【R18】悪女になって婚約破棄を目論みましたが、陛下にはお見通しだったようです

ほづみ

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13.陛下にはお見通しだったようです 1

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 目を開けると、そこは暗い部屋の中だった。部屋を照らすのは外からの明かりのみ。外に目を向けると、空は茜色から群青に変わりつつある。
 時間はそんなにたっていない。
 気を失っていたのは、わずかな間のようだ。
 何をされたのか思い出し、体を起こそうとしたけれど体が動かない。

「目が覚めたか?」

 すぐそばから声が聞こえ、私はぎょっとなって視線を動かした。
 夕闇に沈む部屋の中、アルトウィン様は私の足元に腰掛けていらっしゃった。闇が濃いためにまったく気づかなかった。

 ここで初めて私は、自分がベッドに寝かされており、両腕が拘束されていることを知った。足は自由に動く……でも、両腕はまとめて縛られ、どこかにつながれている。
 腕を上げた姿勢で私はベッドに横たわっていた。

「あ……アルトウィン様、これは……」
「俺はな、エレオノーラ」

 アルトウィン様が立ち上がって私のすぐ傍らまで歩み寄り、私を見下ろす。

「初めて会った時から君のことを一目で好きになった。君が一歳を過ぎたころの話かな」
「……一歳って……」

 私は物心つく前からお父様によって王宮に連れていかれている。
 私が一歳ならアルトウィン様は六歳くらいだろうか。
 六歳で、私を?

「すごくかわいかったんだ。天使みたいだった。父上にすぐに頼んだよ、あの子をお嫁さんにしたい、って」
「え……ええ……!?」

 六歳児に見初められていたとは……!

「まだ早いって言われたね。そのあともことあるごとに父上に頼んだ。君の父上、ウェストリー卿に直談判したこともある。たぶんこれがよくなかったんだろうな、君の父上と、君の兄上は俺に釘を刺してきた。あまりしつこくかまうと、エレオノーラに嫌われるぞ、と。節度を保って接してくれ、と」

 アルトウィン様が手を伸ばして私の頬に触れてくる。

「だから俺はできるだけ節度を保って接するようにした。でもそれじゃ君の特別になれない。君に尊敬される人間になれば、君のほうから選んでもらえると思って、学問にも武道にも打ち込んだ。いつも考えていたよ、君にとって理想の王子様像ってどんな姿なんだろう、って。君の理想を体現できれば必ず君と結婚できるはずだって」

 アルトウィン様の独白に私は息を呑んだ。

「そして俺の思惑通り、君は俺に懐いてくれた。俺は真面目で勤勉だから評議委員たちの評判もいいんだよ。そのおかげで君の名前を候補に出しても文句は言われなかった。ああ、想像できると思うがコリンナは評議委員が選んだ娘だ。実はほかにも何人もいたが、君を目の仇にしそうな娘たちは論外だから却下した。コリンナは賢いし穏やかな性格だから残した。君のためにね」

「……私のため……?」

「妃候補がエレオノーラ一人では何かと注目を集める。もう一人いたほうが人の目が分散する。コリンナは自分の役目を正しく理解して、俺によく従ってくれたよ」

 私とコリンナでは与えられていた役目が違ったの?
 知らなかった。
 そしてそれをコリンナは知っていた……?
 それでは、あの親しげな雰囲気はなんだったの?

「最終的に選ぶのは俺なんだ、君はもう俺のものだと思った。嬉しかったんだ……それなのに、いつ頃からかな……君のほうから距離を取り始めて」

「……違う……それは……!」

「俺が勘違いをさせていたとは知らなかった。ずっとどうしたらいいのかわからなかった。その結果がこれだ。俺は君に婚約破棄を画策された。俺は君と結婚したくてたまらなかったのに、君にとっての俺は、その程度の存在でしかなかったんだな。……はっきりいって打ちのめされたよ」

