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王女第一のお話(娯楽R18)男主
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しおりを挟むここサーティニア王国は妖精の末裔と言われる王家の治める平和な国だ。
僕、カラ・ジヘルは王家の直轄領であるグレイブ・シン(領地の名前)に続く関所を守る番兵をしてる。
グレイブ・シンは初代妖精王シンの墓所であり、同時に彼の最後の地と伝えられている。あくまでも伝説上の話だ。なにせ五百年も昔の事だから本当の所は分からない。
今は主に年老いた王族達の避暑と療養に使われるつまらない片田舎に過ぎない。
僕は関所の近くの村に生まれた。そして何となくこの仕事に就いた。これから先も特に何も起こらないまま、ここで生き死んでいくのだろうなとぼんやり考えていた。
□□□
ある時王女のグレイブ・シンへの行啓が決まった。
王都で疫病が流行の兆しを見せたためしばらくの間この僻地に逃げてくるらしい。
しかもその王女の名はレウアルートという。子沢山な現王の子女の中で最も優秀だともっぱらの評判だ。
そう、レウアルートは次期女王と目される特別な姫君だった。
次期女王の訪問にグレイブシンの周辺住民は湧いた。王都からの一団が到着した日は近隣の街や村を挙げての盛大なお祭り騒ぎになった。
その晩のことだ——……。
「悪いな、カラ」
「いいよマーカス、アリアナと楽しんでこいよ」
同僚の兵士はいそいそと鎧を解いて夜の騒乱に溶けに行く。関の詰所からでも街中の騒ぎや、音楽、時折上がる花火なんかが森の向こうに良く見える。
今日は王女の護衛兵団までいるのだ。僕一人がこんな辺鄙な所(墓所への関所)で湿気っていなくてもいいのだろうけど。
しかし僕がここを離れれば、偉大な始祖たるシン王はこんな賑やかな晩にひとりぼっちだ。
そもそも僕には彼女もいない。つまり祭りに繰り出しても酔っ払ってハメを外す以外やる事がないといえばそうとも言う。
(……そうすれば良かったかな)
段々後悔してきた。けれど仕事は仕事だ。大扉に背を預け上がった花火を見上げていた。
ふと白いイタチが門へ向けて這ってきた。花火に驚いて森から逃げてきたのだろう。イタチの毛皮はこの辺りの名産で白は特に高値がつく。何色にでも染まりやすくそのままでも美しいからだ。僕はイタチを捕まえて……。
「もっと用心深く生きろよ」
茂みの中に運んでやった。王女の来たお祝いの日くらい小遣い稼ぎはやめて徳を積んでおこう。
「逃がしてあげるの?」
「えっ?」
振り返ると女の人が立っていた。松明に照らされて明るい赤毛で普段着らしいドレスを着た見慣れない人だった。
手にワインのボトルを持っている。街のお祭りを外れて来たのだろうか。
「一人で関所を守ってるのか?」
「いつもは一人じゃないけど今晩はね」
女王陛下が来てるだろ言うとまだ王女だと正された。
「街から来たの?」
「うん……まぁそうと言えば」
「もしかして王都から?」
彼女は頷いた。と言う事は王女様の侍女や召使いの誰かだろう。確かに簡素ではあるがこの辺りの女よりずいぶんいい生地のドレスを着てる。
「お前の姿が見えたからワインを持ってきてやった」
「え?」
「皆遊びに行っているのにご苦労な事だ」
グラスはあるか? と聞かれたので僕は笑って彼女を中へ通した。都の女の子は大仰な話し方をするんだなと思った。
□□□
「……なぜ3つなのだ?」
だいぶガタのきた詰所の木製テーブルに向かい合って座りグラスを3つ並べた。コルクを抜いてやりながら僕は彼女の問いに答える。
「君と僕とシン王さまの……ダメかな?」
畏れ多くも国祖の墓前だ。まぁワインは彼女の物だから、彼女が勿体ないと言うのなら大人しく引き下がろうとは思う。
「見上げたやつだな」
「何?」
「いや……賛成だ」
