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半径一メートルの密度
1話
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「フフ……ここまで付いてきたからには、覚悟は出来てるんだろうな?」
タクマさんがじっと私を見据えてきて、そしたらぞくっと私の肩が震えた。
「……オマエって普段、何からそういう知識仕入れてんの?」
「え? 少女漫画とかかな」
だろうなあ、そんな風にため息をつきながら、家に入ったなり玄関先で壁ドンをしてた私の手首を外して彼がそこからすり抜ける。
「大体、付いてきたってのも不適切だし」
「でも私、一度、やってみたかったんだよね?」
「それをなんでオマエがやる……まあ、それは置いといて、綾乃」
「はい?」
「ここに泊まるのは構わない。 防犯上の理由で。 でもオレは、オマエの父親の手のひらの上で躍らされるのは真っ平だから」
「どういうこと?」
「オレはイマイチあの狸親父の本意が読めない。 ひょっとすると、下手にオマエに手出したら、その辺の手癖の悪い男と一緒くたにされかねない」
いやそこは普通に手、出そうよ。
世間一般じゃ付き合いたてなのかも知れないけど、昨日今日の仲じゃない。
そもそも私、タクマさん以外は考えられないし。
「うー……んん? ……お父さん、絶対そういう人じゃないんだけどなあ。 あ、それに、お父さんは、タクマさんのことかなりお気に入りだよね」
「それは知らねえけど。 それが原因で万一、オマエの家族が拗れたりするのは更に納得がいかねぇ」
考えすぎじゃないなあ?
「私のお父さん、娘の私からみても、ちょっと思い込みは激しいにしろ、基本のんびりしたオジサンだよ。 お母さんとも仲良いし」
タクマさんは私の発言にも渋い顔をして納得がいかないようだった。
「て、ことでだ。 綾乃オマエ、オレの半径一メートル以上近付くな」
「ええええ……?! なんで? それ、全然新婚ごっこ出来ない」
人のパーソナルスペースは恋人や家族で40センチとかって聞いたことがある。そんなの、丸っきり他人じゃないの。
「今それは、やる必要ないだろ?」
そうなんですけど。せっかく二人っきりなんだから、仲良くしたいなあ。
「手を繋いでテレビ観るのは、駄目……?」
ホントは映画館とかで、だけど。 手すりの上で手を重ねるのとか、昔から憧れてた。
手を────と、タクマさんの大きな手が視界の中にぬっと入ってきて、目の前が真っ暗になる。
「痛いよ……なんで、アイアンクロー?」
「知るか。 あんまこっち見んな」
これ、彼女に対する扱いなの?
元々タクマさんって、人知れず煙草止めたり諸々、有言どころか、不言実行の人なんだよね。彼がダメだというからには絶対ダメなんだろう。
そして意味はよく分からないけど、「平常心」となんどか呟く彼の声が聞こえてきた。
◆
玉ねぎをむきむき。
とりあえず、お昼ご飯は家にあるもので適当に済ませることにした。私は今、キッチンに立って料理をしている。 タクマさんは父の書斎に興味を持ったみたいで、ゆっくりそこで時間を潰してるみたいだ。
「でも、これも新婚ごっこだよね」
なんとなく。同じ屋根の下で、彼のために食事を作るとか。
「いわゆる、女の幸せってこんな感じなのかなあ?」
「メシ作んのがか?」
声がして振り向くと、何冊かの本を脇に抱えたタクマさんが、キッチンを通り抜けたリビングに向かおうとしているところだった。
「時代錯誤かもだけど、作ったものが好きな人の健康に繋がるって幸せだと思うんだよね?」
「……いや、オレもそうだから分かる」
そう言いながら、なんかあったら手伝うから。 と、ソファに腰を掛けた。
なんだか、タクマさんがそんなことを思ってるなんて意外だ。彼って、男っぽいイメージしかないもの。
彼が眺め始めた本を遠目から見ると、家やお店の建築の本だった。
「そういうの好き? うち、お父さんがデザイン事務所やってるんだよ」