「だから、それは……!」

「エレオノーラ、君は『アロイス』の前では実に楽しそうだったな。もしかして『アロイス』と一線を越えてもいいと思った?」

「……っ! そんなことは……っ」

「俺を愛しているって本当? 俺への気持ちが強いのなら、『アロイス』になびくはずないよな。やっぱり君にとって俺はその程度の存在でしかないのかな」

 そう言いながらアルトウィン様がスラックスのポケットから何かを取り出す。
 目の前で鞘を抜き、私に鋭利な輝きを見せつける。ナイフだった。

「君は、少し『アロイス』に心を傾けていた。……『アロイス』の正体は俺だったわけだが、それでも君の心が誰かに奪われたことが気に入らない」

 ナイフが私のドレスの上身頃に当てられる。
 怖くなって目を閉じた刹那、鋭い音がしてドレスが切り裂かれた。

「あ……アルトウィン様、いったい何を……」
「君の気持ちはよくわかったよ。でも、俺としても君に逃げられたら困るんでね」

 アルトウィン様はそう言ってナイフをしまうと、切り裂いたドレスに手をかけた。



 いったい何が起きているの?
 全然わからない。頭が追い付かない。
 あれよあれよという間に私は身にまとっていた衣類をすべてはぎとられ、丸裸にされていた。
 恥ずかしいし、何より怖い。
 アルトウィン様がこんなことをされる、というのも信じられない。
 女性に対して紳士的に振る舞うお姿しか存じ上げないからだ。

「いくらアルトウィン様といえど、無礼が過ぎます! 誰か……誰か来て! 助けて!!」
「無駄だと言っているだろう」

 アルトウィン様がおっしゃるとおり、屋敷に人はいないのか、私がどんなに大声をあげても助けを呼んでも、誰もくる気配がない。

「アルトウィン様はお優しい方です! こんなことはされないはずです!」
「お優しい、ね。ずっとそういう男を演じていたからね。でもそれで君とすれ違うことになってしまったから、お優しいアルトウィンはもうおしまいだ。……明かりがないのが残念だな。エレオノーラのきれいな体がちっとも見えない」
「いやです、アルトウィン様! やめて!!」

 私の叫びを無視して、アルトウィン様が私の上にのしかかり、そっと胸元から腹を撫でる。
 私の肌に触れるのはせいぜい入浴を手伝ってくれるメイドくらいのものだが、彼女たちにしたってこんなふうに私に触れてくることはない。

 日は沈み、いつの間にか外は真っ暗。明かりがないから部屋の中も真っ暗。カーテンを引いていない窓の外から入り込む、仮面祭りの明かりだけが唯一の光源だった。
 窓を開け放っているから、外のざわめきも聞こえる。この建物は祭りの会場からそう遠くない場所にあるようだ。
 そんな場所で私は拘束され、丸裸にされている。

 すぐ近くに人がいるのに誰も私に気付かない。ここで私がどんな目に遭わされても誰にも気づかれない。その事実が私を打ちのめす。

「でも君の肌がとてもすべすべで、よく引き締まっているのはわかる。普段から運動をしている賜物だね」

 私の腹から腰のあたりを撫でながら、アルトウィン様がうっとりと呟く。暗くて彼の顔がよく見えないのは幸いかもしれない。あのお優しいアルトウィン様が私に狼藉を働くなんて信じたくないもの。

「それに思ったよりも胸が大きいんだな。もしかして動きやすいように押さえつけていたのかな」

 アルトウィン様の大きな手が私のあらわになった乳房を包む。ふわふわと触られて思わず体が跳ねた。

「本当に残念だよ、エレオノーラ。君の顔も、色づく体も見えない」

 そう言ってアルトウィン様が顔を寄せてくる。
 貞操の危機にあることだけはわかるが、具体的に何をされるのかなんてわからない。だから私はアルトウィン様を避けることができなかった。
 唇が重ねられる。
 恋物語で見かけるような優しい口付け、ではなかった。
 いきなり口をこじ開けて舌を差し込まれる。

「んーっ!」

 突然のことに顔を背けようとしたら、ぎゅっと乳首をつかまれて、私は動くのをやめた。敏感な場所を痛めつけられるのが怖かった。
 とりあえずの抵抗をやめた私に気をよくしたのか、アルトウィン様の舌先が無遠慮に私の口の中を動き回る。
 唾液が口からあふれて垂れていくが、それをどうすることもできない。
 初めての口付けがこんな暴力的なものになるなんて。

「ん……んんっ……!」

 口付けしたしたまま、アルトウィン様の大きな手が私の胸をもてあそぶ。
 アルトウィン様の舌先が私の舌を追いかけてくる。逃げても逃げても追いかけてきて絡めとられ、しつこく舐め上げられる。

 こんな口付けのしかたがあるなんて知らなかった。こんなことは閨の作法の本には書いてなかった。もちろん口頭でも聞いていない。アルトウィン様が何をしたいのかさっぱりわからない。
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