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救いの街 攻街戦
私だって戦える
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「一人で死んでろよ如月」
残されたのは猛毒を含んだ捨て台詞。舌を突き出して挑発し、背を向けて窓から飛び降りた茉白は靴底に魔力を集めビルの壁面を蹴って急加速する。凄まじい向かい風によりぶれる視界を諸共せず、地上へと落ちゆく最中に弥夜を抱きかかえることに成功した。
「茉白……もう無理だよ」
弥夜は目に涙を溜めながら茉白にしがみ付く。腕の中で唸り声を発しながら縮こまる相方の手は小刻みに震えており、多大な恐怖心を言わずと物語っていた。
「泣くな、お前本当に歳上かよ」
「高所恐怖症だよ? 高いところ怖いもん……」
落下の際の風圧に打ち付けられて服や髪が痛いほどに靡く。僅か数秒後、二人が今まで居た八十階より無数の風の刃が飛び出した。如月の言う通りまさに自爆。割れた窓の散らばった硝子片が、驟雨さながら降り注いだ。
「……悪いな。怖いのによく頑張った」
「茉白がうちを信じろって言うから、私はその言葉に従っただけ」
縦横無尽に宙を翔ける風の刃は、切り裂く対象を見失い虚空へと消え入った。その様子を確認し終えた茉白は鼻で笑うと、弥夜を抱えたままビルへと手を伸ばす。肩から手先まで螺旋を描くように伝った数匹の蛇が、窓を突き破り部屋内の柱へと巻き付いた。
「ギリギリじゃん茉白!! あと数秒遅かったらグロテスクな肉塊になってたよ!?」
「わんわん泣いてただけの奴が文句を垂れるな。それに、飛び降りてなかったら今ごろ肉塊どころかミンチだったぞ」
「……確かに」
ぐうの音も出ないとは、まさにこのこと。自由自在に伸縮する蛇は二人を無事部屋の中へと導き、役目を終えると魔力の粒子となり消失した。目元に執拗く居座る涙を拭って周囲を見渡した弥夜は、辺りの情報から現在地が六階であることを知る。
「七十四階分も飛んでたの!?」
まだ開発途中なのか彼女達の投げ出されたフロアには何も無く、ただ茫洋で無機質な空間だけが広がっている。辺りの喧騒でさえ遮断されており嫌な静けさが漂っていた。
「エレベーターより早いだろ」
軽口を叩きながらも辺りの警戒は怠らない。ふと茉白
の顔へと向いた弥夜の視線が、くっきりとした目元に固定されたまま動きを止めた。
「茉白、その目……」
本来の人間とは掛け離れた、蛇のような線状の瞳孔が瞳を縦に分断している。「ああ、これか」と興味無さげに紡いだ茉白は何度か瞬きをしてみせた。
「気持ち悪いか? 普段は隠れているが、舌と同じで能力の弊害だ」
「ううん、超可愛い」
「お前の感性おかしいだろ」
膨れた弥夜は「そんなことないもん」と言い返すと同時に割れた窓の外に視線を向け、何かを発見したのか目を見開きながら地上目掛けて指を差した。
「茉白、見て!!」
茉白は背後を警戒しながらも言われた通り地上を見下ろす。そこには皮肉にも見慣れた姿。難しい顔をしながら眉を顰めた茉白は、何かを言いたげに唸り声を発した。
「夜羅も来てたなんて」
「お前のせいだろ? 昨日誑かしたって言ってたもんな」
「誑かしたんじゃないよ。もっと素直に生きたら? ってアドバイスしただけ。夜羅はきっと……自分の意志で此処へ来た」
地上で繰り広げられる戦闘。状況は芳しく無く、夜羅の周囲を複数の還し屋が囲う。戦闘能力の高さでは夜羅に軍配が上がるものの、それを補うような数での暴力が行われていた。
「囲まれてる……助けに行かなきゃ」
「放っとけ、自分の意志で来たんだろ」
「でも……!!」
「いいか弥夜、感情で動くな。先ずはお前が生き残ることを考えろ。此処は敵陣ど真ん中なんだぞ。その証拠に……うち等も囲まれてる」
