俺の心を読んでいた。つまり……

「フフフ。そういう事だ。私も神界の者。お前……神界では、今、ちょっとした有名人だぞ?」
「え……そ、そうなの?」
「ツィに愛され、テンに肩入れされ、一部とは言え、現し身のミラーを破ったマッツ・オーウェンか、『魔力の暴風域』においては我々、神族に近い力を振るう事の出来るヘルドゥーソか、果たしてどちらが勝つのやら……」

 一体、なんなんだ……

 どうやら、面白がられているようだが。
 取り敢えず、問答無用で殺されるような事はないようだ。それだけでも……

「いつもなら手ぶらで来た奴はボコボコにして素っ裸にしてぶち殺す所だが……」
「神さまなのに言ってる事、超怖い!」
「お前に対してそれをやると、少し具合が悪いのでな」

 お、お……? 助かるのか?

「10分の9殺しくらいにしておいてやろう」
「ほぼ全殺し!」

 鎌首をもたげ、喉の奥から虹色のブレスが光るのが見える。魔力とも物理とも判断つかない力。神力、という奴か。

 いずれにしろ、絶体絶命。

 だが……

「む……成る程。貴様、ツィに好かれているだけあって、
「……は?」

 虹竜リーゲン・ドラフが俺達から見て右奥を見ながらそんな事を言い出した。

 すると、不意にこの場に人間の気配が!

「あれは!?」
虹竜リーゲン・ドラフだ。この目で見る事が出来ようとは……」
「あれが、虹竜リーゲン・ドラフ!!」

 お、おお……

 みんな……

 良かった……生きてたか……

 続々と姿を現わすのは、アスラ戦の直前で離れ離れになった仲間達だ!

「いた!」
「あ! ほんと! マッツ様!!」

 おお、アデリナ……ナディヤ……皆、無事で……
 皆、俺達に気付き、虹竜リーゲン・ドラフを牽制しつつも何もしてこない事を確認して、俺たちの方に走ってくる。

 リディア、アデリナと抱き合い、オレスト、ヘンリック、リンリンとも抱き合う。

 そして……

「マッツ!」

 ……あれ?

 物凄く懐かしい声がする。

 ……!!

「ヒ……」

 どうしてこんな所に……
 ドラフジャクドで別れた《神妖精》。高位森妖精ハイエルフであり、俺達の仲間。

「ヒ……ヒムニヤァァ……ヒムニヤァァァッッ!!」
「マッツ!」

 思わず駆け寄る。
 そして強く抱きしめた。

 すると耳元で俺にだけ聞こえる、小さな小さな声で囁いてくれる。

「会いたかった」
「俺もだよ! ヒムニヤ。来てくれたんだな」

 体を離し、見つめ合う。
 ヒムニヤの真っ白で美しい御顔が真っ赤になっている。
 これがたまらない。

 だが微笑を浮かべたまま、不意に、

「……いいのか?」
「へ?」

 何やら不穏な気配を感じ、辺りを見回す。

 まず、視界に入ったリディア。
 ふいっと視線をそらされる。

 ヒィィィィィッッ!!

 アデリナはニコニコとしているが、ディヴィヤは口を尖らせて、リディア以上に機嫌が悪くなっている。

「マッツ・オーウェン、久しぶりだなッッ!!」

 全く空気を読まない、まるで風景のように見えていた巨大な奴。

「うおッ! ヴォルドヴァルドじゃないか! お前も来てくれたのかッ!!」

 空気を読まないが故のタイミングの素晴らしさ!
 助かった!

「うむ。ヒムニヤがどうしても俺の力が必要だと言うのでな」

 言われてヒムニヤを見ると、噴き出しそうになっているが、

「ま、そういう事にしておいてやろう」

 ニヤリとしている。意地悪そうな顔がまた綺麗だ。
 そして、そのヴォルドヴァルドより更に一回りでかい奴がいる。

「……あの……どちら様?」

 とは聞いたものの、鬼だ。どう見ても。俺の倍くらいの身長。とにかくデカすぎる。

「当ててみろ」

 えぇ。鬼ってそんなするの?

