BLちょっと長い短編集

希京

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第4話 高校生

恋心

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「俺コーヒー飲めないけど、これは好きなんだ」
勝手に説明して仙堂 朔はコーヒーゼリーをスプーンですくった。
「で、お前名前は?」
ゆっくり味わいながら彼が聞いてくる。
僕も読みにくい字だから、いちいち説明するのが面倒なので学生証を出した。

「石井 怜央ね、了解」
それだけ言って返してくる。

『れお、女みたいな名前~』
子どもの頃は子ども特有の残酷さで、思春期になると『女の子みたいな名前だね』と悪気のない一言に傷づいた。
だから全てが嫌になって、積極的に人とは関わりたくない。

「それで、俺に質問ある?」
氷が入ったグラスをカラカラしながら僕に聞いてきた。
「俺は丸裸になったぞ。次はお前の番」

僕は居心地の悪さを烏龍茶で飲みこんだ。
「いろいろ…。スマホ見てるかと思ったら本読んでたり、友達がいるのに話に加わらないし、でもまわりはそれが当然って感じだし不思議だらけだ」
「そういう関係性を築いてるからさ。黙ってても平気だし話しててもおもしろい。トモダチってそんなもんだろ?」
「はあ…」

それは確かにそうなのだが。
僕にはハードルが高い。

「ある日、俺は視線を感じた。じっと見るわけでもなく時々チラチラ見てくる。気になって見返すと目をそらす。言葉にすると気色悪いのわかるか?」
「…うん、ごめん」
確かに気持ち悪かっただろうな。僕の視線はただ見ているそれとは違う。
好きな人を見る目だ。

「制服で学校はわかるけど、あんたに繋がる友人がそこの学校にはいなかったから、こんな小細工した」
烏龍茶の入ったグラスのしずくが多くなっていく。朔に睨まれて喉がカラカラなのにとても飲める状態ではない。
「…眼鏡が」
「え?」
「細いフレームの眼鏡が気になって…癖みたいになって……見てた…」
僕はとっさに嘘をついた。
これ以上変な人間と思われたくない。

「ああ、これ?」
朔は細いフレームの眼鏡を外して、僕にかけてきた。
「…?」
「それ伊達メガネ」
テーブルに肩肘をついて、朔はにやにやしながらコーヒーゼリーをひと口食べる。

「俺モテるからさ、オンナ追い払うのダルいんだわ。だから高校からは陰キャでいこうと思って髪を黒くして眼鏡かけてオタクに変身したんだけど、なーんかあまり効果ないんだな」

それはそうだよ。漂うオーラが陰キャじゃないし、僕みたいな人間ですら引き寄せる魅力がある。
「なんだよ、言いたいことは口に出せよ」
「ごめ…言いたいこと、頭の中で先に…言ってしまう癖が……あって……」
だから人と関わりたくないんだ。話のテンポが合わず『人の話聞いてる!?』と怒られるから。

僕から眼鏡を取り上げて自分にかけ直す。その一連の仕草もかっこいい。
「俺は自己紹介したぜぃ。怜央は?どんな人なんだい」
朔はちょっとずつゼリーをすくって、さらに生クリームをたっぷりのせてゆっくり食べる。よっぽど好物なんだろう。
「タイムリミットは俺が食べ終わるまでだ」
「あ…の、えと…仙堂くん」
「怜央でいいよ」
「じゃあ怜央くん。僕はあなたが好きです。それだけです。迷惑かけてすみませんでした」
「オンナの次は男かよ。俺はモテる星のもとに生まれてきたんだな」
顔を両手で塞いで朔は背もたれに沈んだ。
「告白してスッキリしたか?」
「…う…ん、まあ」
朔は綺麗にコーヒーゼリーを食べてスプーンを置き、伝票を持って立ち上がった。
「じゃあこれでお別れだ」



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