まるで袋の鼠と言わんばかりに、扉から進入してきた数十人が二人を追い詰める。背後は割れた窓であり、飛び降りた所で下は敵が犇めき合う宝物庫。つまり後退という選択肢は無い。ここで殺るしかないと、早々に腹が括られた。
「しばらく柱にでも隠れてろ」
「やだ。ねえ茉白、その刀もう一本出せる?」
「やめとけ。武器を握ったところで戦闘慣れしていなければすぐに喰われる」
「大丈夫だよ? 私だって戦える。護ってもらうばかりじゃ、茉白がいくつあっても足りないよ」
「足りないのは命、な。うちを物みたいにカウントするな」
無言で差し出された手は、武器を寄越せと言わずと語る。ため息をついた茉白は同じ刀を具現化させると静かに手渡した。
「ありがと。デイブレイクの初仕事、上手くやらなきゃね」
黒い鞘から刀を抜き放ち試しに一振り。やけに手に馴染む感覚に、弥夜は僅かに口元を緩める。丁寧に手入れされているであろう刀身は、陽の光を曇らせることなく乱反射していた。
「黒い液体はどうやって出すの?」
「出せる訳ないだろ、うちの能力だぞ」
「そうなの? 強そうなのに残念」
突如として、二人を分断するように灼熱の魔力が飛来する。反射的に左右へと割れた二人は、各々に敵の群れへと突っ込み身を捻じ入れた。先ほどまで二人が居た場所は灼熱に飲み込まれ、刺々しく燃ゆる炎が壁面にまで侵食していた。
「弥夜、死にそうになったら呼べよ!!」
靴底を滑らせ体勢を低く保った茉白。半月を描くように振り抜かれた刀が容易く敵を裂く。コンマ数秒遅れて飛び散った鮮血が色白の顔面に降り掛かった。
「……死にそうかも!!」
「まだ戦ってないだろ!!」
床に飛び散った血が斑模様を形成し、その模様ですら靴底で踏まれて歪に伸びる。茉白は素早い動きで敵を翻弄し、一人一人確実に仕留めてゆく。ふわりと靡く制服のミニスカートから覗く引き締まった太腿が、過酷な状況下でありながら艶やかさを晒していた。対する弥夜は刀の扱いに慣れておらず、一振りの動作が大きく容易く予測される軌道を描く。止められた刀を囮に敵の腹部に蹴りを叩き込み、怯んだところを切り裂く。茉白に比べて遅いものの、弥夜もまた順調に敵の頭数を減らした。
「振りがデカ過ぎる、もっとコンパクトに振れ!!」
ぶっつけ本番の中での忠告が響く。口を尖らせた弥夜は無我夢中で刀を振り回した。
「そんなこと言ったって、こんな軽い武器ほとんど握ったことすらないのに……!! リーチも短いし使いにくいよ!!」
無意識に弥夜の戦況を気にしてしまう茉白は、舌打ちをしつつ眼前の敵を切り裂く。戦わせない方が良かったかもしれないと僅かな後悔に苛まれた。刀の扱いは決して上手くはないどころか下手に部類するが、敵の攻撃を躱す動作については何ら問題は見受けられない。飛来した魔法を認識するや否や身体を捻る最小限の動きで躱し、隙をついて振り抜かれた刀は上体を後ろに反らすことでやり過ごす。戦闘慣れを隠しているのかと勘繰るほどの身のこなしだった。
「これなら……私の方が強い」
弥夜はそのまま攻勢に転じ、流れるような動きで敵の合間を縫うように駆ける。置き去りにされた斬撃は、時間差で複数人の身体を容易く切り裂いた。
「ね? やれるでしょ?」
ドヤ顔とウィンクに対し、ため息を吐いた茉白は刀を素早く一振り。放たれた蛇の魔力が荒れ狂いながら牙を剥いて弥夜へと襲い掛かる。驚き仰け反る弥夜。不規則に捻れる蛇は寸前で軌道を変えると、弥夜の肩口を通り抜けて背後の男を貫いた。
「討ち漏らしが無ければな。いいか? トドメは必ずさせ。自分の目で死んだことを確認するまでは気を抜くな」
弥夜の背後で蛇に貫かれた男が灰となる。砂のようにさらさらと崩れ空気中に舞った灰が、命の重さを誤認させるほど簡単に雲散霧消した。
「肝に銘じておきます」
茉白の素早い動きを捉えられる者はおらず、二人対多数の戦況は一気に覆される。要した時間は僅か数分であり、全て片付け終えた二人は、額に汗を滲ませながらハイタッチの要領で手を合わせた。
