夏の魔物

たんぽぽ。

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夏の深海魚

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 レジの客が途絶えた隙に店頭へ向かう。近づいて見ても男はやっぱり若くて、私と同年代くらいに見える。

 天然パーマなのか短髪なのに髪がうねうねしていて、半笑いの表情を浮かべている。半笑いなのにどこか切なげなのはどうしてだろう。

「何か御用ですか?!」
私は強めに聞いてしまった。彼の挙動不審さが私をイラつかせていたからだ。男は目を泳がせながら答えた。
「あの僕、吉岡よしおかと言いまして、面接の、時間が早く着いてしまいまして、」
「主語と述語がおかしいよね?! その文章だと時間が店に着いた事になるよね?!」

 私は大声を出してしまった事に自分で驚いていた。面接に来た初対面の切なげな若者に声を荒らげるほど、私は凶暴な性格じゃない。でも何故か彼に対しては強気な態度を取ることが出来た。きっと火照りのせいだ、そうに違いない。

 吉岡という若者は固まっている。多分、おうちに帰りたいとか思っているのだろう。

 私は振り返ってレジをうかがった。レジは2台横に並ぶ形で設置してある。その内の1台でフリーターの本多さんがレジを打っていて、いつの間にかお客さんが2人並んでいた。本多さんがこちらを見た。戻らねば。

「店の奥に店長いるからそっち行って!」
レジに戻り際、また怒鳴ってしまった。吉岡君は「はひ」と声を裏返して言い、奥に駆けて行く。

 あぁ彼がどこか切なげなのは眉毛が下がっているからか、どうでも良い事を私は考えた。

 しばらくしてまた客が途切れた。暇だ。面接中なら店長が監視カメラで私達を監視している事もないだろうと壁に寄りかかる。

 すると隣のレジから本多さんが話し掛けてきた。彼女はパンダメイクの癒し系なので、私は密かに「パンダ本多」と呼んでいる。
「なんかさっき喧嘩してなかった? 彼氏?」
「違いますよ! 面接に来た子らしいです。オドオドしてたからムカついてつい喧嘩腰になっちゃいました。面接があるなんて聞いてました?」
「私も初耳。でもスーツで気合い入ってたね」
「他にマトモな服が無かったんじゃないですか」
投げやりに言うとパンダ本多さんは笑った。

 知らない内に面接は終わったらしく、いつの間にか吉岡君はいなくなっていた。

 閉店作業を済ませてバイトが終わった後で、私は店長に聞いてみた。店長とは特に仲が良い訳ではないけれど軽い世間話くらいは時々している。多分、変態ばかりの社員の中で一番マトモな人物だ。バツイチの37歳男性、離婚理由は不明。

「今日面接に来てた男の子、採用ですか?」
「うん、彼真面目そうだったから。ちょっと接客向いてなさそうだけど、人足りないから贅沢言えないし」
「確かに真面目だけが取り柄って感じでした」
私は同意した。
「早速明後日からシフト入れる事にしたから、いろいろ教えてやって」
「わかりました」
いろいろ教える気はなかったけれど、とりあえず頷いておいた。
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