3つのグラスにワインを注ぐ。香りの甘い赤だ。それぞれ一つづつグラスを取った。
「シン王に」
「新しい女王に」
彼女はだからまだ王女だとまた言い直す。笑ってシン王のグラスを挟み乾杯した。
彼女はローレと名乗った。明るく透ける橙色の髪と水色の瞳が綺麗な人だった。
「グレイブ・シンの周辺は良い猟場が多いと聞く」
「君も狩猟を?」
「付き合いだよ。特別好きって訳じゃない。カラは?」
「僕は……害獣の駆除と食べる目的以外で動物を狩る趣味はないかな」
イタチはたまにお小遣いにするけど。
彼女は狩猟を嗜むという事は貴族の子弟なんだろうか。すると王女様の侍女なのかも知れない。
「森の向こうは湿地帯だ……そうだ、まだ暖かいから大きな渡鳥の群れがいるよ。時間ができたら見物に行くといい」
「そうなの? 狩りよりその方が見てみたいな」
「でも近づき過ぎない方がいい」
「どうして?」
「基本的には逃げられるけどね、気が強いやつが噛み付いてくる」
「凶暴な鳥だな!」
噛まれた事はあるかと聞かれたので正直に頷く。しかも子供の頃で、そのまま沼にも落ちて散々だったというとローレは遠慮なく大笑いした。
「今度沼に連れて行ってくれ」
「いいよ、僕はいつでもこの辺ウロウロしてるから」
ローレの休みに遊びに行こうと誘う。酒の力もあって自然に約束出来た。
「この辺りの生まれなんだな」
「すぐそこのサラ・バートレの村の生まれだよ」
サラ・バートレは村の始まりと言われる女の名前だ。
「そうか、カラはサラ・バートレの出か」
「知ってるの?あんな田舎の何にもない小さいつまらない……」
「おいおい!自分の村をそんなに卑下するもんじゃ……わっ」
ローレが僕を制そうとして立ち上がった拍子に、テーブルに手をついた。歪んだテーブルががたんと揺れた。咄嗟に彼女の肩を掴んで支えた。転ばずには済んだけどグラスが一つ床に落ちて割れてしまった。
「ケガしてない?」
「大丈夫……すまない、グラスが」
「いいよ、いつからあるか分かんないし買い替え時だ。それよりドレスが……」
そのままローレを仮眠用のベッドに座らせて脚に飛んだワインを拭いてやる。きっとシミになる。こんな高価そうなドレスと靴下、それに靴を彼女はまた揃え直すのだろうか。貧乏人の僕には想像もつかない。
ドレスの裾に引っかかったガラス片を払ってやっている時に気が付いた。彼女のくるぶしに傷がある。
「傷が……?」
思わず足首を握ってしまった。紺色のビロードの靴を履いている。意外に小さな足だ。乳白色の靴下に透ける傷は最近の物ではなさそうだった。
「違う古傷だ」
「ごめん」
「何で謝る? 立派な傷だろう。戦ってできたのだ」
「戦って……?」
ローレは自分で靴を脱ぎ、靴下留めのリボンを解いて片方の絹の靴下を脱いで見せてくれた。右脚にはくるぶしから脹脛まで生々しい縫い傷が忌まわしく巻き付いている。
「ティホール戦役を知ってるか?」
「五年前だ。西国境の異民族が攻め込んで……君まさか従軍したのか!?」
ローレは笑って頷く。貴族に生まれたからといって女の子まで戦争に行くのか……? 驚きのあまり言葉も出ない。片田舎の墓場でイタチと戦う僕には想像もつかない。
「立派だよ」
「ありがとう」
「僕にはきっと出来ない。怖気付いて逃げて帰る」
「あははっ……元々ない方がいいんだよ、戦争は」
ローレは堂々としている。同じ歳くらいかと思ってたけどひょっとしたら少し歳上かもしれない。
「でもきっと夫になる人には嫌がられるだろうな」
「そんな事ない」
「そう?」
「うん。嫌がる方がおかしいと思う」
「じゃあお前は?」
「えっ」
足元に跪く僕の眼前にローレの橙色の髪が垂れてきた。見上げると唇が触れた。
「何も夫になれって言うんじゃない。お前はどう思うかと聞いてるんだ」
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