残されたのは猛毒を含んだ捨て台詞。舌を突き出して挑発し、背を向けて窓から飛び降りた茉白は靴底に魔力を集めビルの壁面を蹴って急加速する。凄まじい向かい風によりぶれる視界を諸共せず、地上へと落ちゆく最中に弥夜を抱きかかえることに成功した。
「茉白……もう無理だよ」
弥夜は目に涙を溜めながら茉白にしがみ付く。腕の中で唸り声を発しながら縮こまる相方の手は小刻みに震えており、多大な恐怖心を言わずと物語っていた。
「泣くな、お前本当に歳上かよ」
「高所恐怖症だよ? 高いところ怖いもん……」
落下の際の風圧に打ち付けられて服や髪が痛いほどに靡く。僅か数秒後、二人が今まで居た八十階より無数の風の刃が飛び出した。如月の言う通りまさに自爆。割れた窓の散らばった硝子片が、驟雨さながら降り注いだ。
「……悪いな。怖いのによく頑張った」
「茉白がうちを信じろって言うから、私はその言葉に従っただけ」
縦横無尽に宙を翔ける風の刃は、切り裂く対象を見失い虚空へと消え入った。その様子を確認し終えた茉白は鼻で笑うと、弥夜を抱えたままビルへと手を伸ばす。肩から手先まで螺旋を描くように伝った数匹の蛇が、窓を突き破り部屋内の柱へと巻き付いた。
「ギリギリじゃん茉白!! あと数秒遅かったらグロテスクな肉塊になってたよ!?」
「わんわん泣いてただけの奴が文句を垂れるな。それに、飛び降りてなかったら今ごろ肉塊どころかミンチだったぞ」
「……確かに」
ぐうの音も出ないとは、まさにこのこと。自由自在に伸縮する蛇は二人を無事部屋の中へと導き、役目を終えると魔力の粒子となり消失した。目元に執拗く居座る涙を拭って周囲を見渡した弥夜は、辺りの情報から現在地が六階であることを知る。
「七十四階分も飛んでたの!?」
まだ開発途中なのか彼女達の投げ出されたフロアには何も無く、ただ茫洋で無機質な空間だけが広がっている。辺りの喧騒でさえ遮断されており嫌な静けさが漂っていた。
「エレベーターより早いだろ」
軽口を叩きながらも辺りの警戒は怠らない。ふと茉白
の顔へと向いた弥夜の視線が、くっきりとした目元に固定されたまま動きを止めた。
「茉白、その目……」
本来の人間とは掛け離れた、蛇のような線状の瞳孔が瞳を縦に分断している。「ああ、これか」と興味無さげに紡いだ茉白は何度か瞬きをしてみせた。
「気持ち悪いか? 普段は隠れているが、舌と同じで能力の弊害だ」
「ううん、超可愛い」
「お前の感性おかしいだろ」
膨れた弥夜は「そんなことないもん」と言い返すと同時に割れた窓の外に視線を向け、何かを発見したのか目を見開きながら地上目掛けて指を差した。
「茉白、見て!!」
茉白は背後を警戒しながらも言われた通り地上を見下ろす。そこには皮肉にも見慣れた姿。難しい顔をしながら眉を顰めた茉白は、何かを言いたげに唸り声を発した。
「夜羅も来てたなんて」
「お前のせいだろ? 昨日誑かしたって言ってたもんな」
「誑かしたんじゃないよ。もっと素直に生きたら? ってアドバイスしただけ。夜羅はきっと……自分の意志で此処へ来た」
地上で繰り広げられる戦闘。状況は芳しく無く、夜羅の周囲を複数の還し屋が囲う。戦闘能力の高さでは夜羅に軍配が上がるものの、それを補うような数での暴力が行われていた。
「囲まれてる……助けに行かなきゃ」
「放っとけ、自分の意志で来たんだろ」
「でも……!!」
「いいか弥夜、感情で動くな。先ずはお前が生き残ることを考えろ。此処は敵陣ど真ん中なんだぞ。その証拠に……うち等も囲まれてる」
まるで袋の鼠と言わんばかりに、扉から進入してきた数十人が二人を追い詰める。背後は割れた窓であり、飛び降りた所で下は敵が犇めき合う宝物庫。つまり後退という選択肢は無い。ここで殺るしかないと、早々に腹が括られた。