「知ってる。 昔会った時、独立したばっかりだって言ってたっけ。 オレも昔、建築家になりたかった。 さっきの話じゃないけど家族出来たら、自分で家建てたいなとか、ガキん頃から思ってて」
これもまた、初耳。……私、タクマさんのこと、大概分かってると思ってた。さっきまでは。
実はそうじゃないらしい。
「今は違う仕事、してるよね……?」
「親に反対されて諦めた。 親父が役所勤めで、昔ここの副市長だったりしたんだよな」
「そんな……だからって、なんで反対なんて」
そりゃ、公務員の方が安定はしてるんだろうけど。
どうせ遠からず父親から耳に入るか。そう言ったタクマさんが、読んでいた本を目の前のローテーブルの上に伏せた。
「……色々事情があったから。 ……オレの親父って、結構なクソでさ。 地位はあっても家庭を省みないってやつ。 女遊びも含めてな。 それでも中学ん時に母親が事故で死んで、やっと目ぇ覚めたんかな。 抜け殻みたいになっちまって」
私は包丁を置いて彼の話に聞き入った。
知らないタクマさん。私に無い記憶。
「とりあえず見てらんねぇから、オレが家事やり始めたんだけど。 ……そしたら、泣きながらテーブルひっくり返すんだよなぁ。 やっぱ母親のメシが良かったんだろ」
彼にとってはもうかなり昔のことだからか、所々遠い目をして、言葉を区切りながら話す。
でも。
「そんな不摂生が祟って……癌にかかって余命宣告されたあとにさ。 オレの進路について、自分のコネがあるから役所に勤めろと。 で、もう、夢とかも、いいかなっつか。 んで、地元の大学に進んだわけ。 お陰で親父も看取れたし、奴もちっとは安心して……」
でも私はこの辺でギブだった。
涙腺が崩壊して。
「……っ…うっ、ぅうう……」
タクマさんがぎょっとした顔をする。
だってここでまさかの泣ける話。
なんて言えばいいのかなんて、分かんない。分かんないから、手元で野菜切ってるフリをして誤魔化した。
「玉ねぎの、破壊力って……ぐすっ。 怖いよね」
「実は、オマエの親父もそんなリアクションだったんだよな。 なんでか分かんねぇけど」
私の取り繕った誤魔化しなんてバレバレらしい。
いきなり大の男がボロボロ泣き出すとか、有り得ねぇだろ。 そんなことを言ってくる。
そりゃそうだろう。あの人も大概、涙脆いもの。
「だって、タクマさんはその……クソお父さんの犠牲になったんじゃないの。 息子が作ったご飯も足蹴にするなんて」
「イヤそれ、違うからな。 オマエの親父にも言ったか。 奴は母親が死んでから、オレの母親を大事にしただけ。 例えば遅過ぎるとか、それはオレがどうこう言うことじゃない。 ……って、鼻ぐらいかめよ子供か」
そこはどうこう言っていいんじゃないの? 息子なんだから。
どうでもいいけど、キッチンペーパーって鼻かむには固いのね。
話の間中、彼に悲壮な様子はちっともなかった。
普通の昔話みたいに、ふっと思い出し笑いをするぐらいに。
「割とオレん中では、もういい思い出なんだよな。 病院行く前に海行くのが習慣なったのもそん時からか。 オマエの父親に会ったのも。 親父が死んで二年ぐらいはなんでか、行かなかったけど」
ほら、ちょうどいつものあそこから見えるホスピスあんだろ? レンガ色の建物の。あそこで最期を過ごした。
彼が言う。
言われてみれば、そんな建物があったような気がする。
彼のお父さんも、毎朝タクマさんが見ているのと同じ景色を眺めてたんだろうか。
二年。
おそらくそのあとで、私はタクマさんと再会したんだろう。彼が海に行かなかったのは……それは、タクマさんが本当は悔しくて悲しかったからじゃないかな。
中学生が親のために家事するとか聞いたことない。反抗して悪い道に入るって方がしっくりくる。
与えられなかった愛情や諦めた自分の将来。親のコネなんて彼が嫌いそうなこと。
なにも感じなかったなんて思えない。
きっとタクマさんは自分の中で無理矢理折り合いをつけて、何ともないフリをして、感情を殺して蓋をしたんだ。
今の私より若い時分から。
「オマエの父親が言ってたけど。 オマエをおんぶしながら、良く泣く子だって困ってた。 オレなら、泣かさないで大事にしてくれるとか、んなこと言われてもな。 現にオマエ、すぐ泣くだろ?」
