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第3話 ジル・ドレ
悪夢
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静かな夜に領主さまの悲鳴が響く。
しばらく聞き耳を立てていたが、終わりそうにない悪夢を断ち切るため、僕は領主さまの寝室へ急いだ。
そっとドアを開けるとベッドに膝立ちで天に手を伸ばし、救いを求める叫びをあげていた。
「神よ!なぜあなたの声が聞こえると言った少女を見殺しにしたのですか!!彼女はあなたを信じて、民衆を救うために立ち上がった敬虔な信者だった!それを殺したのはなぜですか。殉死させて、それで民衆が救われるのですか!!宮廷の争いに利用されただけ…戦い…彼女の…救いは…救いは……神は……」
最後のほうは聞き取れなかった。
「……悪魔よ」
ドアを閉め切る前のわずかな隙間から、領主さまのつぶやきが聞こえた。
暗くてよく見えなかったが、目が闇に慣れてくるとベッドにはぐったりしている少年が寝かされていた。
「悪魔よ!汚れなき命を捧げる!!彼女を死に追いやった全ての人間を殺せ!!」
両手で握られた短刀が振り下ろされる。
それは一瞬のことだった。
もう終わりだ。
フランスを救った少女の死が、領主さまを完全に壊してしまった。
敵の捕虜になった彼女を、王が積極的に救出する交渉をしなかったことも、領主さまの人間性を狂わせた。
いままでは勇敢で尊敬される領主さまだったのに、それが今や悪魔を信仰するまでになった。
でも悪魔も、願いは叶えてくれないと思う。
僕は信仰心が薄い。だから教会にも滅多にいかない。領主さまの名代でアメリーと一緒にしぶしぶ足を運ぶ程度だ。
石で囲まれた地下室は掃除が楽だったが、ベッドとなると話が違ってくる。流れた血はシーツから下に染みていく。
この城に移ってからベッドで少年を犯した後、残虐にいたぶって楽しんでから殺すようになっていった。
断崖絶壁の上に建つ要塞のような城。城に招かれた少年が帰ってこないと噂になっていた。
決定的な証拠は崖から捨てていた少年の死体を、偶然通りかかった村人が見つけて大騒ぎになり、それが王の耳に入ったらしい。
「何故だ!あれだけ供物を捧げたのにお前たちも俺を救ってはくれないのか!!」
『お前たち』というのは悪魔のことなんだろうか。今はそうとしか考えられない。
王命で自分を逮捕するための兵がこちらに向かっている事をアメリーから聞くと領主さまは怒り狂った。
「アメリー」
少しして、冷静になった領主さまは静かに言う。
「はい」
「エリックを連れて早くここから逃げろ」
「……」
「地獄の沙汰も金次第さ」
僕は領主さまに別れの挨拶をすることも出来ないまま、馬を駆るアメリーの後ろに乗せられて数人の従者とともに逃走用の裏道を駆け下りた。
「大丈夫よ。城のひとつでも売って金を握らせればうやむやになるわ。犠牲者はただの庶民、貴族が本気になるわけないでしょ」
本当にそうだろうか。
悪魔崇拝がバレたら火あぶりの刑が待っている。領主さまが全てを捧げたオルレアンの少女と同じように。
僕は祈るしかなかった。神でも悪魔でもない、運命という見えないなにかに。
しばらく聞き耳を立てていたが、終わりそうにない悪夢を断ち切るため、僕は領主さまの寝室へ急いだ。
そっとドアを開けるとベッドに膝立ちで天に手を伸ばし、救いを求める叫びをあげていた。
「神よ!なぜあなたの声が聞こえると言った少女を見殺しにしたのですか!!彼女はあなたを信じて、民衆を救うために立ち上がった敬虔な信者だった!それを殺したのはなぜですか。殉死させて、それで民衆が救われるのですか!!宮廷の争いに利用されただけ…戦い…彼女の…救いは…救いは……神は……」
最後のほうは聞き取れなかった。
「……悪魔よ」
ドアを閉め切る前のわずかな隙間から、領主さまのつぶやきが聞こえた。
暗くてよく見えなかったが、目が闇に慣れてくるとベッドにはぐったりしている少年が寝かされていた。
「悪魔よ!汚れなき命を捧げる!!彼女を死に追いやった全ての人間を殺せ!!」
両手で握られた短刀が振り下ろされる。
それは一瞬のことだった。
もう終わりだ。
フランスを救った少女の死が、領主さまを完全に壊してしまった。
敵の捕虜になった彼女を、王が積極的に救出する交渉をしなかったことも、領主さまの人間性を狂わせた。
いままでは勇敢で尊敬される領主さまだったのに、それが今や悪魔を信仰するまでになった。
でも悪魔も、願いは叶えてくれないと思う。
僕は信仰心が薄い。だから教会にも滅多にいかない。領主さまの名代でアメリーと一緒にしぶしぶ足を運ぶ程度だ。
石で囲まれた地下室は掃除が楽だったが、ベッドとなると話が違ってくる。流れた血はシーツから下に染みていく。
この城に移ってからベッドで少年を犯した後、残虐にいたぶって楽しんでから殺すようになっていった。
断崖絶壁の上に建つ要塞のような城。城に招かれた少年が帰ってこないと噂になっていた。
決定的な証拠は崖から捨てていた少年の死体を、偶然通りかかった村人が見つけて大騒ぎになり、それが王の耳に入ったらしい。
「何故だ!あれだけ供物を捧げたのにお前たちも俺を救ってはくれないのか!!」
『お前たち』というのは悪魔のことなんだろうか。今はそうとしか考えられない。
王命で自分を逮捕するための兵がこちらに向かっている事をアメリーから聞くと領主さまは怒り狂った。
「アメリー」
少しして、冷静になった領主さまは静かに言う。
「はい」
「エリックを連れて早くここから逃げろ」
「……」
「地獄の沙汰も金次第さ」
僕は領主さまに別れの挨拶をすることも出来ないまま、馬を駆るアメリーの後ろに乗せられて数人の従者とともに逃走用の裏道を駆け下りた。
「大丈夫よ。城のひとつでも売って金を握らせればうやむやになるわ。犠牲者はただの庶民、貴族が本気になるわけないでしょ」
本当にそうだろうか。
悪魔崇拝がバレたら火あぶりの刑が待っている。領主さまが全てを捧げたオルレアンの少女と同じように。
僕は祈るしかなかった。神でも悪魔でもない、運命という見えないなにかに。
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