「しばらく柱にでも隠れてろ」
「やだ。ねえ茉白、その刀もう一本出せる?」
「やめとけ。武器を握ったところで戦闘慣れしていなければすぐに喰われる」
「大丈夫だよ? 私だって戦える。護ってもらうばかりじゃ、茉白がいくつあっても足りないよ」
「足りないのは命、な。うちを物みたいにカウントするな」
無言で差し出された手は、武器を寄越せと言わずと語る。ため息をついた茉白は同じ刀を具現化させると静かに手渡した。
「ありがと。デイブレイクの初仕事、上手くやらなきゃね」
黒い鞘から刀を抜き放ち試しに一振り。やけに手に馴染む感覚に、弥夜は僅かに口元を緩める。丁寧に手入れされているであろう刀身は、陽の光を曇らせることなく乱反射していた。
「黒い液体はどうやって出すの?」
「出せる訳ないだろ、うちの能力だぞ」
「そうなの? 強そうなのに残念」
突如として、二人を分断するように灼熱の魔力が飛来する。反射的に左右へと割れた二人は、各々に敵の群れへと突っ込み身を捻じ入れた。先ほどまで二人が居た場所は灼熱に飲み込まれ、刺々しく燃ゆる炎が壁面にまで侵食していた。
「弥夜、死にそうになったら呼べよ!!」
靴底を滑らせ体勢を低く保った茉白。半月を描くように振り抜かれた刀が容易く敵を裂く。コンマ数秒遅れて飛び散った鮮血が色白の顔面に降り掛かった。
「……死にそうかも!!」
「まだ戦ってないだろ!!」
床に飛び散った血が斑模様を形成し、その模様ですら靴底で踏まれて歪に伸びる。茉白は素早い動きで敵を翻弄し、一人一人確実に仕留めてゆく。ふわりと靡く制服のミニスカートから覗く引き締まった太腿が、過酷な状況下でありながら艶やかさを晒していた。対する弥夜は刀の扱いに慣れておらず、一振りの動作が大きく容易く予測される軌道を描く。止められた刀を囮に敵の腹部に蹴りを叩き込み、怯んだところを切り裂く。茉白に比べて遅いものの、弥夜もまた順調に敵の頭数を減らした。
「振りがデカ過ぎる、もっとコンパクトに振れ!!」
ぶっつけ本番の中での忠告が響く。口を尖らせた弥夜は無我夢中で刀を振り回した。
「そんなこと言ったって、こんな軽い武器ほとんど握ったことすらないのに……!! リーチも短いし使いにくいよ!!」
無意識に弥夜の戦況を気にしてしまう茉白は、舌打ちをしつつ眼前の敵を切り裂く。戦わせない方が良かったかもしれないと僅かな後悔に苛まれた。刀の扱いは決して上手くはないどころか下手に部類するが、敵の攻撃を躱す動作については何ら問題は見受けられない。飛来した魔法を認識するや否や身体を捻る最小限の動きで躱し、隙をついて振り抜かれた刀は上体を後ろに反らすことでやり過ごす。戦闘慣れを隠しているのかと勘繰るほどの身のこなしだった。
「これなら……私の方が強い」
弥夜はそのまま攻勢に転じ、流れるような動きで敵の合間を縫うように駆ける。置き去りにされた斬撃は、時間差で複数人の身体を容易く切り裂いた。
「ね? やれるでしょ?」
ドヤ顔とウィンクに対し、ため息を吐いた茉白は刀を素早く一振り。放たれた蛇の魔力が荒れ狂いながら牙を剥いて弥夜へと襲い掛かる。驚き仰け反る弥夜。不規則に捻れる蛇は寸前で軌道を変えると、弥夜の肩口を通り抜けて背後の男を貫いた。
「討ち漏らしが無ければな。いいか? トドメは必ずさせ。自分の目で死んだことを確認するまでは気を抜くな」
弥夜の背後で蛇に貫かれた男が灰となる。砂のようにさらさらと崩れ空気中に舞った灰が、命の重さを誤認させるほど簡単に雲散霧消した。
「肝に銘じておきます」
茉白の素早い動きを捉えられる者はおらず、二人対多数の戦況は一気に覆される。要した時間は僅か数分であり、全て片付け終えた二人は、額に汗を滲ませながらハイタッチの要領で手を合わせた。
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