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最終章 剣聖と5人の超人
剣聖と5人の超人(8)
しおりを挟む――― vs ヘルドゥーソ、サイエン、リンリン ―――
「水芒!『豪砲』!!」
ゴォォォォォォォォォォォォッ!!
凄まじい水量を圧縮し、バジリスクに放つヴォルドヴァルド。
ズガンッッ!!
グッキュゥゥゥゥゥ……
蛇の頭が切断され、見る間に消えゆくバジリスク。
そのバジリスクが消え去ったのを確認したオレストが声を上げる。
「リンリンは闇の波動によって操られてしまった。相手は3人の超人だ。こちらも3隊に分けるぞ!」
「待て、オレスト!!」
走りながらオレストを制止するマッツ。
「おお、来たか、マッツ! やっと片付いたか」
「待たせてすまなかった。よく耐えてくれた」
息急き切って駆け寄るマッツ。
この時、気を失っていたクラウスも、駆け付けたヒムニヤによって助け出されていた。
「フフ……クックック。遅かったな、マッツ・オーウェン。遂にリンリンを手に入れたぞ。あとはお前の神の種を奪えば全て揃う」
「なに? 何を言ってるんだ、お前は」
「はっ!!」
マッツのすぐ後ろにいたコンスタンティンが息を飲む。
「そうか、そういう事か……わかったぞ。マッツ、僕がランディア王都で君に言ったことを覚えているかい?」
言われて記憶を辿るマッツ。
―――
「マッツ。僕も全てを知っているわけではないが…… 1つ、知っている情報を伝えておこう。魔神ミラーの召喚は、僕達、常人には無理なんだ」
「ほう?」
「召喚するには常人でない、特別な力を持った人物が必要だ……魔神ミラーの召喚を企む者がいたとして、『神の種』を揃えるだけではなく、そのある人物も必要だ、という事だ。君はその人物も探し出し、保護する必要がある」
―――
マッツも同じようにハッとし、コンスタンティンの顔を見つめる。
「まさか……それがリンリンだと?」
真剣な表情で頷くコンスタンティン。
「ああ。ヘルドゥーソの言動を見る限り、まず間違いないだろう。超人というものを知り、超人も同じ人間や森の妖精の延長上にいる、とわかったが……言われてみれば確かにあの召喚術は桁外れだ」
言われて、みるみる血の気が引いていくマッツ。
「なんだと……俺はわざわざここまでヘルドゥーソの元にリンリンを連れてきてしまったってのかッッ!」
マッツを見つめ、無言になるコンスタンティン。
そこに割り込むオレスト。こう言った時の嗅覚はやはり人の上に立つ将軍ならでは、といった所か。
「どうするね、マッツ。気持ちはわかるが、今、キレてる場合じゃねぇぜ」
言われたマッツは厳しい視線をオレストに向けるが、決して短絡的に怒っているそれではない。
「いや、オレスト。大丈夫だ」
そしてヒムニヤに向き直る。
「ヒムニヤ。1人でサイエンを抑えてくれるか?」
「勿論。引き受けよう」
力強く頷くヒムニヤ。マッツも少し口元に笑みを浮かべ、頷き返す。
「ヴォルドヴァルドとマメの2人でリンリンを抑えてくれるか?」
「うむ。引き受けたッッ!」
「わかった」
「マッツ……てぇ事は……?」
オレストが嬉しそうに舌舐めずりをする。
そのオレストに大きく頷き、そして全員に号令をかけるマッツ!
「残りの皆! 全員でヘルドゥーソを倒すぞ!!」
「「「「おお!!」」」」
そのくだりを楽しそうに眺めるヘルドゥーソ。
「フッフッフ……賢明な判断だ。だがそう……うまく行くかな?」
「行かせるとも! リディア! バフを皆に!」
「大丈夫! もうかけてるわ!」
リディアと微笑み合い、ヘルドゥーソに向き直るマッツ!
