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03.おまえ以上の適任者はいない
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毎年、実家から「いいかげん帰国しなさい」という連絡が来る。
サラは侯爵令嬢とはいえ、兄がいるので家のために結婚しなくてはならないという立場ではない。
のらりくらり話をかわしているうちに五年が過ぎた。
ジョエルの情報はわざと遮断しているので、サラのもとには届かない。もともとカルネンは遠いので、祖国の情報は届きにくい。
サラのいる工房に祖国から、絵画の知識を持つ人間を派遣してほしいという連絡が届いた。
問い合わせはカルネンの職人管理局に入ったらしい。そこから、「あの国出身の職人がいる工房がある」ということで、この工房に連絡がまわってきたのだった。
なんでも、王都に大雨が降って王宮に土砂が流れ込み、王宮のギャラリーが壊滅的な被害を受けたのだという。
そういうことならサラが適任だな、と工房主に呼ばれる。
「これはひどいなあ」
被害の一覧を見ながら、工房主が呟く。
「見てみるか?」
渡された一覧を見ながら、サラも眉をひそめた。
「ギャラリーの半分までが土砂につかるなんて……。これでは絵画はもう」
「やってみないことにはわからんさ。そうだろう? サラ」
工房主に問われ、頷く。
「この工房にはおまえ以上の適任者はいない。依頼主あっての絵描きだからね。サラ、頼むよ。ギャラリーの絵を蘇らせてくれ」
「私一人で、ですか?」
「いや、何人かつけるよ。でも責任者はおまえだ。ギャラリーが蘇るまで、おまえが全責任を持つんだよ。いいね?」
王宮のギャラリーは決して小さくない。
あそこに収蔵されている絵画の修復をすべて行うとなると、何年……いや何十年かかるかわからない。
それに責任者なんて無理……と言おうとしたが、この工房に自分以上の適任者はいないのも事実。
「私にできるでしょうか」
不安になってたずねれば、
「できるさ。おまえは優秀な絵描きだ」
工房主は太鼓判を押してくれた。
そうしてサラは五年ぶりに祖国に戻ることになった。
両親は水害を避けて領地に避難していたため、サラはすぐに王宮に向かう。
大規模な洪水が発生したのは今からひと月以上前のことだが、水害の痕跡は色濃く残っていた。それほど被害を受けていない場所もあったが、ごっそり土砂に覆われて何もかもなくなってしまった場所もあった。
あちこちで家をなくした人が支援物資を受け取るために並んでいる。
兵士たちがうろうろしているのは、土砂に呑まれて行方不明になっている人を捜すためらしい。
そんな光景を目の当たりにしてしまえば、ギャラリーの被害よりもジョエルが気になる。
彼はこの国の王太子。
きっと、とても忙しいに違いない。
責任感の強い人だから、何もかも一人で抱え込んでいなければいいけれど。そう思ったところで、そうか、ジョエルは一人ではなかった、ということを思い出す。
あれから五年もたっている。
好きな人と結婚できているはず。子どもだって生まれているはず。
ジョエルの情報はわざと集めていないので、彼がどうしているのかわからない。
少しは集めておいたほうがいいかと思ったが、聞いてしまったら王宮に向かえない気がして、結局何も知らないままだ。
王宮でジョエルの妃や子どもの話題が出てきたとき、動揺せずにいられるだろうか。自信がない。
サラは侯爵令嬢とはいえ、兄がいるので家のために結婚しなくてはならないという立場ではない。
のらりくらり話をかわしているうちに五年が過ぎた。
ジョエルの情報はわざと遮断しているので、サラのもとには届かない。もともとカルネンは遠いので、祖国の情報は届きにくい。
サラのいる工房に祖国から、絵画の知識を持つ人間を派遣してほしいという連絡が届いた。
問い合わせはカルネンの職人管理局に入ったらしい。そこから、「あの国出身の職人がいる工房がある」ということで、この工房に連絡がまわってきたのだった。
なんでも、王都に大雨が降って王宮に土砂が流れ込み、王宮のギャラリーが壊滅的な被害を受けたのだという。
そういうことならサラが適任だな、と工房主に呼ばれる。
「これはひどいなあ」
被害の一覧を見ながら、工房主が呟く。
「見てみるか?」
渡された一覧を見ながら、サラも眉をひそめた。
「ギャラリーの半分までが土砂につかるなんて……。これでは絵画はもう」
「やってみないことにはわからんさ。そうだろう? サラ」
工房主に問われ、頷く。
「この工房にはおまえ以上の適任者はいない。依頼主あっての絵描きだからね。サラ、頼むよ。ギャラリーの絵を蘇らせてくれ」
「私一人で、ですか?」
「いや、何人かつけるよ。でも責任者はおまえだ。ギャラリーが蘇るまで、おまえが全責任を持つんだよ。いいね?」
王宮のギャラリーは決して小さくない。
あそこに収蔵されている絵画の修復をすべて行うとなると、何年……いや何十年かかるかわからない。
それに責任者なんて無理……と言おうとしたが、この工房に自分以上の適任者はいないのも事実。
「私にできるでしょうか」
不安になってたずねれば、
「できるさ。おまえは優秀な絵描きだ」
工房主は太鼓判を押してくれた。
そうしてサラは五年ぶりに祖国に戻ることになった。
両親は水害を避けて領地に避難していたため、サラはすぐに王宮に向かう。
大規模な洪水が発生したのは今からひと月以上前のことだが、水害の痕跡は色濃く残っていた。それほど被害を受けていない場所もあったが、ごっそり土砂に覆われて何もかもなくなってしまった場所もあった。
あちこちで家をなくした人が支援物資を受け取るために並んでいる。
兵士たちがうろうろしているのは、土砂に呑まれて行方不明になっている人を捜すためらしい。
そんな光景を目の当たりにしてしまえば、ギャラリーの被害よりもジョエルが気になる。
彼はこの国の王太子。
きっと、とても忙しいに違いない。
責任感の強い人だから、何もかも一人で抱え込んでいなければいいけれど。そう思ったところで、そうか、ジョエルは一人ではなかった、ということを思い出す。
あれから五年もたっている。
好きな人と結婚できているはず。子どもだって生まれているはず。
ジョエルの情報はわざと集めていないので、彼がどうしているのかわからない。
少しは集めておいたほうがいいかと思ったが、聞いてしまったら王宮に向かえない気がして、結局何も知らないままだ。
王宮でジョエルの妃や子どもの話題が出てきたとき、動揺せずにいられるだろうか。自信がない。
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