眠りの森の美女が魔法をさらに上書きされたはいいけれど、やっぱり駄目かも知れない

妓夫 件

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101年後

弟王子

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それから遅れて一日経った。
棺の脇に立っていたのは、以前のように、オーロラの様子を見にきた弟王子のクロードだった。

オーロラ姫は変わらず眠っていた。

体裁だけは整えてある。
だが、よく見ると、髪は乱れているし、口許は汚れ夜着に染みを作っている。

「……仕方ない。 奴の動向を張らせておくか」

(兄貴がやたら機嫌よかったから、嫌な予感はしたんだよなあ)

アレックがオーロラを辱しめたのは明白で、クロードは徒労感しかなかった。

「姫さんさあ。 あんなのに気に入られて災難だよな」

同時にオーロラに同情した。

「チュンチュン、ごきげんよう。 王子様」

「来ていただいてありがとうございます」

鳥たちがまた次々とやってきて、棺の縁に止まった。

「ちっともごきげんよろしくねえよ! お前ら、オーロラを見守ってるんなら、なんでコイツが犯されてる時に助けない」

クロードの詰問に鳥が首をひょっこり傾げた。

「そりゃ個人的にはつつき殺したくなりますけども」
「必要なことだからです」
「私たちが望むと望まざるにかかわらず」

鳥たちが以前と同様に被せて口々に話す。
クロードはうんざりして、手のひらを彼らに向けて制した。

「もういい。 とにかく先に姫さんの洗濯だ」

オーロラを抱えて泉に向かう途中で鳥がクロードに尋ねた。

「それなら王子様が助けて下さればよろしいのでは?」

それにクロードは表情に暗い影を落とした。

「……俺が平民なら」

二十歳もとっくに超え、兄弟喧嘩という年ではない。
もしもそんなことになれば、城内の諸々の人間を巻き込み、決着がつくまでやり合う羽目になるだろう。 クロードには分かっていた。
それだから、今回のゲームに乗ったのだ。
あの時は誰も傷付かずに済むならと思ったものの。

(そしたら兄貴にコイツが傷付けられるのかな)

ふと、そう気付いた。
オーロラを泉の下に降ろし、すると以前と同様、慣れた様子で鳥たちが羽やくちばしでオーロラの身を整え始める。

「おーい、口もすすがせろよ」

「はい」
「慣れていますから」
「お任せください」

やはり、慣れてる……?  クロードは複雑な気分になった。
脱がせた服の染みを傍の小川で洗う。

クロードは堅苦しいの城の中よりも、どちらかというと城外で過ごすのを好んだし、街や自然の中にいる方が馴染んでいた。

再びオーロラを棺に戻した。
手ぐしでオーロラの髪を梳きながら鳥に話しかける。

「なあ。 コイツって、起きることあんのか」

「月に二度ぐらいは」
「ここ一年は」

間をおいて。

「まだ完全に目覚めていらっしゃらないのです」

と答えた。

「そのうち完全に覚めるってか」

その後に、呪いを解いたらいいのか? 
呪いを解くということは当然、オーロラ姫の純潔を奪うという事だろう、クロードは考えながらオーロラに見入った。

その前に、完全に目覚めるのを待たなければならない。
いや。 呪いさえ解ければ城は元に戻ると聞いた。
たとえ意識がなくても構わないのか?

「でもそれなら、コイツの気持ちはどうなる……待て」

ヒヨコみたいに、目覚めた時に居た奴に懐くとか。 妙なことを思い付いたクロードは小さく吹いた。

「王子様?」

「あり得る」

身綺麗になり、クロードに身を任せているオーロラは、どこか心地好さげな表情をしていた。
それはとてつもなく無防備で、加えていえばやはりトボケている。
棺の縁に首をもたせかけてたオーロラの長い髪は、ほぼ乾くとしっとりと栗色に輝いた。

「せっかく綺麗にしたってのに。 それで、またどうせ兄貴にやられるんだろうなあ」

それならば────オーロラと向かいに座ったクロードは、見下ろしていた身を屈め、そっとオーロラに口付けた。
オーロラの唇は思ったよりずっと柔らかく、角度を変えて当たるたびにピク、と動く。

そんな二人から顔を逸らして鳥たちが見守っていた。

「……っは…」

ほんの小さな囁きを返したオーロラを見るとぽっと頬が赤く染まっていた。
軽い口付けを繰り返し、クロードはオーロラを軽く抱きしめた。
以前と同じ滑らかな肌だった。

「せめてお前も気持ち良くなれよ。 じゃないと不公平だろう」

クロードは言い、首元から夜着の下に手を差し込んだ。
オーロラはアレックだけではなく、今まであらゆる男に弄ばれてきたに違いない。
包んだ手のひらでささやかな弾力を返す乳房を揉み、その頂を人差し指で撫で回した。

「ふ…っ……う…っん」

鼻にかかった、感じ始めた女の声だった。
堅い蕾の感触を認めると優しく摘み、指の間に挟む。

「っ…!」

オーロラの反応を伺いつつ強弱をつけ、舌先でオーロラの口内もくすぐった。
クロードは特にいやらしいとかそういうことをしている気持ちは無かった。
どちらかというと小動物を可愛がってるような心持ちに近い。

「奪われた分は俺が与えるから……」

クロードはオーロラの秘部を除く肌に触れた。
強ばっている背中や手足をさすって温める。
壊れもののように口を付け、大切そうにオーロラを抱きしめては愛撫した。

それからオーロラと手を繋いで細い指先を撫でながら、ぼんやりと葉擦れや風の音を聴いて過ごした。

クロード的に、オーロラ姫とは庇護欲を掻き立てられる。 そんな存在になりつつあった。





突然に目覚めたオーロラは、いつものように身を起こしたものの、どこか得体の知れない違和感に戸惑っていた。

「今回は汚れてないわね……? でも」

どことなく、体がけだるいような。
肌がぴりぴりして火照るような。
それに加えて下腹の辺りが妙に熱かった。

「チュンチュン、姫様姫様。 おはようございます」
「今日はお天気もいいですし、小川のほとりで花でも摘みに行きませんか」

鳥たちに誘われオーロラが覚束ない足取りでついていく。

「……あら、これはなあに?」

新しく可愛らしい夜着が何枚か畳んで小川の木陰に置いてあった。
それから小鳥が描かれた綺麗な細工の櫛。

「姫様に似合うと思いますよ」
「きっと素敵な人からの贈り物です」

オーロラがその場に座り、さらさらした生地の夜着を両手に取った。

「私、誰かからのプレゼントなんて久し振りだわ」

そうして思わず顔を綻ばせた。

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