「よし、いくぞ!」
「来ぉぉぉい! マッツ・オーウェン! お前だけはきっちりこの手で命を絶ってやる!!」
そうして、ようやく1つの戦線になり、マッツを含んだ11人の戦士と『滅導師』ヘルドゥーソとの最後の戦いが始まった。
―
1時間が経ち、2時間が経ち ―――
マッツ達のパーティに疲労の色が濃く出始める。
『無限』と宣言しているだけあり、ヘルドゥーソの体力、魔力は尽きる様子を見せない。
消し飛ばしても、吹き飛ばしても、穴を開けても、切り刻んでも次の瞬間には再生するヘルドゥーソ。
そして無限の魔力を頼みに強力な範囲魔法を展開する。
幸いな事にリディアとクラウスの2人が『絶対魔法防御』を詠唱できる為、何とか致命傷には至らず、だが、膠着を強いられているマッツ達。
打開策を探していた時、不意にリディアが小声で話し掛けてくる。
「マッツ!」
「ハァハァ……どうした?」
「あのさ。ずっと違和感があったんだけど。あのヘルドゥーソの髭、あれだけちょっと異質なものに見えるんだけど……あんたはどう?」
「うん。それは俺もだ…………あ!」
何かに思い当たるマッツ。
リディアを無視して考えを巡らせ始める。
「ちょっと待てよ……髭……髭だと……」
―――
「ヘルドゥーソにプレゼントを1つやった。そのお陰で『魔力の暴風域』における奴の体力は『無限』」
―――
(そうだ。エルトルドーがそんな事を言っていたな……)
(そして最後にヘルドゥーソの思念体と戦った時……)
―――
「あのさぁ……前から思ってたんだけど、お前、そのヒゲ、全然似合ってないぞ?」
(なに? 髭だと……)
(……不思議な奴だ。超人級の力を持ちながら、しかし資質に目覚めているようでもない)
(女の事ばかり考えているかと思えば、いやに鋭い)
―――
あの時、確かにヘルドゥーソの奴はハッとした顔をしていた。
待てよ……
待て……
フフ……
宙を睨みながらニヤリとするマッツ。
「わかったぞ。奴の『無限の体力』の秘密。さすがは神の種の第一発見者だ、リディア!」
そう言うと力任せにリディアを抱きしめるマッツ。
いきなり想定外の状況になり、リディアは顔を真っ赤にして立ち尽くす。
魔剣シュタークスを振り上げ、全員に檄を飛ばすマッツ!!
「みんなッ! 総攻撃!」
(これだけやってどうにもならんってのに、総攻撃だと?)
訝しげにマッツの顔を見るオレスト。
そのオレストに、口元だけを上げて頷いてくるマッツ。
(突破口を探し当てたか? ……全く、大した奴だ)
「おうよ! アスガルドのイケメン将軍オレスト! いざ、参る!!」
マッツの意を汲んだオレスト、真っ先に名乗りを上げ、ヘルドゥーソに向かう!
しかしヘンリックも遅れてはいない。
2人が並び、リタ、ディヴィヤ達がそれに続く。
その後ろにマッツ。
「『闇抵抗付与』!」
リディアのバフにより、最大限に闇属性抵抗を高める!
リディアの両脇にコンスタンティンとクラウス。
そしてさらにその後ろにアデリナを配置。
バシュバシュバシュ!
ドンドンドンドン!!
「相変わらず、懲りない事だ……」
やられては再生するヘルドゥーソ。
だが……不意にゾクリとする。
「良い勘だ。ヘルドゥーソ。だが、これで終わりだ」
攻撃に紛れ、いつの間にやらヘルドゥーソの背後に忍び寄っていたマッツ。手をヘルドゥーソの口元に伸ばす。
「なに! やめろ!!」
「クックック……ビンゴかね……」
今まで散々やられたお返しも入っているのか、悪い笑みを浮かべ、ヘルドゥーソのようなセリフを吐くマッツ。
「うおおおおッ! 『闇の波動』ォォ!!」
掌をマッツに向けるヘルドゥーソ!
「無駄だ! 遅いッ!!」
ベリッッ!!
馬蹄髭を引き千切るマッツ!!!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッ!!
傍目からは何が起こったのかわからないが、突然、雷撃に撃たれたように体が弾かれるヘルドゥーソ!
「ぐぅぅぅ……マッツゥゥゥ……オォウェンンンン!!!」
親指と人差し指で髭を摘んでヒラヒラと靡かせ、悪い笑みを浮かべるマッツ。そのマッツを四つん這いで睨む。
「コンスタンティンッ!」
マッツがそう叫んで髭を宙に放り投げると、阿吽の呼吸でビームによって焼き尽くすコンスタンティン。
「あああ! ……何という……何という勿体無い事を……」
「まさか、つけ髭とはねぇ……ミラーさまのセンスもわかんねぇな」
「マッツゥゥゥゥ……コンスタンティンンンン……!! やはり、貴様らかぁぁぁぁぁぁ!!」
激昂するヘルドゥーソにシュタークスをピタリと向け、言い放つ。
「さて、後は削りあいだ。覚悟しろ?」
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