「泣いて……ない、し」
ちーん。鼻かみすぎて痛い。キッチンペーパーの小山をゴミ箱に捨てて、少し治まった。
お父さんのあの態度。父がタクマさんを気に入ってたのは、そういう理由だったんだ。
……こういうこと、今まで訊いたことは無かったけど。
「……タクマさんって、今まで誰かと付き合ったり?」
「なに、いきなり。 フツーそんなこと訊くか?」
「良いから。 気にしないよ」
だって、こんな彼がどうやって人と関わってきたのかと、それが気になったから。
うーん。って、タクマさんが頭に手をやって、あんまり楽しくなさそうな表情を浮かべる。
「……まあ、それなりに……オレが愛想無さ過ぎて、長続きはしねぇよな」
そしてそうだろうなと、納得した。きっと相手の人は、今の私と同じ気持ちになったんだ。
彼は……私とは、全然違う。
タクマさんは朝食べないからか、その分お昼はよく食べるらしい。
三人前用意して、あっという間に減っていく。
「フーン。美味い。 オマエいい所のお嬢さんだから、実はこんなのは期待してなかった」
私が作った野菜と父が作ってくれたベーコンで作ったシンプルなパスタ。
早い速度でフォークですくってはそれを口に運び、咀嚼が止まない彼の口元を眺めていた。
「本当? この辺り、お野菜が美味しいから、大して味付けしなくても充分なんだよね」
「魚も美味いけど……外にやたら立派な外国製のグリルあったな。 そういや」
「うん。 ピザも焼けるんだよ。 夜にバーベキューでもする?」
「何だその楽しそうなイベント。 じゃ、あとから買い出し行くか」
その楽しいはずの彼との時間。だけどなぜか、私の気は重かった。彼が今までになくとても遠く感じる。
だって初めてだった。
タクマさんを、怖いなんて感じたのは。
タクマさんがじっと私を見据えてきて、そしたらぞくっと私の肩が震えた。
「……オマエって普段、何からそういう知識仕入れてんの?」
「え? 少女漫画とかかな」
だろうなあ、そんな風にため息をつきながら、家に入ったなり玄関先で壁ドンをしてた私の手首を外して彼がそこからすり抜ける。
「大体、付いてきたってのも不適切だし」
「でも私、一度、やってみたかったんだよね?」
「それをなんでオマエがやる……まあ、それは置いといて、綾乃」
「はい?」
「ここに泊まるのは構わない。 防犯上の理由で。 でもオレは、オマエの父親の手のひらの上で躍らされるのは真っ平だから」
「どういうこと?」
「オレはイマイチあの狸親父の本意が読めない。 ひょっとすると、下手にオマエに手出したら、その辺の手癖の悪い男と一緒くたにされかねない」
いやそこは普通に手、出そうよ。
世間一般じゃ付き合いたてなのかも知れないけど、昨日今日の仲じゃない。
そもそも私、タクマさん以外は考えられないし。
「うー……んん? ……お父さん、絶対そういう人じゃないんだけどなあ。 あ、それに、お父さんは、タクマさんのことかなりお気に入りだよね」
「それは知らねえけど。 それが原因で万一、オマエの家族が拗れたりするのは更に納得がいかねぇ」
考えすぎじゃないなあ?
「私のお父さん、娘の私からみても、ちょっと思い込みは激しいにしろ、基本のんびりしたオジサンだよ。 お母さんとも仲良いし」
タクマさんは私の発言にも渋い顔をして納得がいかないようだった。
「て、ことでだ。 綾乃オマエ、オレの半径一メートル以上近付くな」
「ええええ……?! なんで? それ、全然新婚ごっこ出来ない」
人のパーソナルスペースは恋人や家族で40センチとかって聞いたことがある。そんなの、丸っきり他人じゃないの。
「今それは、やる必要ないだろ?」
そうなんですけど。せっかく二人っきりなんだから、仲良くしたいなあ。
「手を繋いでテレビ観るのは、駄目……?」
ホントは映画館とかで、だけど。 手すりの上で手を重ねるのとか、昔から憧れてた。
手を────と、タクマさんの大きな手が視界の中にぬっと入ってきて、目の前が真っ暗になる。
「痛いよ……なんで、アイアンクロー?」
「知るか。 あんまこっち見んな」
これ、彼女に対する扱いなの?
