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第4話 高校生
高校生
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僕には好きな人がいる。
高校生になって電車通学になった。いろんな制服が混ざり合う車内で、彼を見つけた。
釣り革につかまりながらちらちら見ていると、この辺では有名な進学校の制服だ。その偏差値に似合う格好いいブレザーに細めの眼鏡。手にはスマホ、たまに文庫本を読んでいる。
「なー、だってさ朔」
後ろで話している友人たちが振り向いて背中の彼に声をかけた。彼は「うん」とか「そう」くらいしか返事をしない。そういうものなのだろうか、話をふった彼も深くは追求せず、また話の輪に戻る。
『さく』って名前なんだ。漢字でどう書くのだろう。
僕は共学の普通校で、まだ入学したばかりで親しい友人がいない。
同じ中学校の連中とは関わりたくなかった。
ガタンと音がしてドアが開いた。車内の人間が急いで降りていく。僕も人に押されながら電車を降りた。
「ちょっと」
その声が自分に向けられたものと気がつくのにしばらく時間を要した。
ふりむくと『さく』が僕の後ろに立っていた。
「学生証。落としたよ」
「え?」
彼の感情の読めない顔と学生証を交互に見る。
お礼を言う間もなく、彼は通り過ぎていった。
かばんの奥底に入っているものを落とすかな?
疑問に思いながら渡されたそれを見ると、その辺の雑貨屋で売っているようなパスケースだった。
「?」
中に白い紙が入っていて、彼の名前と電話番号、LINEのIDが書いてある。
かばんの中を確認すると、自分の学生証が入っていてとりあえず安心した。
仙堂 朔。この字で『さく』と読むんだ。
いたずら?
それにしては手が込んでいる。
授業中ずっと考えていたが、今朝起こったことの全てが理解できない。
自分を納得させる正解がわからなかった。
授業が終わり、ひとりで駅へ向かう。
ひとりは楽でいい。人と話すだけで疲労困憊になる。
「よお」
駅に着くと、仙堂 朔が不満そうな顔で腕を組んで立っていた。
「連絡してこいよ。どれだけ待ったと思ってんだ」
ものすごい上から目線で文句を言われる。
「だって…、怖いじゃん」
僕が好きだったのは外見のかっこよさだけだったのかな。
中身はけっこう厳しい人なんだ。
それがわかっただけでも収穫だ。無駄な片思いを引きずって苦しまなくてすむ。
仙堂 朔は、ふう、とため息をついて近づいてきた。
「あんた電車の中でいつも俺を見てるだろう。けっこうバレるもんだぞ」
「ご、ごめん。迷惑だったよね」
僕は恥ずかしさで爆発しそうだった。
「だからさ、見るだけじゃなくて友達になれば解決するんじゃね?と思って連絡先渡したんだけど」
「ともだち…」
その一言に僕は眉をひそめる。
「立ち話だと目立つからちょっとつきあえ。どうせこの後予定なんかないだろコミュ障くん」
彼は僕に近づいてきて手首を掴んで歩き出した。
放課後の学生が行く定番といえばファミレスくらいなものだ。行くの嫌だなあと思いつつ、腕を掴まれて着いた所はレトロな喫茶店だった。
扉を開けるとカランコロンと音がする、昭和感満載のお店だが悪くない。
「いらっしゃい朔くん、あら、お友達?」
エプロン姿の、自分の母親のような格好の女性がカウンターのむこうに現れた。
「これから友達になる予定。俺いつもの。お前どうする?」
「え…、っと、じゃ烏龍茶お願いします」
しばらくすると朔の目の前に、透明で大きなマグカップに、生クリームがたっぷりのっているコーヒーゼリーが置かれた。
高校生になって電車通学になった。いろんな制服が混ざり合う車内で、彼を見つけた。
釣り革につかまりながらちらちら見ていると、この辺では有名な進学校の制服だ。その偏差値に似合う格好いいブレザーに細めの眼鏡。手にはスマホ、たまに文庫本を読んでいる。
「なー、だってさ朔」
後ろで話している友人たちが振り向いて背中の彼に声をかけた。彼は「うん」とか「そう」くらいしか返事をしない。そういうものなのだろうか、話をふった彼も深くは追求せず、また話の輪に戻る。
『さく』って名前なんだ。漢字でどう書くのだろう。
僕は共学の普通校で、まだ入学したばかりで親しい友人がいない。
同じ中学校の連中とは関わりたくなかった。
ガタンと音がしてドアが開いた。車内の人間が急いで降りていく。僕も人に押されながら電車を降りた。
「ちょっと」
その声が自分に向けられたものと気がつくのにしばらく時間を要した。
ふりむくと『さく』が僕の後ろに立っていた。
「学生証。落としたよ」
「え?」
彼の感情の読めない顔と学生証を交互に見る。
お礼を言う間もなく、彼は通り過ぎていった。
かばんの奥底に入っているものを落とすかな?
疑問に思いながら渡されたそれを見ると、その辺の雑貨屋で売っているようなパスケースだった。
「?」
中に白い紙が入っていて、彼の名前と電話番号、LINEのIDが書いてある。
かばんの中を確認すると、自分の学生証が入っていてとりあえず安心した。
仙堂 朔。この字で『さく』と読むんだ。
いたずら?
それにしては手が込んでいる。
授業中ずっと考えていたが、今朝起こったことの全てが理解できない。
自分を納得させる正解がわからなかった。
授業が終わり、ひとりで駅へ向かう。
ひとりは楽でいい。人と話すだけで疲労困憊になる。
「よお」
駅に着くと、仙堂 朔が不満そうな顔で腕を組んで立っていた。
「連絡してこいよ。どれだけ待ったと思ってんだ」
ものすごい上から目線で文句を言われる。
「だって…、怖いじゃん」
僕が好きだったのは外見のかっこよさだけだったのかな。
中身はけっこう厳しい人なんだ。
それがわかっただけでも収穫だ。無駄な片思いを引きずって苦しまなくてすむ。
仙堂 朔は、ふう、とため息をついて近づいてきた。
「あんた電車の中でいつも俺を見てるだろう。けっこうバレるもんだぞ」
「ご、ごめん。迷惑だったよね」
僕は恥ずかしさで爆発しそうだった。
「だからさ、見るだけじゃなくて友達になれば解決するんじゃね?と思って連絡先渡したんだけど」
「ともだち…」
その一言に僕は眉をひそめる。
「立ち話だと目立つからちょっとつきあえ。どうせこの後予定なんかないだろコミュ障くん」
彼は僕に近づいてきて手首を掴んで歩き出した。
放課後の学生が行く定番といえばファミレスくらいなものだ。行くの嫌だなあと思いつつ、腕を掴まれて着いた所はレトロな喫茶店だった。
扉を開けるとカランコロンと音がする、昭和感満載のお店だが悪くない。
「いらっしゃい朔くん、あら、お友達?」
エプロン姿の、自分の母親のような格好の女性がカウンターのむこうに現れた。
「これから友達になる予定。俺いつもの。お前どうする?」
「え…、っと、じゃ烏龍茶お願いします」
しばらくすると朔の目の前に、透明で大きなマグカップに、生クリームがたっぷりのっているコーヒーゼリーが置かれた。
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