夏の魔物

たんぽぽ。

文字の大きさ
6 / 20
夏の虫

3

しおりを挟む
 ドリンク補充が済んで、吉岡君と10分休憩に入る。

 バッグヤードの奥は休憩室兼ロッカー室兼喫煙所で、隅には服屋に置いてある試着室みたいな更衣室もある。長机が2台と折りたたみのパイプ椅子が数脚置いてある。

 私は奥の椅子に座った。吉岡君は私の斜向かいの椅子に座って、机の上で所在無げに手を組んだ。いいポジショ二ング。彼の手が良く見える。

 早速吉岡君の情報を収集する事にした。
「吉岡君っていくつ?」
「18です。大学一年です」
「下の名前何?」
悠斗ゆうとです」
「カッコいい名前じゃない! 名前負けし過ぎ!」
「親に言って下さい……」
「彼女いるの?」
「いません」
よっしゃ。

「まぁ、吉岡君に彼女がいようがいまいが1ミクロンの興味も無いけど」
「じゃあ聞かないで下さい……」
「どこ大?」
「県立大です」
「じゃあ一緒だよ! 私、健康栄養学部の3年」
「健康……?」
「健康栄養学部! 管理栄養士になろうと思って」
「栄養士って事は、料理が上手なんですね」
「はぁ⁈ 私、栄養士志望だからって料理上手だと思われるのが一番嫌なんだけど! 正直料理は好きじゃないけど、男にモテそうだったから」
「いいんですか、そんな理由で」
「例えばね、カラオケ屋に入って、曲の載ってる本を適当に開いて、目ぇつむって指差したら、98パーセントくらいの確率で愛だの恋だの歌った歌に当たるから。それくらい恋愛は人生のウェイト占めてんだよ」
「それとこれとは別じゃないんですか? それに今は大体デンモクですよ」
「うるさい‼︎」
大人しそうな割に突っ込んでくる。さっきまで捨て犬みたいだったのに。結構順応性が高いのかも知れない。

 情報収集するつもりが、いつの間にか私が熱く語っていた。私は本気でモテるために管理栄養士を目指している訳じゃないし、同じ学科の周りの子は料理好きが多いのは事実だ。でも吉岡君の手を見ていると、自分の発言を上手くコントロール出来なくなってしまうのだ。

「というか吉岡君は何学部?」
「経済です」
経済学部は私の学部とはキャンパスが別だ。大学で会う事はないだろう。彼の手を見つめつつ、情報収集は続く。

「一人暮らし?」
「はい」
「出身は?」
「S市です」
彼は県北の地名を挙げた。いくら県内でも遠くて通うのは無理がある場所だ。

「ふうん。ところで経済学部って理系? 文系?」
私は何でもいいから話を続けなければ、と言う気になっていた。
「一応文系ですけど、数学も使いますよ」
「オゾン層について何か述べてみて」
「オゾン層ですか? 何でですか?」
「いいから述べて!」
会話の流れを止めるな。
「えぇと、フロンガスによる破壊が問題になっていて……」
「はい、文系!」
私は彼を指差した。
「環境問題について言及するのが文系、オゾンの成分とか反応についてなら理系なんだって。先輩が言ってた」
「俺、理数科出身ですよ。それに大抵の人はまず環境問題を思い浮かべると思います」
吉岡君の癖に歯向かってきた。ムカつく。
「ただの遊びでしょ! まぁ、吉岡君が文系か理系かなんて毛ほども興味ないけど」
「じゃあ聞かないで下さい……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...