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夏の虫
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バッグヤードから売り場に出る前に、私は吉岡君に説明した。
「まずここを出たら一礼ね。早速レジに入るけど、足引っ張らないでね」
売り場に続くドアを開けてレジへ早足で向かうと、吉岡君が小走りでついてくる。金魚のフンみたいだ。
最初の30分間は私が商品をスキャンして吉岡君に袋詰めしてもらった。次の30分は交代して、私が袋詰めを担当した。
私はぎこちなくバーコードリーダーを握る吉岡君の手に見惚れた。私の好みどんぴしゃの手だった。ゴツくて静脈が浮き出ていて大きい手。横長の長方形の爪もとびっきりキュートだ。私はこういう手に弱い。
レジに入って1時間が経ったので、吉岡君を連れてツーブロック佐々木の元へ向かう。吉岡君が次やる事を聞くためだ。放っておいても良かったけれど、彼が理想の手の持ち主だと分かったので世話を焼く気になったのだ。
ツーブロックは休憩室でのん気に日誌を書いていた。
「レジが終わったんですけど、吉岡君はどうしましょうか?」
「あ~、今日1日一緒に行動して流れを教えてやってよ。次何だっけ?」
「商品補充です」
「男手があった方がいいでしょ、じゃよろしくぅ~」
また丸投げされてしまった。吉岡君と店を一周して、ドリンク類の補充をする事に決めた。バッグヤードのうず高く積まれた段ボールの隙間を縫ってドリンク類を在庫してある場所に行き、台車に段ボールを載せる。確かに男性がやる方が早い。
私はずっと吉岡君の手を見つめていた。
「ちょっといい?」
今なら誰も見ていない。思わず彼の左手をつかんで、目を閉じて頬に当ててみる。彼の手はしっくりと私の頬に馴染んだ。この手で髪を撫ぜられてそれから全部ぐちゃぐちゃしてもらいたい。
決めた。火照りはこの手に取ってもらおう。
ハッと我に帰る。
「勘違いしないでよね! 汗を拭くティッシュ代わりにしただけだからね!」
ツンデレのお手本みたいなセリフを吐いてしまった。
吉岡君は困惑しているのか硬直している。気まずくなった私は彼から目を逸らして、台車を押してバッグヤードから出た。
ドリンクを補充しながら、吉岡君をどう攻略するか考えた。でも私は恋愛ごとから遠のき過ぎて、異性へのアプローチの仕方をすっかり忘れてしまっていた。
大学に入ってすぐ、交際経験のなかった私は彼氏を作ろうと焦って、全く興味の無い写真サークルに入った。運動神経ゼロでスポーツ系は却下、消去法で選んだのだ。
周りが次々カップルになっていくので、私はこれまた消去法でフリーの教育学部の男の子を選んだ。でも消去法なのは向こうも同じだったと思う。
結局相性が良くなかったみたいで4ヶ月で別れ、そのまま写真サークルも辞めた。
別れは向こうに切り出された。
「俺達一緒にいる意味無くない? 別れようか」
「別にいいんじゃ無い? 一通り経験出来たし」
「葉月のそういうところが嫌いなんだよ」
「私も、あんたのそういうキャパのないとこが嫌いだねぇ」
喧嘩別れみたいになってしまったけれど、学部も違うし2度と会う事も無いだろうし、後悔はしていない。
それから2年間、私はずっと1人だ。周りは女子ばかりだったし、バイトでも出会いはなかった。
そして私は身体の火照りに悩まされるようになり、吉岡君が現れた。
彼は飛んで火に入る夏の虫というわけだ。
「まずここを出たら一礼ね。早速レジに入るけど、足引っ張らないでね」
売り場に続くドアを開けてレジへ早足で向かうと、吉岡君が小走りでついてくる。金魚のフンみたいだ。
最初の30分間は私が商品をスキャンして吉岡君に袋詰めしてもらった。次の30分は交代して、私が袋詰めを担当した。
私はぎこちなくバーコードリーダーを握る吉岡君の手に見惚れた。私の好みどんぴしゃの手だった。ゴツくて静脈が浮き出ていて大きい手。横長の長方形の爪もとびっきりキュートだ。私はこういう手に弱い。
レジに入って1時間が経ったので、吉岡君を連れてツーブロック佐々木の元へ向かう。吉岡君が次やる事を聞くためだ。放っておいても良かったけれど、彼が理想の手の持ち主だと分かったので世話を焼く気になったのだ。
ツーブロックは休憩室でのん気に日誌を書いていた。
「レジが終わったんですけど、吉岡君はどうしましょうか?」
「あ~、今日1日一緒に行動して流れを教えてやってよ。次何だっけ?」
「商品補充です」
「男手があった方がいいでしょ、じゃよろしくぅ~」
また丸投げされてしまった。吉岡君と店を一周して、ドリンク類の補充をする事に決めた。バッグヤードのうず高く積まれた段ボールの隙間を縫ってドリンク類を在庫してある場所に行き、台車に段ボールを載せる。確かに男性がやる方が早い。
私はずっと吉岡君の手を見つめていた。
「ちょっといい?」
今なら誰も見ていない。思わず彼の左手をつかんで、目を閉じて頬に当ててみる。彼の手はしっくりと私の頬に馴染んだ。この手で髪を撫ぜられてそれから全部ぐちゃぐちゃしてもらいたい。
決めた。火照りはこの手に取ってもらおう。
ハッと我に帰る。
「勘違いしないでよね! 汗を拭くティッシュ代わりにしただけだからね!」
ツンデレのお手本みたいなセリフを吐いてしまった。
吉岡君は困惑しているのか硬直している。気まずくなった私は彼から目を逸らして、台車を押してバッグヤードから出た。
ドリンクを補充しながら、吉岡君をどう攻略するか考えた。でも私は恋愛ごとから遠のき過ぎて、異性へのアプローチの仕方をすっかり忘れてしまっていた。
大学に入ってすぐ、交際経験のなかった私は彼氏を作ろうと焦って、全く興味の無い写真サークルに入った。運動神経ゼロでスポーツ系は却下、消去法で選んだのだ。
周りが次々カップルになっていくので、私はこれまた消去法でフリーの教育学部の男の子を選んだ。でも消去法なのは向こうも同じだったと思う。
結局相性が良くなかったみたいで4ヶ月で別れ、そのまま写真サークルも辞めた。
別れは向こうに切り出された。
「俺達一緒にいる意味無くない? 別れようか」
「別にいいんじゃ無い? 一通り経験出来たし」
「葉月のそういうところが嫌いなんだよ」
「私も、あんたのそういうキャパのないとこが嫌いだねぇ」
喧嘩別れみたいになってしまったけれど、学部も違うし2度と会う事も無いだろうし、後悔はしていない。
それから2年間、私はずっと1人だ。周りは女子ばかりだったし、バイトでも出会いはなかった。
そして私は身体の火照りに悩まされるようになり、吉岡君が現れた。
彼は飛んで火に入る夏の虫というわけだ。
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