元々タクマさんって、人知れず煙草止めたり諸々、有言どころか、不言実行の人なんだよね。彼がダメだというからには絶対ダメなんだろう。
そして意味はよく分からないけど、「平常心」となんどか呟く彼の声が聞こえてきた。
◆
玉ねぎをむきむき。
とりあえず、お昼ご飯は家にあるもので適当に済ませることにした。私は今、キッチンに立って料理をしている。 タクマさんは父の書斎に興味を持ったみたいで、ゆっくりそこで時間を潰してるみたいだ。
「でも、これも新婚ごっこだよね」
なんとなく。同じ屋根の下で、彼のために食事を作るとか。
「いわゆる、女の幸せってこんな感じなのかなあ?」
「メシ作んのがか?」
声がして振り向くと、何冊かの本を脇に抱えたタクマさんが、キッチンを通り抜けたリビングに向かおうとしているところだった。
「時代錯誤かもだけど、作ったものが好きな人の健康に繋がるって幸せだと思うんだよね?」
「……いや、オレもそうだから分かる」
そう言いながら、なんかあったら手伝うから。 と、ソファに腰を掛けた。
なんだか、タクマさんがそんなことを思ってるなんて意外だ。彼って、男っぽいイメージしかないもの。
彼が眺め始めた本を遠目から見ると、家やお店の建築の本だった。
「そういうの好き? うち、お父さんがデザイン事務所やってるんだよ」
「知ってる。 昔会った時、独立したばっかりだって言ってたっけ。 オレも昔、建築家になりたかった。 さっきの話じゃないけど家族出来たら、自分で家建てたいなとか、ガキん頃から思ってて」
これもまた、初耳。……私、タクマさんのこと、大概分かってると思ってた。さっきまでは。
実はそうじゃないらしい。
「今は違う仕事、してるよね……?」
「親に反対されて諦めた。 親父が役所勤めで、昔ここの副市長だったりしたんだよな」
「そんな……だからって、なんで反対なんて」
そりゃ、公務員の方が安定はしてるんだろうけど。
どうせ遠からず父親から耳に入るか。そう言ったタクマさんが、読んでいた本を目の前のローテーブルの上に伏せた。
「……色々事情があったから。 ……オレの親父って、結構なクソでさ。 地位はあっても家庭を省みないってやつ。 女遊びも含めてな。 それでも中学ん時に母親が事故で死んで、やっと目ぇ覚めたんかな。 抜け殻みたいになっちまって」
私は包丁を置いて彼の話に聞き入った。
知らないタクマさん。私に無い記憶。
「とりあえず見てらんねぇから、オレが家事やり始めたんだけど。 ……そしたら、泣きながらテーブルひっくり返すんだよなぁ。 やっぱ母親のメシが良かったんだろ」
彼にとってはもうかなり昔のことだからか、所々遠い目をして、言葉を区切りながら話す。
でも。
「そんな不摂生が祟って……癌にかかって余命宣告されたあとにさ。 オレの進路について、自分のコネがあるから役所に勤めろと。 で、もう、夢とかも、いいかなっつか。 んで、地元の大学に進んだわけ。 お陰で親父も看取れたし、奴もちっとは安心して……」
でも私はこの辺でギブだった。
涙腺が崩壊して。
「……っ…うっ、ぅうう……」
タクマさんがぎょっとした顔をする。
だってここでまさかの泣ける話。
なんて言えばいいのかなんて、分かんない。分かんないから、手元で野菜切ってるフリをして誤魔化した。
「玉ねぎの、破壊力って……ぐすっ。 怖いよね」
「実は、オマエの親父もそんなリアクションだったんだよな。 なんでか分かんねぇけど」
私の取り繕った誤魔化しなんてバレバレらしい。
いきなり大の男がボロボロ泣き出すとか、有り得ねぇだろ。 そんなことを言ってくる。
そりゃそうだろう。あの人も大概、涙脆いもの。
「だって、タクマさんはその……クソお父さんの犠牲になったんじゃないの。 息子が作ったご飯も足蹴にするなんて」
