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2番目
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「俺、結婚するんだ」
春めいてきた公園のベンチに座って、俺は隣の男に言う。
満開とはいえないが桜がぽつぽつ咲き出して、花びらが俺たちに降ってくる。
学生時代から恋人のような存在だった。俺はノーマルだったが彼の強引さに押し切られて関係を持った。
「ふうん」
その男は傷んだ髪を細い指でもてあそびながら謎の微笑を浮かべながら言う。
「その女の人の事愛してるの?」
「当たり前だろ。結婚相手なんだから」
ふふ、と笑って指の動きを止めて綺麗な瞳をこちらに向けてきた。
「結婚ってさ、2番目に好きな人とするといいらしいよ」
そういうことか。
勝ち誇ったような微笑の意味を理解した。
『僕が1番なんでしょ?』
そう言いたいんだろう。
でもこれで最後だ。俺は別れ話のつもりで話している。
「そうだった時もあったな」
「浮気者」
「ごめん」
気が済むまで俺を罵ってくれ。そして忘れてくれ。
彼は俺の肩に手をつき、女と見間違えるくらい美貌の顔を近づけてきた。
「どんな人?」
まるで秘密の相談をしているように、彼は耳元でささやく。
「どんなって…、普通だよ」
「なんだ。つまんない。やっぱ安牌取るんだね」
動揺している俺の足に、彼の細いデニムの足が絡む。
「おい、ここでする気か?離れてくれ」
「ね。1番愛しているのは誰なの?」
揺れる瞳が「僕でしょ」と言っている。
「さあな」
お前に決まってるだろう。だが俺は違う道を選んだんだ。
はっきり「別れよう」という度胸がなくて事実だけを伝えて引き下がってくれるのを待つ。
うなだれている俺の手に指を這わせて、彼は笑顔の仮面を捨てた。
「僕が二番目でもいいよ」
「は?」
「たまに僕を抱きに来てよ」
「何いってんだお前」
これで終わりなんだよ。学生時代から続いた恋人ごっこは。
「お前ならすぐいい人がみつかるさ」
陳腐な言葉しか出てこない。
「そうだね」
「……」
「別にお前に執着しなくても人間なんて腐るほどいるよね」
殴られて罵られるのを覚悟していたが、こんなにあっさり引き下がるとは予想外だ。
無意識に俺はうぬぼれていたんだろうか。
「傲慢なんだよ」
「…ごめん」
だめだ。完全に思考を読まれている。
「ちょっと。ここで勃たせないでよ」
股間を撫でられてはっとした。スラックスが少し膨らんでいる。
「これは…その……」
それを隠すために彼は自分のジャケットを脱いで俺の足にかけた。
「ねえ…。もう一度聞くよ。1番愛してるのは誰?」
「……」
お前だよ。聞かなくてもわかるだろう。
こんなにもお前を求めているのに。
「それあげる。僕だと思って大事にしてね」
俺は立ち上がろうとする彼のTシャツの裾を咄嗟に強く握りしめた。
重い沈黙。
香水の香りに脳が甘く支配される。
「僕は何番目?」
その美しい笑顔にあらがう術を俺は持っていなかった。
春めいてきた公園のベンチに座って、俺は隣の男に言う。
満開とはいえないが桜がぽつぽつ咲き出して、花びらが俺たちに降ってくる。
学生時代から恋人のような存在だった。俺はノーマルだったが彼の強引さに押し切られて関係を持った。
「ふうん」
その男は傷んだ髪を細い指でもてあそびながら謎の微笑を浮かべながら言う。
「その女の人の事愛してるの?」
「当たり前だろ。結婚相手なんだから」
ふふ、と笑って指の動きを止めて綺麗な瞳をこちらに向けてきた。
「結婚ってさ、2番目に好きな人とするといいらしいよ」
そういうことか。
勝ち誇ったような微笑の意味を理解した。
『僕が1番なんでしょ?』
そう言いたいんだろう。
でもこれで最後だ。俺は別れ話のつもりで話している。
「そうだった時もあったな」
「浮気者」
「ごめん」
気が済むまで俺を罵ってくれ。そして忘れてくれ。
彼は俺の肩に手をつき、女と見間違えるくらい美貌の顔を近づけてきた。
「どんな人?」
まるで秘密の相談をしているように、彼は耳元でささやく。
「どんなって…、普通だよ」
「なんだ。つまんない。やっぱ安牌取るんだね」
動揺している俺の足に、彼の細いデニムの足が絡む。
「おい、ここでする気か?離れてくれ」
「ね。1番愛しているのは誰なの?」
揺れる瞳が「僕でしょ」と言っている。
「さあな」
お前に決まってるだろう。だが俺は違う道を選んだんだ。
はっきり「別れよう」という度胸がなくて事実だけを伝えて引き下がってくれるのを待つ。
うなだれている俺の手に指を這わせて、彼は笑顔の仮面を捨てた。
「僕が二番目でもいいよ」
「は?」
「たまに僕を抱きに来てよ」
「何いってんだお前」
これで終わりなんだよ。学生時代から続いた恋人ごっこは。
「お前ならすぐいい人がみつかるさ」
陳腐な言葉しか出てこない。
「そうだね」
「……」
「別にお前に執着しなくても人間なんて腐るほどいるよね」
殴られて罵られるのを覚悟していたが、こんなにあっさり引き下がるとは予想外だ。
無意識に俺はうぬぼれていたんだろうか。
「傲慢なんだよ」
「…ごめん」
だめだ。完全に思考を読まれている。
「ちょっと。ここで勃たせないでよ」
股間を撫でられてはっとした。スラックスが少し膨らんでいる。
「これは…その……」
それを隠すために彼は自分のジャケットを脱いで俺の足にかけた。
「ねえ…。もう一度聞くよ。1番愛してるのは誰?」
「……」
お前だよ。聞かなくてもわかるだろう。
こんなにもお前を求めているのに。
「それあげる。僕だと思って大事にしてね」
俺は立ち上がろうとする彼のTシャツの裾を咄嗟に強く握りしめた。
重い沈黙。
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「僕は何番目?」
その美しい笑顔にあらがう術を俺は持っていなかった。
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