「えっと、鬼さんですよね」
「違う」

 腕を組んでしかめっ面をしているが、機嫌は悪くないようだ。

「マッツ!」

 リディアが俺を呼ぶ。
 リディアの指がリンリンを差している。そのリンリンを見るとニコニコとしている。何か足らない気がするが……。

「あ~~~ッ!! お前、マメかッッ!!」
「正解だ」

 ニヤリ、と口元が上がった気がする。
 聞きしに勝る鬼ぶり!

 そして……俺はマメに抱きついた!!
 といっても身長が違いすぎて俺の顔はマメのヘソ辺りになるし、骨格がデカすぎて腕も回らない。
 だが、とにかく抱きついた!

「マメ~~~! ずっとお礼、言いたかったんだよぅ! カルマルで俺を助けてくれて、リディアとリンリンを助けてくれて……ありがとうなぁぁぁ!!」
「フフ……気にするな」

 そう言って俺の頭にポンとデカい手を置いた。

 グゴゴゴゴ……

 虹竜リーゲン・ドラフが動く音が聞こえる。しまった。ないがしろにしすぎて怒ったか?

 だが竜の口からは全く予想外の言葉が飛び出してきた。

「お前……竜人ドラケマニカか。ひょっとして、ジュリウスじゃないのか? メヒティルトの子供の」

 マメにそんな事を言う虹竜リーゲン・ドラフを見上げ、

「フフ……久しいな、その名前は。その通りだ、我が祖よ」
「祖~~~!?」

 声が上ずってしまった。
 つまりアレか。

 マメも神族。もしくは元神族、竜人ドラケマニカは神の末裔って事か。

「うーむ。超人達だけでなく、お前までマッツ・オーウェンの仲間になっていたとは……これはますます面白くなってきたぞ!!」

 虹竜リーゲン・ドラフが喉の奥でグルル……と唸りながら笑う。

 何が面白いのか知らんが、取り敢えず通してくれたら嬉しいなぁ……

 そう思っていると、ヴォルドヴァルドの足元から小さな生き物が、ちょこちょこと虹竜リーゲン・ドラフに向かって歩きだした。

 なんだあれ?

「はい、虹竜リーゲン・ドラフさま。パメラ様お手製のドーナツですわ」
「うむ。いただこう」

 虹竜リーゲン・ドラフがバカでかい顔を近付けると、そいつは差し出した食べ物を口の中に放り込んだ。
 それを美味そうに頬張る虹竜リーゲン・ドラフ

「じゃ、ワイラはこれで!」

 ペコリとお辞儀をして、帰っていく。
 さては、アレが地霊ノームって奴か。

「ありがとね~~!!」

 アデリナが彼らに手を振っている。
 そうか、ここに来るまでに地霊ノームに至るルートが無いと思ってたら、アデリナ達の方にあったんだな。
 そして話をつけて、ここまで連れて来てくれたか。

「よし、マッツ。贈り物は受け取った。通るが良い」

 やった……
 ここさえ突破できれば後は……

 思わず、ヨシっと呟く。
 その俺を見ながら、

「マッツ。ヘルドゥーソは強いぞ? だが、ワシはお前に賭け……いやや、お前を応援している。死んでも死ぬんじゃないぞ?」
「はあ……」

 何やら激励してくれたようだ。
 有り難く気持ちは受け取っておこう。

 虹竜リーゲン・ドラフが翼を広げ、俺達に道を譲るように横に移動すると、その先にある巨大で頑丈そうな門が見えた。

 百メートルはあろうかというその門、きっとヘネ・ルードが書いていた『魔力の暴風域』へのゲート、というヤツだろう。

 それがギギギ……といかにも重厚そうに、少しずつ開いていく。


 いよいよだ。


 思念体で活動できるヘルドゥーソがいる限り、神の種レイズアレイクを収集しても安心は出来ない。

 ディミトリアス王に命じられた『神の種レイズアレイク収集』ミッションの総仕上げだ。


「行くぞッ!!」


 俺たちは最後のゲートに向かって歩き出した。

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