「イヤそれ、違うからな。 オマエの親父にも言ったか。 奴は母親が死んでから、オレの母親を大事にしただけ。 例えば遅過ぎるとか、それはオレがどうこう言うことじゃない。 ……って、鼻ぐらいかめよ子供か」
そこはどうこう言っていいんじゃないの? 息子なんだから。
どうでもいいけど、キッチンペーパーって鼻かむには固いのね。
話の間中、彼に悲壮な様子はちっともなかった。
普通の昔話みたいに、ふっと思い出し笑いをするぐらいに。
「割とオレん中では、もういい思い出なんだよな。 病院行く前に海行くのが習慣なったのもそん時からか。 オマエの父親に会ったのも。 親父が死んで二年ぐらいはなんでか、行かなかったけど」
ほら、ちょうどいつものあそこから見えるホスピスあんだろ? レンガ色の建物の。あそこで最期を過ごした。
彼が言う。
言われてみれば、そんな建物があったような気がする。
彼のお父さんも、毎朝タクマさんが見ているのと同じ景色を眺めてたんだろうか。
二年。
おそらくそのあとで、私はタクマさんと再会したんだろう。彼が海に行かなかったのは……それは、タクマさんが本当は悔しくて悲しかったからじゃないかな。
中学生が親のために家事するとか聞いたことない。反抗して悪い道に入るって方がしっくりくる。
与えられなかった愛情や諦めた自分の将来。親のコネなんて彼が嫌いそうなこと。
なにも感じなかったなんて思えない。
きっとタクマさんは自分の中で無理矢理折り合いをつけて、何ともないフリをして、感情を殺して蓋をしたんだ。
今の私より若い時分から。
「オマエの父親が言ってたけど。 オマエをおんぶしながら、良く泣く子だって困ってた。 オレなら、泣かさないで大事にしてくれるとか、んなこと言われてもな。 現にオマエ、すぐ泣くだろ?」
「泣いて……ない、し」
ちーん。鼻かみすぎて痛い。キッチンペーパーの小山をゴミ箱に捨てて、少し治まった。
お父さんのあの態度。父がタクマさんを気に入ってたのは、そういう理由だったんだ。
……こういうこと、今まで訊いたことは無かったけど。
「……タクマさんって、今まで誰かと付き合ったり?」
「なに、いきなり。 フツーそんなこと訊くか?」
「良いから。 気にしないよ」
だって、こんな彼がどうやって人と関わってきたのかと、それが気になったから。
うーん。って、タクマさんが頭に手をやって、あんまり楽しくなさそうな表情を浮かべる。
「……まあ、それなりに……オレが愛想無さ過ぎて、長続きはしねぇよな」
そしてそうだろうなと、納得した。きっと相手の人は、今の私と同じ気持ちになったんだ。
彼は……私とは、全然違う。
タクマさんは朝食べないからか、その分お昼はよく食べるらしい。
三人前用意して、あっという間に減っていく。
「フーン。美味い。 オマエいい所のお嬢さんだから、実はこんなのは期待してなかった」
私が作った野菜と父が作ってくれたベーコンで作ったシンプルなパスタ。
早い速度でフォークですくってはそれを口に運び、咀嚼が止まない彼の口元を眺めていた。
「本当? この辺り、お野菜が美味しいから、大して味付けしなくても充分なんだよね」
「魚も美味いけど……外にやたら立派な外国製のグリルあったな。 そういや」
「うん。 ピザも焼けるんだよ。 夜にバーベキューでもする?」
「何だその楽しそうなイベント。 じゃ、あとから買い出し行くか」
その楽しいはずの彼との時間。だけどなぜか、私の気は重かった。彼が今までになくとても遠く感じる。
だって初めてだった。
タクマさんを、怖いなんて感じたのは。
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