BL短編集2

希京

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鎌倉

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北条義時x三浦義村

(以下私の妄想が続きます。苦手な方はブラウザを閉じる事をお勧めします)

幼い頃から一緒にいる時間が長ければ、何も言わなくても相手のことがわかってくる。
仕草や癖。機嫌がいいのか悪いのか。何を企んでいるのか。
「義時」
普段は「平六」「小四郎」と呼び合うことが多いのに、こいつが元服後の名前を使う時は極めて重要な政治的話の時。
「何だ」
努めて平静を装いながら振り向くと、直垂姿の義村に腕を掴まれて、御簾で囲まれた廊下から狭い小部屋に押し込まれた。
「こんなものが朝廷から届いた」
慌ただしくまわりの戸を閉めながら、平六こと義村は書状を目の前にかざしてくる。
奪うように手に取って内容を確認している間に、音もなく目の前に座ったこいつが無表情のまま言った。
「北条義時を誅殺せよとの院宣だ」
まだ目を通していないのに内容を先に言われて、俺は不快感を示すために片眉を歪めてこいつの顔を見上げた。
「今頃鎌倉、いや、この国全部の侍にこの密書が届いているだろうな。お前を殺せば土地も官位も思いのままだとよ。御家人でない小規模な連中なら飛びつくんじゃないか」
「俺を殺すいい機会じゃないか。お前にとっては」
「おい、冗談はやめてくれよ。鎌倉殿を立ててやっと掴んだ権利であり幕府だぞ。また貴族の犬に戻るなんてまっぴらだ」
「……」
俺はじっとこいつを見た。
嘘をつく時、こいつは襟を直す。
その両手は膝に置かれたまま動く気配はない。
「…この国中の侍どもが俺の命を狙っているわけか。幕府打倒ではなく俺を狙えとは、院も小賢しい。同士討ちさせて幕府を滅ぼす算段だな」
ばか丁寧に書状を畳んで元に戻している俺の手首を、義村、いや平六が掴んでねじ上げた。
相手が自分の予想以外の行動を取るとこいつは荒々しくなる。
逆に俺は冷静を装う。
「北条が滅ぶのは嬉しいが、幕府が滅びるのは困る。俺の祖父からの悲願をここで終わらせるわけにはいかない」
「院に逆らおうというのか。それこそ頼朝さまの二の舞になるぞ」
「小四郎お前いつから朝廷の犬になったんだ?そんな弱腰では本当に殺されるぞ。院宣が何だと言うんだ。俺たちが手に入れたものは、一族あげて血の屍の上に築き上げた権利なんだぞ!それをお前は…っ」
「そんな事はわかっている!少し黙ってろ」
「日和ってんのか。それがお前の限界か!?」
その言葉に何かが切れた。
掴まれていた手首を思い切り振りほどくようにひねって、平六を倒してその上にのしかかって動きを止めた。
バン!と派手な音を立てて両手の手のひらを暗い床に押し付ける。
「は…、やっとやる気になってくれたか」
俺の下で顔を歪めて笑っているこいつがうまく煽ってくる。
「幕府は守る。ついでにお前もな。ほかの連中は知らん」
俺は無言のまま目に力を込めて、こいつの全ての動きを見た。
「…小四郎?」
「お前は信用できない」
俺を守る?面白くない冗談だ。
だがそれが嘘だと知るのが不安で恐ろしくなって、こいつの胸紐に手を伸ばして強くほどいた。
見たくなかった。こいつが嘘をつく時の仕草を。
自分の烏帽子がずれるくらいの勢いで俺はこいつの着ているものを剥ぎ取っていった。
俺がこうすることを想定して、部屋の扉全てを閉めたのだと、今になって気がついた。
むき出しになった白い足を担ぎあげる。
平六はまぶしそうに目を細めたが、抵抗してこなかった。
こどもの頃から近くにいて、俺が動揺するとこいつは体を捧げて怒りや不安を鎮めてくれる時がある。それは誰も知らない、幼なじみ同士の秘密。
争っているのは家の都合だ。俺たちの絆は、まだかすかに残っていると自分をごまかす。
「これで借りを作れる」
平六がにやりと笑う。実朝さまの時はなんとか痛み分けで終わらせた。ここで失点するのは手痛い。
だが三浦一族を抱き込まなければ、全てが崩壊する。
何のためにここまで修羅の道を歩いてきたんだ。
感情が渦になって俺を飲み込んで、動けなくなっている俺の頭の後ろに、平六はそっと手を伸ばして自身に引き寄せてきた。
「不安なのは俺も同じだ」
もう片方の手で俺の頬を包んで、まるで暴力のように唇を重ねて貪ってくる。
その感覚に妙に安心感を覚えた。
嘘つきが。不安など微塵も感じていないくせに。
こいつは嘘をつくとき、着物の襟をさり気なく直す癖がある。
それを確かめるにも、一糸まとわぬ姿では出来ない。
吸い付くようなこいつの肌にふれながら心を落ち着かせながら肩にひたいを押しつけて目を閉じた。

その後尼御台の御家人たちへの鼓舞も功を奏して、後世承久の乱と呼ばれる天皇ご謀反はあっけない形で幕府の勝利に終わった。
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